宗教法人が収益事業で得た資金を本来の宗教活動に回したとき、その金額は寄附金とみなされ、一定の範囲で損金になります。これがみなし寄附金です。
損金にできるのは所得の20%まで。しかも、帳簿の上で振り替えただけでは認められません。実質的に支出があったといえるかどうかが問われます。
この記事では、みなし寄附金の仕組みと限度額を条文にそって整理し、計算例と記録の残し方まで説明します。
- みなし寄附金がどういう仕組みか
- 宗教法人の損金算入限度額が所得の20%である根拠
- 限度額を計算するときの所得の意味
- 帳簿上の振替だけでは認められない理由
- 繰入れの事実をどう記録に残すか
この記事の見出し
📌 みなし寄附金は公益法人等だけの仕組み
宗教法人が駐車場の貸付けや物品の販売などの収益事業を行うと、その所得に法人税がかかります。ところが、収益事業で得た資金の多くは、法要や境内の維持といった本来の宗教活動に回されているはずです。この実態に合わせるために置かれているのが、みなし寄附金です。
法人税法37条6項は、公益法人等がその収益事業に属する資産のうちからその収益事業以外の事業のために支出した金額は、その収益事業に係る寄附金の額とみなす、と定めています。外部への寄附ではなく、自分の中での資金の移動が寄附金として扱われるところが、この規定の特徴です。
ただし、事実を隠蔽し、または仮装して経理をすることにより支出した金額については適用されません(同項ただし書き)。数字を作って繰入れを装う経理は、そもそも対象外です。
収益事業から本来の宗教活動へ支出した金額が、寄附金とみなされます。
📌 損金にできるのは所得の20%まで
寄附金とみなされた金額が、そのまま全額損金になるわけではありません。一般寄附金と同じ枠の中で、損金算入限度額の計算が行われます。
宗教法人の損金算入限度額は、法人税法施行令73条1項3号ハにより、当該事業年度の所得の金額の100分の20に相当する金額です。公益社団法人や公益財団法人、学校法人、社会福祉法人などは同号イとロで50%とされていますので、宗教法人はこれより低い枠になります。
ここでいう所得の金額は、その事業年度に支出した寄附金の額の全額を損金の額に算入しないものとして計算します(同条3項)。繰り入れた金額を引く前の所得に20%を掛ける、という順序になります。
📌 数字で確かめる
収益事業の所得が、繰入れを考慮する前で1,000万円だった事業年度を考えます。この年に本来の宗教活動へ300万円を繰り入れたとします。
まず限度額を計算します。1,000万円の20%で200万円です。繰り入れた300万円のうち、損金になるのは200万円まで。残りの100万円は損金不算入となります。
課税所得は1,000万円から200万円を引いた800万円です。年800万円以下の部分には15%の軽減税率が適用されますので、法人税は120万円になります。繰入れをしなかった場合の課税所得1,000万円と比べると、税額で30万円ほどの差が出ます。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 繰入れ前の収益事業の所得 | 1,000万円 |
| 本来事業への繰入額 | 300万円 |
| 損金算入限度額(所得の20%) | 200万円 |
| 損金不算入額 | 100万円 |
| 課税所得 | 800万円 |
📌 帳簿の上だけの繰入れは認められない
法人税基本通達15-2-4は、この規定の実質を確認しています。公益法人等が収益事業に属する金銭その他の資産につき収益事業以外の事業に属するものとして区分経理をした場合でも、その一方で収益事業以外の事業から収益事業へ同じ金額の元入れがあったものとして経理するなど、実質的に収益事業から収益事業以外の事業への金銭等の支出がなかったと認められるときは、法人税法37条6項の規定の適用がないとしています。
つまり、右の口座から左の口座へ振り替えて、同じ日に戻すような処理では認められません。資金が本来の宗教活動のために出ていったといえる実態が必要です。
あわせて、人格のない社団等や非営利型法人などについては、区分経理をしてもこの規定の適用がないことが同通達の注で示されています。みなし寄附金は、法人格を備えた公益法人等に用意された仕組みです。
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📌 繰入れをどう記録に残すか
