IPO審査の「親会社等からの独立性」とは?子会社上場で問われる3つの基準を解説

IPOの実質審査基準のうち「企業経営の健全性」は、大きく二つの柱に分かれます。ひとつは関連当事者や特別利害関係者との取引に関する柱、もうひとつが、親会社等を有する会社に求められる独立性の柱です。後者はいわゆる「子会社上場」の審査であり、上場後も親会社等が大きな議決権を持ち続けることを前提に、少数株主の利益が守られるかを確かめる基準です。

この記事では、東証の新規上場ガイドブック(プライム・スタンダード・グロース、2026年7月21日版)と有価証券上場規程・上場審査等に関するガイドラインの記載にもとづき、親会社等からの独立性として何が問われるのか、3つの下位基準(一事業部門でないこと・不利益な取引の強制や誘引がないこと・出向者に過度に依存していないこと)を軸に整理します。あわせて、取締役会の構成と兼職の見方、親会社等に関する開示の基準、申請時に提出する書類まで通して確認します。

親会社からの独立性を示せるか親会社との関係を確かめる事業の内容が親会社と重複しているか独立性の説明が難しくなるはいいいえ取引の条件が独立の当事者間と異なるか条件の妥当性を示すはいいいえ役員の兼任が多いか体制を見直すはいいいえ独立性を確保する仕組みを整えて説明する

図 親会社等からの独立性の確認

「親会社等からの独立性」は審査基準のどこに位置づけられているか

東証の実質審査基準は5つの適格要件で構成されており、そのうち「企業経営の健全性」の中に、親会社等を有する場合の独立性に関する基準が置かれています。条文の場所は市場ごとに異なりますが、基準の文言そのものは3市場でほぼ共通です。上場審査等に関するガイドラインでは、いずれの市場でも「新規上場申請者の企業グループの経営活動が当該親会社等からの独立性を有する状況にあると認められること」と定められ、その下にa〜cの3つの下位基準がぶら下がる構造になっています。

市場 有価証券上場規程 上場審査等に関するガイドライン
プライム 第213条第1項第2号(企業経営の健全性) Ⅲ 3.(3)a〜c
スタンダード 第207条第1項第2号(企業経営の健全性) Ⅱ 3.(3)a〜c
グロース 第219条第1項第2号(企業経営の健全性) Ⅳ 3.(3)a〜c

条番号・ガイドラインの項番は、東証「新規上場ガイドブック」(プライム・スタンダード・グロース、2026年7月21日版)の各市場版に記載された表記によります。

したがって、市場を変えれば独立性の要求水準が下がる、という関係にはありません。グロース市場を選んだとしても、親会社等を有するのであれば、プライム市場と同じa〜cの観点で確認を受けることになります。市場区分そのものの違いについては市場区分とは?東証プライム・スタンダード・グロースの違いとIPOでの選び方で整理しています。

図1 親会社等からの独立性 ─ 3つの下位基準の全体像企業グループの経営活動が親会社等からの独立性を有する状況にあること(親会社等を有する場合。上場後最初に終了する事業年度末までに有しない見込みの場合を除く)a 一事業部門でない事業内容の関連性、事業調整の状況その他の事項を踏まえ、事実上、親会社等の一事業部門と認められる状況にない意思決定を自ら行えているかb 不利益取引の強制なし通常の取引の条件と著しく異なる条件での取引等、いずれかの不利益となる取引行為を強制または誘引していない条件の設定方法を説明できるかc 出向者に過度に依存せず出向者の受入れ状況が親会社等に過度に依存しておらず、継続的な経営活動を阻害するものでないと認められる代替要員を確保できるかa〜c「その他の事項」も含めて総合的に判断される

図1 親会社等を有する場合に確認される3つの下位基準。文言は3市場で共通し、条番号とガイドラインの項番のみが異なる。

そもそも「親会社等」とは何を指すのか

独立性の基準が適用されるかどうかは、まず「親会社等」に該当する会社があるかで決まります。東証の新規上場ガイドブックは、この用語を財務諸表等規則の定義に接続して説明しています。すなわち、「親会社」は財務諸表等規則第8条第3項に規定する親会社を指し、「親会社等」は、その「親会社」に加えて、同規則第8条第17項第4号に規定するその他の関係会社またはその親会社を含む概念です。

