MS法人と医療法人の取引|業務委託料と役員兼務の注意点

MS法人はメディカルサービス法人の略称として実務で使われている呼び方で、法令上の用語ではありません。実体は一般的な株式会社であることがほとんどです。

医療法人は業務の範囲が医療法で限定され、剰余金の配当も禁止されています。その制約の外側を担わせるためにMS法人が使われますが、取引の合理性、金額の水準、役員の兼務、報告義務という4つの論点がついてまわります。

この記事では、MS法人と医療法人の違いを整理したうえで、取引金額の決め方、役員兼務が問題になる理由、医療法上の報告義務、そして見落とされやすい消費税の影響を説明します。

この記事でわかること

  • MS法人が法令上の用語ではなく、実体は株式会社であること
  • MS法人と医療法人の制度上の違い
  • 取引金額を第三者間と同じ水準にすべき理由と、根拠の残し方
  • 医療法人の役員がMS法人の役員を兼ねることが適当でないとされる理由
  • 関係事業者との取引の報告義務と、作成2月以内・届出3月以内という期限
MS法人との取引で確認すべき点医療法人がMS法人と取引を行う取引を行う経済的な合理性を説明できない取引そのものを見直すはいいいえ取引金額が第三者との取引と乖離している金額の根拠を整えるはいいいえ医療法人の役員がMS法人の役員を兼ねている非営利性の観点から問題はいいいえ関係事業者との取引の報告書を作成していない医療法上の義務を果たすはいいいえ適正な取引として継続できる

図 MS法人との取引の確認点(医療法および厚生労働省の運営管理指導要綱にもとづき作成)

📌 MS法人は法令上の用語ではない

MS法人は、メディカルサービス法人の略称として実務で使われている呼び方です。法令にこの用語はなく、実体は一般的な株式会社であることがほとんどです。医療に関連する業務を行う会社や、医師が設立した会社を総称してこう呼んでいるにすぎません。

医療法人が行える業務は医療法によって限定されており、剰余金の配当も医療法54条により禁止されています。これに対して株式会社であれば、業務の内容に制限はなく、配当も自由に行えます。この違いを利用して、医療法人ではできないことを担わせるという発想から生まれたのがMS法人です。

典型的な使い方としては、クリニックの土地建物をMS法人が保有して医療法人に賃貸する、医療機器をリースする、事務や受付の業務を受託する、といった形があります。

ただし、昭和61年の医療法改正により一人医師医療法人の制度ができてからは、医療法人の設立が容易になり、あえてMS法人を設立する必要性は以前より小さくなっています。設立と維持にはコストがかかりますので、目的を明確にしたうえで判断してください。

MS法人と医療法人の違い項目MS法人(株式会社)医療法人根拠となる法律会社法医療法出資者株主社員議決権持分に応じる1人1個役員取締役。1名でも設立できる理事3人以上および監事1人以上役員の任期10年以内2年を超えることができない代表者の要件なし原則として医師または歯科医師剰余金の配当できる医療法54条により禁止残余財産の帰属出資者持分なしの場合は国または地方公共団体等

表 MS法人と医療法人の違い

📌 取引金額は第三者間と同じ水準に

MS法人との取引でまず問われるのが、その取引を行う経済的な合理性です。実態のない業務委託や、必要のない賃貸借は、そもそも取引として成立しません。

そのうえで、取引金額の設定は第三者との取引と同様に行う必要があります。家賃や地代であれば周辺の相場、業務委託料であれば同様の業務を外部に委託した場合の水準です。

金額の根拠は、支払う時点で残しておいてください。不動産であれば近隣の募集物件の資料や不動産会社の査定、業務委託であれば複数社の見積書です。あとから根拠を作ることはできません。

医療法人がMS法人に支払う金額が過大であれば、その過大な部分は損金として認められません。医療法人にとって不利になるだけでなく、MS法人の側では収益として計上されていますので、二重に課税される結果になります。

📌 役員の兼務は非営利性の観点から問題になる

医療法人の役員が、取引関係にあるMS法人の役員を兼ねることについては、医療法人の非営利性という観点から適当でないとされています。法律で明文の禁止規定が置かれているわけではありませんが、都道府県が医療法人を指導監督する際の運営管理指導要綱において、この考え方が示されています。

