相続放棄をするかどうかの判断がついて一息……と思ったら、税務署から亡くなった方あての封筒が届いた。「故人の税金って、誰がどうやって払うの?」と戸惑いますよね。
年の途中で亡くなった方は、その年の1月1日から亡くなった日までの所得について、相続人が代わりに所得税の申告をします。これが準確定申告です。期限は「相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内」。相続放棄の3か月に続いてやってくる、短い期限です。この記事では、必要な人・不要な人の見分け方から、還付でお金が戻るケース、相続税との関係までをやさしく解説します。
- 準確定申告とは何か、通常の確定申告とどこが違うのか
- 期限は「相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内」(所得税法125条)であること
- 申告が必要な人・不要な人の一覧と、還付でお金が戻るケース
- 相続人が複数いるときの「連署」と「付表」の書き方の考え方
- 準確定申告で納めた所得税が相続税の債務控除になること、還付金は相続財産になること
📄 準確定申告とは?亡くなった方の「最後の確定申告」
所得税は、1月1日から12月31日までの1年間の所得について計算し、翌年3月15日までに申告・納税するのが原則です。ところが年の途中で亡くなった場合、本人はもう申告できません。そこで相続人(包括受遺者を含みます。以下「相続人等」といいます)が、1月1日から亡くなった日までの所得金額と税額を計算して申告・納税します。これを準確定申告といいます(国税庁 No.2022、所得税法124条・125条)。
※包括受遺者とは、遺言で「遺産の3分の1を与える」のように、遺産全体に対する割合で財産を与えられた人のことです。
| 比べるところ | 通常の確定申告 | 準確定申告 |
|---|---|---|
| 申告する人 | 本人 | 相続人等(全員) |
| 対象期間 | 1月1日〜12月31日 | 1月1日〜亡くなった日 |
| 期限 | 翌年3月15日 | 相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内 |
| 提出先 | 本人の納税地の所轄税務署 | 被相続人の死亡当時の納税地の所轄税務署 |
| 添付書類 | 各種控除証明書など | 上記に加えて「死亡した者の所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表」 |
⏰ 期限は「知った日の翌日から4か月以内」
準確定申告の期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月を経過した日の前日までです(所得税法125条1項)。「亡くなった日から4か月」ではなく「知った日の翌日から4か月」である点に注意してください。同居のご家族であれば通常は亡くなった日=知った日になります。
| 相続の開始を知った日 | 準確定申告の期限 |
|---|---|
| 2026年1月20日 | 2026年5月20日 |
| 2026年6月5日 | 2026年10月5日 |
| 2026年10月15日 | 2027年2月15日 |
※期限が土曜・日曜・祝日や年末年始(12月29日〜1月3日)にあたる場合は、その翌開庁日が期限になります(国税通則法10条2項)。
2月に亡くなった方が前年分の申告をまだしていなければ、2回分をまとめて4か月以内に申告することになります。
年明けすぐに亡くなったときは「2年分」になることも
確定申告をしなければならない人が、翌年1月1日から確定申告期限(原則3月15日)までの間に、前年分の申告書を提出しないまま亡くなった場合は、前年分・本年分のどちらも、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内が期限になります(No.2022)。2月に亡くなった方が前年分の申告をまだしていなければ、2回分をまとめて4か月以内に申告することになります。