ここで重要なのは、議決権の過半数を握られている典型的な親子関係だけが対象ではない、という点です。その他の関係会社、すなわち申請会社が相手方の関連会社となっているような関係にある会社も、「親会社等」として独立性の審査対象に入ってきます。持分法の適用関係にとどまるからといって、独立性の論点が生じないわけではありません。

ただし例外があります。上場前の公募または売出し等によって、上場後最初に終了する事業年度の末日までに「親会社等」を有しないこととなる見込みがある場合は、この基準の適用対象から除かれます。上場のタイミングで親会社等の持分が下がり、支配関係が解消される見込みが立っているケースがこれにあたります。

図2 「親会社等」に含まれる会社の範囲① 親会社財務諸表等規則第8条第3項に規定する親会社典型的な親子関係② その他の関係会社財務諸表等規則第8条第17項第4号に規定するその他の関係会社申請会社が相手方の関連会社③ ②の親会社その他の関係会社の親会社1階層上まで及ぶ①〜③のいずれかを有する場合が「子会社上場」として独立性の審査対象になる除外:上場後最初に終了する事業年度の末日までに親会社等を有しないこととなる見込みの場合

図2 「親会社等」の範囲。持分法の関係にとどまる「その他の関係会社」も対象に含まれる点に注意が必要。

実務上は、資本関係の一覧を作るだけでは足りません。誰が申請会社の関連会社としての地位を生じさせているか、その相手方に親会社がいないかまで遡って確認し、該当があれば、後述するa〜cの観点で説明資料を組み立てていくことになります。

なぜ子会社上場は慎重に審査されるのか

東証の新規上場ガイドブックは、子会社上場について「親会社等と申請会社の少数株主との間には潜在的な利益相反の関係がある」と説明しています。親会社等はグループ全体の利益を最大化しようとする動機を持ちますが、申請会社の少数株主は申請会社自身の利益に関心があります。この両者がぶつかったとき、議決権の大きな割合を握る親会社等の意向が通りやすい構造にあることが、慎重な審査の理由です。

上場後の姿として望ましいと示されている方向

ガイドブックは、上場会社のガバナンス上、特定の親会社等が大きな影響力を持つのは望ましいものではなく、将来的には親会社等による出資比率を下げる親会社等の役員と兼職をする役員を減らすなどの対応を図り、申請会社が独自の経営を行える形態に移行していくことが望ましい、という考え方を示しています。上場時点で完全に解消されている必要はないものの、どの方向に向かうのかを説明できることが期待されている、と読むのが実務感覚に近いでしょう。

特に慎重に対応されるケース

  • 親会社と実質的に一体の子会社の上場
  • 中核的な子会社(親会社グループの企業価値の相当部分を占めるような子会社)の上場

これらについてガイドブックは、金融商品市場において実質的には新しい投資物件であるとは言えないこと、上場している親会社が中核事業を担う子会社を上場させて新規公開に伴う利得を二重に得ようとしているものではないかと考えられることを理由に、審査において慎重に対応するとしています。

一方で、申請会社が他の金融商品取引所においてすでに上場している場合には、新規公開に伴う利得を二重に獲得しようとしているとは必ずしもいえず、この懸念は低いものと考えられる、とも書かれています。ただしその場合も、他の金融商品取引所における新規上場時の状況は考慮されます。

また、親会社の業績変動や申請会社の成長によって、親会社グループの企業価値に占める申請会社の割合が相当程度大きくなることもあります。この点についてガイドブックは、一時的な業績の変動の状況のみをもって判断するのではなく、過去の業績推移の状況や将来の収益見通し等を総合的に勘案したうえで判断する、としています。単年度の数値だけで「中核子会社にあたる」と決めつけられるわけではない、ということです。

基準a:事実上、親会社等の「一事業部門」と認められる状況にないこと

aは、独立性の中心にある基準です。ガイドラインは、申請会社の企業グループの事業内容と親会社等の企業グループの事業内容の関連性、親会社等の企業グループからの事業調整の状況およびその可能性その他の事項を踏まえ、事実上、当該親会社等の一事業部門と認められる状況にないことを求めています。

