MIRAINIホールディングスの持株会社化|共同株式移転とテクニカル上場の実務【Ⅰの部から読む上場準備】

※本記事は2026年10月7日時点の公表資料に基づきます。

MIRAINIホールディングス株式会社(証券コード546A)は、エレクトロニクス商社の佐鳥電機株式会社と萩原電気ホールディングス株式会社が共同株式移転によって設立した共同持株会社です。2026年3月2日に上場承認を受け、設立日と同じ2026年4月1日に東京証券取引所プライム市場と名古屋証券取引所プレミア市場に上場しました。公募や売出しを伴う通常の新規上場(IPO)ではなく、既に上場していた2社の株主が新会社の株主に移る、いわゆる「テクニカル上場」です。本記事では、両社が提出した「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」(2026年3月2日提出)を読み、持株会社化と上場の実務を整理します。

結論からいえば、このⅠの部は「上場会社どうしが持株会社をつくって経営統合するとき、どの順番で何を決め、何を開示するのか」を一冊で確認できる教材です。株式移転計画と定款がそのまま掲載され、移転比率の算定レンジと公正性担保措置、旧2社の上場廃止日と新会社の上場日の関係、監査等委員会設置会社としての機関設計、設立時の報酬枠、2社で異なる内部監査体制までが具体的に書かれています。将来の持株会社化やグループ再編を視野に入れている上場準備会社にとっても、論点の「チェックリスト」として使える内容です。

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MIRAINIホールディングスはどんな会社で、どのように上場したのか

まず基本情報です。Ⅰの部の表紙には、上場申請会社としてMIRAINIホールディングス株式会社、提出会社として佐鳥電機株式会社と萩原電気ホールディングス株式会社の2社が並んでいます。提出日の2026年3月2日時点では新会社はまだ設立されておらず、「本報告書は、設立予定日である2026年4月1日現在の状況について説明する事前提出書類」という注記が付いています。持株会社のテクニカル上場では、このように「まだ存在しない会社」について、統合する会社が代わりに書類を提出するという形になります。

共同持株会社の本店は東京都港区芝一丁目14番10号(佐鳥電機の本店と同じ場所)ですが、本社は名古屋市東区東桜二丁目2番1号(萩原電気の本店所在地)と東京都港区芝の二本社制とされています。代表者は、萩原電気の代表取締役社長執行役員である木村守孝氏が代表取締役社長執行役員に、佐鳥電機の代表取締役社長執行役員である佐鳥浩之氏が代表取締役副社長執行役員に就任する体制です。決算期は3月31日で、佐鳥電機の5月決算、萩原電気の3月決算という違いは、持株会社では3月決算に揃えられています。

事業内容は「傘下子会社及びグループの経営管理並びにこれに付帯又は関連する業務」です。純粋持株会社として、自らは営業活動を行わず、グループ経営の司令塔の役割を担う位置づけです。資本金は100億円、発行済株式は普通株式35,481,762株(予定)で、単元株式数は100株です。

項目 内容(Ⅰの部の記載)
会社名 MIRAINIホールディングス株式会社(MIRAINI HOLDINGS CO., LTD.)
証券コード 546A
上場市場 東京証券取引所プライム市場、名古屋証券取引所プレミア市場
上場日/上場承認日 2026年4月1日(Ⅰの部では予定)/2026年3月2日
上場の形態 共同株式移転による共同持株会社のテクニカル上場(公募・売出しなし)
新規上場申請日 2026年2月2日
設立 2026年4月1日(株式移転の効力発生日)
本店・本社 本店:東京都港区芝。本社:名古屋市東区東桜と東京都港区芝の二本社制
代表者 代表取締役社長執行役員 木村守孝、代表取締役副社長執行役員 佐鳥浩之
決算期 3月31日(定時株主総会は6月)
資本金・資本準備金 100億円・25億円
発行済株式数 普通株式35,481,762株(予定)、発行可能株式総数1億株
機関設計 監査等委員会設置会社(取締役13名、うち社外取締役6名)
会計監査人 有限責任あずさ監査法人(設立時会計監査人)
株主名簿管理人 三井住友信託銀行株式会社

グループの形は単純です。共同持株会社が佐鳥電機と萩原電気の株式を100%保有し、その下に両社の子会社がそれぞれぶら下がります。両社は共同持株会社の特定子会社に該当する予定とされています。共同持株会社と両社との取引関係は「未定」と書かれており、経営管理料や業務委託の設計は設立後に固める段階であることが分かります。

MIRAINIホールディングスのグループ構成(2026年4月1日)MIRAINIホールディングス(共同持株会社・東証プライム/名証プレミア)佐鳥電機(完全子会社)子会社16社(連結子会社15社)萩原電気ホールディングス(完全子会社)・子会社16社100%100%産業インフラ/エンタープライズモビリティ/グローバルデバイス事業ソリューション事業

図1 共同株式移転により、佐鳥電機と萩原電気ホールディングスが共同持株会社の完全子会社となる(Ⅰの部「上場申請会社の企業集団の概要」をもとに作成)

なお、両社はいずれも有価証券報告書の提出会社です。佐鳥電機グループは佐鳥電機と子会社16社(連結子会社15社)、萩原電気グループは萩原電気と子会社16社で構成されています。佐鳥電機は2026年1月14日の取締役会で、2026年6月1日を効力発生日として連結子会社の佐鳥パイニックス株式会社を吸収合併することも決議しており、統合と並行してグループ内の再編も進めていることがⅠの部から読み取れます。

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統合する2社はそれぞれ何で稼いでいるのか

持株会社そのものは事業を持たないため、Ⅰの部の「事業の内容」は、完全子会社となる2社の最終事業年度末日時点の記載になっています。佐鳥電機は1947年に日本電気株式会社と住友電気工業株式会社の販売特約店として設立された会社で、電子部品・電子機器の専門商社として、ハードとソフトの自社製品も加えて国内外の電子機器メーカー等に販売しています。セグメントは産業インフラ事業、エンタープライズ事業、モビリティ事業、グローバル事業の4つです。台湾、香港、上海、韓国、タイ、米国、ドイツに販売子会社を持ち、インドの半導体商社(SM Electronic Technologies Pvt. Ltd.、議決権75.1%)やオランダの半導体設計会社(MAGnetIC Holding B.V.、同80.0%)も買収しています。

萩原電気は1948年に名古屋で「萩原電気工業社」として創業し、2018年からホールディングス体制をとっています。エンジニア300名を擁する「技術系商社」として、車載用半導体を中心とした電子部品やITソリューションを、自動車・工作機械関係の製造業に提案販売しています。セグメントはデバイス事業とソリューション事業の2つで、デバイス事業は萩原エレクトロニクス株式会社、ソリューション事業は萩原テクノソリューションズ株式会社などが担っています。

統合する2社の事業の特徴(最終事業年度)項目佐鳥電機(5月決算)萩原電気HD(3月決算)創業・設立1947年設立1948年創業売上高(連結)156,242百万円(2025年5月期)258,742百万円(2025年3月期)セグメント産業インフラ・エンタープライズモビリティ・グローバルデバイス事業ソリューション事業従業員(連結)762名(2025年5月31日)808名(2025年3月31日)特徴電子部品・電子機器の専門商社自社製品(ハード・ソフト)も販売自動車関連企業向け売上 約85%デンソー向け約43%・ルネサスから約49%

図2 佐鳥電機は2025年5月期、萩原電気は2025年3月期の連結の数値。主要得意先・仕入先の比率は萩原電気の「事業等のリスク」の記載(Ⅰの部をもとに作成)

