「預金と自宅は相続税の対象になるとして、生命保険金はどうなるのだろう」「お墓や仏壇にも税金がかかるのだろうか」——相続税を初めて調べる方が、最初につまずくのがこの点です。
相続税は、亡くなった人が持っていた財産だけにかかるわけではありません。逆に、遺産のなかには最初から相続税がかからないものもあります。この記事では、相続税がかかる財産とかからない財産を、国税庁の資料と相続税法の条文にあたりながら、税金の知識がゼロの方にもわかるように整理します。
- 相続税の対象になる財産は「本来の相続財産」「みなし相続財産」「生前贈与の加算」の3つ
- お墓・仏壇や、生命保険金・死亡退職金の一定額には相続税がかからないこと
- 借入金や葬式費用は遺産総額から差し引けること(差し引けないものもあること)
- 手元の財産に相続税がかかるかを確かめるための考え方の順序
この記事の見出し
🧾 相続税の課税価格はこう組み立てる
相続税の計算は、まず「課税価格」という金額を出すところから始まります。課税価格は、相続税がかかる財産を足し合わせ、そこから非課税財産や債務・葬式費用を差し引いて求めます。全体像を先に押さえておくと、個々の財産の扱いが理解しやすくなります。
①〜③を足し、④⑤を差し引いた金額が課税価格になります。
この課税価格の合計額から基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を引いて、残りがゼロ以下なら相続税はかかりません。基礎控除の考え方は第1回の相続手続きの流れとあわせて確認してみてください。
💰 相続税がかかる財産(3つの区分)
① 本来の相続財産
相続税は、原則として、亡くなった人(被相続人)の財産を相続や遺贈(死因贈与を含みます)によって取得した場合に、その財産にかかります(相法2条)。ここでいう財産とは、現金、預貯金、有価証券、宝石、土地、家屋などのほか、貸付金、特許権、著作権など「金銭に見積もることができる経済的価値のあるすべてのもの」をいいます(国税庁タックスアンサーNo.4105)。
※ 遺贈とは、遺言によって財産を渡すことをいいます。死因贈与とは、「自分が死んだらこれをあげる」という生前の約束にもとづく贈与のことです。
② みなし相続財産
亡くなった人の名義ではないのに、相続税の対象になる財産があります。代表例が死亡保険金と死亡退職金です。相続税法3条は、被相続人が保険料を負担していた生命保険契約の死亡保険金や、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定した退職手当金・功労金などを、相続または遺贈により取得したものと「みなす」と定めています。
死亡保険金は受取人が保険会社に請求して受け取るお金で、遺産分割の対象になりません。それでも相続税の計算には取り込まれる点が「みなし」と呼ばれる理由です。
③ 生前贈与の加算
相続や遺贈で財産を取得した人が、被相続人から「加算対象期間」内に暦年課税の贈与で財産をもらっていた場合、その贈与時の価額を相続税の課税価格に加算します(No.4161)。年110万円の基礎控除以下だった贈与や、亡くなった年に受けた贈与も加算の対象です。
この加算対象期間は、令和5年度の税制改正で3年から7年へ延長される途中にあり、被相続人の相続開始日によって次のように変わります。
出典:国税庁タックスアンサーNo.4161(令和7年4月1日現在法令等)にもとづき作成。
2026年(令和8年)中に相続が開始した場合の加算対象期間は「相続開始前3年以内」です。加算された贈与財産に対応する贈与税額は、その人の相続税から差し引かれます(No.4161)。なお、相続時精算課税を選んで受けた贈与財産も課税価格に加算されます(No.4105)。
かかる財産の主な例
| 区分 | 主な例 |
|---|---|
| 本来の相続財産 | 現金、預貯金、上場株式・投資信託、土地、建物、貸付金、特許権・著作権、宝石、自動車、ゴルフ会員権など |
| みなし相続財産 | 被相続人が保険料を負担していた死亡保険金、死亡後3年以内に支給が確定した死亡退職金・功労金 |
| 生前贈与の加算 | 加算対象期間内に被相続人から受けた暦年課税の贈与財産、相続時精算課税で受けた贈与財産 |
| その他 | 教育資金・結婚子育て資金の一括贈与の非課税を受けていた場合の管理残額、確定した特別寄与料など |
※ 根拠:相法2条・3条・4条・19条・21の9、21の14〜21の16、措法70の2の2ほか(No.4105)。
🕯️ 相続税がかからない財産(非課税財産)
相続税法12条は、一定の財産を「相続税の課税価格に算入しない」と定めています。国税庁がまとめている主な非課税財産は次のとおりです(No.4108)。
| 非課税となる財産 | 内容と注意点 |
|---|---|
| 墓地・墓石・仏壇・仏具など | 日常礼拝をしているものが対象。骨とう的価値があるなど投資の対象となるものや、商品として所有しているものには相続税がかかります |
| 死亡保険金のうち一定額 | 500万円×法定相続人の数までは非課税。相続人以外の人が受け取った保険金には非課税の適用がありません |
| 死亡退職金のうち一定額 | 500万円×法定相続人の数までは非課税。こちらも相続人以外が受け取った分は対象外です |
| 公益事業用の財産 | 宗教、慈善、学術その他公益を目的とする事業を行う一定の個人などが取得し、その事業に使われることが確実なもの |
| 心身障害者共済制度の給付金 | 地方公共団体の条例にもとづいて支給される給付金を受ける権利 |
| 申告期限までの寄附 | 相続財産を、申告期限までに国・地方公共団体・認定NPO法人などへ寄附したものなど |
※ 根拠:相法12、相基通12-2、措法70、相令附則4(No.4108)。
保険金・退職金の非課税枠は「法定相続人の数」で決まる
死亡保険金と死亡退職金の非課税限度額は、いずれも「500万円×法定相続人の数」です(相法12条6号・7号、No.4114・No.4117)。この法定相続人の数は、相続の放棄をした人がいても、その放棄がなかったものとした場合の相続人の数で数えます。また、法定相続人のなかに養子がいる場合、数に含める養子は実子がいるときは1人、実子がいないときは2人までです。
