過去の財務諸表に誤りが見つかり、修正再表示を行ったとき、注記に何を書くかが問題になります。ここで多いのが、有価証券報告書の注記をそのまま計算書類にも使ってしまうことです。
金融商品取引法と会社法では、この注記の名前も記載事項も違います。この記事では、財務諸表等規則と会社計算規則の条文を確認したうえで、それぞれの記載例を示します。
- 金商法は修正再表示に関する注記で4項目、会社法は誤謬の訂正に関する注記で2項目
- 4項目それぞれの書き方と、二と四の違い
- 有価証券報告書用と計算書類用の記載例
- 連結ではどう書くか(連結財務諸表規則14条の8)
- 主な科目への影響額をどこまで細かく書くか
- 会計方針の変更の注記との書き分け
この記事の見出し
📌 結論 金商法は4項目、会社法は2項目
有価証券報告書の注記をそのまま計算書類に転記すると過剰になり、逆向きに流用すると金額が抜けます。
財務諸表等規則8条の3の7は、修正再表示を行った場合に、誤謬の内容、財務諸表の主な科目に対する前事業年度における影響額、前事業年度に係る一株当たり情報に対する影響額、前事業年度の期首における純資産額に対する累積的影響額の4つを注記することを求めています。ただし、重要性の乏しいものについては注記を省略できます。
一方、会社計算規則102条の5は、誤謬の訂正に関する注記を、誤謬の訂正をした場合における当該誤謬の内容と、当該事業年度の期首における純資産額に対する影響額の2つとしています(重要性の乏しいものを除く)。
つまり、会社法側では主な科目への影響額も一株当たり情報への影響額も求められていません。有価証券報告書の注記をそのまま計算書類に転記すると、求められていない情報まで載ることになります。
そもそも修正再表示とは何か
修正再表示は、過去の財務諸表における誤謬の訂正を財務諸表に反映することをいいます。誤りを直すこと自体ではなく、直した結果を表示にどう反映するかを指す言葉です。したがって、誤りが見つかっても、重要性が乏しく当期の損益で処理した場合には、修正再表示にはあたりません。この注記が必要になるのは、修正再表示を行った場合です。
修正再表示か当期処理かの分かれ目は、金額の大きさだけでは決まりません。判断の考え方は誤謬の重要性判断|修正再表示か当期の損益で処理かの分かれ目で扱っています。
なぜ書き分けが必要なのか
金融商品取引法の開示は、投資家が投資判断をするための情報です。前の期の数字がどれだけ動いたのか、一株当たりでどう変わったのかまで示すことが求められます。会社法の計算書類は、株主と債権者に対する分配可能額や財産の状況の報告が中心なので、期首の純資産にいくら効いたのかが分かれば足りるという整理になっています。求められる情報が違うのは、開示の目的が違うためです。
📄 4項目それぞれの書き方
二と四を混同しやすいところです。二は前事業年度そのものへの影響、四は前事業年度の期首時点までに積み上がっていた影響です。
一 誤謬の内容
ここに書くのは事実です。どの取引について、いつの期に、どのような誤りがあったのかを、読み手が理解できる程度に具体的に書きます。会計処理の誤りなのか、集計の誤りなのか、事実関係の把握が不十分だったのかまで書ければ十分です。
原因の分析や再発防止策は、この注記の記載事項ではありません。開示すべき重要な不備として別に扱うか、適時開示のなかで説明することになります。内部統制報告制度との関係は誤謬の訂正と内部統制報告制度で扱っています。
二と四の違い
誤りが前事業年度より前から続いていた場合、四に金額が出ます。前事業年度だけの誤りであれば、四はゼロになります。
いちばん間違えやすいのがここです。二は前事業年度の1年間に対する影響額で、四は前事業年度の期首時点までに積み上がっていた影響の累計です。
たとえば、3期前から続いていた売上の期ずれが見つかった場合、前事業年度の分は二に出ますが、それより前の2期分は四に出ます。誤りが前事業年度だけのものであれば、四には金額が出ません。累積的影響額の考え方は累積的影響額とは?会計方針の変更で期首残高をいくら動かすかで詳しく扱っています。
三 一株当たり情報への影響額
一株当たり当期純利益と一株当たり純資産額について、修正前と修正後の差を書きます。金額が小さくても、記載事項として求められているので省略はできません。潜在株式調整後の数値を開示している場合は、そちらへの影響も示すことになります。
誤りが見つかったとき、まず決めるのは修正再表示の対象にするかどうかです。誤りの内容と金額をお聞かせいただければ、重要性の判断、表示期間との切り分け、注記の文案、金商法と会社法の書き分けまで整理してお返しします。上場準備中で直前期に見つかった場合の進め方もご相談ください。公認会計士・税理士が直接お受けします。初回のご相談は無料です。
数値で見る
表示している期間が前事業年度と当事業年度の2期であれば、X1年3月期以前の分はまとめて期首の純資産に反映されます。
