※本記事は2026年10月12日時点の公表資料に基づきます。
派遣許可の監査証明とは
労働者派遣事業の許可申請でいう監査証明とは、決算日のあとに増資などで資産が増えたことを申し立てるときに、中間決算または月次決算について公認会計士または監査法人から受ける監査の意見です。直近の決算書(新設法人は会社成立時の貸借対照表)で財産的基礎の要件を満たしていれば、監査証明は要りません。
- 新規許可で決算後の増加を申し立てる場合は監査証明が必要(合意された手続は使えない)
- 更新の場合は、監査証明のほか合意された手続実施結果報告書でもよい
- 顧問税理士として継続的に報酬を受けている公認会計士は、その会社の監査証明をできない
2026年10月12日更新
労働者派遣事業の許可を取ろうとして労働局に相談したところ、「決算書では資産の要件を満たさないので、監査証明を受けた月次決算を出してください」と言われた。派遣の許可で監査証明という言葉に出会うのは、たいていこの場面です。とはいえ、監査証明が何を意味するのか、誰に頼めるのか、そもそも自社に必要なのかは、案内を受けただけではよく分かりません。
結論からいえば、監査証明が必要になるのは、決算後の資産の増加を中間決算または月次決算で申し立てる場合だけです。この記事では、監査証明が要る会社と要らない会社の分かれ目、監査証明で何が確かめられどんな意見が出るのか、依頼できる公認会計士の条件を、厚生労働省の要領と公認会計士法で確認しながら整理します。
※本記事の計算例・事例は、説明のために作成した架空のものです。
この記事の見出し
監査証明とは:公認会計士が決算書について意見を述べること
公認会計士法2条1項は、公認会計士の業務を、他人の求めに応じて報酬を得て、財務書類の監査または証明をすることと定めています。監査証明とは、この業務として、会社が作った決算書が適正に表示されているかどうかを、独立した立場の公認会計士または監査法人が確かめ、意見を述べるものです。
派遣の許可審査では、財産的基礎の要件(基準資産額が2,000万円に事業所数を掛けた額以上、基準資産額が負債の総額の7分の1以上、自己名義の現金預金が1,500万円に事業所数を掛けた額以上)を満たしているかを、決算書の数字で確認します。要件そのものと計算方法は労働者派遣と有料職業紹介の許可|財産的基礎の要件と監査証明で整理しています。
図1 会社が作った決算書について、独立した公認会計士が意見を述べ、労働局がその決算書で要件を確認します
労働者派遣事業関係業務取扱要領は、基準資産額や現金預金が増加する旨の申立てがあったときは、公認会計士または監査法人による監査証明を受けた中間決算または月次決算による場合に限り、基準資産額、負債の総額、自己名義の現金預金のいずれについてもその決算により確認するとしています。監査証明は、会社が自分で作った期中の決算書を審査に使えるようにするための裏づけ、と考えると分かりやすいでしょう。
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監査証明が要る会社・要らない会社
許可申請には、最近の事業年度の貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書で、税務署に提出したものを添付します。年度の決算書そのものに監査は求められていません(専門業務実務指針4450)。直近の決算書で3つの要件を満たしていれば、監査証明は不要です。
設立後、最初の決算期を終えていない法人は、会社成立時の貸借対照表などで足りるとされています。たとえば事業所が1つで、資本金2,000万円以上で設立し、その資金を預金のまま持っている会社であれば、成立時の貸借対照表で要件を満たせるため、通常は監査証明を受けずに申請できます。
図2 直近の決算書(新設法人は成立時の貸借対照表)で要件を満たせば、監査証明は要りません
監査証明が必要になるのは、直近の決算書では要件を満たさないものの、決算日のあとに増資や利益の積み上がりで資産が増え、その増加を申し立てる場合です。このとき、新規許可では監査証明に限られます。許可の有効期間の更新では、日本公認会計士協会の専門業務実務指針4450にもとづく合意された手続実施結果報告書も認められています。どちらを使えるかの違いと理由は監査証明と合意された手続(AUP)の違い|派遣・職業紹介の許可申請はどちらが必要かで詳しく説明しています。
図3 年度の決算書そのものに監査は求められていません(専門業務実務指針4450)
有料職業紹介事業も同じ構造です。職業紹介事業の業務運営要領は、増加の申立てがあったときは公認会計士または監査法人による監査証明(許可の有効期間更新申請に限っては、合意された手続実施結果報告書も可)を受けた中間決算または月次決算に限り確認するとしています。個人事業主の場合は、所得税の確定申告書や預金残高証明書などで資産を確認し、増加の申立ても、固定資産税評価額証明書などの評価額の証明や同じ日付の預金残高証明書で確認できる扱いがあるなど、法人とは異なります(労働者派遣事業関係業務取扱要領)。具体的な書類は管轄の労働局に確認してください。
図4 監査証明だけが、決算書が適正かどうかについての意見を含みます
監査証明で確かめられることと、監査意見の種類