相続放棄をした人でも、受取人に指定されていれば死亡保険金は受け取れます。ただし、その人は「相続人」ではないため、非課税枠の適用はありません(No.4114)。相続放棄そのものの手続きは第8回の相続放棄の記事で解説しています。
香典・弔慰金の扱い
個人から受け取る香典や花輪代は、社会通念上相当と認められる金品であれば贈与税がかかりません(No.4405)。勤務先などから受け取る弔慰金・葬祭料も、通常は相続税の対象になりません。ただし、実質的に退職手当金等に該当すると認められる部分は相続税の対象となり、それ以外の部分も、業務上の死亡なら死亡当時の普通給与の3年分、業務上の死亡でないなら半年分を超える部分は退職手当金等として相続税の対象になります(相法3、No.4120)。
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📉 遺産総額から差し引ける債務・葬式費用
相続税法13条は、相続または遺贈により財産を取得した人について、被相続人の債務と葬式費用のうちその人が負担する部分を、課税価格から控除できると定めています。
差し引ける債務
差し引けるのは、被相続人が亡くなったときに現に存在した債務(借入金や未払金など)で、確実と認められるものです。死亡後に相続人が納付することになった所得税などは、死亡時に確定していないものでも差し引けます。ただし、相続人などの責任にもとづいて納付・徴収されることになった延滞税や加算税は差し引けません(No.4126)。
被相続人が生前に購入したお墓の未払代金など、非課税財産に関する債務は遺産総額から差し引けません(No.4126)。お墓は相続税がかからない財産なので、その未払金も引けない、という対応関係になっています。
差し引ける葬式費用・差し引けない費用
| 区分 | 具体例 |
|---|---|
| 差し引ける | 火葬・埋葬・納骨にかかった費用(仮葬式と本葬式を行ったときは両方)、遺体や遺骨の回送費用、お通夜など葬式の前後に生じた通常葬式に欠かせない費用、お寺などへの読経料などのお礼、死体の捜索や遺体・遺骨の運搬にかかった費用 |
| 差し引けない | 香典返しのためにかかった費用、墓石や墓地の買入れ費用・墓地を借りる費用、初七日など法事のための費用 |
※ 根拠:相法13、21の15、21の16、相基通13-4、13-5(No.4129)。
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🔎 この財産に相続税はかかる?判定の順序
手元にある財産が相続税の対象になるかどうかは、次の順番で考えると整理しやすくなります。
Q1〜Q3のいずれにも当たらない場合でも、非課税財産の一覧に該当しないかを確認してください。
❓ よくある質問
名義が子どもでも、実際にお金を出したのが父で、父が通帳や印鑑を管理していた場合には、実質的に父の財産(いわゆる名義預金)として相続税の対象と判断されることがあります。名義だけで決まるものではありません。この論点は連載の「名義預金・直前引き出し・タンス預金」の回で取り上げます。
墓地や墓石は相続税がかからない財産です(相法12条2号)。そのため、生前に現金で購入しておけば、その分だけ課税される財産は減ります。ただし、代金が未払いのまま亡くなった場合、その未払金は債務として差し引けません(No.4126)。生前に支払いまで済ませておくかどうかで結果が変わります。
相続や遺贈で財産を取得した人が、被相続人から加算対象期間内に受けた暦年課税の贈与は、年110万円以下でも相続税の課税価格に加算されます(No.4161)。相続があった年に被相続人から贈与により取得した財産は、贈与税ではなく相続税の対象となる扱いです(No.4405)。
📌 まとめ
- 相続税がかかるのは、本来の相続財産・みなし相続財産・生前贈与の加算の3つ
- 死亡保険金と死亡退職金は、それぞれ500万円×法定相続人の数まで非課税
- 墓地・仏壇など日常礼拝しているものには相続税がかからない
- 借入金や葬式費用は差し引けるが、香典返し・墓地の購入費・法事の費用は差し引けない
- 加算対象期間は3年から7年へ移行中で、相続開始日によって範囲が変わる
財産の範囲を正しくつかむことは、相続税がかかるかどうかの判断そのものです。全体の流れを確認したい方は相続税 完全ガイド(全30回の目次)もあわせてご覧ください。次回は「生命保険金は500万円×法定相続人まで非課税」として、保険金の扱いをさらにくわしく解説します。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。相続税申告、法人税務、IPO支援に従事。
優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の判断は税理士等の専門家にご相談ください。
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📚 参考
- 国税庁タックスアンサー No.4105 相続税がかかる財産
- 国税庁タックスアンサー No.4108 相続税がかからない財産
- 国税庁タックスアンサー No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金
- 国税庁タックスアンサー No.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金
- 国税庁タックスアンサー No.4120 弔慰金を受け取ったときの取扱い
- 国税庁タックスアンサー No.4126 相続財産から控除できる債務
- 国税庁タックスアンサー No.4129 相続財産から控除できる葬式費用
- 国税庁タックスアンサー No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)
- 国税庁タックスアンサー No.4405 贈与税がかからない場合
- e-Gov法令検索 相続税法(第2条・第3条・第12条・第13条)
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