典型的に問題になるのは、親会社等の一事業部門を分社化して設立された会社です。ガイドブックは、こうした会社では申請会社の事業活動が親会社等の事業活動の一部の機能を担うのみで、申請会社自らが事業活動上の意思決定を行わず、専ら親会社等の指示のみにより事業活動を行っていることも考えられる、と指摘しています。その状態が続けば、親会社等の裁量により、本来は申請会社の株主に還元されるべき利益が不当に侵害される可能性が高くなります。

確認される4つの観点

ガイドブックは、申請会社が独自に事業活動を行う機能を有しているか、親会社等から独立した経営が行える状況にあるかを判断するために、次のような点を確認するとしています。

図3 「一事業部門ではない」ことを確かめる観点1事業内容の関連性と事業調整親会社等グループ内に類似事業を営む会社がないか、調整を受けていないか2役員の兼任の状況兼任が申請会社自らの意思決定を阻害する状況になっていないか3日常の業務運営の意思決定自らの意思決定で行われ、親会社等からの指示に依存していないか4事前承認を求める規定の有無業務上の意思決定について事前に親会社等の承認を求める規定がないか独自に事業活動を行う機能を有しているかを、これらの点から確認する

図3 東証の新規上場ガイドブックが挙げる確認事項を4つの観点に整理したもの。

4つ目の「事前承認を求める規定」は、関係会社管理規程やグループ管理規程に潜んでいることが多い論点です。グループ内の統制として合理的に見える条項でも、上場後は申請会社の意思決定を縛る材料になり得ます。申請会社が自ら決められる範囲がどこまでかを規程レベルで説明できるように整理しておく必要があります。

親会社等グループに類似事業がある場合

ガイドブックは、親会社等の企業グループの中に申請会社の事業内容と類似している事業を営んでいる会社が存在する場合は、親会社等が申請会社の利益よりもグループ全体の利益を優先させる可能性がある点を指摘しています。この場合、親会社等から独立した経営を行う理由や、親会社等による申請会社に対する事業調整の内容なども踏まえて、親会社等から不当な事業調整を受けないだけの独立性を有しているかが判断されます。

また、申請会社が親会社等の「一事業部門」である懸念があり、親会社等の申請会社に対する出資比率も高い場合(連結子会社である場合など)には、出資比率の引下げが論点になり得ることもガイドブックに示されています。

親会社等に対して売上を計上している場合の考え方

売上の相手先が親会社等である場合、それだけで一事業部門と判断されるわけではありません。ガイドブックは、親会社等と事業活動において密接なつながりがあることを前提に、申請会社が果たしている実質的な機能等を慎重に確認したうえで、親会社等に事業上専ら依存している状況にないかを見る、という考え方を示しています。

状況 ガイドブックに示された考え方
親会社等自身が最終的な受領者となるサービスを、親会社等の指示に従って提供している 一事業部門に該当すると判断することがある
自ら営業活動を行うことなく、優先的に親会社等からの注文を得られている 一事業部門に該当すると判断することがある
自社の技術やノウハウ等に基づき最終顧客に自ら営業活動を行い、顧客との関係上、親会社等が形式的販売窓口(取引口座)となっている 一事業部門には該当しない
親会社等以外に売上を計上していても、独自の技術やノウハウ等を有していない、または営業活動を全般的に親会社等に依存している 事業活動を親会社等に全般的に依存していると判断され、一事業部門に該当することがある

この表からわかるのは、判断軸は売上比率そのものではなく、営業機能と意思決定機能が自社にあるかだということです。親会社等向けの売上比率が高くても、最終顧客への提案や価格決定を自社が担っているのであれば説明の余地があり、逆に外部売上が中心でも、案件の獲得を親会社等に依存していれば論点は残ります。

基準b:不利益となる取引行為を強制または誘引していないこと

bは、申請会社の企業グループまたは親会社等の企業グループが、通常の取引の条件(例えば市場の実勢価格)と著しく異なる条件での取引等、当該親会社等または当該申請会社の企業グループの不利益となる取引行為を強制または誘引していないこと、という基準です。