実務では、次の3つがそろっているかを確認してください。1つ目は、収益事業の口座から本来事業の口座へ資金が実際に動いていること。2つ目は、その支出の目的が本来の宗教活動であることが分かる決議や記録があること。3つ目は、収益事業と収益事業以外の事業とで経理が区分されていることです(法人税法施行令6条)。
法人税基本通達15-2-1は、施行令6条の所得に関する経理とは、単に収益および費用に関する経理だけでなく、資産および負債に関する経理を含むことに留意する、としています。損益だけを分けて資金の所在を分けない処理では、繰入れの事実を説明しにくくなります。
責任役員会で繰入額を決議し、議事録と振替の記録を年度ごとにまとめておくと、後から質問を受けたときに一式で説明できます。
📌 使うときに間違えやすいところ
第1に、限度額の20%を掛ける相手を間違えることです。繰入額を引いたあとの所得ではなく、引く前の所得に掛けます。
第2に、限度額を超えた部分を翌期に繰り越そうとすることです。寄附金の損金不算入額には繰越しの仕組みがありませんので、その年度で切り捨てになります。繰入額を決める段階で限度額を意識しておくことが大切です。
第3に、収益事業以外の事業のための支出であることの説明が用意できていないことです。本来事業の口座に移した資金が、実際には収益事業のための設備投資に使われていた、という状態では、支出があったとはいいにくくなります。
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公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。宗教法人の税務顧問と会計体制の整備支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
❓ よくある質問
A. 超えた部分は損金不算入になります。翌期以降に繰り越す仕組みはありませんので、その事業年度で切り捨てになります。繰入額を決める前に限度額を試算しておいてください。
A. その事業年度に支出した寄附金の額の全額を損金の額に算入しないものとして計算した所得の金額です(法人税法施行令73条3項)。繰入額を差し引く前の所得に20%を掛けます。
A. 所得がなければ限度額は生じませんので、損金算入の効果はありません。赤字の年度に無理に繰り入れる意味は税務上ありません。
A. なりません。法人税基本通達15-2-4は、同じ金額の元入れがあったものとして経理するなど、実質的に収益事業から収益事業以外の事業への支出がなかったと認められるときは、法人税法37条6項の適用がないとしています。
A. 繰入額を決めた責任役員会の議事録、収益事業の口座から本来事業の口座への振替の記録、繰り入れた資金の使途がわかる支出の記録の3点です。年度ごとにまとめておくと説明が早くなります。
📄 まとめ
みなし寄附金は、公益法人等が収益事業に属する資産のうちから収益事業以外の事業のために支出した金額を、収益事業に係る寄附金の額とみなす仕組みです(法人税法37条6項)。
宗教法人の損金算入限度額は、所得の金額の100分の20です(法人税法施行令73条1項3号ハ)。この所得の金額は、寄附金の額の全額を損金の額に算入しないものとして計算します。
帳簿の上で区分経理をしても、同額の元入れがあったものとして処理するなど実質的に支出がなかったと認められるときは適用がありません(法人税基本通達15-2-4)。
繰入れの決議、資金の移動、使途の3点を記録に残してください。所得に関する経理には、資産および負債に関する経理も含まれます(法人税基本通達15-2-1)。
⚖ 本記事の根拠法令
- 法人税法37条6項
- 法人税法施行令73条1項3号ハ
- 法人税法施行令73条3項
- 法人税法施行令6条(収益事業を行う法人の経理の区分)
- 法人税法66条3項(公益法人等の法人税率は100分の19)、租税特別措置法42条の3の2第1項(年800万円以下は100分の15)
- 法人税基本通達15-2-1(所得に関する経理には、資産および負債に関する経理を含む)
- 法人税基本通達15-2-4(公益法人等のみなし寄附金)
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
このテーマの全体像は宗教法人の税務|収益事業の判定と区分経理の実務にまとめています。