株主名簿に載っている名前と、実際に出資をした人が違う——。中小企業の事業承継の現場では、こうした「名義株」がしばしば見つかります。先代経営者は「あれは名前を借りただけ」と考えていても、書面が何も残っていなければ、相続が起きた後で名義人の相続人から権利を主張されることがあります。
本記事では、名義株がなぜ生まれるのか、事業承継のどの場面で問題になるのか、そして誰が本当の株主かをどう判定し、どのような順序で整理していくのかを整理します。あわせて、名義の変更を原則として贈与として取り扱う相続税法基本通達9-9と、その例外を定めた昭和39年の通達についても触れます。
この記事の見出し
名義株とは何か
定義:名義人と実質の出資者が一致しない株式
名義株とは、株主名簿に記載されている名義人と、実際に出資金を負担した人(実質的な株主)が一致していない株式をいいます。名義人は名前を貸しているだけで、払込みの資金を出しておらず、配当も受け取っていない、という状態です。
法律上の用語ではなく実務上の呼び方ですが、非上場の同族会社では珍しくありません。特に設立から年数が経っている会社ほど、当時の事情を知る人が減り、事実関係の確認が難しくなります。
名義株が生まれる典型的な経緯
名義株が生まれる経緯は、大きく3つに分けて考えると整理しやすくなります。平成2年の商法改正より前は、株式会社を設立するのに7人以上の発起人が必要とされていました。そのため、実際に資金を出すのは経営者一人であっても、頭数をそろえるために親族や知人、従業員の名義を借りるという実務が広く行われていました。この改正前に設立された会社では、この経緯による名義株が残っていることがあります。
図1 いずれのパターンも、名義人が出資の負担をしていない点は共通しています。
②は、経営者一人に株式が集中することを避けたい、あるいは相続税の負担を軽くしたいといった動機で、名義だけを親族に分けたケースです。③は、生前贈与のつもりで名義を書き換えたものの、贈与契約書を作らず、贈与税の申告もせず、配当も引き続き先代が受け取っていた、というケースです。②と③は外形が似ていますが、当事者の意図が違うため、後述する判定でも扱いが分かれます。
名義株が事業承継で問題になる3つの場面
①名義人が亡くなると、その相続人に承継される
最も深刻なのは、名義人が先に亡くなる場合です。名義人本人は「名前を貸しただけ」と理解していても、その相続人は事情を知らないことが少なくありません。株主名簿に父親の名前が載っていれば、相続人が自らの相続財産として権利を主張することは十分に考えられます。当時の事情を知る当事者が既にいなければ、会社側が「これは名義株だ」と立証する材料も乏しくなります。
②議決権の計算が想定と食い違う
会社法上、定款変更や自己株式の取得などの重要な決議には、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です(会社法309条2項)。名義株を後継者の持分に含めて数えていると、いざ決議という段階で必要な議決権に届かないという事態が起こり得ます。名義人やその相続人が反対に回れば、この差は決定的になります。
③事業承継税制・M&A・上場準備で必ず問われる
非上場株式等の納税猶予(いわゆる事業承継税制)は、先代経営者や後継者が保有する議決権の割合を要件としています。名義株を先代の持分として数えて要件を満たしたつもりでも、実質的に名義人が権利を行使していれば、その前提が崩れる可能性があります。M&Aのデューデリジェンスや上場準備における株主の確認でも、株主名簿と実態が一致しているかは必ず確認される項目です。
| 場面 | 名義株を放置した場合に起こりうること |
|---|---|
| 名義人の相続 | 名義人の相続人が株主としての権利を主張し、会社側に「名義株である」ことの説明・立証が求められる。当時の関係者が既にいないと、裏付けとなる資料が限られる。 |
| 株主総会の運営 | 招集通知の送付先や議決権の集計が実態と食い違う。特別決議に必要な3分の2以上を確保できているつもりでも、実際には届かない可能性がある。 |
| 事業承継税制 | 先代経営者・後継者の議決権割合を前提とする要件について、名義株を含めて判定していると前提が崩れるおそれがある。 |
| M&A・上場準備 | 株主名簿と実態の不一致が判明すると、株式の集約や名義の整理が完了するまで手続が進まない。 |
| 相続税の申告 | 先代の名義になっていない株式でも、実質的に先代に帰属すると判断されれば相続財産に含まれる。申告から漏れると、後日の税務調査で指摘される要因になる。 |
設立当初の経緯が分からない、株主名簿が現状と合っていない——そうした状態のまま事業承継を進めると、後から手戻りが生じます。事実関係の整理からご相談いただけます。
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誰が本当の株主か——形式と実質のどちらで判断するか
裁判例は「実質上の引受人」を株主とする立場
他人の名義を借りて株式を引き受けた場合に誰が株主になるかについて、最高裁は昭和42年11月17日の判決で、名義人ではなく実際に払込みをした実質上の引受人が株主になるという判断を示しました。以後、この考え方(実質説)が判例・学説の中心的な立場とされています。