監査証明を受けるといっても、会計士が決算書を眺めて判を押すわけではありません。会計士は、決算書の数字が帳簿や外部の証拠に裏づけられているかを、残高証明書との照合、証憑の確認、質問などの手続で確かめ、そのうえで意見を形成します。
派遣の許可審査で問題になるのは主に貸借対照表の数字です。現金預金は全口座の残高証明書と、借入金は金融機関の残高証明書や返済予定表と照合されます。増資があれば、登記事項証明書と払込みの記録で事実を確かめます。基準資産額から差し引く繰延資産やのれんの範囲も確認の対象です。控除の範囲は基準資産額の計算方法|繰延資産とのれんを除くをご覧ください。
図5 残高証明書の取得や証憑の確認に日数がかかるため、余裕をもって依頼します
監査の結果は、監査報告書の意見として示されます。企業会計審議会の監査基準は、意見を次の4つに分けています。限定付適正意見や意見不表明の報告書がどう扱われるかは要領に定めがありませんので、許可審査に使う以上、無限定適正意見を得られる状態まで決算書を整えてから依頼するのが実務です。
図6 監査報告書には、決算書が適正に表示されているかについての意見が書かれます
合意された手続は、これとは性格が違います。合意した手続を実施して結果を事実として報告するだけで、決算書が適正かどうかの意見も結論も述べません。新規許可で合意された手続が使えないのは、この違いによるものです。
監査の途中で記帳の漏れや誤りが見つかった場合は、会社が決算書を修正したうえで監査を進めるのが通常です。修正の結果、要件を満たさなくなることもありますので、依頼の前に自社で試算をしておくことが大切です。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
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誰に頼めるか:顧問の会計士には頼めないことがある
監査証明は、独立した立場の公認会計士だけが行えます。公認会計士法24条1項は、本人や配偶者が役員等である会社、本人が使用人である会社、そのほか著しい利害関係がある会社の財務書類について、監査証明の業務を行ってはならないと定めています。著しい利害関係の内容は、公認会計士法施行令7条1項に列挙されています。
図7 顧問税理士として継続的に報酬を受けている公認会計士は、その会社の監査証明をすることができません
実務で特に注意したいのが、施行令7条1項6号です。公認会計士またはその配偶者が、その会社から税理士業務その他の業務により継続的な報酬を受けている場合は、著しい利害関係に当たります。つまり、顧問税理士として毎月報酬を受けている公認会計士は、その会社の監査証明をすることができません。
会社の側から見ると、「いつもの先生に頼めばよい」とはならないということです。顧問の先生が公認会計士の資格を持っていても、監査証明は別の公認会計士または監査法人に依頼する必要があります。合意された手続でも、専門業務実務指針4450は、監査証明の代替であることから独立性を保持することを求めています。
図8 顧問の公認会計士・税理士とは別に、独立した公認会計士に監査証明を依頼します
| 依頼先の例 | 監査証明 | 根拠 |
|---|---|---|
| 顧問税理士として毎月報酬を受けている公認会計士 | できない | 施行令7条1項6号 |
| 会社に出資している、または会社にお金を貸している公認会計士(100万円未満の債権などの例外あり) | できない | 施行令7条1項4号 |
| 配偶者が会社の役員である公認会計士 | できない | 公認会計士法24条1項1号 |
| 過去1年以内に会社の従業員だった公認会計士 | できない | 公認会計士法24条1項2号 |
| 利害関係のない公認会計士・監査法人 | できる | ― |
依頼先を探すときは、最初の打合せで、役員や株主との関係、ほかの業務の受託の有無などを確認されます。これは独立性を確かめるための手続ですので、隠さずに伝えてください。
計算例:決算後の増資を監査証明で申し立てる
架空のB社で流れを追います。B社は3月決算で、派遣の事業所を1つ設けて新規許可を申請する予定です。3月末の決算書では、資産の総額が1億1,000万円(うち繰延資産200万円)、負債の総額が9,200万円、自己名義の現金預金が1,200万円でした。
基準資産額は、1億1,000万円から繰延資産200万円と負債9,200万円を差し引いて1,600万円です。2,000万円に400万円足りません。負債の総額の7分の1は約1,314.3万円ですので、この要件は満たします。現金預金は1,500万円に300万円足りません。
図9 決算時は必要額2,000万円に届かず、7月の増資後は要件を満たします(架空の数値)
そこでB社は7月10日に600万円の増資を行い、7月31日を基準日とする月次決算を作りました。説明のため、ほかの増減はないものとします。基準資産額は2,200万円、現金預金は1,800万円となり、3つの要件をすべて満たします。
図10 月次決算では3つの数字がまとめて置き換わります(架空の数値)
| 項目 | 3月末(決算) | 7月末(月次) |
|---|---|---|
| 資産の総額 | 11,000万円 | 11,600万円 |
| うち繰延資産 | 200万円 | 200万円 |
| 負債の総額 | 9,200万円 | 9,200万円 |
| 基準資産額 | 1,600万円 | 2,200万円 |
