※本記事は2026年10月12日時点の公表資料に基づきます。
自由診療の消費税は課税か
自由診療(自費診療)の収入は、原則として消費税の課税対象です。消費税が非課税になるのは、健康保険法などの法律にもとづく療養・医療、助産、介護保険サービスなどに限られ、美容医療や物品の販売は課税になります。健康診断・任意の予防接種・診断書料も、これらに当たらないため一般に課税として扱われます。
- 非課税の範囲は消費税法別表第二で決まり、消費税法基本通達6-6-1・6-8-1が具体的な範囲を示している
- 免税点(1,000万円)や簡易課税の判定は、社会保険診療を除いた課税売上高で行う
- 自由診療があると課税売上割合が低くなり、本則課税では仕入れの消費税の多くが控除できない
2026年10月12日更新
保険証を使った診療が中心のクリニックでも、美容医療や健康診断、予防接種、診断書の作成など、保険の対象にならない収入は少しずつ増えていきます。こうした自由診療の収入に消費税がかかるのか、かかるとしていつから納める必要があるのかは、開業医や医療法人の経理担当者からよく受ける質問です。
結論からいえば、自由診療の収入は原則として課税で、非課税になるのは法律にもとづく療養・医療や助産などに限られます。この記事では、課税と非課税の線引きを消費税法と国税庁の通達で確認し、免税点、インボイス、課税売上割合、簡易課税との関係を、架空のクリニックの数値例で整理します。
※本記事の計算例・事例は、説明のために作成した架空のものです。
この記事の見出し
自由診療の消費税は「課税」が原則
消費税法6条1項は、国内で行われる資産の譲渡等のうち、別表第二に掲げるものには消費税を課さないと定めています。医療に関する非課税は、この別表第二の第六号に置かれています。
ここで大切なのは、非課税になるのは「医療だから」ではなく、「別表第二に掲げられているから」だという点です。別表第二第六号に掲げられているのは、健康保険法や国民健康保険法などの法律の規定にもとづく療養や医療です。言い換えると、どの法律にもとづいて費用が支払われるかで線が引かれています。
そのため、保険の対象にならない自由診療は、たとえ病気の治療であっても、原則として課税になります。国税庁のタックスアンサー(No.6201)も、美容整形や差額ベッドの料金、市販されている医薬品の購入は非課税にあたらないとしています。収入1件ごとに、次の順序で確かめると判断がぶれません。
図1 収入1件ごとに、法律に基づく療養かどうかから順に確かめます(消費税法別表第二にもとづき作成)
助産(別表第二第八号)、介護保険法にもとづくサービス(第七号)、一定の身体障害者用物品の譲渡等(第十号)も非課税です。クリニックでは、医療の非課税だけでなく、これらに当たる収入がないかもあわせて確認します。
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非課税になる医療の範囲
どの療養が非課税になるかは、消費税法基本通達6-6-1が具体的に列挙しています。公的医療保険の療養のほか、公害健康被害の補償、労災保険、自動車損害賠償責任保険(自賠責)にもとづく療養、公費負担医療などが含まれます。
図2 非課税は、法律にもとづいて行われる療養・医療に限られます
交通事故のけがの治療は、患者が健康保険を使わない場合でも、自賠責の支払に係る療養であれば非課税です。労災も同じです。窓口での扱いが「自費」に見えても、財源が法律にもとづくものであれば非課税になるため、会計ソフトの区分を「自費=課税」と一律に設定しないよう注意してください。
保険診療の中で患者が窓口で支払う一部負担金も、療養の対価ですので非課税です(通達6-6-3)。一方、差額ベッドのように、保険外併用療養費の対象になる部分を超えて患者から受け取る特別料金は、告示で定められた金額を超える部分が非課税の対象から外れます。
図3 保険外併用療養費の対象部分は非課税、告示の金額を超える特別料金は課税です
自費でも非課税になる「助産」
出産は病気ではないため保険診療の対象外ですが、消費税では助産として非課税です。通達6-8-1は、妊娠しているか否かの検査、妊娠判明後の検診・入院、分娩の介助、出産の日以後2か月以内の母体の回復検診、新生児の検診・入院を助産の範囲に含めています。
さらに通達6-8-3は、助産に係る入院の差額ベッド料や特別給食費も全額非課税としています。産婦人科のクリニックでは、自費の収入の多くが非課税になることがあります。
