数理計算上の差異が純資産に残っている。なぜ費用にしないのか。
連結財務諸表では、費用処理されていない部分を税効果を調整のうえ、その他の包括利益を通じて純資産の部に計上します。企業会計基準第26号の第15項と第27項です。
ところが個別財務諸表では、この処理をしません。第39項が、第15項などを適用しないとしたうえで、退職給付引当金という科目で計上するとしています。連結と個別で見え方が違うのはこのためです。
- 連結は純資産に計上し、個別はしないこと
- 個別の読み替えが第39項にあること
- 科目名が連結と個別で違うこと
- 調整額と調整累計額の違い
- 費用処理の原則は年数按分であること
- 連結と異なる旨の注記が要ること
📌 結論 個別では適用しない条文がある
個別では第15項、第24項また書き、第25項また書き、第29項、第30項(7)(8)を適用しません。第39項がその読み替えを定めています。
第39項は、個別財務諸表における当面の取扱いとして5つを定めています。
(1)は、個別貸借対照表上、退職給付債務に未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用を加減した額から年金資産の額を控除した額を負債として計上する、というものです。
(2)は、第15項、第24項また書き、第25項また書き、第29項、第30項の(7)と(8)については適用しない、としています。つまり、その他の包括利益を通じた処理を個別では行いません。
(3)は科目名です。負債は退職給付引当金、資産は前払年金費用等の適当な科目とします。(4)で、連結財務諸表を作成する会社は個別財務諸表において取扱いが連結と異なる旨を注記します。
🔄 差異が生まれてから消えるまで
差異は毎期出ます。ゼロにするものではなく、決められた年数で溶かしていくものです。
第11項が数理計算上の差異を定義しています。年金資産の期待運用収益と実際の運用成果との差異、退職給付債務の数理計算に用いた見積数値と実績との差異、そして見積数値の変更等により発生した差異です。
第24項は、原則として各期の発生額について平均残存勤務期間以内の一定の年数で按分した額を毎期費用処理する、としています。そして当期に発生した未認識数理計算上の差異は税効果を調整のうえ、その他の包括利益を通じて純資産の部に計上します。
過去勤務費用も同じ構造です。第25項に定めがあります。
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🔤 調整額と調整累計額
一文字違いですが別のものです。社内資料でよく取り違えられます。
第29項の退職給付に係る調整額は、その他の包括利益に計上するフローの科目です。当期に発生した未認識分と、当期に費用処理された組替調整額を一括して計上します。
第27項の退職給付に係る調整累計額は、純資産の部のその他の包括利益累計額に計上するストックの科目です。
社内の資料でこの2つを取り違えていると、包括利益計算書と貸借対照表のどちらの話をしているのかが伝わりません。
📐 費用処理の方法
発生時に全額費用処理するのが原則、という説明を見かけますが、会計基準の原則は年数で按分する方法です。
会計基準第26号の第24項の原則は、平均残存勤務期間以内の一定の年数で按分する方法です。発生時に全額費用処理するのが原則、という説明は正確ではありません。
適用指針第25号の第35項が、発生年度に費用処理する方法、定額法、定率法を選択肢として整理しています。定率法については第36項が、費用処理期間以内で発生金額のおおむね90パーセントが費用処理されるように定率を決定するとしています。
いったん決めた方法は継続して適用することになります。決めるときに、毎期の損益への影響の出方まで見ておいてください。
❓ よくある質問
A. 連結では、費用処理されていない部分を税効果を調整のうえ、その他の包括利益を通じて純資産の部に計上するためです(第15項、第24項)。
A. 違います。第39項(2)により第15項などを適用しません。
A. 退職給付引当金、前払年金費用です(第39項(3))。
A. 退職給付に係る負債、退職給付に係る資産です(第27項)。
A. 連結財務諸表を作成する会社は必要です(第39項(4))。
A. 調整額はその他の包括利益(第29項)、調整累計額はその他の包括利益累計額(第27項)です。
A. 平均残存勤務期間以内の一定の年数で按分する方法です(第24項)。
A. 適用指針第25号 第35項が選択肢として示しています。原則ではありません。
📄 まとめ
連結では未認識の差異を純資産に計上し、個別では計上しません。個別の読み替えは第39項です。
科目名も違います。連結は退職給付に係る負債、個別は退職給付引当金です。
調整額と調整累計額は別物です。フローとストックで分けてください。
費用処理の方法をこれから決めるなら、毎期の損益の出方をシミュレーションしてから決めてください。いったん決めると継続して適用することになります。
📚 参考(公的な一次情報)
- 企業会計基準第26号「退職給付に関する会計基準」(企業会計基準委員会) 第11項、第15項、第24項、第25項、第27項、第29項、第39項
- 企業会計基準適用指針第25号「退職給付に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準委員会) 第35項、第36項、第37項
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