| 自己名義の現金預金 | 1,200万円 | 1,800万円 |
| 使える書類 | 決算書(要件を満たさない) | 監査証明を受けた月次決算 |
B社は新規許可ですので、合意された手続ではなく、7月末の月次決算について監査証明を受ける必要があります。月次決算では3つの数字がまとめて置き換わるため、基準資産額だけを新しい日付で見て、負債は決算時のままにする、という使い方はできません。月次決算の整え方は派遣の中間決算と月次決算|監査証明を受ける準備、資産が足りないときのほかの打ち手は派遣の資産要件を満たさないとき|3つの打ち手で説明しています。
依頼から申請までの流れと準備
監査証明は、決算書ができてから会計士に渡せば数日で終わる、というものではありません。基準日の決定、決算書の整備、残高証明書の取得、監査手続の実施、報告書の発行と進み、月次決算が組めている会社でも数週間はかかります。B社の例では、次のような日程になります。
図11 残高証明書は金融機関によって取得に2週間ほどかかることがあります(日付は架空の例)
残高証明書は、金融機関によっては取得に2週間ほどかかります。複数の口座がある場合は、同じ基準日の証明書をそろえてください。準備する資料は次のとおりです。
図12 基準日の数字を裏づける資料を、同じ日付でそろえます
報告書を受け取ったら、労働局に出す事業計画書の資産の状況などの数字が、監査を受けた決算書の数字と一致しているかを確かめてから申請します。更新の申請で合意された手続を使える条件は派遣許可の更新で合意された手続を使える条件|実務指針4450の3つの限定、費用の決まり方は派遣の監査証明の費用|金額の決まり方と依頼の流れをご覧ください。
図13 監査報告書の数字と、労働局に出す書類の数字を一致させます
- 申請するのが新規許可か、更新か、有料職業紹介かを確かめた
- 直近の決算書(新設法人は成立時の貸借対照表)で3つの要件を試算した
- 決算後の増資などを申し立てる必要があるかを判断した
- 依頼先の公認会計士が、顧問税理士など継続的な報酬を受けている立場でないことを確かめた
- 基準日を決め、全口座の残高証明書を同じ日付で依頼した
- 監査報告書の数字と、労働局に出す書類の数字が一致することを確かめた
よくある質問
要りません。直近の事業年度の決算書(設立後最初の決算期を終えていない法人は会社成立時の貸借対照表など)で財産的基礎の要件を満たしていれば、監査証明は不要です。監査証明が必要になるのは、決算後の資産の増加を中間決算または月次決算で申し立てる場合です。
頼めません。公認会計士法施行令7条1項6号は、税理士業務その他の業務により継続的な報酬を受けている場合を著しい利害関係としており、公認会計士法24条によりその会社の監査証明はできません。別の公認会計士または監査法人に依頼してください。
許可申請に添付する年度の決算書は、税務署に提出したもので足ります。専門業務実務指針4450も、年度決算書には監査が求められていないことを前提にしています。
更新では、合意された手続実施結果報告書でも認められています。ただし、実務指針4450の限定(当面の間、更新に限り、事後の申立てに限り)を外れると使えません。どちらが適しているかは、決算書の状態と日程で判断します。
最初の一歩は、直近の決算書で3つの要件を計算してみることです
貸借対照表から、資産の総額、繰延資産とのれん、負債の総額、現金預金を書き出し、事業所の数を掛けた必要額と比べてください。満たしていれば監査証明は要りません。足りない場合は、増資の時期と基準日を決め、独立した公認会計士に早めに相談するのが確実です。
まとめ
派遣許可でいう監査証明は、決算後の資産の増加を申し立てるときに、中間決算または月次決算について公認会計士または監査法人から受ける監査の意見です。直近の決算書や成立時の貸借対照表で要件を満たしていれば不要で、年度決算書に監査は求められていません。
増加を申し立てる場合、新規許可では監査証明に限られ、更新では合意された手続も使えます。依頼先は独立した公認会計士でなければならず、顧問税理士として継続的に報酬を受けている会計士には頼めません。残高証明書の取得や決算書の整備に時間がかかりますので、申請予定日から逆算して早めに準備してください。
決算書と現在の残高を拝見し、監査証明が必要か、合意された手続で足りるか、基準日をいつにするかをご提案します。顧問関係のない独立した公認会計士として、監査証明と合意された手続の両方に対応しています。業務の内容は労働者派遣・有料職業紹介の監査証明のページと、合意された手続(AUP)のご依頼のページをご覧ください。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
本記事の根拠
- 厚生労働省 労働者派遣事業関係業務取扱要領(許可の申請・許可基準) 決算書の添付、新設法人の扱い、財産的基礎に関する判断
- 厚生労働省 職業紹介事業の業務運営要領 第3 許可基準
- 日本公認会計士協会 専門業務実務指針4450
- 公認会計士法(e-Gov法令検索) 2条1項、24条
- 公認会計士法施行令(e-Gov法令検索) 7条1項
- 金融庁 企業会計審議会「監査基準の改訂に関する意見書」(2020年11月) 第四 報告基準
免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。