「同業他社より報酬が高いと否認されるのでしょうか」。役員報酬の相談で、定期同額給与のルールと並んでよく聞かれるのがこの点です。定期同額給与の形はきちんと整えているのに、金額そのものを問題にされるのではないか、という不安です。
この不安には根拠があります。法人税法は、役員給与について2つの別々の関門を置いているからです。ひとつは支給の仕方を縛る第34条第1項の3類型、もうひとつは金額の水準を縛る第34条第2項の過大役員給与です。前者を通っても、後者で否認されることがあります。
この記事では、条文と通達、国税不服審判所の公表裁決事例要旨で確認できた範囲にしぼって、過大役員報酬の判定がどういう構造になっているのか、実質基準と形式基準がそれぞれ何を見ているのかを整理します。役員給与の全体像は役員給与の税務 完全ガイドにまとめています。
この記事の見出し
🧭 支給の仕方の関門と、金額の関門は別
法人税法第34条第1項は、役員に対する給与のうち損金に算入できるものを、定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与の3類型に限定しています。これは支給の仕方の話です。詳しくは定期同額給与とは?改定できる時期と3か月ルールで扱っています。
これとは別に、同条第2項が置かれています。
内国法人がその役員に対して支給する給与(前項又は次項の規定の適用があるものを除く。)の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。(法人税法第34条第2項)
かっこ書きに注目してください。第1項または第3項の規定の適用があるものを除く、とされています。つまり、第1項の3類型に当たらずに全額が損金不算入となった給与や、第3項の隠蔽仮装により損金不算入となった給与は、あらためて第2項で判定されるわけではありません。第1項の関門を通った給与について、第2項がその金額の水準を見る、という順序です。
さらに同条第4項は、前3項に規定する給与には、債務の免除による利益その他の経済的な利益を含むと定めています。金銭の報酬だけでなく、会社が負担した個人的な費用や、無償または低額での資産の貸与といった経済的な利益も、過大かどうかの判定に含まれることになります。
そして「不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額」の中身が、法人税法施行令第70条です。同条は、次に掲げる金額の合計額とすると定めており、3つの号が並んでいます。
| 号 | 対象 | 中身 |
|---|---|---|
| 第1号 | 退職給与以外の役員給与 | イ(実質基準)とロ(形式基準)で計算した金額のうち、いずれか多い金額 |
| 第2号 | 役員退職給与 | 業務に従事した期間、退職の事情、同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等に照らして相当と認められる金額を超える部分 |
| 第3号 | 使用人兼務役員の使用人分賞与 | 他の使用人に対する賞与の支給時期と異なる時期に支給したものの額 |
この記事で扱うのは第1号です。第2号の役員退職給与については「役員退職金の適正額は?功績倍率法の考え方と裁判例の相場」で、第3号については役員給与の税務 完全ガイドから使用人兼務役員の回をご覧ください。
形を整えても、金額の水準は別に判定されます。
📌 実質基準は4つの事情に照らして判定する
施行令第70条第1号イは、内国法人が各事業年度においてその役員に対して支給した給与の額が、次の事情に照らして当該役員の職務に対する対価として相当であると認められる金額を超える場合における、その超える部分の金額と定めています。役員が2人以上いる場合は、それぞれの超える部分の金額の合計額になります。
| 条文が挙げる事情 | 実務で見られること |
|---|---|
| 当該役員の職務の内容 | 担当している業務の範囲、常勤か非常勤か、決裁権限、実際の勤務日数と業務の実態 |
| その内国法人の収益 | 売上高、利益の水準とその推移。報酬の伸び率と業績の伸び率の関係 |
| その使用人に対する給与の支給の状況 | 社内の使用人の給与水準との比較。最上位の使用人の給与との開き |
| 同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する給与の支給の状況等 | いわゆる同業類似法人の支給水準。業種と規模をどう合わせるかが争点になりやすい |
条文は4つを挙げたうえで「等に照らし」と書いています。
ここで大事なのは、条文が「等に照らし」と書いていることです。4つを挙げたうえで「等」を置いているので、この4つだけを機械的に当てはめれば結論が出る、という構造ではありません。逆に言えば、会社の側からも、この4つ以外の事情を持ち出して説明する余地があります。
また、施行令第70条第1号イがいう「その役員に対して支給した給与の額」には、いわゆる役員報酬のほか、その役員が使用人兼務役員である場合に支給するいわゆる使用人分の給料、手当等を含むことに留意する、という通達が置かれています(法人税基本通達9-2-21)。使用人分だから別枠、とは考えられていません。
📐 形式基準は定款や株主総会で定めた限度額を見る