📍 どこで:被相続人(亡くなった方)の死亡当時の納税地=住所地を管轄する税務署。台東区にお住まいだった場合、下谷地区(入谷・上野・池之端・秋葉原など)は東京上野税務署(台東区池之端1-2-22 上野合同庁舎)、浅草地区(浅草・蔵前・駒形など)は浅草税務署(台東区蔵前2-8-12)です。相続税の資産課税部門は東京上野税務署で広域運営されていますが、所得税の準確定申告はそれぞれの管轄署が窓口です。
⏰ いつまでに:相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内(納税も同じ期限)。
🧾 何を持って:確定申告書と「死亡した者の所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表」、被相続人の源泉徴収票(給与・公的年金)、生命保険料・社会保険料などの控除証明書、医療費の領収書、事業をしていた場合は帳簿・決算資料、相続人全員のマイナンバー確認書類。還付金の受取を代表者にまとめる場合は委任状も必要です。
🧾 準確定申告が必要な人・不要な人
準確定申告が必要かどうかは、「亡くなった方がご存命なら確定申告をしなければならない人だったか」で判断します(所得税法120条・125条1項)。
申告が必要になる主なケース
| ケース | ポイント |
|---|---|
| 個人事業や不動産賃貸をしていた | 事業所得・不動産所得があり、所得控除を差し引いてなお税額が出る場合 |
| 給与収入が2,000万円を超えていた | 年末調整が行われないため申告が必要(No.1900) |
| 給与以外の所得が20万円を超えていた | 1か所からの給与で、給与所得・退職所得以外の所得の合計が20万円超(No.1900) |
| 公的年金等の収入が400万円を超えていた | 400万円以下でも、年金以外の所得が20万円を超えると申告が必要(No.1600) |
| 同族会社の役員で会社に不動産を貸していた | 同族会社から貸付金の利子や賃貸料を受け取っていた場合(No.1900) |
| 不動産や株式を売却していた | 亡くなる前に譲渡があり、譲渡所得が生じている場合 |
申告が不要な主なケース
- 給与を1か所から受けていて年末調整が済んでおり、他の所得が20万円以下の会社員だった
- 公的年金等の収入が400万円以下で、年金以外の所得が20万円以下だった(確定申告不要制度/No.1600)
- 収入が遺族年金や障害年金など非課税の年金だけだった
※申告不要制度に当てはまる場合でも、医療費控除などで税金が戻るなら申告(還付申告)ができます。
💰 申告義務がなくても「還付」でお金が戻ることがある
準確定申告は「納める」だけの手続きではありません。亡くなる直前は医療費がかさむ一方、給与や年金からは1年間受け取る前提で所得税が源泉徴収されています。そのため次のようなケースでは、申告することで税金が戻ってきます(所得税法125条2項)。
- 入院・治療費が多く、医療費控除が使える(亡くなった日までに被相続人が支払った分)
- 給与や公的年金から源泉徴収されていた所得税が、実際の税額より多い
- 生命保険料控除・地震保険料控除・社会保険料控除の適用を受けていなかった
- 前年の所得をもとに予定納税をしていたが、亡くなったため所得が少なくなった
還付を受けるための申告は「しなければならない」ものではなく「することができる」ものです(所得税法125条2項)。もっとも、相続税の申告(10か月以内)や遺産分割の資料としても使うため、他の手続きと合わせて4か月以内に進めるのが実務的です。
亡くなる直前は医療費がかさむ一方、給与や年金からは1年間受け取る前提で所得税が源泉徴収されています。
👤 相続人が2人以上いるとき:連署と付表
相続人等が複数いる場合、原則として全員が連署(それぞれ署名)して1通の準確定申告書を提出します。ただし、遠方に住んでいる、関係が疎遠であるなどの事情がある場合は、他の相続人等の氏名を付記して各人が別々に提出することもできます。この場合、提出した人は他の相続人等に申告した内容を通知しなければならないとされています(No.2022)。
申告書には、各相続人等の氏名・住所・被相続人との続柄・相続分などを記入した「死亡した者の所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表」を添付します。納める税額も還付される税額も、原則としてこの付表に書いた相続分で按分されます。