誤りが3期にわたっていた場合、表示している期間に属する分と、それより前に属する分に切り分けます。表示している期間が2期であれば、それより前の分はまとめて、表示する最も古い期の期首の資産、負債および純資産の額に反映させることになります。
この切り分けを間違えると、二と四の金額が入れ替わります。前事業年度の損益がいくら動いたのかと、そこに至るまでにいくら積み上がっていたのかは、読み手にとって意味が違うので、注意して集計してください。
四 累積的影響額をどこに反映するか
四の金額は、株主資本等変動計算書のなかで、利益剰余金の当期首残高に反映される形で表れます。注記に書く金額と、株主資本等変動計算書に出てくる金額が一致していることを必ず確かめてください。ここがずれていると、注記と本表の整合が取れていないという指摘になります。
あわせて、比較情報として表示している前事業年度の数値そのものも修正後のものに置き換わります。注記だけを追加して本表を直していない、という取り違えが起きやすいところです。
🧾 記載例
有価証券報告書(連結財務諸表)の記載例
(修正再表示に関する注記)
前連結会計年度において、A社に対する売上高の一部について、出荷基準により計上すべきところ、受注時点で計上していたことが判明したため、修正再表示を行っております。
この修正再表示により、前連結会計年度の連結貸借対照表において売掛金が◯◯百万円減少し、繰延税金資産が◯◯百万円増加しております。連結損益計算書において売上高が◯◯百万円、売上原価が◯◯百万円、営業利益が◯◯百万円それぞれ減少し、親会社株主に帰属する当期純利益が◯◯百万円減少しております。
一株当たり情報に与える影響は、前連結会計年度の一株当たり当期純利益が◯円◯銭減少し、一株当たり純資産額が◯円◯銭減少しております。
前連結会計年度の期首の純資産に累積的影響額が反映されたことにより、利益剰余金の当期首残高が◯◯百万円減少しております。
計算書類の記載例
(誤謬の訂正に関する注記)
当社は、前事業年度以前において、A社に対する売上高の一部について、出荷基準により計上すべきところ、受注時点で計上しておりました。当事業年度において、この誤謬を訂正しております。
この訂正により、当事業年度の期首における純資産額が◯◯百万円減少しております。
計算書類側は、誤謬の内容と期首の純資産額への影響額の2つで足ります。有価証券報告書のように科目別の金額や一株当たり情報を書く必要はありません。
ゼロになる項目の書き方
誤りが前事業年度だけのものであれば、四の累積的影響額はゼロになります。この場合、金額がないからといって項目ごと落とすのではなく、期首の純資産に与える影響はない旨を書いておくほうが読み手に親切です。書かれていないと、集計漏れなのか影響がないのかが区別できません。
🏢 連結ではどう書くか
連結財務諸表規則14条の8は、財務諸表等規則8条の3の7の規定を修正再表示を行った場合について準用しており、財務諸表を連結財務諸表と、事業年度を連結会計年度と読み替えるとしています。したがって、記載する4項目は個別と同じで、対象が連結の数値になります。
実務では、連結と個別の両方に注記が入ることになります。金額は当然違うので、片方をコピーして数字だけ差し替えるやり方をすると、読み替え漏れが起きます。連結と個別で別に作るのが確実です。
影響額を出す作業の進め方
科目別の影響額は、修正前と修正後の財務諸表を並べて差分を取る形で集計します。実務では、修正前の数値を残したワークシートを作り、修正仕訳を別列に置いて、その合計を影響額として拾う進め方が確実です。仕訳を本表に直接入れてしまうと、後から影響額を復元できなくなります。
この作業は、監査法人にもそのまま説明資料として渡せます。注記の金額の根拠を求められたときに、集計の過程がそのまま出せる状態にしておいてください。
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📅 半期報告書ではどう扱うか
期中の開示でも同じ論点が出ます。半期報告書に載せる比較情報をどこまで直すのか、注記をどう書くのかは、年度の財務諸表とは別に整理する必要があります。この点は半期報告書の会計方針の変更・修正再表示|比較情報はどこまで直すかで扱っています。
期中に誤りが見つかったとき、次の年度決算まで待つのか、期中の開示で直すのかは、金額の重要性と発見の時期によります。判断が遅れるほど選択肢が減るので、見つかった段階で監査法人に伝えてください。
🧾 税務はどうなるか
会計上さかのぼって直しても、提出済みの申告書は自動的には直りません。税額が過大だった場合は更正の請求、過少だった場合は修正申告という別の手続が必要になります。更正の請求には期限があるため、会計の処理と並行して税務の対応も検討することになります。
手続と期限については更正の請求の期限と修正申告|過年度の誤りを税務上どう直すかを、確定決算主義との関係は過年度遡及処理と税務|確定決算主義との関係と申告調整の考え方をご覧ください。
