「親の家は台東区の古い一戸建て。特別お金持ちというわけではないし、うちは相続税なんて関係ないだろう」——そう思っていた方が、いざ計算してみて驚くことがあります。
上野・浅草・入谷といった台東区のエリアは、ここ数年、土地の値段が上がり続けています。土地の値段が上がるということは、相続税を計算するときの「自宅の値段」も上がるということです。
この記事では、令和8年分の路線価をもとに、台東区の自宅がいくらで評価されるのか、そして相続税がかかるラインを超えるのかどうかを、税金の知識がまったくない方にもわかるように解説します。
- 路線価とは何か、どこで見られるのか
- 令和8年分の台東区(上野・浅草)の最高路線価と上昇率
- 自宅の土地の相続税評価額の計算のしかた
- 「自宅+預金」で基礎控除を超えるかどうかのモデル試算
- 小規模宅地等の特例で8割減額できるケースと、その落とし穴
この記事の見出し
📍 路線価とは?相続税で自宅の土地を評価するための価格
路線価(ろせんか)とは、道路に面する土地1平方メートルあたりの価額のことで、相続税や贈与税で土地を評価するために国税庁が毎年定めているものです。正式には「相続税路線価」といいます。
路線価には、押さえておきたい性質が3つあります。
- その年の1月1日を評価時点として定められる(1年間はその価格を使う)
- 地価公示価格等を基にした価格の80%程度を目途に定められている
- 毎年7月ごろに国税庁ホームページで公表される(令和8年分は令和8年7月1日に公開)
※ 路線価が定められていない地域(倍率地域)の土地は、固定資産税評価額に一定の倍率を掛けて評価します(国税庁タックスアンサー No.4602 土地家屋の評価)。台東区の市街地は基本的に路線価地域です。
つまり、令和8年中に亡くなった方の相続では、令和8年分の路線価を使って自宅の土地を評価します。亡くなった時点で不動産屋さんが「この土地なら○千万円で売れますよ」と言った金額ではなく、国税庁が定めたこの価格が出発点になる、という点がポイントです。
🧾 令和8年分の路線価:台東区(上野・浅草)はどうだったか
令和8年分の路線価は、令和8年7月1日に公表されました。全国の標準宅地の平均変動率はプラス2.9%で、5年連続の上昇となっています。都道府県別では東京都がプラス9.4%と全国で最も高い上昇率でした。
台東区には税務署が2つあり、国税庁(東京国税局)は税務署ごとの「最高路線価」を公表しています。令和8年分は次のとおりです。
出典:国税庁「令和8年分 東京国税局各税務署管内における最高路線価」。千円単位の公表値を万円に換算しています。
| 税務署 | 最高路線価の所在地 | 令和8年分 | 前年比 |
|---|---|---|---|
| 東京上野税務署 | 台東区上野4丁目 中央通り | 1,112万円/㎡ | +10.3% |
| 浅草税務署 | 台東区浅草1丁目 雷門通り | 737万円/㎡ | +27.5% |
浅草1丁目の雷門通りは、前年比プラス27.5%。これは東京国税局管内(東京・千葉・神奈川・山梨)の各税務署の最高路線価のなかで、上昇率が最も高い地点でした。訪日観光客の回復による店舗需要が背景にあるとみられています。
上の数字は、その税務署の管内で最も高い1地点の価格です。上野の中央通りや浅草の雷門通りといった商業地の目抜き通りであり、住宅街の路線価はこれよりずっと低くなります。入谷や谷中、根岸などの住宅地でお住まいの方は、必ずご自宅の前の道路の路線価をご自身で確認してください。
路線価図は、国税庁「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」で、誰でも無料で閲覧できます。平成30年分から最新年分までが掲載されています。台東区の場合は「東京都 → 台東区」と進み、地図上でご自宅の場所を探すと、前面道路に「500D」のような数字と記号が書かれています。この数字が千円単位の路線価で、「500」なら1㎡あたり50万円という意味です。
※ 路線価図の具体的な見方や、借地権割合を表すアルファベットの意味は、連載第17回「路線価の調べ方とは?不動産の相続税評価とマンションの新ルール」で詳しく解説しています。
🏠 自宅の土地はいくらで評価される?計算のしくみ
路線価がわかったら、次は評価額の計算です。基本の考え方はとてもシンプルで、「路線価 × 補正率 × 地積(面積)」です。
補正率は土地の奥行や形状に応じたもので、整形地では1.00となることもあります。