ただし、これは「株主が誰か」という実体の問題です。会社や第三者に対して株主であることを主張できるかという場面では、株主名簿への記載が対抗要件とされています(会社法130条1項)。実質上の株主であっても、名義書換を経ていなければ会社に対して権利を主張しにくい、という別の問題が残ります。実質の株主が確定したら、名簿の記載も併せて整えておく必要があるのはこのためです。
図2 名義株では左右の欄が一致しません。整理とは、この2つを一致させる作業です。
判定に使う具体的な材料
実質の株主が誰かは、単一の証拠で決まるものではなく、複数の事実を積み上げて総合的に判断することになります。実務では、次のような点を確認していきます。
- 設立時・増資時の払込金は、誰の口座から出ているか(通帳・振込記録)
- 配当を実際に受け取っていたのは誰か(振込先口座、源泉徴収の記録)
- 名義人は配当所得を確定申告に含めていたか
- 株主総会の招集通知はどこに送られ、誰が出席していたか
- 株券を発行している場合、実際に保管しているのは誰か
- 名義人は、自分が株主として記載されている事実を認識していたか
- 名義を移した際に、贈与契約書の作成や贈与税の申告が行われたか
逆に言えば、名義人が配当を受け取り、総会に出席し、自分が株主であると認識していたのであれば、たとえ払込資金を経営者が出していたとしても、名義株ではなく真正な株主として扱われる可能性が高くなります。「名義株のつもりだった」という当事者の一方的な認識だけでは足りない、という点は押さえておく必要があります。
税務上の取扱い——相続税法基本通達9-9とその例外
原則:対価なしの名義変更は贈与として取り扱う
税務の側からは、名義の状態そのものにも注意が必要です。相続税法基本通達9-9は、不動産や株式等の名義の変更があった場合に対価の授受が行われていないとき、または他の者の名義で新たに不動産・株式等を取得した場合には、これらの行為を原則として贈与として取り扱うと定めています。つまり、名義を移した時点で贈与税の課税対象となり得る、というのが出発点です。
例外:昭和39年の通達による取扱い
もっとも、名義変更のすべてが贈与とされるわけではありません。国税庁の通達「名義変更等が行われた後にその取消し等があった場合の贈与税の取扱いについて」(昭和39年5月23日 直審(資)22ほか)は、一定の場合に贈与がなかったものとして取り扱うことを定めています。
有価証券について定める同通達の「2」では、他人名義で株主名簿への登載等をしたため9-9により贈与とされる場合であっても、①名義人となった者がその名義人となっている事実を知らなかったこと、②名義人となった者がその有価証券を管理運用しておらず、その収益も享受していないこと、の両方が認められるときは、最初の贈与税の申告・決定・更正の日前にその名義を実際の取得者の名義に戻した場合に限り、贈与がなかったものとして取り扱うとされています。
また同通達「5」では、名義変更が過誤に基づき、または軽率にされたもので、その事実が名義人の年齢その他により確認できるときにも、同様に名義を戻すことを条件として贈与がなかったものとして取り扱うとされています。一方で「4」は、これらの取扱いを贈与税の脱税を図るために利用しようとしていると認められる場合には適用しない旨を定めています。
| 区分 | 取扱いの内容 |
|---|---|
| 原則 (相基通9-9) |
対価の授受なく株式等の名義変更をした場合、または他の者の名義で新たに株式等を取得した場合は、原則として贈与として取り扱う。 |
| 例外① (昭39通達「2」) |
名義人がその事実を知らず、かつ管理運用も収益の享受もしていない場合。最初の贈与税の申告・決定・更正の日前に、実際の取得者の名義に戻したときに限り、贈与がなかったものとして取り扱う。 |
| 例外② (昭39通達「5」) |
名義変更が過誤に基づき、または軽率にされたもので、名義人の年齢その他によりその事実が確認できる場合。同じく名義を戻すことが条件とされる。 |
| 適用除外 (昭39通達「4」) |
これらの取扱いを利用して贈与税の脱税を図ろうとしていると認められる場合、および過去に同じ取扱いの適用を受けている場合には適用しない。 |
ここで重要なのは、例外の適用が「名義を戻すこと」を前提としている点です。名義株であることに気づいた時点で放置せず、事実関係を確認したうえで名義を正しい状態に戻す——この順序を踏むことが、税務上も意味を持ちます。個別の事案でどの取扱いによるべきかは事実関係によって変わるため、実行前に顧問税理士や所轄税務署に確認することをおすすめします。
名義株を整理する手順
整理は、事実関係の確認から始めて、書面化、名簿の訂正、そして後継者への集約という順序で進めます。順番を飛ばして名義の書換えだけを先に行うと、その書換え自体が新たな贈与と評価されかねません。
図3 1から4までは「現状を正す」作業、5が「承継を進める」作業です。
ステップ3:確認書を取り付けるときの注意