📊 主な科目への影響額をどこまで書くか
二の記載事項は、財務諸表の主な科目に対する影響額です。すべての科目を並べる必要はありませんが、どこまでを主な科目とするかの判断が要ります。
目安になるのは、読み手が影響の大きさを把握できるかどうかです。貸借対照表であれば、動いた資産・負債の科目と純資産への影響、損益計算書であれば、売上高から当期純利益までの主要な段階損益は入れておくのが通例です。段階損益を飛ばして最終利益だけを書くと、どこで効いたのかが読めません。
表示方法の変更や会計方針の変更と混ざらないように
同じ期に会計方針の変更も行っている場合、注記が並びます。誤謬の訂正は過去の誤りを直すもので、会計方針の変更は正しかった処理を別の正しい処理に変えるものです。性質が違うので、注記も分けて書きます。この区別は会計方針の変更と見積りの変更・誤謬の違い|判定フローで整理で扱っています。会計方針の変更の注記の書き方は会計方針の変更の注記の書き方と記載例をご覧ください。
✅ 書くまでの手順
3番目の切り分けが要です。ここを間違えると、二と四の金額が入れ替わります。
訂正報告書を出す場合
すでに提出した有価証券報告書の数値が誤っていた場合、修正再表示の注記とは別に、訂正報告書の提出が必要かどうかの判断が出てきます。注記だけで済ませられるのか、過去の報告書自体を直すのかは別の論点です。提出範囲や監査報告書の再発行については有価証券報告書の訂正報告書|提出範囲・監査報告書の再発行と実務対応で扱っています。
❓ よくある質問
A. 使えないわけではありませんが、会社計算規則102条の5が求めているのは誤謬の内容と期首の純資産額への影響額の2つです。科目別の金額や一株当たり情報は求められていません。
A. あります。誤りが前事業年度より前から続いていた場合、前事業年度分は二に、それより前の分は四に出ます。前事業年度だけの誤りであれば四はゼロです。
A. 記載事項として求められているため、原則として書きます。全体として重要性が乏しく注記自体を省略する場合を除いて、三だけを落とすことはできません。
A. この注記は修正再表示を行った場合の定めです。重要性が乏しく当期の損益で処理した場合には、この注記の対象になりません。修正再表示か当期処理かの分かれ目は別の論点です。
A. 期中の開示には別の定めがあり、比較情報をどこまで直すかも含めて整理が必要です。年度の注記をそのまま流用しないでください。
A. 直りません。税額が過大だった場合は更正の請求、過少だった場合は修正申告という別の手続が要ります。更正の請求には期限があります。
A. この注記の記載事項ではありません。内部統制報告書や適時開示など、別の場面で説明することになります。
A. 申請書類に載せる期の財務諸表を直すことになるため、影響が広く出ます。監査法人と主幹事証券会社に早く伝えて、スケジュールへの影響を確認してください。
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注記の書き方と記載例は会計上の見積りの変更の注記の記載例|耐用年数を変えたときの書き方で解説しています。
📄 まとめ
誤謬の訂正に関する注記は、金融商品取引法と会社法で名前も記載事項も違います。財務諸表等規則8条の3の7は修正再表示に関する注記として4項目を、会社計算規則102条の5は誤謬の訂正に関する注記として2項目を求めています。連結については、連結財務諸表規則14条の8が財務諸表等規則8条の3の7を準用しています。
4項目のうち間違えやすいのが、前事業年度における影響額と、前事業年度の期首における累積的影響額です。前者はその期の1年間、後者は期首時点までの累計を見ています。誤りが何期にまたがっていたのかを切り分けるところから始めてください。
有価証券報告書の注記をそのまま計算書類に流用すると、求められていない情報まで載ります。金商法用と会社法用は、最初から別のものとして書き分けるのが確実です。
📚 参考(公的な一次情報)
- 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則 8条の3の7(修正再表示に関する注記)
- 連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則 14条の8(修正再表示に関する注記)
- 会社計算規則 102条の5(誤謬の訂正に関する注記)、98条1項6号
誤りの内容と金額をお聞かせいただければ、修正再表示の対象になるかの判断、表示期間との切り分け、科目別の影響額の集計、金商法用と会社法用の注記文案まで整理してお返しします。上場準備中に直前期の誤りが見つかった場合の進め方もご相談ください。公認会計士・税理士が直接お受けします。初回のご相談は無料です。
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