収益構造の特徴は、萩原電気の「事業等のリスク」に数字で書かれています。2025年3月期において、グループ総売上高に占める自動車関連企業向け売上高は約85%、株式会社デンソー向けは約43%、グループ総仕入高に占めるルネサスエレクトロニクス株式会社からの仕入高は約49%です。販売先・仕入先の両方に集中があることを、比率とともに開示しているわけです。佐鳥電機についても「特定の仕入先への依存について」というリスク項目があり、販売店契約の変更や仕入先の販売店政策の見直し、M&Aによる再編、商権の変更が経営成績に影響し得ると書かれています。

規模を比べると、最終連結会計年度の売上高は佐鳥電機が156,242百万円、萩原電気が258,742百万円です。従業員数(連結)は佐鳥電機が762名(2025年5月31日現在)、萩原電気が808名(2025年3月31日現在)で、ほぼ同規模の組織が一つのグループになります。単体で見ると、佐鳥電機は357名・平均年齢46.0歳・平均勤続年数18.7年、ホールディングス体制の萩原電気は管理部門(全社共通)の115名・平均年齢39.3歳・平均勤続年数10.7年です。上場準備の観点では、親会社に管理部門を集約している萩原電気と、事業会社として営業部門も抱える佐鳥電機という、異なる組織の作り方を同時に見られる点も参考になります。

なぜ持株会社をつくって経営統合するのか

Ⅰの部の冒頭(第一部「組織再編成に関する情報」)は、経営統合の背景から始まります。エレクトロニクス市場では、次世代自動車だけでなく製造業をはじめ多くの産業でIoT、AI、エッジコンピューティング、生成AIやDXへの対応ニーズが急速に高まっていること、製造拠点の海外移転、米中間の貿易摩擦や輸出規制、地政学的緊張などで事業環境の不確実性が高まり、より高度なサプライチェーンの構築が求められていることが挙げられています。そのうえで、両社は「対等の精神」に基づき相互に協力することで経営統合を目指すことに合意した、と書かれています。

統合の目的は、両社の強みを結集し、持続的な成長と企業価値の更なる向上を実現することです。具体的なシナジーとして、(i)取扱商品・顧客基盤の拡大による事業規模の拡大、(ii)付加価値の高いソリューションの提供、(iii)インド市場をはじめとするグローバル展開の加速、(iv)ITや物流インフラ等の基幹機能、国内外拠点や管理機能の最適化による業務効率化、(v)組織・人財の融合と財務基盤の強化による経営基盤の強化、の5つが示されています。目指す姿は「新たな価値づくりに挑戦するグローバルソリューションパートナー」です。

経営統合で目指す5つのシナジー目指す姿:新たな価値づくりに挑戦するグローバルソリューションパートナー取扱商品・顧客基盤の拡大国内外の製品ラインナップとクロスセル付加価値の高いソリューション技術力・開発リソースの融合パートナー連携グローバル展開の加速インドをはじめアジア等で事業機会創出業務効率化生産性向上IT・物流など基幹機能と拠点管理機能の最適化組織・人財の融合組織力・人財の融合と財務基盤強化(投資加速)デバイスからデータ活用サービスまでの垂直統合型の価値提供を目指す

図3 Ⅰの部「本経営統合の目的及びシナジー」の(i)〜(v)をもとに作成

上場準備会社の立場で注目したいのは、統合の目的が「売上を足し算する」ことだけでなく、管理機能の最適化や財務基盤の強化といった経営基盤の論点にまで及んでいる点です。持株会社化は、グループ全体の管理部門をどこに置き、どの機能を持株会社に集め、どの機能を事業会社に残すかを決める作業でもあります。Ⅰの部の時点では、共同持株会社の従業員数は「未定」、両社との取引関係も「未定」とされており、管理機能の具体的な配置は設立後の課題として残されています。

また、Ⅰの部は「事業ポートフォリオを『収益性』『成長性』『安定性』の観点から戦略的に構築・最適化する」とも書いています。持株会社は、事業会社を横並びで評価し、資源配分を決める立場です。これから持株会社体制を検討する会社は、事業ごとの評価指標と、持株会社の取締役会が何を決めるのかをあわせて設計しておくと、組織再編後の運用がぶれにくくなります。この点は、上場審査で問われる経営管理組織の考え方(IPO審査の「経営管理組織」とは)とも重なります。

テクニカル上場は通常のIPOと何が違うのか

Ⅰの部は「両社は、新たに設立する共同持株会社の株式について、東京証券取引所及び名古屋証券取引所にテクニカル上場を行う予定」と明記しています。テクニカル上場とは、一般に、上場会社が合併(上場会社が消滅会社となるもの)、株式交換(上場会社が完全子会社となるもの)、株式移転といった組織再編を行い、その結果として非上場の会社(ここでは新設の持株会社)が上場会社の株主の受け皿になる場合に、その会社の株式を上場させる手続をいいます。上場会社の株主が組織再編によって非上場株式を持たされることのないよう、旧会社の上場廃止と新会社の上場を連続させる仕組みです。

通常のIPOとの最大の違いは、公募・売出しがないことです。新会社の株式は、旧2社の株主に対して、旧株式に代えて株式移転比率に応じて交付されます。そのためⅠの部には、通常のIPOで中心となる「特別利害関係者等の株式等の移動状況」や「第三者割当等の概況」などの株式公開情報が登場しません。第四部の「上場申請会社の最近の財務諸表」も、「当社は新設会社であり、本報告書提出日現在において決算期を迎えていないため、該当事項はありません」となっています。

その代わり、Ⅰの部の前半には「第一部 組織再編成に関する情報」が置かれ、組織再編成の目的、株式移転計画の全文、割当ての内容と算定根拠、株主の権利、会社法上の手続が詳しく書かれています。いわば「新しい会社がどうやって生まれるのか」の説明が、通常のIPOでいう事業・業績・資本政策の説明に代わって中心になっているのです。Ⅰの部とⅡの部の役割の違いについては、Ⅰの部とⅡの部は何が違うかもあわせてご覧ください。

通常のIPOとテクニカル上場(本件)の違い論点通常のIPOテクニカル上場(本件)上場の契機未上場会社が株式を新規に公開上場会社2社の共同株式移転公募・売出し通常は実施(資金調達・株主作り)なし(旧株式に代えて新株を交付)株主公募・売出しで新たな株主が加わる旧2社の株主が新会社の株主になるⅠの部の中心事業・業績・資本政策・株式移動組織再編成の目的・契約・移転比率財務情報申請会社自身の財務諸表新設のため無し(2社の情報と合算)

図4 左列は一般的な新規上場の場合の整理。右列は本件のⅠの部の記載に基づく

もう一つの違いは、上場審査の対象となる会社の実態です。新会社は設立前で財務情報がなく、企業としての実態は完全子会社となる2社にあります。Ⅰの部でも、主要な経営指標等、経営方針、MD&A、設備、経理の状況などの多くが「共同持株会社は新設会社であるため、該当事項はありません」としたうえで、両社の有価証券報告書(佐鳥電機は2025年8月21日提出、萩原電気は2025年6月27日提出)や半期報告書(佐鳥電機は2026年1月14日提出、萩原電気は2025年11月14日提出)を参照する形をとっています。上場会社として継続開示してきた書類があるからこそ、こうした参照が成り立つわけです。

なお、プライム市場の上場会社には、コーポレートガバナンス・コードの全原則(プライム市場向けの原則を含む)が適用されます。テクニカル上場であっても、上場後の新会社はプライム市場の上場会社として、コーポレート・ガバナンスに関する報告書の提出や独立社外取締役の確保などに対応していくことになります。なお、取引所の公表資料では、テクニカル上場は形式基準を満たしているかを中心に確認しており、企業の継続性及び収益性、経営の健全性等に係る詳細な審査は行っていないとされています。通常のIPOで審査される実質審査基準の考え方(IPOの実質審査基準とは)は、テクニカル上場であっても、新会社のガバナンスや開示の体制を考える際の参考になります。