もうひとつが形式基準です。施行令第70条第1号ロは、定款の規定または株主総会、社員総会もしくはこれらに準ずるものの決議により、役員に対する給与として支給することができる金銭その他の資産について、金銭の額の限度額もしくは算定方法などを定めている内国法人が、その役員に対して支給した給与の額の合計額が、その限度額および算定方法により算定された金額などの合計額を超える場合における、その超える部分の金額としています。
前提にあるのが会社法第361条第1項です。取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益についての事項は、定款に当該事項を定めていないときは株主総会の決議によって定めるとされ、額が確定しているものについてはその額を決めることになっています。この決議で定めた枠を超えた支給が、形式基準の超過部分です。
実務でよく問題になるのが、使用人兼務役員の使用人分の扱いです。施行令第70条第1号ロは、使用人としての職務に対するものを含めないで限度額等を定めている内国法人については、その職務に対する給与として相当であると認められる金額を除く、としています。この「含めないで限度額等を定めている法人」とは、定款または株主総会等において役員給与の限度額等に使用人兼務役員の使用人分の給与を含めない旨を定め、または決議している法人をいう、と通達が示しています(法人税基本通達9-2-22)。何も定めずに運用だけで分けている場合には、この扱いは使えません。
枠を決めた書類がどれなのかも争点になります。国税不服審判所の令和4年7月1日裁決は、代表取締役が作成した「取締役の報酬金額に対する決定書」に記載された報酬金額について、当該代表取締役は取締役分と使用人分を勘案して合計額を支給額として決定したと認められ、決定書に記載された金額は給与の額の積算根拠にすぎず、形式基準限度額とは認められないと判断しています。社内の計算メモが限度額の決議とみなされるわけではない一方で、限度額を定めた書類がどれかを会社が説明できる状態にしておく必要がある、ということでもあります。
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🧮 2つの基準は「いずれか多い金額」で拾われる
施行令第70条第1号は、イとロで計算した金額のうち、いずれか多い金額としています。両方を足すのではなく、大きいほうが損金不算入額になります。数値例で見てみます。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 実際に支給した年間の役員報酬 | 3,600万円 |
| 実質基準で相当と認められる金額(仮定) | 2,800万円 |
| 実質基準による超える部分(イ) | 3,600万円 – 2,800万円 = 800万円 |
| 株主総会で定めた年間の限度額 | 3,000万円 |
| 形式基準による超える部分(ロ) | 3,600万円 – 3,000万円 = 600万円 |
| 損金不算入となる金額 | いずれか多い金額なので 800万円 |
相当と認められる金額2,800万円は説明のための仮定です。実際の金額は条文が挙げる事情に照らして個別に判断され、法令にも通達にも具体的な水準を定めた規定は確認できません。
2つを足すのではなく、大きいほうが損金不算入額になります。
⚠️ 裁決から読み取れる、争われ方の型
国税不服審判所が公表している裁決事例要旨を見ると、過大報酬の判定でどこが争われるのかが分かります。ここでは要旨で確認できた3つを紹介します。いずれも個別の事実関係に基づく判断であり、そのまま自社に当てはまるものではありません。
| 争点 | 要旨で確認できた判断 |
|---|---|
| 決議の存否と議事録 | 株主が一堂に会して株主総会が開催されたと判断できないとしても、役員の有する株式数の合計が発行済株式総数の90パーセントを超えるなどの事情からみて、実質的に株主総会が開催され決議に基づいて議事録が作成されたとみるのが相当であり、役員報酬が過大かどうかの判断をその議事録に基づき行ったことは相当であるとされた(平成5年4月19日裁決・裁決事例集No.45) |
| 職務の実態と類似法人 | 業務執行権を有せず具体的な職務執行の内容が不明確であること、売上高や売上総利益の伸び率に比べて支給額の伸び率が高いこと、類似法人で職務内容が類似すると認められる非常勤の取締役の平均額と比べて極めて高額であることなどから、平均的な役員報酬額を超える部分は不相当に高額な部分に当たるとされた(平成9年9月29日裁決・裁決事例集No.54) |
| 同業類似法人の抽出 | 原処分庁が採用した同業類似法人の抽出基準には合理性があるとしつつ、抽出された同業類似法人の中に請求人とは業種の異なる法人が認められることから、その法人を除外したうえで役員給与相当額を算定した結果、原処分の額を下回るとして、原処分の一部が取り消された(平成29年4月25日裁決) |
3つを並べると、争われ方の型が見えてきます。会社の側からは、決議と議事録が実際にあること、その役員が何をしているのかを説明できること、そして課税庁が持ち出す比較対象が本当に類似しているのかを検証すること。この3つが、反論の入口になります。