理由は明快です。医療法人は剰余金の配当を禁止されているのに、役員が同一の会社との取引を通じて実質的に利益を移転できるのであれば、配当禁止が意味をなさなくなるためです。

実務では、理事長がMS法人の代表取締役を兼ねているケースが少なくありません。都道府県の指導を受けた際に是正を求められることがありますので、役員構成は見直しておくべきです。配偶者や親族を充てる場合も、実質的に同一人が支配していると見られないかという観点は残ります。

なお、医療法46条の5第8項により、監事は当該医療法人の理事または職員を兼ねることができません。MS法人との関係とは別に、この規定にも注意してください。

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📌 関係事業者との取引は報告が必要

MS法人との取引が一定の規模に達すると、医療法上の報告義務が生じます。

医療法51条1項は、医療法人が毎会計年度終了後2月以内に、事業報告書、財産目録、貸借対照表、損益計算書、そして関係事業者との取引の状況に関する報告書その他厚生労働省令で定める書類を作成しなければならないと定めています。ここでいう関係事業者とは、理事長の配偶者がその代表者であることその他の当該医療法人またはその役員と厚生労働省令で定める特殊の関係がある者をいいます。

そして医療法52条1項により、これらの事業報告書等と監事の監査報告書を、毎会計年度終了後3月以内に都道府県知事へ届け出なければなりません。作成の期限が2月以内、届出の期限が3月以内という二段構えになっています。

報告の対象となる取引の金額基準は、医療法施行規則32条の6第2号が定めています。事業収益または事業費用については1,000万円以上かつ本来業務、附帯業務、収益業務のそれぞれの事業収益または事業費用の総額の10%以上、資産または負債の総額が総資産の1%以上かつ1,000万円を超える残高となる取引、資金貸借や有形固定資産および有価証券の売買その他の取引の総額が1,000万円以上かつ総資産の1%以上、といった区分が定められています。

10%という基準は損益に関するもの、1%という基準は資産や取引総額に関するものです。ひとまとめに1,000万円以上かつ10%以上と覚えていると判定を誤りますので、施行規則の区分を確認してください。

関係事業者との取引の報告項目内容作成の期限毎会計年度終了後2月以内(医療法51条1項)届出の期限毎会計年度終了後3月以内に都道府県知事へ(医療法52条1項)関係事業者理事長の配偶者がその代表者であることその他の医療法人またはその役員と厚生労働省令で定める特殊の関係がある者損益に関する基準事業収益または事業費用が1,000万円以上かつそれぞれの総額の10%以上(医療法施行規則32条の6第2号イ)資産負債に関する基準資産または負債の総額が総資産の1%以上かつ1,000万円を超える残高となる取引(同号ニ)取引総額に関する基準資金貸借、有形固定資産および有価証券の売買その他の取引の総額が1,000万円以上かつ総資産の1%以上(同号ホ)

表 関係事業者との取引に関する報告

📌 消費税の影響を忘れない

見落とされやすいのが消費税です。MS法人に支払う業務委託料や家賃には消費税がかかります。医療法人の側ではこれが課税仕入れになりますが、収入の大部分を占める社会保険診療は非課税ですので、その分に対応する課税仕入れは仕入税額控除の対象になりません。

つまり、MS法人に支払う消費税の多くは、医療法人が負担したまま戻ってこないということです。MS法人の側では受け取った消費税を納税しますので、グループ全体で見ると消費税の負担が純増します。

業務委託料の水準を決めるときは、法人税の観点だけでなく、この消費税の負担も含めて比較してください。医療法人の内部で行っていれば発生しなかったコストです。

MS法人との取引を整える手順その取引を行う経済的な合理性を文書で整理する家賃や業務委託料の水準を、相場や複数社の見積りで裏づける契約書を作成し、業務の範囲と対価を明確にする医療法人の役員とMS法人の役員が重なっていないかを確認する取引金額が医療法施行規則の基準に達するかを判定する関係事業者との取引の状況に関する報告書を作成し、期限内に届け出る