組織再編の手続はどの順番で進んだのか

ここからは、Ⅰの部「組織再編成に関する手続」に記載された日程に沿って、手続の流れを見ていきます。最初の節目は2025年7月28日です。両社はこの日の取締役会で株式移転比率の決定と基本合意書の締結を決議し、基本合意書を締結しました。株式移転比率は、この段階で既に決まっています。その後、臨時株主総会の基準日(両社とも2025年9月30日)を経て、2025年10月14日の両社取締役会で経営統合契約書の締結と株式移転計画の作成を決議しています。

2025年11月25日には、共同持株会社として有価証券届出書(組織再編成・上場)を関東財務局長に提出し、11月26日から会社法上の事前備置書類を両社の本店に備え置いています。2025年12月11日の両社の臨時株主総会で株式移転計画が承認可決され、2026年2月2日に東京証券取引所プライム市場と名古屋証券取引所プレミア市場へ新規上場申請、3月2日にⅠの部を提出しました。その後、旧2社は2026年3月27日が最終売買日、3月30日に上場廃止となり、4月1日に株式移転の効力が発生して共同持株会社が設立され、同日に上場するというスケジュールです。

経営統合から上場までのスケジュール2025年7月28日基本合意書比率決定2025年10月14日統合契約締結移転計画作成2025年11月25日有価証券届出書提出2025年11月26日事前備置開始2025年12月11日両社臨時株主総会で承認2026年2月2日新規上場申請2026年3月2日Ⅰの部提出上場承認2026年3月27日最終売買日(予定)2026年3月30日両社上場廃止(予定)2026年4月1日設立・上場(予定)

図5 Ⅰの部「組織再編成に関する手続」「株式等の状況」等をもとに作成。上場承認日は東京証券取引所の公表による

基本合意(7月)から上場(翌年4月)まで約8か月です。株主総会の基準日を先に決め、総会の約2週間前には事前備置を始め、総会後に上場申請するという順序は、会社法と取引所の手続の両方を逆算して組み立てる必要があります。日程の組み方そのものは通常のIPOと異なりますが、「どこで遅れるとすべてが後ろにずれるか」を意識して全体を設計するという点では共通しています(上場スケジュールはどこで遅れるか)。Ⅰの部も、「公正取引委員会等関係当局への届出、又はその他の理由により本経営統合の推進が遅延する事由又は推進が困難となる事由が生じた場合には、速やかに公表いたします」と注記しています。

株式移転計画には何が書かれているのか

Ⅰの部には「株式移転計画書(写し)」が全文で掲載されています。会社法上の必要的記載事項(新会社の目的・商号・本店所在地・発行可能株式総数、設立時取締役、設立時会計監査人、交付する株式と割当て、資本金・準備金の額など)に加え、経営統合を円滑に進めるための約束事も書かれています。主な条項を整理すると次のとおりです。

条項 主な内容
第2条(新会社の目的等) 商号MIRAINIホールディングス株式会社、本店東京都港区、本社は名古屋市東区と東京都港区、発行可能株式総数1億株。定款は別紙
第3条(設立時役員等) 設立時取締役9名(監査等委員を除く)、設立時監査等委員である取締役4名、設立時会計監査人は有限責任あずさ監査法人
第4条(株式の割当て) 佐鳥電機の普通株式1株に新会社株式1.02株、萩原電気の普通株式1株に2株。端数は会社法第234条等に従い処理
第5条(資本金・準備金) 資本金100億円、資本準備金25億円、利益準備金0円、その他資本剰余金は株主資本変動額から資本金・資本準備金を減じた額
第6条(成立日) 2026年4月1日(必要な場合は協議・合意により変更可)
第7条(承認総会) 両社とも2025年12月11日に臨時株主総会を開催
第8条(上場・株主名簿管理人) 東証プライム市場・名証プレミア市場への上場を予定し、相互に協力。株主名簿管理人は三井住友信託銀行
第9条(剰余金の配当) 成立日までの配当の上限(佐鳥電機:1株44円・46円、萩原電気:1株90円・95円)を定め、それ以外の配当決議は原則禁止
第10条(自己株式) 両社が保有する自己株式の処分の時期・方法等について誠実に協議
第11条〜第13条 善管注意義務による業務遂行・財産管理、重要な行為の事前協議、重大な変更時の条件変更・中止、許認可等が得られない場合の失効

上場準備の観点から特に参考になるのは、第9条(剰余金の配当)と第11条(会社財産の管理等)です。株式移転比率を決めた後に、一方の会社だけが多額の配当をしたり重要な資産を処分したりすると、比率の前提が崩れてしまいます。そこで計画書では、基準日ごとの配当の上限額を明記し、それ以外の配当決議を原則として禁止するとともに、財産や権利義務に重大な影響を及ぼし得る行為は事前に協議・合意して行うと定めています。M&Aや資本業務提携で株式の交換比率や価格を決めた後の「前提の固定」の考え方として、未上場会社にも応用できる設計です。

株主の権利を守るための会社法の手続

株式移転は株主の地位を大きく変える行為なので、会社法は株主保護の手続を定めています。Ⅰの部には、会社法第803条第1項と会社法施行規則第206条に基づき、両社の本店に2025年11月26日から次の書類を備え置いていることが書かれています。

番号 事前備置書類の内容
① 株式移転計画(2025年10月14日の両社取締役会で承認)
② 株式移転比率とその算定根拠、共同持株会社の資本金・準備金の額の相当性に関する事項(会社法第773条第1項第5号・第6号)
③ 新株予約権の交付に関する事項の相当性(同第9号・第10号)
④ 相手方会社の最終事業年度に係る計算書類等の内容
⑤ 相手方会社の最終事業年度末日後に生じた重要な財産の処分等の内容
⑥ 自社の最終事業年度末日後に生じた重要な財産の処分等の内容

また、株式移転に反対する株主は、会社法第806条に基づき株式買取請求権を行使できます。Ⅰの部では、臨時株主総会に先立って反対の旨を通知し、総会で反対したうえで、会社が決議の日から2週間以内に行う通知または公告の日から20日以内に請求する必要があると説明しています。議決権行使については、総会への出席のほか、郵送やインターネットによる行使の締切時刻(佐鳥電機は2025年12月10日午後5時、萩原電気は同日午後6時)まで具体的に書かれています。両社とも新株予約権や新株予約権付社債は発行していないため、新株予約権の承継という論点は生じていません。

株主が新会社の株式を受け取る方法は、振替制度によります。基準時における両社の最終の株主名簿に記載・記録された株主に割り当てられ、自分の佐鳥電機株式または萩原電気株式が記録されている振替口座に、共同持株会社の普通株式が記録されます。1単元(100株)未満の株式を受け取る株主は、市場で売却できない代わりに、単元未満株式の買取請求や買増請求ができることも説明されています。

旧2社の上場廃止と共同持株会社の上場2026年3月27日最終売買日(両社・予定)2026年3月30日両社の上場廃止(予定)2026年4月1日株式移転の効力発生共同持株会社の設立2026年4月1日共同持株会社株式の上場(予定)基準時の両社株主に、振替口座への記録により共同持株会社株式を割り当てる(佐鳥電機1株→1.02株、萩原電気1株→2株。端数は会社法第234条で処理)上場廃止の期日は、東京証券取引所及び名古屋証券取引所の各規則により決定される

