退職給付の簡便法はいつまで使えるか|300人は基準ではなく適用指針にある

退職給付の簡便法は従業員300人未満の会社しか使えないのか。よく聞かれます。

結論から言えば、300人という数字は会計基準の本体には出てきません。企業会計基準適用指針第25号の第47項です。しかも原則としてという書き方で、300人以上でも簡便法によれる場合があります。

そして会計基準第26号の第26項は、簡便な方法を用いて計算することができる、としています。できる、です。人数だけで自動的に決まるものではありません。

この記事でわかること

  • 300人が適用指針第25号 第47項にあること
  • 会計基準本体には人数基準がないこと
  • 300人以上でも簡便法によれる場合があること
  • 母数が退職給付債務の計算対象となる従業員数であること
  • 制度ごとに判断すること
  • できる規定であって強制ではないこと

📌 結論 300人は適用指針にある

図1 300人はどこに書いてあるか定め内容出典簡便な方法を用いることができる従業員数が比較的少ない小規模な企業等において、高い信頼性をもって数理計算上の見積りを行うことが困難である場合又は退職給付に係る財務諸表項目に重要性が乏しい場企業会計基準第26号 第26項300人という目安簡便法を適用できる小規模企業等とは、原則として従業員数300人未満の企業をいう企業会計基準適用指針第25号 第47項300人以上でも使える場合年齢や勤務期間に偏りがあるなどにより、原則法による計算の結果に一定の高い水準の信頼性が得られないと判断される場合同 第47項

300人は会計基準の本体ではなく適用指針に出てきます。しかも原則としてという書き方で、300人以上でも簡便法によれる場合があります。

企業会計基準第26号の第26項は、従業員数が比較的少ない小規模な企業等において、高い信頼性をもって数理計算上の見積りを行うことが困難である場合、または退職給付に係る財務諸表項目に重要性が乏しい場合には、期末の退職給付の要支給額を用いた見積計算を行う等の簡便な方法を用いることができる、としています。

人数は書かれていません。人数が出てくるのは適用指針第25号の第47項です。簡便法を適用できる小規模企業等とは、原則として従業員数300人未満の企業をいう、とあります。

そして同じ第47項は、従業員数が300人以上の企業であっても、年齢や勤務期間に偏りがあるなどにより原則法による計算の結果に一定の高い水準の信頼性が得られないと判断される場合には簡便法によることができる、としています。

🧭 判断の順番

図2 判断の順番退職給付債務の計算対象となる従業員数を数える複数の退職給付制度があるなら、制度ごとに判断する300人未満なら、原則として簡便法を適用できる300人以上でも、年齢や勤務期間の偏りで原則法の信頼性が得られないなら簡便法によれる一定期間の従業員規模の予測を踏まえて決める

母数は全社員数ではありません。退職給付債務の計算対象となる従業員数です。ここを取り違えると判断が変わります。

母数を間違えないでください。第47項は、この場合の従業員数とは退職給付債務の計算対象となる従業員数を意味する、としています。全社員数ではありません。

複数の退職給付制度を有する事業主にあっては、制度ごとに判断します。退職一時金制度と企業年金制度の両方がある会社では、それぞれで見ることになります。

そして第47項は、従業員数は毎期変動することが一般的であるので、簡便法の適用は一定期間の従業員規模の予測を踏まえて決定する、としています。今期たまたま299人だから簡便法、という決め方はできません。

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⚖️ できる規定である

図3 できる、であって、しなければならない、ではない論点内容会計基準第26項の書きぶり簡便な方法を用いて計算することができる意味300人未満だから自動的に簡便法になる、ではありません。原則法を選ぶこともできます上場を目指すなら将来の従業員数の見通しと、監査法人の見方を踏まえて決めることになります

選択規定です。人数だけで機械的に決まるものではありません。

第26項の書きぶりは、計算することができる、です。義務ではありません。

ですから300人未満でも原則法を採用することはできます。上場を目指す会社では、いずれ人数が増えることを見越して早めに原則法に移る判断もあります。

逆に、簡便法から原則法へ移るときの取扱いは、会計方針の変更にあたるのかどうかを含めて、監査法人と事前に整理してください。ここは基準の条文で一義的に決まる話ではありません。

🛠 実務で押さえること

図4 実務で押さえること論点内容母数退職給付債務の計算対象となる従業員数(適用指針第25号 第47項)制度が複数あるとき制度ごとに判断する(同項)決め方従業員数は毎期変動するので、一定期間の従業員規模の予測を踏まえて決定する(同項)簡便法の中身適用指針第25号 第48項から第51項

毎期人数が前後する会社では、行ったり来たりしないよう、予測を踏まえて決めることが求められています。

簡便法の具体的な計算は適用指針第25号の第48項から第51項に定められています。期末の要支給額を用いる方法が中心です。

実務でつまずくのは、人数の数え方と、制度が複数あるときの整理です。ここを文書にしておかないと、毎期同じ議論を繰り返すことになります。

そして、簡便法を採っていることは注記や監査で必ず確認されます。判断の根拠を残しておいてください。

❓ よくある質問

Q. 300人という基準はどこにありますか。

A. 企業会計基準適用指針第25号 第47項です。会計基準第26号の本体には人数基準はありません。

Q. 300人以上だと必ず原則法ですか。

A. 違います。年齢や勤務期間に偏りがあるなどで原則法の信頼性が得られないと判断される場合は簡便法によることができます。

Q. 300人未満なら必ず簡便法ですか。

A. 違います。会計基準第26項は、できる、という書き方です。原則法も選べます。

Q. 人数はどう数えますか。

A. 退職給付債務の計算対象となる従業員数です。全社員数ではありません。

Q. 制度が複数あるときは。

A. 制度ごとに判断します。

Q. 今期だけ300人を超えたら。

A. 一定期間の従業員規模の予測を踏まえて決定するとされています。単年度の数字だけで動かすものではありません。

Q. 簡便法の計算方法はどこですか。

A. 適用指針第25号 第48項から第51項です。

Q. 原則法に移るときの手続は。

A. 会計方針の変更にあたるかを含めて、監査法人と事前に整理してください。

📄 まとめ

300人は適用指針第25号 第47項の目安です。会計基準の本体には人数基準はありません。

300人以上でも簡便法によれる場合があり、300人未満でも原則法を選べます。

母数は退職給付債務の計算対象となる従業員数で、制度ごとに判断します。

いま簡便法を使っているなら、その判断の根拠を文書にしてください。人数が増えてきたときに、いつ原則法へ移るかの議論がすぐに始められます。

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