平成5年および平成9年の裁決は、平成18年度改正より前の規定のもとでの判断です。条文の構成が変わっているため、条番号をそのまま現行法に読み替えることはできません。平成29年4月25日裁決の要旨には、参照条文等として法人税法第34条第2項および法人税法施行令第70条第1項が示されています。
📝 過大と言われないために用意しておくもの
形式基準は書類で防げます。実質基準は、日々の実態の積み上げでしか説明できません。両方を分けて準備するのが実務のコツです。
| 関門 | 用意しておくもの |
|---|---|
| 形式基準に備える | 定款の規定または株主総会議事録による限度額等の定め、使用人兼務役員の使用人分を含めない旨の定めまたは決議、限度額と実際の支給額を突き合わせた年間の一覧 |
| 実質基準に備える | 役員の職務分掌を定めた規程、取締役会議事録や稟議書に表れる決裁の実際、出社と業務の記録、報酬の改定理由を記した資料 |
| 比較に備える | 売上高や利益の推移と報酬水準の推移を並べた資料、使用人の給与水準との比較、報酬決定の際に参照した公表資料 |
とくに非常勤役員や、社長のご家族が役員になっているケースでは、職務の内容を示す記録が薄くなりがちです。裁決でも、業務執行権を有せず具体的な職務執行の内容が不明確であることが判断材料に挙げられていました。何をしている役員なのかを、社内の書類で説明できるようにしておくことが、最も実効性のある備えです。
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❓ よくある質問
同業他社より報酬が高いだけで否認されますか。
施行令第70条第1号イは、同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する給与の支給の状況を、判定の事情のひとつとして挙げています。ただし、それだけではなく、役員の職務の内容、会社の収益、使用人に対する給与の支給の状況もあわせて「等に照らし」判断するとされています。ひとつの物差しだけで結論が出る構造ではありません。
株主総会で限度額を決めていない場合はどうなりますか。
形式基準は、定款の規定または株主総会等の決議により限度額等を定めている法人について適用される仕組みです。定めがなければ形式基準による超過額は計算されませんが、実質基準の判定は残ります。また会社法第361条第1項は、定款に定めがないときは株主総会の決議によって定めるとしていますので、会社法上の手続としても整えておく必要があります。
実質基準と形式基準は両方足されるのですか。
足されません。施行令第70条第1号は、イとロで計算した金額のうちいずれか多い金額としています。両方に該当する場合は、大きいほうが損金不算入額になります。
使用人兼務役員の使用人分の給与は、限度額の外に置けますか。
定款または株主総会等において、役員給与の限度額等に使用人兼務役員の使用人分の給与を含めない旨を定め、または決議している場合には、施行令第70条第1号ロの計算上、その職務に対する給与として相当であると認められる金額を除くとされています。定めがないまま運用で分けているだけでは、この扱いは使えません。
会社が負担した個人的な費用も、過大かどうかの判定に入りますか。
法人税法第34条第4項は、前3項に規定する給与には債務の免除による利益その他の経済的な利益を含むと定めています。したがって、経済的な利益も含めて判定されることになります。金銭の報酬だけを見て限度額に収まっていると考えるのは危険です。
📄 まとめ
過大役員報酬は、法人税法第34条第2項と施行令第70条第1号が定める仕組みです。実質基準は、役員の職務の内容、会社の収益、使用人に対する給与の支給の状況、同種の事業を営む事業規模が類似する法人の支給の状況等に照らして相当と認められる金額を超える部分を、形式基準は、定款または株主総会等の決議で定めた限度額等を超える部分を計算し、いずれか多い金額が損金不算入となります。
形式基準は、限度額の決議と議事録という書類で対応できます。実質基準は、その役員が何をしているのかという実態の記録がすべてです。報酬を上げる年ほど、決議と記録の両方を整えておくことをおすすめします。判断に迷う段階でご相談いただければ、今の水準と書類の状態を一緒に点検します。
🔗 参考(公的な一次情報)
- 法人税法(e-Gov法令検索)第34条第2項・第3項・第4項
- 法人税法施行令(e-Gov法令検索)第70条(過大な役員給与の額)
- 会社法(e-Gov法令検索)第361条(取締役の報酬等)
- 国税庁 法人税基本通達 第9章第2節第6款(過大な役員給与の額)9-2-21〜9-2-25
- 国税庁 タックスアンサー No.5211 役員に対する給与
- 国税不服審判所 公表裁決事例要旨(法人税法関係・過大報酬の判定)
本記事は公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所・東京都台東区)が、法令・通達および国税庁の公表資料に基づいて作成しています。本記事は一般的な情報提供を目的としています。制度は改正される可能性があり、個別の事実関係により結論が異なります。実際の判断にあたっては、専門家にご確認ください。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
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