注意したいのは、不利益を被る側が申請会社に限定されていない点です。申請会社側が親会社等に不利益な条件を押し付ける形であっても、この基準の対象になります。また、取引条件の決定方法において恣意性が働きやすいこと自体が問題視されており、結果として条件が有利か不利かだけでなく、どのように条件を決めたかが問われます。

取引類型ごとの確認軸

「通常の取引と同様の条件」かどうかの確認にあたっては、他の取引との取引条件の比較や、取引条件の設定方法の確認が行われます。ガイドブックは取引類型ごとに次のような比較対象を挙げています。

取引類型 比較・確認の対象として挙げられているもの
営業取引 他の一般の取引先との取引条件との比較を中心に検討
資金取引 市中金利との比較
債務保証を受けている場合 保証料の決定方法
不動産の賃貸借取引 近隣相場との比較、必要に応じて不動産鑑定評価
ブランド使用料 親会社等の企業グループに属する他社の取引条件との比較、使用料の決定方法

上記に加えて、それぞれの取引について過去における取引条件の推移の状況なども考慮される旨がガイドブックに示されています。

ブランド使用料は、親子間で慣行的に決めた料率がそのまま続いているケースが少なくありません。グループ内の他社と料率が違う場合、その差の理由を説明できるかがポイントになります。料率の根拠資料が残っていないという状態は、申請直前に慌てて作り直すことになりがちです。

資金取引と債務保証は時期にも注意

親会社等から不動産を賃借している場合、親会社等から借入を行っている場合、外部からの借入金に親会社等からの債務保証を受けている場合、親会社等からの受入れ出向者が存在する場合については、それぞれの関係における親会社等への依存度(比率・金額など)や事業上の必要性が確認されます。

特に借入金や債務保証については、基準事業年度の初日以降に親会社等から直接新規の借入れ等を行うことが論点として扱われます。グループ内のファイナンスカンパニー(いわゆるCMS)からの借入れについては、申請会社が外部金融機関からの資金調達能力を示すなど、申請会社独自の資金調達能力に疑念が認められない場合には、基準事業年度初日以降の借入れについても弾力的に取り扱われる旨がガイドブックに記載されています。

裏を返せば、親会社等に頼らずに資金を調達できることを実績で示せるかが実務上の分かれ目になります。上場申請の前に外部金融機関との取引実績を作っておく、CMSへの依存度を段階的に下げておく、といった準備が効いてきます。

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親会社等との取引条件の整理、関係会社管理規程の見直し、出向者の代替要員計画など、上場審査で説明を求められる論点は準備に時間がかかります。現状の整理からご相談いただけます。

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基準c:出向者の受入れが親会社等に過度に依存していないこと

cは、申請会社の企業グループの出向者の受入れ状況が、親会社等に過度に依存しておらず、継続的な経営活動を阻害するものでないと認められること、という基準です。ガイドブックによれば、この基準に基づく審査では、申請会社の企業グループが親会社等の企業グループから独立して事業活動を行ううえで必要な人員を確保できる状況にあるかどうかが確認されます。

どこに配置されているかが見られる

出向者を受け入れていること自体が直ちに問題になるわけではありません。見られているのは配置です。ガイドブックは、独立性の観点で親会社等からの影響を受けやすい部門を管掌する役員および部門長に出向者が配置されている場合などは、親会社等からの独立性の観点で問題があるものと考えられる、としています。

一方で、経営方針の決定や親会社等との取引に関係のない部門を管掌する役員および部門長に出向者が配置されているケースについては、支配力に与える影響を考慮したうえで認められるものと判断することもある、とも記載されています。人数を機械的に絞ることよりも、どのポストに誰がいるかを説明できるかが実務の焦点になります。

代替要員を確保できるかという継続性の視点

もうひとつの視点は事業の継続性です。ガイドブックは、出向契約が解消された場合に代替要員の確保が可能であるなど、親会社等からの出向者の状況が申請会社の企業グループの事業の継続に影響を与えないことも重要だとしています。