図6 Ⅰの部「共同持株会社の上場申請等に関する取扱い」「組織再編成によって発行される株式の受取方法」をもとに作成

株式移転比率はどのように決められたのか

テクニカル上場における「価格決定」にあたるのが株式移転比率です。本件では、佐鳥電機の普通株式1株に対して共同持株会社の普通株式1.02株、萩原電気の普通株式1株に対して2株が割り当てられます。比率を決めるにあたり、佐鳥電機は第三者算定機関として大和証券株式会社、法務アドバイザーとしてTMI総合法律事務所を、萩原電気は第三者算定機関としてSMBC日興証券株式会社、法務アドバイザーとして森・濱田松本法律事務所を選定しました。両社は、算定結果と助言を参考に、財務の状況、資産の状況、将来の見通し等を総合的に勘案して交渉・協議を重ね、2025年7月28日の取締役会で比率を決定しています。

両算定機関はいずれも、市場株価法、類似会社比較法(SMBC日興証券は類似上場会社比較法)、DCF法の3つの手法を使っています。上場会社どうしなので市場株価が存在し、比較可能な上場類似会社が複数あり、将来の事業活動を評価に反映させるためにDCF法も併用する、という理由が書かれています。市場株価法の算定基準日はいずれも2025年7月25日で、大和証券は基準日の終値と過去1か月、3か月、6か月の終値の単純平均値を、SMBC日興証券は過去1か月、3か月、6か月の終値の単純平均値を使っています。

株式移転比率の算定レンジ(佐鳥電機1株あたり)大和・市場株価法1.01〜1.04大和・類似会社比較法0.65〜1.54大和・DCF法0.72〜1.37日興・市場株価法1.01〜1.03日興・類似上場会社比較法0.87〜1.75日興・DCF法0.53〜1.16合意した比率 1.020.51.01.5

図7 萩原電気1株に共同持株会社株式2株を割り当てる場合の、佐鳥電機1株に割り当てる株式数の算定結果。大和=大和証券(佐鳥電機の算定機関)、日興=SMBC日興証券(萩原電気の算定機関)

算定レンジは、萩原電気1株に新会社株式2株を割り当てる場合に、佐鳥電機1株に割り当てる株式数として示されています。大和証券は市場株価法1.01〜1.04、類似会社比較法0.65〜1.54、DCF法0.72〜1.37、SMBC日興証券は市場株価法1.01〜1.03、類似上場会社比較法0.87〜1.75、DCF法0.53〜1.16です。合意した1.02は、両社の市場株価法のレンジの中に入っており、類似会社比較法とDCF法のレンジにも含まれています。

DCF法の前提も具体的です。大和証券が前提とした佐鳥電機の財務予測には大幅な増減益を見込む事業年度は含まれていない一方、萩原電気の財務予測には、2027年3月期にモビリティのソフト化に対応したエンジニアリング事業や高付加価値デバイスの拡販に伴う売上高の増加、為替変動や一部の低採算案件による利益悪化の反動に伴う売上総利益率の回復により、営業利益の大幅な増益を見込む年度が含まれていると書かれています。SMBC日興証券がDCF法の前提とした事業計画には、経営統合によるシナジー効果は織り込まれていません。算定機関は、提供された情報の正確性・完全性を独自に検証しておらず、資産・負債の独自の評価・鑑定も行っていないという前提条件も明記されています。

未上場会社のM&Aや資本政策では、市場株価が使えない分、類似会社比較法やDCF法の比重が高くなります(未上場株式の株価算定はどの方法を使うか)。本件のレンジを見ても、市場株価法の幅が非常に狭いのに対し、類似会社比較法やDCF法は幅が広く、前提によって結果が大きく動くことが分かります。事業計画の前提(どの年度に大幅な増減益を見込むか、シナジーを織り込むか)を算定書の中で明示しておくことが、後で説明責任を果たすうえで重要になります。

公正性はどのように担保されたのか

Ⅰの部は、両社それぞれが講じた公正性担保措置として、(ア)独立した第三者算定機関からの株式移転比率算定書の取得、(イ)独立した法律事務所からの助言の2つを挙げています。算定機関と法律事務所は、いずれも両社の関連当事者に該当せず、本件に関して記載すべき重要な利害関係を有していないことも書かれています。一方、利益相反を回避するための措置については、「両社との間には特段の利益相反関係は生じないことから、特別な措置は講じておりません」とされています。資本関係のない対等な2社の統合であることが、この記載の前提になっています。

株式移転比率の公正性を担保するための措置佐鳥電機萩原電気ホールディングス第三者算定機関:大和証券株式移転比率算定書を取得第三者算定機関:SMBC日興証券株式移転比率算定書を取得法務アドバイザー:TMI総合法律事務所法務アドバイザー:森・濱田松本法律事務所両社で交渉・協議 → 2025年7月28日 取締役会で比率決定(佐鳥電機1株→1.02株、萩原電気1株→2株)利益相反回避措置:特段の利益相反関係はなく、特別な措置は講じていない

図8 Ⅰの部「公正性を担保するための措置」「利益相反を回避するための措置」をもとに作成

上場準備会社がこの部分から学べるのは、「価格や比率を決めた根拠を、第三者の算定と社内の意思決定の両面で残す」ことの重要性です。上場前の第三者割当や株式譲渡でも、価格の算定方法と決定プロセスは審査で確認されます。誰が算定し、どの手法を使い、どの会議体で決めたのかを議事録と算定書で説明できるようにしておくことは、規模の大小を問わず共通する実務です。

統合前の2社の業績はどう推移してきたのか

共同持株会社は新設会社のため、Ⅰの部の「統合財務情報」には共同持株会社自身の財務情報はありません。代わりに、両社の最終連結会計年度の売上高、経常利益、親会社株主に帰属する当期純利益を単純に合算した数値が示されています。売上高414,984百万円、経常利益9,262百万円、親会社株主に帰属する当期純利益6,223百万円です。Ⅰの部は、これらが「単純な合算値に過ぎず、監査法人の監査証明を受けていない記載である」こと、それ以外の指標は単純な合算が困難で、合算すると「却って投資家の判断を誤らせるおそれがあります」ことから合算していないことを注記しています。

両社の決算期は異なり(佐鳥電機は5月、萩原電気は3月)、合算の対象は佐鳥電機の2025年5月期と萩原電気の2025年3月期です。共同持株会社の連結の純資産・総資産は「現時点では確定しておりません」と書かれています。

項目(百万円) 2021年 2022年 2023年 2024年 2025年
佐鳥電機 売上高(5月期) 105,843 125,850 146,336 148,113 156,242
佐鳥電機 経常利益 1,139 2,601 2,867 3,653 3,052
佐鳥電機 親会社株主に帰属する当期純利益 520 1,908 2,257 2,156 2,524
佐鳥電機 純資産額 30,372 32,457 34,945 34,969 33,306
佐鳥電機 営業キャッシュ・フロー 4,555 △1,413 △4,889 5,325 1,303
萩原電気 売上高(3月期) 127,830 158,427 186,001 225,150 258,742
萩原電気 経常利益 3,556 4,335 6,417 7,221 6,210
萩原電気 親会社株主に帰属する当期純利益 2,314 2,876 4,912 4,421 3,699
萩原電気 純資産額 37,052 39,369 43,531 50,361 52,978
萩原電気 営業キャッシュ・フロー 887 △4,905 △13,020 5,134 △6,683
統合前2社の売上高の推移(連結・百万円)佐鳥電機(5月期)萩原電気(3月期)075,000150,000225,000300,0002021年2022年2023年2024年2025年

図9 佐鳥電機は各年5月期、萩原電気は各年3月期の連結売上高。両社の決算期は異なる(Ⅰの部「統合財務情報」の主要な経営指標等の推移より)