図4 妊娠の検査から新生児の入院まで、助産に係るものは自費でも非課税です
課税になる自由診療と、判断に迷う収入
別表第二第六号や通達6-6-1に掲げられていない収入は、原則として課税です。クリニックで課税になる代表的な収入を並べると、次のようになります。
図5 保険の対象外の診療や、診療以外のサービス・物品の対価は課税になります
健康診断や人間ドック、任意の予防接種は、国税庁の通達やタックスアンサーで名指しされてはいませんが、別表第二第六号や通達6-6-1に掲げる療養に当たらないため、一般に課税として扱われています。会社や健康保険組合、市区町村から委託を受けて行う健診や予防接種も、支払う側が公的な団体であることだけで非課税になるわけではないと考えられます。委託契約ごとに、法律にもとづく療養に当たるかどうかを確かめ、判断に迷うものは所轄の税務署に確認してください。
生命保険の請求に使う診断書や職場に出す証明書など、患者や会社から自費で受け取る文書の作成料も、療養の対価ではないため一般に課税として扱われます。一方、傷病手当金意見書のように診療報酬の点数表に定めがあり、保険診療の一部として算定する文書料は、療養の給付として非課税です。医薬品やサプリメント、化粧品、コンタクトレンズなどの物品の販売は、通達6-6-2により、法律にもとづく療養として行われるもの以外は課税になります。
医療費控除とは線の引き方が違う
患者から「この自費の治療は医療費控除の対象になりますか」と聞かれることがあります。医療費控除は治療や療養のためかどうかで判断するため、保険がきかない治療でも対象になり得ます。一方、消費税は法律にもとづく療養かどうかで判断します。同じ自費の治療が、消費税では課税、医療費控除では対象、ということは珍しくありません。患者への説明の仕方は医療費控除と自由診療|患者に聞かれたときの答え方で整理しています。
図6 消費税は「法律に基づく療養か」、医療費控除は「治療のためか」で判断します
| 収入の例 | 消費税 | 確認する根拠 |
|---|---|---|
| 保険診療(一部負担金を含む) | 非課税 | 別表第二第六号、通達6-6-1・6-6-3 |
| 労災・自賠責の療養 | 非課税 | 通達6-6-1 |
| 正常分娩・妊婦健診 | 非課税 | 別表第二第八号、通達6-8-1 |
| 美容医療・自費の治療 | 課税 | タックスアンサーNo.6201 |
| 健康診断・人間ドック・任意の予防接種 | 課税(一般的な扱い) | 別表第二第六号・通達6-6-1に掲げられていない |
| 自費で受け取る診断書・証明書の作成料 | 課税(一般的な扱い) | 療養の対価ではない |
| 市販薬・サプリ・化粧品の販売 | 課税 | 通達6-6-2 |
| 差額ベッドの特別料金 | 課税 | 通達6-6-3(告示の金額を超える部分) |
自由診療があると納税義務はどう決まるか
課税になる収入があっても、すぐに消費税を納めるわけではありません。消費税法9条1項により、基準期間(個人は前々年、法人は原則として前々事業年度)の課税売上高が1,000万円以下であれば、納税義務は免除されます。
この1,000万円は課税売上高で判定しますので、社会保険診療の収入は含めません。年間の収入が1億円あるクリニックでも、自由診療や健診などの課税売上が1,000万円以下なら、原則として免税事業者です。逆に、収入全体が小さくても、美容医療の比重が高いクリニックは早くに課税事業者になります。
図7 免税点の判定には自由診療などの課税売上高だけを使い、社会保険診療は含めません
基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも、特定期間(前年の1月から6月まで、法人は原則として前事業年度の開始の日以後6か月)の課税売上高が1,000万円を超えた場合は課税事業者になります。特定期間は課税売上高に代えて給与等の支払額で判定することもできますので、両方が1,000万円を超えたときに課税事業者になると考えてください。
なお、基準期間に免税事業者だった場合、基準期間の課税売上高は税抜きにせず、受け取った金額の全額で計算します(通達1-4-5)。自由診療の料金を税込みで受け取っていた免税事業者は、この点で判定を誤りやすいので注意してください。
インボイスの登録をすると免税にならない
消費税法9条1項は、免除の対象から適格請求書発行事業者を除いています。インボイスの登録をすると、課税売上高が1,000万円以下でも消費税を納めることになります。