  • 出向者が有する専門知識やノウハウに依存しており、代替性がない場合は、継続性に支障を来す可能性が高いと考えられる
  • 外部登用や内部昇格等により代替要員を確保できる見込みが確認されれば、継続性の有無に影響を与えないものと判断することもある

つまり、出向者を一律にプロパー社員へ置き換えることが求められているのではなく、置き換えられる状態にあることを示せるかが問われています。採用計画、後任候補の育成状況、業務の標準化やマニュアル整備の進捗といった資料が、そのまま説明材料になります。

取締役会の構成と兼職はどう見られるか

親会社等を有する場合、役員構成にも固有の視点が入ります。ガイドブックは、親会社等の役職員と兼職している取締役、または親会社等から出向している取締役の合計人数が取締役会(指名委員会等設置会社においては各委員会を含む)の半数以上を占める場合や、定款において定められた決議要件の加重により、その経営方針の決定や業務執行に当たって親会社等の影響を強く受ける形態である場合には、少数株主保護の観点から審査の進め方はより慎重なものとなる、と述べています。

「半数以上」という目安が示されている一方で、この人数を下回れば足りるという趣旨ではありません。ガイドブックは、役員の構成や兼職の状況を検討する際には、上場会社としてのコーポレート・ガバナンスの重要性を十分に認識したうえで、経営効率の向上、企業倫理の確立、経営に対する有効なチェック機能の確保といった観点から適切に対応されるべきと考えられる、としています。

親会社等の役職員による出資・新株予約権の付与

ガイドブックは、企業経営の健全性に関連して、まれに親会社等の役職員が申請会社へ出資しているケース、親会社等の役職員へ新株予約権を付与しているケースが見られるとしたうえで、申請会社の事業運営に直接関わりのない親会社等の役職員による出資等は、経営責任の明確化やインセンティブ付与といった合理性・必然性に乏しいことから、審査においては慎重に対応する、と明記しています。

資本政策の初期段階で、親会社の役員に「お付き合い」で株式やストックオプションを持ってもらう、という発想は避けたほうが無難です。株式まわりの整備についてはIPOにおける株主数の要件とは?数え方・確保の方法・名義株の整理まで解説もあわせてご確認ください。

親会社等に関する「開示の有効性」の基準

独立性のa〜cとは別に、親会社等を有する場合には親会社等の情報が開示されている状況にあることを求める基準が置かれています。申請会社は上場後も親会社等との取引関係等を通じてさまざまな影響を受けるため、投資者にとっては親会社等の情報も投資判断の有用な材料になる、というのが趣旨です。

基準は、次のaまたはbのいずれかに該当することを求めています。

 親会社等が発行する株券等が国内の金融商品取引所に上場されていること(外国金融商品取引所等において上場または継続的に取引されており、かつ、当該親会社等または当該外国金融商品取引所等が所在する国における企業内容の開示の状況が著しく投資者保護に欠けると認められない場合を含む)。

 申請会社が、その経営に重大な影響を与える親会社等(aに適合する親会社等を除く)に関する事実等の会社情報を適切に把握することができる状況にあり、当該会社情報のうち申請会社の経営に重大な影響を与えるものを投資者に対して適切に開示することに、当該親会社等が同意することについて書面により確約すること

なお、この基準を適用する親会社等とは、親会社等のうち申請会社に与える影響が最も大きいと認められる会社であり、その影響が同等と認められるときはいずれか一つの会社となります。影響が最も大きい親会社等の判断にあたっては、申請会社と親会社等とのグループ内での位置付けや、親会社等との間における出資、資金、人事、技術、取引等の関係等を参考に判断される旨がガイドブックに示されています。

グロース市場だけに置かれている例外

この開示の基準は、条文上の位置づけが市場によって異なります。プライム市場・スタンダード市場では「企業内容等の開示の適正性」の中に、グロース市場では「企業内容、リスク情報等の開示の適切性」の中に置かれています。さらにグロース市場には、プライム市場・スタンダード市場には見られない例外が付されています。