補正率とは、旗竿地(はたざおち)のように使いにくい形の土地や、奥行きが極端に長い土地について、評価額を下げるための調整です。逆に、角地のように2つの道路に面している土地は評価額が上がる調整もあります。整った四角い土地であれば「路線価 × 面積」がおおよその評価額と考えて差し支えありません。
建物のほうは、路線価は使いません。市区町村が定める固定資産税評価額がそのまま相続税の評価額になります。台東区役所から毎年届く固定資産税の納税通知書に記載されています。実際の建築費よりかなり低い金額であることが一般的です。
※ 分譲マンションの一室については、令和6年1月1日以後に相続・遺贈・贈与で取得したものから、市場価格との乖離を補正する新しい評価ルール(居住用の区分所有財産の評価)が適用されています。
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💰 台東区の「自宅+預金」で基礎控除を超えるか
相続税は、遺産の総額が「基礎控除額」を超えたときにはじめてかかります。基礎控除額の計算式は次のとおりです(相続税法15条、国税庁タックスアンサー No.4152 相続税の計算)。
基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
相続人が1人なら3,600万円、2人なら4,200万円、3人なら4,800万円です。
特例を使って基礎控除以下になる場合でも、申告そのものは必要です(次の章で解説します)。
では、台東区の一戸建てを例に、実際に数字を当てはめてみます。ここでは路線価を1㎡あたり50万円と仮定します(住宅地を想定した仮の数値です。実際の路線価はご自宅ごとに確認してください)。
前提とする財産(いずれも仮の数値)
- 自宅の土地 100㎡ × 路線価50万円 = 5,000万円
- 自宅の建物(固定資産税評価額) 600万円
- 預貯金 1,500万円
- 合計 7,100万円
| ケース | ケースA:配偶者と子1人が相続し、配偶者が自宅を取得 | ケースB:別居で持ち家のある子1人だけが相続 |
|---|---|---|
| 法定相続人の数 | 2人 | 1人 |
| 基礎控除額 | 4,200万円 | 3,600万円 |
| 小規模宅地等の特例 | 配偶者が取得するため適用できる | 要件を満たさず適用できない |
| 土地の評価額 | 5,000万円 → 1,000万円 | 5,000万円のまま |
| 課税価格の合計 | 3,100万円 | 7,100万円 |
| 結論 | 基礎控除以下のため相続税は0円。ただし特例を使うので申告は必要 | 基礎控除を3,500万円超過。相続税の総額は500万円 |
※ ケースBの計算:7,100万円 − 3,600万円 = 3,500万円。相続人が子1人のため、3,500万円 × 税率20% − 控除額200万円 = 500万円(相続税法16条・速算表による)。実際には葬式費用や債務の控除、各種の税額控除があるため、金額は事案ごとに変わります。
同じ財産でも、誰がどう相続するかで税額がまったく違うことがおわかりいただけると思います。そして台東区のように地価の高い地域では、「特別な資産家ではない、自宅と多少の預金があるだけ」というご家庭でも、あっさり基礎控除を超えてしまいます。
実際、国税庁の「令和6年分 相続税の申告事績の概要」によると、亡くなった方のうち相続税の課税対象となった方の割合(課税割合)は全国で10.4%と過去最高を更新し、東京国税局管内では16.2%と全国平均を大きく上回っています。「10人に1人」ではなく「6人に1人」が対象になる地域だ、ということです。
路線価の確認から特例の適用可否まで、上野・浅草・入谷の地域事情を踏まえてご説明します。
⚖️ 小規模宅地等の特例:自宅の土地が8割引きになる制度
先ほどのケースAで土地が5,000万円から1,000万円に下がったのは、「小規模宅地等の特例」を使ったからです。亡くなった方が住んでいた自宅の敷地(特定居住用宅地等)について、330㎡までの部分の評価額を80%減額できる制度です(租税特別措置法69条の4、国税庁タックスアンサー No.4124 小規模宅地等の特例)。
ただし、誰が取得しても使えるわけではありません。取得者ごとに要件が決まっています。
| 取得する人 | 主な要件 |
|---|---|
| 配偶者 | 要件なし。取得すればそれだけで適用できる |
| 同居していた親族 | 相続開始のときから相続税の申告期限まで、その家に住み続け、かつその土地を持ち続けること |
