医療法人が契約者となる定期保険は、理事長の死亡保障と、勇退時の役員退職金の財源づくりという2つの目的で使われます。
保険料をいくら損金にできるかは、最高解約返戻率によって決まります。返戻率が高い商品ほど資産計上する割合が大きくなり、損金になる部分は小さくなります。
そして重要なのは、これが節税ではなく課税の繰延べだということです。解約返戻金を受け取った年には収益が立ちますので、その年に何をぶつけるかを先に決めておく必要があります。
- 定期保険等に含まれる第三分野保険の範囲
- 最高解約返戻率による4つの区分と、それぞれの資産計上期間と資産計上額
- 85%超の区分にだけ適用される資産計上期間の調整
- 保険料の損金算入が課税の繰延べにすぎない理由
- 理事長の勇退と解約のタイミングをそろえる出口設計
図 定期保険等の保険料の処理(法人税基本通達9-3-5および9-3-5の2にもとづき作成)
この記事の見出し
📌 医療法人が定期保険に入る目的
医療法人が契約者となり、理事長や理事を被保険者として、保険金の受取人を医療法人とする定期保険等に加入する。これが医療法人の保険活用の基本形です。
ここでいう定期保険等とは、一定期間内における被保険者の死亡を保険事故とする定期保険と、第三分野保険を指します。第三分野保険とは、保険業法3条4項2号に掲げる保険で、医療保険、がん保険、介護保険、傷害保険などをいいます。特約が付されているものも含みます。
目的はふたつあります。ひとつは死亡保障です。理事長が死亡した場合に死亡保険金が医療法人に支払われ、その資金を承継や解散に必要な費用に充てたり、遺族に死亡退職金として支給したりできます。
もうひとつは退職金の財源づくりです。保険料に相当多額の前払部分が含まれる商品であれば、理事長が勇退するときに解約して解約返戻金を受け取り、それを役員退職金の原資に充てることができます。医療法人は剰余金の配当ができませんので、退職金の準備は計画的に行う必要があります。
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📌 最高解約返戻率で資産計上割合が決まる
保険料をいくら損金に算入できるかは、その保険の最高解約返戻率によって決まります。最高解約返戻率とは、保険期間を通じて解約返戻率がもっとも高くなる時点における返戻率です。
法人税基本通達9-3-5の2は、保険期間が3年以上の定期保険または第三分野保険で最高解約返戻率が50%を超えるものについて、資産計上期間と資産計上額を定めています。返戻率が高い商品ほど貯蓄性が強いとみなされ、資産計上する割合が大きくなります。
なお、最高解約返戻率が50%以下のものは9-3-5により、期間の経過に応じて損金の額に算入します。また、最高解約返戻率が70%以下で、かつ一の被保険者につき年換算保険料相当額が合計30万円以下のものについても、9-3-5の2のただし書きにより9-3-5の例によることとされています。
表 資産計上期間と資産計上額(法人税基本通達9-3-5の2、対象は保険期間3年以上のもの)
たとえば最高解約返戻率が90%の商品であれば、当初10年間は当期分支払保険料に90%の90%を乗じた81%を資産計上しますので、損金になるのは19%だけです。返戻率の高さと損金算入割合は反比例します。
85%超の区分については、資産計上期間が5年未満となる場合には保険期間の開始の日から5年を経過する日まで、保険期間が10年未満の場合には保険期間の100分の50相当期間を経過する日までが資産計上期間とされます。この調整は85%超の区分にのみ適用されるもので、50%超85%以下の区分には適用されません。
また、最高解約返戻率となる期間の経過後に、解約返戻金相当額からその直前の期間における解約返戻金相当額を控除した金額を年換算保険料相当額で除した割合が70%を超える期間があるときは、その期間までが資産計上期間となります。
表 取崩期間(法人税基本通達9-3-5の2)
📌 節税ではなく課税の繰延べ
ここを誤解したまま加入すると、後で困ることになります。定期保険等の保険料は、支払った時点で一定の割合が損金になりますが、残りは資産計上され、解約返戻金や死亡保険金を受け取った時にまとめて損金に算入されます。結果として、支払った保険料の全額が損金になります。
一方で、受け取った解約返戻金や死亡保険金は、その時点で収益として計上されます。つまり、長い目で見れば損益はゼロであり、課税のタイミングを後ろにずらしているだけです。永久に税金がなくなるわけではありません。
保険料を払っている間は所得が減り、解約した年には所得が増える。この山と谷をどう埋めるかが、保険を使うときの本質的な論点です。
医療法人の税率は所得の水準によって大きくは変わりませんので、単に時期をずらすだけでは効果は限定的です。意味があるのは、解約する年に大きな損金をぶつけられる場合です。
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📌 出口を先に決めておく
もっとも典型的な出口が、理事長の勇退にあわせた解約です。解約返戻金という収益と、役員退職金という損金を同じ事業年度にぶつければ、医療法人の課税所得への影響を抑えられます。
受け取った理事長の側では退職所得となり、退職所得控除と2分の1課税が適用されます。所得税法30条2項が、退職所得の金額を収入金額から退職所得控除額を控除した残額の2分の1とすると定めているためです。役員報酬として受け取るよりも税負担が軽くなります。