市場 開示の有効性の基準の位置づけ 例外規定
プライム 規程第213条第1項第4号/ガイドラインⅢ 5.(4) ただし書きの例外なし
スタンダード 規程第207条第1項第4号/ガイドラインⅡ 5.(4) ただし書きの例外なし
グロース 規程第219条第1項第1号/ガイドラインⅣ 2.(4) 申請会社と親会社等との事業上の関連が希薄であり、かつ、親会社等による株式の所有が投資育成を目的としたもので、事業活動を実質的に支配することを目的とするものでないことが明らかな場合は適用しない

ベンチャーキャピタルや事業会社のCVCから出資を受け、その結果として「その他の関係会社」を有する状態になっているスタートアップにとって、グロース市場のこの例外は実務上の意味を持ちます。ただし「事業上の関連が希薄」かつ「投資育成目的であることが明らか」という二つの条件が求められている点には注意が必要です。事業シナジーを前面に出した資本業務提携であれば、この例外には乗りにくいことになります。

申請時に提出が必要になる書類

親会社、支配株主(親会社を除く)またはその他の関係会社(以下「支配株主等」)を有する申請会社は、上場申請時に「支配株主等に関する事項」を提出する必要があります。審査期間中に内容に変更があった場合は、最新の内容に更新のうえ再提出が求められます。

さらに、親会社等を有し、かつ当該親会社等が非上場である場合には、上記に加えて、当該親会社等の直前の決算の内容を記載した書面(「非上場の親会社等の決算情報」)を上場申請時に提出する必要があります。ガイドブックには、この書面の対象について次の点が示されています。

  • 提出対象となる非上場の親会社等は「会社」のみに限定されており、「組合等」は対象の範囲から除かれる
  • 親会社等が複数ある場合には、申請会社に与える影響が最も大きいと認められる会社等1社が適用の対象となる
  • 審査期間中に決算情報が更新された場合は、最新の内容に更新のうえ再提出が必要となる
  • 上場後最初に到来する事業年度の末日において支配株主等または非上場の親会社等を有しないこととなる見込みのある場合は、いずれの書類も提出の必要はない

非上場の親会社の決算情報を東証に提出することは、親会社側にとって心理的なハードルになる場合があります。親会社の合意形成に時間がかかる論点ですので、申請直前ではなく、資本政策を検討する段階で早めに共有しておくのが安全です。

上場後を見据えた少数株主保護の方策

独立性の論点は上場で終わりません。ガイドブックは、支配株主との取引がある場合には独立の立場の取締役や独立委員会などの関与により取引の妥当性を協議し、必要に応じて議決権の少ない株式等の株主に諮るなどの方法で、少数株主保護の方策をとることができる状況であることが必要になる、としています。

また、新規上場申請時に支配株主を有していない場合であっても、上場後に支配株主との取引を行うこととなった場合に備え、「上場後に支配株主を有することとなった場合には、支配株主との取引等を行う際には少数株主の保護の方策をとる旨を確約した書面」を新規上場申請時に提出することとされています。支配株主との取引の状況により株主の権利が尊重されない状況になった場合には、上場廃止事由に該当する可能性もある旨も記載されています。

ここでいう「支配株主」は、財務諸表等規則第8条第3項に規定する親会社、または自己の計算において所有している議決権と、その主要株主の近親者(二親等内の親族)等が所有している議決権とを合わせて、申請会社の議決権の過半数を占めている主要株主をいうものとされています。「親会社等」とは範囲が異なる概念である点に注意が必要です。

準備段階でそろえておきたい資料

  • 親会社等に該当する会社の一覧と、その根拠(出資比率、役員派遣、その他の関係会社に該当する事由)
  • 関係会社管理規程・グループ管理規程のうち、申請会社の意思決定に事前承認を要する条項の洗い出しと見直し
  • 親会社等グループとの取引の一覧(金額・取引条件・条件の決定方法・過去の推移)
  • 営業取引は他の一般の取引先との条件、賃貸借は近隣相場、ブランド使用料はグループ他社の条件という比較資料
  • 親会社等からの借入・債務保証の残高推移と、外部金融機関からの調達実績
  • 出向者の一覧(所属部門・役職・担当業務・出向期間)と、代替要員の確保計画
  • 取締役会の構成一覧(兼職・出向の別を明示)と、定款の決議要件の確認
  • 親会社等が非上場の場合、決算情報の提出について親会社側から得た同意