売上高は両社とも、掲載された5期間を通じて毎期増加しています。佐鳥電機は105,843百万円(2021年5月期)から156,242百万円(2025年5月期)へ、萩原電気は127,830百万円(2021年3月期)から258,742百万円(2025年3月期)へと拡大しました。一方、経常利益は、佐鳥電機が2024年5月期の3,653百万円から2025年5月期は3,052百万円へ、萩原電気が2024年3月期の7,221百万円から2025年3月期は6,210百万円へと、いずれも直近期に前期を下回っています。

統合前2社の経常利益の推移(連結・百万円)萩原電気(3月期)佐鳥電機(5月期)02,0004,0006,0008,0002021年2022年2023年2024年2025年3,5564,3356,4177,2216,2101,1392,6012,8673,6533,052

図10 佐鳥電機は各年5月期、萩原電気は各年3月期。直近期は両社とも前期を下回った(Ⅰの部「統合財務情報」より)

キャッシュ・フローにも商社らしい特徴があります。営業キャッシュ・フローは、佐鳥電機が2022年5月期△1,413百万円、2023年5月期△4,889百万円、萩原電気が2022年3月期△4,905百万円、2023年3月期△13,020百万円、2025年3月期△6,683百万円とマイナスの年度があります。萩原電気では、これらの年度の財務キャッシュ・フローがプラス(2022年3月期3,564百万円、2023年3月期16,421百万円、2025年3月期9,014百万円)になっています。佐鳥電機の事業等のリスクにも「業績の拡大とともに売上債権及び棚卸資産が増加する傾向」があり、売上債権流動化やコミットメントライン契約で対応していると書かれています。成長期に運転資本が膨らみ、借入れで賄うという構造は、上場準備中の商社・卸売業の会社にも共通する論点です。

自己資本比率は、2025年の期末で佐鳥電機40.8%、萩原電気39.0%です。また、佐鳥電機の指標には、収益認識に関する会計基準を第80期(2022年5月期)の期首から適用していること、第83期に企業結合に係る暫定的な会計処理の確定を行い第82期の数値に反映していることが注記されています。萩原電気は第65期(2022年3月期)の期首から収益認識基準を適用しています。基準の適用時期や暫定的な会計処理の確定による遡及修正は、過年度の数値を比較するときに必ず確認したい注記です。継続性や収益性をどう説明するかについては、IPO審査の「企業の継続性及び収益性」も参考になります。

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株式と株主構成はどうなるのか

共同持株会社が交付する新株式数(予定)は普通株式35,481,762株です。これは、佐鳥電機の発行済株式総数14,946,826株に1.02を、萩原電気の発行済株式総数10,118,000株に2を乗じて算出したものです(佐鳥電機は2025年11月30日現在、萩原電気は2025年9月30日現在)。なお、佐鳥電機は2025年7月14日の取締役会決議に基づき、同月22日に保有する自己株式3,000,000株を消却しています。発行可能株式総数は1億株、種類株式はなく、普通株式は「完全議決権株式であり、剰余金の配当に関する請求権その他の権利内容に何ら限定のない」標準となる株式です。

資本金等は株式移転計画第5条で定められ、資本金100億円、資本準備金25億円、利益準備金0円、その他資本剰余金は会社計算規則第52条第1項に定める株主資本変動額から資本金と資本準備金の合計額を減じた額です。株式移転で設立される会社の資本金をいくらにするかは、計画で自由度をもって決められる部分であり、その後の配当や自己株式取得の財源(分配可能額)の設計にも関わります。

共同持株会社の発行株式数と資本金等佐鳥電機:14,946,826株 × 1.02萩原電気:10,118,000株 × 2MIRAINIホールディングス 発行済株式35,481,762株(予定)資本金等(株式移転計画第5条)資本金100億円資本準備金25億円その他資本剰余金株主資本変動額−125億円株主資本変動額は会社計算規則第52条第1項に定める額。利益準備金は0円

図11 Ⅰの部「組織再編成に係る割当ての内容及びその算定根拠」「発行済株式総数、資本金等の推移」及び株式移転計画第5条をもとに作成

共同持株会社は設立時に自己株式を保有しません。一方、完全子会社となる両社は自己株式を保有しており、佐鳥電機は85,700株(発行済株式総数に対する割合0.57%、2025年11月30日現在)、萩原電気は149,200株(同1.47%、2025年9月30日現在)です。佐鳥電機には「役員向け株式交付信託」と「雇用型執行役員向け株式交付信託」があり、信託が保有する485,400株は自己株式に含まれていません。株式移転計画第10条で、両社の自己株式の処分の時期・方法について誠実に協議するとされています。

大株主と株主の分布

共同持株会社はⅠの部の提出時点で株主がいないため、両社の株主データ(2025年9月30日現在)に基づき、2026年4月1日時点で想定される大株主が示されています。上位は日本マスタートラスト信託銀行(信託口)12.95%、日本カストディ銀行(信託口)5.63%、三菱UFJ銀行3.02%、有限会社スタ二イ2.87%、三井住友銀行2.15%で、上位10名の合計は34.75%です。これはⅠの部記載時点の想定であり、実際の上場時の比率とは区別して読む必要があります。

想定される大株主(2026年4月1日現在・予定)日本マスタートラスト信託銀行(信託口)12.95%日本カストディ銀行(信託口)5.63%三菱UFJ銀行3.02%有限会社スタ二イ2.87%三井住友銀行2.15%株式会社STRマネージメント2.08%萩原 智昭1.95%株式会社オフィス佐鳥1.50%名古屋中小企業投資育成1.31%公益財団法人萩原学術振興財団1.31%上位10名計 34.75%。両社の2025年9月30日現在の株主データに基づく2026年4月1日時点の想定

図12 発行済株式(自己株式を除く)の総数に対する所有株式数の割合。Ⅰの部「大株主の状況」より

所有者別状況を見ると、佐鳥電機の株主数は10,621人(2025年11月30日現在)、萩原電気は6,764人(2025年9月30日現在)で、所有株式数の割合は佐鳥電機が個人その他58.65%、金融機関23.93%、萩原電気が個人その他47.66%、金融機関26.06%です。既に多数の株主がいるため、通常のIPOのように上場時の公募・売出しで株主数や流通株式を確保する必要はありません。流通株式の考え方そのものは、流通株式数の数え方で解説しています。

配当政策は、新設会社のため配当の基本方針や回数は「未定」です。期末配当の基準日は3月31日、中間配当の基準日は9月30日とし、剰余金の配当は取締役会決議で行うことができる旨を定款で定めています(株主総会決議による配当を排除するものではありません)。統合前の最後の配当については、株式移転計画第9条で上限が決められています。

会社 基準日 1株あたり配当の上限
佐鳥電機 2025年11月30日 44円
佐鳥電機 2026年3月31日 46円
萩原電気 2025年9月30日 90円
萩原電気 2026年3月31日 95円

持株会社のガバナンスはどう設計されたのか

共同持株会社は監査等委員会設置会社です。Ⅰの部は、選択の理由を「取締役及び取締役会の監督機能を強化し、経営の透明性・公正性の向上を図るため」とし、取締役会における議決権を持つ監査等委員である取締役による監査・監督の体制を構築するとしています。完全子会社となる両社も監査等委員会設置会社であり、統合後も同じ機関設計を引き継ぐ形です。機関設計の選び方については監査役会設置会社と監査等委員会設置会社はどちらを選ぶ?で比較しています。

