社長個人と会社の取引はどう解消するか|会社法第356条と財規第8条の10

社長個人と会社の取引。不動産の賃貸、貸付金、保証、身内の会社への発注。上場準備でまず出てくる論点です。

会社法第356条第1項が、承認を要する取引を3つに分けています。競業取引、直接取引、間接取引です。そして第365条第2項が、取引後の報告まで求めています。

残す取引は注記の対象になります。財務諸表等規則第8条の10が、関連当事者との取引について10の記載事項を定めています。個人の場合は氏名、職業、議決権の所有割合です。

この記事でわかること

  • 承認が要る取引の3つの型
  • 取締役会での事後報告も義務であること
  • 関連当事者の範囲に親族の会社が入ること
  • 注記に個人の氏名と職業が載ること
  • 連結を作る会社は財規の注記が不要になること
  • 全部やめる必要はないこと

📌 結論 まず3つの型に分ける

図1 会社法が承認を求める3つの取引内容第356条第1項第1号自己または第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき(競業取引)同 第2号自己または第三者のために株式会社と取引をしようとするとき(直接取引)同 第3号株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき(間接取引)

第356条第2項が、民法第108条の規定は適用しない、としています。自己契約の禁止を外すかわりに承認を求める構造です。

第1号が競業取引です。会社の事業の部類に属する取引を、自己または第三者のために行う場合です。社長が同業の会社を別に持っているケースがここに入ります。

第2号が直接取引です。会社と取締役が直接取引をする場合です。社長所有の建物を会社が借りる、社長が会社に金を貸す。どちらもここです。

第3号が間接取引です。会社が取締役の債務を保証することその他、取締役以外の者との間で会社と取締役の利益が相反する取引です。

そして第2項が、民法第108条の規定は適用しない、としています。自己契約や双方代理の禁止を外すかわりに、承認という手続を置いている構造です。

🧭 承認だけでは足りない

図2 承認と報告は2段構え場面必要なこと根拠取締役会を置いていない会社株主総会で重要な事実を開示して承認を受ける第356条第1項取締役会設置会社取締役会で重要な事実を開示して承認を受ける第365条第1項取引をしたあと遅滞なく、当該取引についての重要な事実を取締役会に報告する第365条第2項

承認だけで終わりません。事後の報告も条文上の義務です。議事録に報告の記載がないことが、そのまま指摘になります。

取締役会設置会社では、第365条第1項により、第356条第1項の株主総会が取締役会に読み替えられます。

そのうえで第365条第2項が、取引をした取締役は当該取引後、遅滞なく当該取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければならない、としています。

実務で抜けるのはこちらです。承認の議事録はあるが、その後の報告の記載がない。継続的な取引であれば、期間や限度額を定めて包括的に承認し、実績を定期的に報告する形にしてください。

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🧾 注記には個人の氏名が載る

図3 誰が関連当事者にあたるか(財務諸表等規則第8条第17項)範囲第6号財務諸表提出会社の主要株主及びその近親者第7号財務諸表提出会社の役員及びその近親者第9号前三号に掲げる者が議決権の過半数を自己の計算において所有している会社等及び当該会社等の子会社

社長本人、その親族、そして親族が過半数を持つ会社。この3つが同じ枠で捕まります。資産管理会社を挟んでも外れません。

財務諸表等規則第8条第17項が関連当事者を定義しています。第6号が主要株主及びその近親者、第7号が役員及びその近親者、第9号がこれらの者が議決権の過半数を自己の計算において所有している会社等及びその子会社です。

そして第8条の10第1項が、重要なものについて関連当事者ごとに注記することを求めています。第1号が法人の場合の名称、所在地、資本金、事業内容、議決権の所有割合。第2号が個人の場合の氏名、職業、議決権の所有割合です。

以下、第3号が関係、第4号が取引の内容、第5号が取引金額、第6号が取引条件及び取引条件の決定方針、第7号が期末残高、第8号が取引条件の変更、第9号と第10号が引当金に関する事項です。

ただし、第8条の10第1項のただし書きにより、連結財務諸表を作成している会社は個別の注記が不要になります。連結側で開示するためです。

📅 全部やめる必要はない

図4 解消の順番取引の一覧を作る(賃貸、貸付、保証、業務委託、購買)会社法第356条第1項のどの号にあたるかを分ける承認と報告が議事録に残っているかを確かめる取引条件が第三者との条件と比べて妥当かを検証する解消するもの、条件を直すもの、残して注記するものに分ける残すものは財規第8条の10の各号に沿って注記する

全部やめる、が答えとは限りません。事業上必要な取引は、条件の妥当性を示して残せます。

事業上必要な取引まで解消する必要はありません。問われるのは、取引条件が第三者との条件と比べて妥当かどうか、そして手続が踏まれているかどうかです。

社長所有の建物を借りているなら、近隣の賃料水準を示す資料を用意してください。役員貸付金があるなら、返済計画と利率の根拠が要ります。

監査役の責任の範囲は監査役の責任はどこまで及ぶかにまとめています。承認手続の見落としは監査役の任務にも関わります。

❓ よくある質問

Q. 社長から会社が借りる取引も承認が要りますか。

A. 会社法第356条第1項第2号の直接取引にあたります。

Q. 会社が社長の借入を保証する場合は。

A. 第3号の間接取引です。

Q. 承認を得れば報告は不要ですか。

A. 第365条第2項が、取引後に遅滞なく取締役会へ報告することを求めています。

Q. 社長の妻が持つ会社との取引も対象ですか。

A. 財務諸表等規則第8条第17項第9号により、役員の近親者が議決権の過半数を所有する会社等は関連当事者です。

Q. 注記に社長の名前が出ますか。

A. 個人の場合は氏名、職業、議決権の所有割合を記載します(第8条の10第1項第2号)。

Q. 連結を作っていれば個別の注記は不要ですか。

A. 第8条の10第1項のただし書きにより、連結財務諸表を作成している会社は個別での注記を要しません。

Q. 少額でも注記が要りますか。

A. 条文は、その重要なものについて、としています。重要性の判断が必要です。

Q. 上場までに全部解消すべきですか。

A. 必ずしもそうではありません。条件の妥当性と手続の履行を説明できるかが問われます。

📄 まとめ

承認が要る取引は競業、直接、間接の3つです(会社法第356条第1項)。

取締役会設置会社では承認に加え、取引後の報告が義務です(第365条第2項)。

関連当事者には役員の近親者と、近親者が過半数を持つ会社が含まれます(財規第8条第17項)。

まず一覧を作ってください。何があるかを把握していないことが、審査で最も時間を取られる原因です。

📚 参考(公的な一次情報)

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