IPO準備全体の流れはIPO準備 完全ガイド|上場までの流れと審査要件を全11回で解説で、形式要件との関係はIPOの形式要件とは?東証プライム・スタンダード・グロース3市場の上場基準を一覧比較で整理しています。

よくある質問

Q. 親会社の出資比率を50%未満に下げれば独立性の論点はなくなりますか。

出資比率を下げても、申請会社が相手方の関連会社となる関係が残れば「その他の関係会社」として親会社等に該当し得ます。また、基準aは事業内容の関連性や事業調整の状況、意思決定の実態を見るものであり、出資比率だけで結論が決まる構造にはなっていません。

Q. 親会社等向けの売上比率が高いと、それだけで不適合になりますか。

ガイドブックは、比率そのものではなく、申請会社が果たしている実質的な機能等を慎重に確認したうえで、事業上専ら依存している状況にないかを見るとしています。最終顧客への営業活動を自社が行い、親会社等が形式的な販売窓口にとどまる場合は、一事業部門には該当しないと整理される例が示されています。

Q. 親会社等からの出向者は上場までにゼロにする必要がありますか。

ゼロにすることを求める記載はありません。独立性の観点で影響を受けやすい部門を管掌する役員や部門長への配置が問題視される一方、経営方針の決定や親会社等との取引に関係のない部門については、支配力への影響を考慮して認められると判断することもあるとされています。あわせて、出向契約が解消された場合に代替要員を確保できるかが確認されます。

Q. 親会社等が非上場でも上場申請はできますか。

開示の有効性の基準は、親会社等が上場していること(a)または、経営に重大な影響を与える会社情報を適切に把握でき、その開示について親会社等が書面で同意を確約すること(b)のいずれかを求めています。bによる対応が可能ですが、非上場の親会社等の決算情報を上場申請時に提出する必要が生じます。

Q. VCから出資を受けて「その他の関係会社」がいる場合も子会社上場扱いになりますか。

親会社等に該当すれば独立性の基準の対象になります。ただしグロース市場については、事業上の関連が希薄で、かつ株式の所有が投資育成を目的としたもので事業活動の実質的な支配を目的としないことが明らかな場合には、開示の有効性の基準を適用しない旨のただし書きが置かれています。独立性のa〜cとは別の基準である点にご留意ください。

まとめ

親会社等からの独立性は、「親会社等がいるかどうか」で入口が決まり、そこから先は一事業部門ではないこと(a)不利益な取引を強制・誘引していないこと(b)出向者に過度に依存していないこと(c)の3点で確認されます。いずれも上場直前に整えられる論点ではなく、規程の条項、取引条件の決定方法、人員配置と後継者育成といった、日々の運営の積み重ねが問われる領域です。

さらに、開示の有効性の基準と申請時提出書類は、親会社側の理解と同意が前提になります。自社の努力だけでは動かせない部分がある以上、資本政策を描く段階で親会社と論点を共有しておくことが、結果的に一番の近道になります。

親会社等を有する会社のIPO準備をご支援します

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援と内部統制の整備支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

本記事は、東証「新規上場ガイドブック」プライム市場編・スタンダード市場編・グロース市場編(いずれも2026年7月21日版)の記載内容、および有価証券上場規程・上場審査等に関するガイドライン(プライム市場:規程第213条第1項第2号・第4号/ガイドラインⅢ 3.(3)・5.(4)、スタンダード市場:規程第207条第1項第2号・第4号/ガイドラインⅡ 3.(3)・5.(4)、グロース市場:規程第219条第1項第2号・第1号/ガイドラインⅣ 3.(3)・2.(4))にもとづき、独自に構成・執筆したものです。「親会社」および「その他の関係会社」の定義は財務諸表等規則第8条第3項および同条第17項第4号によります。制度は改正されることがありますので、実際の適用にあたっては最新の規程等をご確認ください。

参考:日本取引所グループ「新規上場ガイドブック」日本取引所グループ「制度・規則」(有価証券上場規程等)e-Gov法令検索「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」

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