取締役会は、監査等委員でない取締役9名(うち社外取締役3名)と監査等委員である取締役4名(うち社外取締役3名)の計13名で構成され、原則として月1回の定時開催に加えて必要に応じて臨時に開催します。監査等委員会は4名で構成され、同じく原則月1回開催し、監査等基準や監査方針等を決定します。定款では、取締役会の決議によって重要な業務執行の決定の全部または一部を取締役に委任できる旨(会社法第399条の13第6項)や、執行役員を置き社長執行役員等の役付執行役員を定められる旨も規定しています。

共同持株会社の機関設計(監査等委員会設置会社)株主総会会計監査人(あずさ)取締役会(13名、うち社外6名)原則月1回監査等委員会(4名、うち社外3名)常勤監査等委員1名選任選任連携代表取締役社長執行役員代表取締役副社長執行役員選定・監督執行役員(取締役会決議で選任)完全子会社佐鳥電機・萩原電気HD(各社の子会社)経営管理持株会社の内部監査体制の詳細はⅠの部では未定(両社は別体制)

図13 Ⅰの部「コーポレート・ガバナンスの概要」及び定款をもとに作成

定款・ガバナンスの主な規定は次のとおりです。取締役は15名以内(うち監査等委員である取締役は5名以内)、取締役の選任決議は議決権の3分の1以上を有する株主の出席とその議決権の過半数で行い、累積投票によりません。株主総会の特別決議の定足数は3分の1以上に緩和されています。取締役の責任について、会社法第426条第1項に基づく取締役会決議による責任免除と、会社法第427条第1項に基づく責任限定契約(社外取締役と締結予定、限度額は法令が定める額)を定めています。任期は、監査等委員でない取締役が設立日から2027年3月期に係る定時株主総会終結の時まで、監査等委員である取締役が2028年3月期に係る定時株主総会終結の時までです。

13名の取締役はどこから来たのか

役員の構成は、男性10名・女性3名(女性比率23.08%)です。代表取締役社長執行役員の木村守孝氏は日本オラクルを経て2011年に萩原電気に入社し、海外子会社の経営、事業部長、経営企画本部総括などを経て2021年に萩原電気の代表取締役社長に就任しました。現在は経営戦略本部、財経本部、内部監査部の総括も兼ねています。代表取締役副社長執行役員の佐鳥浩之氏は1995年に佐鳥電機に入社し、2013年から同社の代表取締役社長を務めています。社内取締役には、三菱商事で財務・経理・リスクマネジメントを経験し萩原電気の財経本部を担当する小山琢磨氏、第一生命グループで監査等委員会室長等を務め佐鳥電機のコーポレート担当となった土屋俊司氏など、管理部門の経験者も含まれています。

役職(予定) 氏名 現在の主な在任会社 割り当てられる株式数(予定)
代表取締役 社長執行役員 木村 守孝 萩原電気 22,256株
代表取締役 副社長執行役員 佐鳥 浩之 佐鳥電機 107,036株
取締役 水越 成彦 佐鳥電機・佐鳥SPテクノロジ 3,065株
取締役 副島 剛 萩原エレクトロニクス 6,458株
取締役 小山 琢磨 萩原電気 1,656株
取締役 土屋 俊司 佐鳥電機 0株
社外取締役 田口 晶弘 佐鳥電機(取締役会議長) 2,078株
社外取締役 岡本 伸一 萩原電気 400株
社外取締役 林 恭子 萩原電気 0株
取締役(常勤監査等委員) 井上 典昭 萩原電気 6,874株
社外取締役(監査等委員) 坂田 誠二 佐鳥電機 640株
社外取締役(監査等委員) 榎本 幸子 萩原電気(公認会計士) 430株
社外取締役(監査等委員) 雪丸 暁子 佐鳥電機(弁護士) 622株

割り当てられる株式数は、2025年9月30日現在の両社株式の所有状況に株式移転比率を乗じたもので、合計151,515株です。表を見ると、佐鳥電機の現任役員が6名、萩原電気グループの現任役員が7名で、社外取締役も両社から3名ずつ(佐鳥電機から田口氏・坂田氏・雪丸氏、萩原電気から岡本氏・林氏・榎本氏)が就任します。役員構成も、両社からほぼ同数となっています。

共同持株会社の取締役会の構成(13名)監査等委員でない取締役(9名)木村 守孝代表・社長(萩)佐鳥 浩之代表・副社長(佐)水越 成彦取締役(佐)副島 剛取締役(萩)小山 琢磨取締役(萩)土屋 俊司取締役(佐)田口 晶弘社外(佐)岡本 伸一社外(萩)林 恭子社外(萩)監査等委員である取締役(4名)井上 典昭常勤(萩)坂田 誠二社外(佐)榎本 幸子社外(萩)雪丸 暁子社外(佐)(佐)佐鳥電機(萩)萩原電気緑=社外取締役(6名)、青=社内取締役(7名)。女性は3名(23.08%)

図14 2026年4月1日就任予定の役員。(佐)(萩)は本報告書提出日現在の主な在任会社による区分(Ⅰの部「役員の状況」をもとに作成)

社外取締役6名については、いずれも「人的関係、資本的関係又は取引関係その他の利害関係はありません」と記載されています。共同持株会社は新設会社のため、社外取締役の独立性に関する独自の基準や方針は定めていないものの、選任にあたっては東京証券取引所及び名古屋証券取引所の独立役員の独立性に関する判断基準を参考にしたと書かれています。プライム市場では独立社外取締役の比率が問われるため、設立時点で13名中6名の社外取締役を置いている点は、テクニカル上場であってもガバナンス体制を上場水準で用意していることを示しています。社外取締役の人数の考え方は社外取締役は何人必要かをご覧ください。

役員報酬は設立前にどう決めたのか

新設会社には株主総会がまだないため、最初の取締役の報酬枠は株式移転計画に添付された定款の附則で定められています。監査等委員でない取締役の金銭報酬等は年額800百万円以内(使用人兼務取締役の使用人分給与を含まない)、監査等委員である取締役は年額280百万円以内、監査等委員である取締役と社外取締役を除く取締役に譲渡制限付株式を付与するための金銭報酬債権は、800百万円の範囲内で年額200百万円以内です。譲渡制限付株式の割当ては各事業年度200,000株が上限、譲渡制限期間は割当日から30年間で、組織再編等の際の取扱いも細かく定められています。

また、附則第3条で、萩原電気の2018年6月28日開催の第61期定時株主総会で承認された譲渡制限付株式報酬制度に基づく割当契約について、2026年4月1日をもって共同持株会社が萩原電気の契約上の地位と権利義務を承継するとしています。株式報酬を導入している会社が組織再編を行う場合、既に付与した株式報酬をどう引き継ぐかが実務上の論点になります。役員の報酬等の額またはその算定方法の決定に関する方針は「今後策定する予定」とされ、個別の報酬額は、監査等委員でない取締役は取締役会、監査等委員である取締役は監査等委員会の協議で決定する予定です。

設立時に定められた取締役の報酬枠(定款附則)株式移転計画(定款附則)監査等委員でない取締役金銭報酬等年額800百万円以内譲渡制限付株式用金銭報酬債権年額200百万円以内(内数)監査等委員である取締役報酬等年額280百万円以内個別額:取締役会で決定(予定)(監査等委員でない取締役)個別額:監査等委員会の協議で決定(監査等委員である取締役)RS:割当て上限は各事業年度200,000株、譲渡制限期間30年萩原電気の譲渡制限付株式割当契約上の地位を2026年4月1日に承継