患者は個人で、仕入税額控除をしないため、患者のためにインボイスの登録をする必要は通常ありません。登録を検討するのは、企業健診や産業医の契約など、課税事業者である会社を相手にする収入がある場合です。相手先にとっては、インボイスがないと仕入税額控除ができないからです。
図8 患者に対してはインボイスを求められることは通常ありませんが、事業者との契約では確認が必要です
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課税売上割合と仕入税額控除:計算例で比べる
課税事業者になったクリニックが本則課税で計算する場合、売上に含まれる消費税から、仕入れや経費に含まれる消費税を差し引いて納付税額を求めます。ところが、社会保険診療のような非課税売上が多い事業者は、仕入れの消費税を全額は差し引けません。
消費税法30条2項により、課税売上高が5億円を超えるか、課税売上割合が95%に満たない場合は、仕入れの消費税のうち課税売上に対応する部分だけが控除の対象になります。課税売上割合は、売上の合計に占める課税売上の割合です(同条6項)。社会保険診療が中心のクリニックでは、この割合がかなり低くなります。
ここからは架空のAクリニック(医療法人)で考えます。年間の収入(税抜)は、社会保険診療9,000万円、自賠責・労災300万円、自由診療1,300万円、健診・予防接種440万円、文書料60万円です。
図9 収入の大半は非課税の社会保険診療で、課税売上は1,800万円です(架空の数値)
課税売上は1,300万円+440万円+60万円で1,800万円、非課税売上は9,300万円です。基準期間の課税売上高が1,800万円であれば、2期後の課税期間は課税事業者になります。課税売上割合は次のとおりです。
図10 非課税の社会保険診療が分母に入るため、課税売上割合は低くなります(架空の数値)
仕入れに含まれる消費税(国・地方の合計)は480万円で、自由診療だけに使う材料・機器が30万円、保険診療だけに使う薬品・材料が200万円、家賃や光熱費のように共通して使うものが250万円だったとします。
図11 共通して使う仕入れの税額は、課税売上割合を掛けた分だけ控除します(架空の数値)
個別対応方式では、自由診療だけに使う30万円は全額、共通分250万円は課税売上割合を掛けた40.5万円を控除でき、控除額は70.5万円です。一括比例配分方式では、仕入税額480万円の全体に課税売上割合を掛けて77.8万円を控除します。どちらの方式でも、保険診療に対応する消費税は、その大部分が控除できずにクリニックの負担として残ります。
一括比例配分方式を選んだ場合は、2年間継続して適用した後でなければ個別対応方式に変えられません(消費税法30条5項)。設備投資の予定とあわせて選んでください。
簡易課税を選ぶか、本則課税で計算するか
基準期間の課税売上高が5,000万円以下であれば、簡易課税制度を選べます(消費税法37条1項)。売上の消費税にみなし仕入率を掛けた額を控除額とみなす方法で、医療業はサービス業として第五種事業、みなし仕入率は50%です。Aクリニックでは、売上の消費税180万円の50%の90万円が控除額になり、納付税額は90万円です。
図12 売上の消費税180万円から控除額(90万円・77.8万円・70.5万円)を差し引いた額です。この例では簡易課税がもっとも小さくなります(架空の数値)
本則課税の納付税額は、一括比例配分方式で102.2万円、個別対応方式で109.5万円で、この例では簡易課税がもっとも小さくなります。課税売上割合が低いクリニックでは、課税仕入れの多くが控除できないため簡易課税が有利になりやすい一方、自由診療用の高額な機器を買う年や内装工事をする年は、本則課税のほうが有利になることがあります。物品の販売など、診療とは性質の異なる課税売上がある場合は、事業区分が変わることもあります。
簡易課税を選ぶかどうかの検討手順、選択届出書の提出期限(適用を受けたい課税期間の初日の前日まで)と2年間の継続適用、2割特例との関係、医療法人化したときの扱いは、クリニックの消費税と簡易課税|自由診療がある医院の判定で詳しく説明しています。
年に1回の点検と、ほかの税目への影響
自由診療の比率は、院長の方針や地域の需要で年ごとに変わります。消費税の判定は2期前の数字で決まるため、気づいたときには課税事業者になっていた、ということが起こりがちです。決算のたびに、次の順で確認してください。