図 整える手順

MS法人との取引についてご相談ください

取引の合理性、金額の根拠、役員構成、報告義務。MS法人を使うのであれば、この4つを整えておく必要があります。既存の取引の点検も承ります。医療法人の設立支援と医療機関の税務顧問を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。医療法人の設立支援と医療機関の税務顧問を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

❓ よくある質問

Q. 理事長がMS法人の代表取締役を兼ねてもよいですか。

A. 医療法人の非営利性という観点から適当でないとされています。法律で明文の禁止規定が置かれているわけではありませんが、都道府県が医療法人を指導監督する際の運営管理指導要綱にこの考え方が示されており、指導を受けた際に是正を求められることがあります。役員構成は見直しておくべきです。

Q. 関係事業者との取引の報告はいつまでに行いますか。

A. 医療法51条1項により、事業報告書や関係事業者との取引の状況に関する報告書は毎会計年度終了後2月以内に作成し、医療法52条1項により、これらと監事の監査報告書を毎会計年度終了後3月以内に都道府県知事へ届け出ます。作成と届出で期限が異なります。

Q. 報告の対象になる金額の基準は1,000万円以上かつ10%以上ですか。

A. その表現では不正確です。医療法施行規則32条の6第2号は取引の種類ごとに基準を定めており、事業収益や事業費用については1,000万円以上かつ総額の10%以上ですが、資産や負債の総額に関しては総資産の1%以上かつ1,000万円を超える残高、資金貸借や資産の売買その他の取引の総額については1,000万円以上かつ総資産の1%以上とされています。10%は損益系、1%は資産系と整理してください。

Q. 業務委託料はいくらに設定すればよいですか。

A. 第三者に同様の業務を委託した場合の水準です。複数社から見積りを取り、その資料を保存しておいてください。過大な部分は医療法人の損金として認められず、MS法人では収益として課税されますので、二重の負担になります。

Q. MS法人を使うと消費税は有利になりますか。

A. むしろ不利になることが多くなります。MS法人に支払う業務委託料や家賃には消費税がかかりますが、医療法人の収入の大部分を占める社会保険診療は非課税ですので、これに対応する課税仕入れは仕入税額控除の対象になりません。MS法人の側では受け取った消費税を納税しますので、グループ全体では負担が増えます。

📄 まとめ

MS法人は法令上の用語ではなく、実体は株式会社です。医療法人にできないことを担わせるという発想で使われますが、設立と維持のコストがかかるうえ、一人医師医療法人の制度がある現在では必要性が以前より小さくなっています。

取引を行うのであれば、経済的な合理性を説明できること、金額を第三者間と同じ水準にすること、その根拠を支払の時点で残しておくことが前提になります。医療法人の役員がMS法人の役員を兼ねることは、非営利性の観点から適当でないとされています。

医療法51条1項により関係事業者との取引の状況に関する報告書を毎会計年度終了後2月以内に作成し、医療法52条1項により3月以内に都道府県知事へ届け出ます。金額基準は医療法施行規則32条の6第2号が取引の種類ごとに定めており、損益に関するものは10%、資産や取引総額に関するものは1%です。あわせて、仕入税額控除ができない消費税の負担も見落とさないでください。

⚖ 本記事の根拠法令

記載内容の根拠

  • 医療法51条1項
  • 医療法52条1項
  • 医療法施行規則32条の6(関係事業者の範囲および報告の対象となる取引の金額基準)
  • 医療法54条医療法人は、剰余金の配当をしてはならない)、同法46条の5第1項(理事3人以上および監事1人以上)、同条8項(監事は理事または職員を兼ねてはならない)
  • 医療法人の役員が取引関係にあるMS法人の役員を兼ねることが非営利性の観点から適当でないとされることは、都道府県が医療法人を指導監督する際の運営管理指導要綱によります
  • 法人税法22条(各事業年度の所得の金額の計算)、同法37条(寄附金の損金不算入)
  • 消費税法6条1項および別表第二第六号(社会保険診療等の非課税)、同法30条(仕入れに係る消費税額の控除)

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。

このテーマの全体像は医療法人と開業医の税務|法人化から役員報酬・承継までにまとめています。

📚 参考(公的な一次情報)

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