| 同居していない親族 (いわゆる家なき子) |
配偶者も同居親族もいない場合に限られ、その親族が相続開始前3年以内に自己または一定の親族等が所有する家に住んでいないことなどが必要 |
小規模宅地等の特例を適用した結果、税額が0円になったとしても、相続税の申告書を提出しなければ特例そのものが受けられません。「税金が0円だから申告しなくていい」と考えて放置すると、後から本来の評価額で課税されてしまいます。期限は亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です(相続税法27条)。
また、この特例を使うには、申告期限までに遺産分割が終わっていることが原則です。相続人どうしで話がまとまらないまま10か月が過ぎると、いったんは特例なしで納税することになります(一定の手続をとれば、後から分割が成立した際に適用を受けられる場合があります)。地価の高い台東区では、この「話し合いの遅れ」が数百万円単位の差になり得ます。
⏰ 地価が上がっている今こそ、生前に把握しておく
路線価は毎年1月1日を評価時点として定められ、毎年7月ごろに新しい年分が公表されます。つまり、何もしなくても評価額は毎年動きます。上野・浅草のように上昇が続いている地域では、「数年前に試算したときは基礎控除以下だった」という結果が、今はもう当てはまらないことも珍しくありません。
📍 どこで・⏰ いつまでに・🧾 何を持って
- 📍 どこで:国税庁ホームページの「路線価図・評価倍率表」(自宅から無料で閲覧できます)
- ⏰ いつまでに:毎年7月に新年分が公表されるので、年1回の確認がおすすめです
- 🧾 何を持って:登記事項証明書または固定資産税の納税通知書(地番と面積を確認するため)
把握したうえで対策を考えるなら、暦年課税の贈与や相続時精算課税といった生前贈与の制度も選択肢になります。ただし相続開始前の一定期間内の贈与は相続財産に加算されるルールがあり、始めるタイミングが結果を左右します。詳しくは連載第25回「生前贈与の非課税枠110万円とは?7年加算と相続時精算課税の基本」で解説しています。
❓ よくある質問
相続税の申告では、原則として路線価をもとに計算した評価額を使います。路線価は地価公示価格等を基にした価格の80%程度を目途に定められているため、市場での売買価格より低くなるのが通常です。ただし、著しく不適当と認められる場合など、例外的に取扱いが異なることもあります。
いいえ。あの数字は東京上野税務署の管内で最も高い1地点(上野4丁目の中央通り)の路線価です。入谷や根岸などの住宅地はこれよりはるかに低い水準です。ご自宅の前面道路の路線価を、路線価図でご確認ください。
増えません。相続税は亡くなった日を基準に計算するため、その年分の路線価で評価が確定します。その後の値上がり・値下がりは相続税には影響しません(売却した場合の譲渡所得税は別の話です)。
📄 まとめ
- 路線価は相続税で土地を評価するための価格で、その年の1月1日時点、地価公示価格等を基にした価格の80%程度が目途
- 令和8年分は全国平均+2.9%、東京都は+9.4%で全国トップの上昇
- 台東区の最高路線価は上野4丁目中央通り1,112万円/㎡(+10.3%)、浅草1丁目雷門通り737万円/㎡(+27.5%)
- 土地の評価は「路線価 × 補正率 × 地積」。建物は固定資産税評価額
- 基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数。台東区では自宅+預金で超えるケースが多い
- 小規模宅地等の特例で330㎡まで80%減額できるが、取得者の要件があり、適用には申告が必要
ご自宅の路線価を調べてみて、基礎控除を超えそうだと感じたら、早めに全体像を確認しておくと安心です。相続手続き全体の流れは、親が亡くなったらやることは?相続手続きの流れと期限一覧をご覧ください。連載の全30回の目次は相続税 完全ガイド|初めての相続を全30回でやさしく解説にまとめています。
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公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。相続税の申告と事業承継の支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
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