ただし、役員退職金は法人税法34条2項により、不相当に高額な部分の金額が損金に算入されません。同法施行令70条2号が、業務に従事した期間、退職の事情、同種同規模の法人の役員に対する退職給与の支給の状況などを勘案するとしています。解約返戻金の額に合わせて退職金を決めるのではなく、退職金として相当な額はいくらかを先に考えてください。
また、役員等勤続年数が5年以下である人が支払を受ける退職金については、2分の1課税の適用がありません。所得税法30条5項の特定役員退職手当等にあたるためです。設立から間もない医療法人で、短期間で退任する理事に退職金を支給する場合は注意が必要です。
図 検討の手順
📌 医療法人ならではの注意点
医療法人には、株式会社にはない制約があります。医療法54条により剰余金の配当が禁止されていますので、蓄積した利益を出資者に還元する道がありません。持分なし医療法人であれば、解散時の残余財産も医療法44条5項により国や地方公共団体等に帰属します。
この制約があるからこそ、役員退職金は理事長が医療法人から資金を受け取れる数少ない機会になります。保険はその財源をつくる手段のひとつです。
一方で、保険料の支払は毎年のキャッシュアウトです。医療法人の資金繰りを圧迫してまで加入する意味はありません。診療報酬の入金サイクルや設備投資の予定を踏まえ、無理のない保険料に抑えてください。
保険金または給付金の受取人が被保険者またはその遺族である場合において、役員または特定の使用人のみを被保険者としているときは、保険料の額がその者に対する給与となります。契約形態を決めるときは、受取人を誰にするかを慎重に確認してください。
どの商品に入るかよりも、いつ解約して何とぶつけるかが重要です。役員退職金規程の整備とあわせて、出口から逆算した設計をご提案します。医療法人の設立支援と医療機関の税務顧問を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。医療法人の設立支援と医療機関の税務顧問を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
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❓ よくある質問
A. 当初10年間は、当期分支払保険料の額に最高解約返戻率90%の100分の90を乗じた81%を資産計上しますので、損金になるのは19%です。10年を経過した後は、90%の100分の70を乗じた63%を資産計上し、37%が損金になります。返戻率が高いほど損金になる割合は小さくなります。
A. 法人税基本通達9-3-5の2は保険期間が3年以上のものを対象としていますので、保険期間が3年未満のものは9-3-5により、期間の経過に応じて損金の額に算入します。
A. 最高解約返戻率が70%以下であれば、9-3-5の2のただし書きにより9-3-5の例によることとされています。ただし判定は一の被保険者につき年換算保険料相当額の合計が30万円以下かどうかで行いますので、同じ人を被保険者とする複数の契約がある場合は合計して判定してください。最高解約返戻率が70%を超えていれば、金額にかかわらず区分に応じた資産計上が必要です。
A. 資産計上していた金額を取り崩して損金に算入しますので、収益の全額が課税されるわけではありませんが、それでも差額は利益になります。理事長の勇退にあわせて解約し、役員退職金という損金とぶつけるのが典型的な出口です。退職金の額は、解約返戻金に合わせるのではなく、退職金として相当な額を先に検討してください。
A. 医療法人が退職金の財源とすることを目的とするのであれば、受取人は医療法人です。保険金または給付金の受取人が被保険者またはその遺族である場合において、役員または特定の使用人のみを被保険者としているときは、保険料の額がその者に対する給与となりますので注意してください。
📄 まとめ
医療法人が加入する定期保険等の保険料は、最高解約返戻率によって資産計上する割合が決まります。50%超70%以下は保険期間の40%相当期間まで40%を、70%超85%以下は同じ期間に60%を資産計上します。85%超は、最高解約返戻率となる期間の終了の日までを資産計上期間とし、当初10年は最高解約返戻率の90%を、その後は70%を乗じた金額を資産計上します。
最高解約返戻率が50%以下のもの、および70%以下で一の被保険者につき年換算保険料相当額が合計30万円以下のものは、期間の経過に応じて損金の額に算入します。対象は保険期間が3年以上のものです。
保険料の損金算入は課税の繰延べであり、解約返戻金を受け取った年には収益が立ちます。理事長の勇退にあわせて解約し、役員退職金とぶつけるのが典型的な出口です。医療法人は剰余金の配当ができませんので、役員退職金は資金を受け取れる数少ない機会になります。加入の前に、出口から逆算した設計をしてください。
⚖ 本記事の根拠法令
- 法人税基本通達9-3-5(定期保険及び第三分野保険に係る保険料)
- 法人税基本通達9-3-5の2
- 資産計上期間および資産計上額の区分は、国税庁タックスアンサーNo.5364およびNo.5364-2によります
- 法人税法34条2項(役員給与のうち不相当に高額な部分の損金不算入)、同法施行令70条2号(役員退職給与の過大判定)
- 所得税法30条2項、同条3項(退職所得控除額)、同条5項(特定役員退職手当等)
- 保険業法3条4項2号(第三分野保険)
- 医療法54条(剰余金の配当の禁止)、同法44条5項(残余財産の帰属)
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
このテーマの全体像は医療法人と開業医の税務|法人化から役員報酬・承継までにまとめています。