名義人が存命であれば、名義を貸していたにすぎない旨を書面にしてもらうことが有効です。書面には、いつ誰の名義で何株が記載されたのか、払込資金は誰が負担したのか、配当を受け取ったことがあるか、といった事実を具体的に記載します。「名義株であることを認める」という結論だけを書いた書面よりも、その結論を支える事実が書かれている書面のほうが、後日の説明力が高くなります。
名義人が既に亡くなっている場合は、その相続人全員から同様の書面を取り付けることになります。相続人が多数に及ぶと、この手続だけで相当の時間がかかります。名義株の整理を先送りするほど難しくなるのは、この点によるところが大きいといえます。
ステップ4:訂正の範囲は名簿だけではない
株主名簿を訂正したら、法人税申告書別表二(同族会社等の判定に関する明細書)の記載も実態と一致させます。以後の招集通知の送付先、配当の支払先、株主総会議事録の出席者の記載も、訂正後の内容で運用します。名簿だけを直して運用が従前どおりだと、実態はどちらなのかという疑義が残ってしまいます。
ステップ5:整理と承継は別の手続
名義株の整理は、あくまで「もともと誰の株式だったか」を確定させる作業であり、株式を後継者に移転させる作業ではありません。実質の株主が先代経営者であると確定した後、その株式を後継者へ移すには、譲渡・贈与・相続といった別の手続が必要になり、それぞれに課税関係が生じます。移転の方法によって税負担が変わるため、整理が終わった段階で改めて設計するのが順序です。自社株の評価額の考え方については相続税 完全ガイドもあわせてご覧ください。
上場準備を進める会社の場合
上場を目指す会社では、名義株の整理は準備の初期段階で必ず求められます。上場審査では株主の実在性と株式の帰属が確認され、名義と実質が食い違ったまま申請することはできません。設立から長い会社ほど、洗い出しと確認書の取り付けに時間がかかるため、他の準備と並行して早期に着手することが望まれます。株主数の数え方や名義株の取扱いを含めた上場準備上の論点は、IPOにおける株主数の要件で扱っています。
いずれも「名義人と実質の帰属者が異なる財産」という点は共通です。名義預金は預金、名義株は株式が対象という違いのほか、名義株には議決権という支配に関わる要素が伴う点が大きく異なります。財産の額だけでなく、会社の意思決定そのものに影響する点が名義株の特徴です。
通帳などの直接的な資料がなくても、配当をどこに支払ってきたか、招集通知をどこに送ってきたか、総会に誰が出席してきたかといった、その後の運用実績が判断材料になります。残っている資料から積み上げ、名義人本人やその相続人の認識を確認していく作業になります。
名義人が株主であるとの認識を持ち、配当を受け取っていた事実などがあれば、真正な株主と判断される可能性があります。この場合は名義株の整理ではなく、株式の買取りや集約の交渉という別の問題になります。会社法上の手続や価格の決め方が関わるため、早い段階で専門家に相談されることをおすすめします。
相続税法基本通達9-9は名義変更を原則として贈与として取り扱うとしていますが、昭和39年の通達は一定の要件を満たす場合に贈与がなかったものとして取り扱うことを定めています。要件を満たすかどうかは事実関係によって判断が分かれるため、実行前に個別に確認することが必要です。
まとめ
名義株は、放置している間はコストが表面化しませんが、相続や承継、M&A、上場準備といった節目で必ず問題になります。しかも、時間が経つほど当時の事情を知る人が減り、整理は難しくなります。
- 名義株とは、株主名簿の名義人と実際に出資を負担した人が一致しない株式のこと
- 判例は、他人名義で引き受けた場合に実質上の引受人を株主とする立場
- ただし会社や第三者への対抗要件は株主名簿の記載(会社法130条1項)
- 判定は、払込資金の原資・配当の受領・総会への関与などから総合的に行う
- 税務上は名義変更を原則として贈与として取り扱う(相基通9-9)が、昭和39年の通達に例外がある
- 整理は事実確認→判定→確認書→名簿・別表二の訂正の順で行い、後継者への集約はその後の別の手続
名義株の洗い出し、確認書の作成、株主名簿と別表二の整備、その後の承継設計まで、順序を踏んで進めるお手伝いをしています。現状の資料が少ない段階でもご相談いただけます。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。相続税の申告と事業承継の支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
参考:国税庁「相続税法基本通達 第9条《その他の利益の享受》関係」(9-9 財産の名義変更があった場合)/国税庁「名義変更等が行われた後にその取消し等があった場合の贈与税の取扱いについて」(昭和39年5月23日 直審(資)22ほか)/国税庁「『名義変更等が行われた後にその取消し等があった場合の贈与税の取扱いについて』通達の運用について」(昭和39年7月4日 直審(資)34ほか)/中小企業庁「事業承継ガイドライン(第3版)」(令和4年3月改訂)/e-Gov法令検索(会社法130条・309条)
本記事は2026年9月時点の法令・通達に基づく一般的な解説であり、個別の事案に対する助言ではありません。名義株の判定や整理の進め方は事実関係により結論が変わりますので、実行にあたっては顧問税理士・弁護士等にご確認ください。