図13 決算のたびに、課税売上の集計から届出の期限までを確認します
消費税以外にも、自由診療の比率が影響する制度があります。個人開業医や医療法人が社会保険診療報酬の所得計算の特例(いわゆる四段階税制)を使う場合、その対象は社会保険診療に限られ、自由診療は含まれません。特例の使い方は社会保険診療報酬の所得計算の特例|四段階税制の使い方を、医療法人と開業医の税務の全体像は医療法人と開業医の税務|法人化から役員報酬・承継までをご覧ください。
- 自由診療・健診・予防接種・文書料・物販を、課税売上として別の科目で集計している
- 労災・自賠責・助産の収入を、自費だからといって課税に入れていない
- 基準期間と特定期間の課税売上高を、毎年の決算で確かめている
- 免税事業者だった基準期間の課税売上高を、税抜きにせず計算している
- 課税売上割合を計算し、簡易課税と本則課税の納付税額を試算している
- 企業健診や産業医契約の相手先から、インボイスを求められていないか確かめている
よくある質問
課税事業者が不特定多数の患者に向けて料金をあらかじめ表示する場合は、消費税額を含めた総額で表示する必要があります(消費税法63条)。免税事業者はこの義務の対象外ですが、課税事業者になる時期にあわせて料金表を見直してください。
自賠責保険にもとづく損害賠償額の支払に係る療養は、消費税法基本通達6-6-1で非課税とされています。健康保険を使わない場合でも、自賠責の支払に係る療養であれば非課税です。
委託元が公的な団体であることだけで非課税になるわけではないと考えられます。非課税になるのは別表第二第六号や通達6-6-1に掲げる療養などに限られ、予防接種や健診を名指しで非課税とする規定は見当たりません。委託の内容ごとに確認し、判断に迷う場合は所轄の税務署に確認するのが確実です。
課税売上がまったくなく、インボイスの登録もしていなければ、納税義務は生じません。ただし、自費で受け取る診断書の作成料などは一般に課税売上として扱われますので、少額でも毎年集計してください。
最初の一歩は、昨年度の収入を課税と非課税に分け直すことです
会計ソフトの売上科目を見て、自由診療・健診・予防接種・文書料・物販を課税、保険診療・労災・自賠責・助産を非課税に分けて合計してみてください。課税売上が1,000万円に近い、あるいは超えている場合は、2期後に課税事業者になる可能性があります。そこから簡易課税の届出の要否を逆算します。
まとめ
自由診療の収入は原則として課税です。非課税になるのは、消費税法別表第二に掲げる法律にもとづく療養・医療、助産、介護保険サービスなどに限られ、保険の有無ではなく、どの法律にもとづく療養かで判断します。労災・自賠責・助産は、窓口で自費のように見えても非課税です。
納税義務の判定は社会保険診療を除いた課税売上高で行い、基準期間で1,000万円を超えると課税事業者になります。インボイスの登録をすると免税にはなりません。課税事業者になった後は、課税売上割合が低いため仕入れの消費税の多くが控除できず、簡易課税が有利になりやすい一方、設備投資の年には本則課税が有利になることもあります。毎年の決算で数字を確かめ、届出の期限を逃さないようにしてください。
課税と非課税の区分、課税事業者になる時期、簡易課税と本則課税の試算、インボイス登録の要否まで、決算書と収入の内訳を拝見して整理します。医療機関の税務顧問を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。業務の内容は税務顧問のページをご覧ください。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
本記事の根拠
- 消費税法(e-Gov法令検索) 6条1項、9条1項、30条2項・5項・6項、37条1項、63条、別表第二
- 国税庁 消費税法基本通達 第6章第6節 医療関係の非課税範囲 6-6-1〜6-6-3
- 国税庁 消費税法基本通達 第6章第8節 助産に係る資産の譲渡等の範囲 6-8-1〜6-8-3
- 国税庁 消費税法基本通達 第1章第4節 納税義務の免除 1-4-5
- 国税庁 タックスアンサーNo.6201 非課税となる取引
- 国税庁 タックスアンサーNo.6505 簡易課税制度
免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。