図15 Ⅰの部「役員の報酬等」及び定款附則をもとに作成。報酬等の額の決定方針は今後策定予定

内部監査とグループ監査の体制はどうなっているのか

持株会社化で見落としやすいのが、内部監査と監査等委員会監査をグループ全体でどう回すかという点です。共同持株会社については、「新設会社であるため、該当事項はありません」とされ、Ⅰの部には完全子会社となる両社の監査の状況が記載されています。読み比べると、両社の設計がかなり異なることが分かります。

佐鳥電機は、内部監査部門として監査等委員会直轄の「経営監査部」を設置しており、要員は3名(2025年8月21日現在)です。経営監査部は内部監査計画に基づき佐鳥グループ各社の内部監査を実施し、内部監査の状況を監査等委員会、社長執行役員、取締役会に報告しています。経営監査部長は経営会議等の重要な会議・委員会に出席しています。監査等委員会は常勤監査等委員1名と社外取締役である監査等委員3名の計4名で、業務執行者からの独立性を確保した専任スタッフを1名配置しています。

萩原電気は、社長直轄の「内部監査部」を設置しており、8名(2025年6月27日現在)で構成されています。内部監査の結果は社長、被監査部門、監査等委員会に報告し、実施状況を取締役会に報告しています。金融商品取引法の内部統制報告制度に沿って、内部監査部と会計監査人が連携して内部統制の整備・運用状況の評価等を実施していることも書かれています。役員の略歴によると、木村守孝氏は萩原電気の内部監査部総括(現任)を務めています。

統合前2社の内部監査体制と持株会社での連携佐鳥電機萩原電気ホールディングス監査等委員会(常勤1名+社外3名、専任スタッフ1名)経営監査部(3名)監査等委員会の直轄直轄報告先:監査等委員会・社長執行役員・取締役会社長内部監査部(8名)社長の直轄直轄報告先:社長・被監査部門・監査等委員会(取締役会へ実施状況)MIRAINIホールディングス:社外取締役が過半数の監査等委員会で、内部監査・会計監査・内部統制部門と監査計画・結果を共有し連携する予定(詳細は未定)

図16 人数は佐鳥電機が2025年8月21日現在、萩原電気が2025年6月27日現在(Ⅰの部「監査の状況」をもとに作成)

内部監査部門を誰の直轄にするかは、上場準備でもよく議論になる論点です。社長直轄にすれば経営の指示で機動的に監査できる一方、監査等委員会(監査役会)直轄にすれば執行からの独立性を確保しやすくなります。どちらの場合でも、監査結果を両方に報告する「デュアルレポーティング」の仕組みを整えることが一般的です(内部監査の報告先は社長だけでよいのか)。本件では、統合後の共同持株会社の内部監査体制は未定とされており、両社の異なる仕組みをどう統合するかが設立後の課題になります。

グループ監査の工夫として、萩原電気では、常勤監査等委員が内部監査部門の内部監査に同行するほか、グループ会社の監査役と内部統制委員会の委員長・副委員長で構成する「監査等連絡会」を毎月開催しています。監査等委員会は四半期に一度、会計監査人と協議・報告・情報交換を行い、監査上の主要な検討事項(KAM)について意見交換しています。佐鳥電機でも、常勤監査等委員が国内子会社の監査役を兼務し、子会社の取締役会等に出席しています。共同持株会社については、社外取締役が過半数を占める監査等委員会において、内部監査、会計監査、内部統制部門と監査計画・監査結果を報告・共有し、相互に連携する予定とされています。三様監査の連携の基本は監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査)で整理しています。

監査等委員会の活動実績も具体的です。佐鳥電機の監査等委員会は当事業年度に15回開催され、監査方針・監査計画、会計監査人の評価及び再任・不再任、監査報酬、KAM、取締役の選任及び報酬、内部統制システムの整備・運用状況、株式報酬制度に伴う自己株式処分などを検討しています。萩原電気の監査等委員会は14回開催され、会社法上の検討事項に加え、KAM、内部統制体制、海外往査方針、監査法人及びそのネットワークファームの非保証業務に関する事前了解などを検討しています。上場準備会社が監査役会や監査等委員会の議題を設計する際の参考になるリストです。

リスク管理の仕組みについても、萩原電気の記載が詳しく、サステナビリティ委員会の統括のもとに「リスク管理委員会」を置き、委員長は取締役会から選任され、監査等委員や内部監査部門の職責者も参加して四半期に1回開催しています。重要事項はサステナビリティ委員会での協議を経て、重要度に応じて取締役会で決議されます。コンプライアンスについては内部統制委員会、情報セキュリティについては情報セキュリティ委員会、災害については総合災害対策本部(旧BCM委員会)を設けています。持株会社では、こうした委員会を持株会社に置くのか、事業会社ごとに置くのかを決める必要があります。

会計・開示では何が論点になるのか

テクニカル上場のⅠの部は、会計情報の多くを両社の有価証券報告書に委ねています。「第5 経理の状況」は、共同持株会社が新設会社で決算期を迎えていないため該当事項はなく、両社の有価証券報告書と半期報告書を参照する形です。そのため、共同株式移転に伴う企業結合の会計処理(どちらの会社を取得企業とするか、のれんがいくら生じるか)については、Ⅰの部には記載がありません。

一般的な整理としては、共同株式移転による企業結合は、企業結合に関する会計基準のもとで共同支配企業の形成に該当しない限り「取得」として扱われ、いずれかの結合当事企業を取得企業として決定したうえでパーチェス法を適用します。取得企業の決定にあたっては、議決権比率、取締役会等の構成、相対的な規模などが考慮されます。被取得企業の識別可能な資産・負債は時価で受け入れ、取得原価との差額がのれん(または負ののれん)になります。また、持株会社の個別財務諸表では、取得企業とされた子会社の株式と被取得企業とされた子会社の株式とで、取得原価の算定の考え方が異なります。

共同株式移転の会計処理を考える順序(一般的な整理)共同支配企業の形成に該当するか共同支配企業の形成の会計処理はい取得(パーチェス法)いいえ取得企業の決定(議決権比率・取締役会の構成・規模など)被取得企業の資産・負債を時価で受入れ差額はのれん(または負ののれん)持株会社の個別財務諸表:子会社株式の取得原価の算定Ⅰの部では取得企業やのれんの金額の記載はなく、両社の有報等を参照としている

図17 企業結合に関する会計基準の一般的な考え方を整理したもの。本件の取得企業やのれんの金額はⅠの部には記載されていない

統合後は、のれんや無形資産の減損の判定、子会社の決算日が異なる場合の連結手続、両社で異なる会計方針の統一、内部統制報告制度の評価範囲の見直しなど、連結決算の実務が大きく変わります。佐鳥電機の事業等のリスクにもM&Aによるのれんの減損リスクが挙げられています。のれんが上場審査や上場後の開示でどう見られるかは、IPO審査でのれんの減損リスクはどう見られるかで解説しています。

開示面では、Ⅰの部の「統合財務情報」が、合算値は監査証明を受けていないこと、合算できない指標をあえて合算しない理由を明記している点が参考になります。数字を出すときに、その数字の性質と限界を併記するという姿勢は、上場準備会社が成長可能性に関する説明資料や事業計画を開示するときにもそのまま使えます。両社は最近事業年度の開始日以降、臨時報告書や訂正報告書を提出しており(両社とも2025年10月14日に、2025年7月28日付臨時報告書に係る訂正報告書を提出)、上場会社としての適時・継続開示を積み重ねてきたことも分かります。適時開示の体制づくりはIPOの適時開示体制をご覧ください。

会計監査人は、株式移転計画で設立時会計監査人として有限責任あずさ監査法人と定められています。新設会社のため、継続監査期間や監査報酬の記載はありません。株主名簿管理人は三井住友信託銀行、公告方法は電子公告(やむを得ない場合は日本経済新聞)です。萩原電気は有価証券の取引等の規制に関する内閣府令に規定する特定上場会社等に該当し、インサイダー取引規制の重要事項の軽微基準を連結ベースで判断する、という記載もあります。

事業等のリスクと審査で問われやすい点

Ⅰの部の「事業等のリスク」は3部構成です。(1)は共同持株会社グループの経営統合に係るリスクで、株式移転計画の内容が変更になるリスク、経済情勢の急激な悪化や金融市場の混乱等で予定どおりに経営統合が進まないリスク、経営統合により期待されるシナジー効果が十分に発揮されないリスクが挙げられています。(2)と(3)は、共同持株会社の設立後に共同持株会社のリスクとなり得る両社の事業等のリスクです。

事業等のリスクの全体像(共同持株会社としての記載)経営統合に関するリスク:計画内容の変更/経済情勢等で予定どおり進まない/シナジー効果が十分に発揮されない佐鳥電機の主なリスク萩原電気の主なリスク最終製品の販売動向/特定の仕入先への依存自社製品の品質/製品の設計開発在庫/技術革新/キャッシュ・フロー為替・金利/貸倒れ/投資有価証券固定資産の減損/M&A(のれん)人材/法規制・情報セキュリティ等自動車関連企業向け売上 約85%特定得意先(デンソー)約43%特定仕入先(ルネサス)約49%商品品質/新規事業/在庫評価損減損/為替/海外活動/自然災害コンプライアンス/情報セキュリティ/人材

図18 Ⅰの部「事業等のリスク」(1)〜(3)をもとに作成。比率は萩原電気グループの2025年3月期

佐鳥電機のリスクには、最終製品の販売動向、特定の仕入先への依存、自社製品の品質、製品の設計開発(設計・開発段階でプロジェクトが中止となった場合、製品売上は一切受領できない)、在庫、技術革新、キャッシュ・フロー、為替・金利、貸倒れ、投資有価証券、固定資産の減損、M&A、人材などが並びます。萩原電気のリスクは、自動車産業への依存(売上高の約85%)、特定得意先への依存(デンソー向け約43%)、特定仕入先への依存(ルネサスからの仕入高約49%)を数値で示している点が特徴です。それぞれに、新たな仕入先の開拓や自動車産業以外の顧客開拓など、リスク低減の取組もあわせて書かれています。

上場準備会社にとっては、取引先への依存度を数字で示し、そのうえで対応策を書くという開示の型が参考になります。審査では、特定の取引先との関係が継続する根拠や、依存が経営成績に与える影響が確認されます。依存度そのものを隠すのではなく、比率と対応策をセットで説明できるように準備しておくことが重要です。主幹事証券の審査で聞かれやすい点は主幹事証券の引受審査では何を聞かれるかにまとめています。

上場準備会社がこのケースから学べること

最後に、このⅠの部から、上場準備会社や将来の持株会社化を検討している会社が引き出せる実務上の示唆を整理します。

論点 このケースの記載 実務上の示唆
日程の逆算 基本合意から上場まで約8か月。総会基準日、事前備置、総会、上場申請、上場廃止、上場を順に配置 会社法と取引所の手続を一本の工程表にし、遅れの影響を事前に把握する
比率・価格の根拠 両社が別々の算定機関と法律事務所を起用し、3手法のレンジを開示 第三者の算定と社内の決定過程を、算定書と議事録で説明できるようにする
前提の固定 計画で配当の上限や重要な行為の事前協議を規定 価格決定後に前提を崩す行為を契約で縛っておく
機関設計 監査等委員会設置会社、13名中社外6名、女性3名 上場後に適用されるコードを前提に、設立時から体制を整える
報酬・株式報酬 定款附則で報酬枠を設定し、既存のRS契約を承継 組織再編時に株式報酬の承継方法を設計しておく
内部監査 2社で直轄先・人数が異なり、持株会社の体制は未定 直轄先と報告ルート、グループ監査の範囲を早めに決める
開示の姿勢 合算値は監査証明なしと明記し、合算できない指標は合算しない 数字の性質と限界を併記する
  • 持株会社化・組織再編を行う場合の工程表(取締役会、基準日、事前備置、株主総会、上場手続)を作っているか
  • 株式の価格や交換比率を決める際に、算定手法・前提条件・決定機関を記録しているか
  • 価格決定後の配当や重要な資産処分など、前提を変える行為のルールを決めているか
  • 持株会社と事業会社のどちらに管理機能・委員会・内部監査を置くかを整理しているか
  • 内部監査部門の直轄先と、監査役(監査等委員会)・取締役会への報告ルートを定めているか
  • 取引先への依存度を数字で把握し、リスクと対応策をセットで説明できるか

よくある質問

Q1. テクニカル上場にもⅠの部は必要ですか?

本件では、上場申請会社であるMIRAINIホールディングスについて、統合する佐鳥電機と萩原電気が提出会社となってⅠの部を提出しています。ただし内容は通常のIPOと異なり、組織再編成の目的、株式移転計画、割当ての算定根拠、会社法上の手続などが中心で、新会社の財務情報は新設のため記載されていません。

Q2. 旧会社の株主はどうやって新会社の株式を受け取るのですか?

Ⅰの部によると、基準時における両社の最終の株主名簿に記載・記録された株主に対し、株式移転比率(佐鳥電機1株につき1.02株、萩原電気1株につき2株)で割り当てられ、旧株式が記録されている振替口座に共同持株会社の株式が記録されます。1株未満の端数は会社法第234条等に従って処理されます。

Q3. 旧会社の上場廃止と新会社の上場はどのような関係ですか?

本件では、旧2社は2026年3月27日が最終売買日、3月30日に上場廃止となり、株式移転の効力発生日である4月1日に共同持株会社が設立され、同日に上場する予定とされていました。上場廃止の期日は、東京証券取引所及び名古屋証券取引所の各規則により決定されると記載されています。

Q4. 未上場会社が持株会社化を検討するときも参考になりますか?

はい。株式移転計画の条項、比率の算定と公正性の確保、役員報酬枠の設定、株式報酬の承継、内部監査体制の統合など、論点の多くは未上場会社のグループ再編にも共通します。上場準備中に再編を行う場合は、審査で説明できるよう、目的と手続の記録を残しておくことが大切です。

最初の一歩は「誰が何を決めるか」の整理から

持株会社化や経営統合は、株式の手続よりも先に「持株会社の取締役会は何を決め、事業会社には何を任せるのか」を決めることから始まります。まずは現在の決裁権限規程と会議体を一覧にし、グループ全体の意思決定・監督・監査のルートを1枚の図に描いてみてください。本件のⅠの部に掲載された機関設計や監査体制の記載は、その図を作る際の良い見本になります。上場準備全体のガバナンスの進め方は上場準備のガバナンスで解説しています。

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まとめ

MIRAINIホールディングスは、佐鳥電機と萩原電気ホールディングスが共同株式移転で設立し、2026年4月1日に東証プライム市場と名証プレミア市場にテクニカル上場した共同持株会社です。Ⅰの部には、株式移転計画と定款の全文、移転比率1.02対2の算定レンジと公正性担保措置、旧2社の上場廃止から新会社の上場までの日程、監査等委員会設置会社としての13名の取締役会、設立時の報酬枠と株式報酬の承継、両社で異なる内部監査体制が具体的に書かれています。

通常のIPOとは形が違っても、「価格や比率の根拠を残す」「手続を逆算して工程表を作る」「ガバナンスと監査のルートを設計する」「数字の性質と限界を開示する」という点は、上場準備会社にもそのまま当てはまります。自社の再編や資本政策を検討する際の参考にしてください。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

本記事の根拠

免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。

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