還付金の受領を相続人の代表者などに委任する場合は、付表とは別に「還付金の受領に関する委任状」の提出が必要です(No.2022)。故人の口座は凍結されており還付金を振り込めないため、実務ではこの委任状で代表者の口座に受け取るケースが多くあります。手続き全体の流れは第1回:親が亡くなったら何をする?相続手続きの流れと期限一覧をご覧ください。
⚖️ 準確定申告ならではの所得控除の注意点
所得控除は「亡くなった日まで」で区切って考えます。ここは通常の確定申告と大きく違うところで、間違えやすいポイントです(No.2022)。
| 控除の種類 | 準確定申告での取扱い |
|---|---|
| 医療費控除 | 亡くなった日までに被相続人が支払った医療費が対象。死亡後に相続人が支払った入院費等は準確定申告では控除できない |
| 社会保険料控除/小規模企業共済等掛金控除 | 亡くなった日までに被相続人が支払った保険料等の額が対象 |
| 生命保険料控除/地震保険料控除 | 亡くなった日までに被相続人が支払った保険料等の額が対象 |
| 寄附金控除 | 亡くなった日までに被相続人が支出した特定寄附金が対象 |
| 配偶者控除・扶養控除など | 適用の有無は亡くなった日の現況で判定。控除額の月割計算はしない(年の途中でも満額) |
※死亡後に相続人が支払った医療費は、その相続人が被相続人と生計を一にしていた場合、その相続人自身の確定申告で医療費控除の対象にできることがあります。また、亡くなった方の未払医療費は相続税の債務控除の対象になります。
いずれも被相続人が支払った分が対象です。死亡後に相続人が支払った入院費等は準確定申告では控除できません(No.2022)。
🏠 相続税とのつながり:債務控除と還付金
準確定申告は所得税の手続きですが、相続税にもそのまま影響します。
| 項目 | 相続税での扱い | 根拠 |
|---|---|---|
| 準確定申告で納めた所得税 | 被相続人にかかる税金として、遺産総額から差し引ける(債務控除) | 相続税法13条・14条/No.4126 |
| 相続人の責任で生じた延滞税・加算税 | 遺産総額から差し引けない | No.4126 |
| 準確定申告による還付金 | 還付金請求権は本来の相続財産として相続税の課税対象 | 国税庁 質疑応答事例(所得税法125条2項) |
| 還付金に付く還付加算金 | 相続人が原始的に取得するものとして所得税(雑所得)の対象。相続税の課税価格には算入しない | 国税庁 質疑応答事例(国税通則法58条) |
つまり、納税になった場合は相続税が下がる方向に、還付になった場合は相続財産が増える方向に働きます。いずれも相続税の計算に必要な数字なので、準確定申告の控えは必ず保管しておいてください。相続税がいくらからかかるのかは、第11回(近日公開)で解説します。
亡くなった方の所得税と相続税は、債務控除や還付金の扱いでつながっています。台東区(上野・浅草・入谷)で相続税のご相談は鈴木佑也公認会計士税理士事務所へ。お問い合わせフォームからご連絡ください。
🗒️ 事業や不動産賃貸を引き継ぐときの追加手続き
亡くなった方が個人事業主や不動産オーナーだった場合、準確定申告に加えて次の手続きが必要です。特に青色申告の承認申請は期限が短く、遅れると引き継いだ年から青色申告特別控除が使えなくなります。
青色申告承認申請書の提出期限(相続で事業を引き継いだ場合)
| 被相続人の申告区分・死亡日 | 提出期限 |
|---|---|
| 青色申告者/死亡日が1月1日〜8月31日 | 死亡の日から4か月以内 |
| 青色申告者/死亡日が9月1日〜10月31日 | その年の12月31日 |
| 青色申告者/死亡日が11月1日〜12月31日 | 翌年2月15日 |
| 白色申告者/その年の1月16日以後に承継 | 業務を承継した日から2か月以内 |
※国税庁 No.2070。被相続人の青色申告の承認は相続人に引き継がれないため、相続人が自分の名前で改めて申請する必要があります。
- 個人事業の開業・廃業等届出書(被相続人の廃業と、承継する相続人の開業)
- 被相続人が消費税の課税事業者だった場合:「個人事業者の死亡届出書」と消費税の準確定申告(こちらも4か月以内/消費税法45条2項・3項)
- インボイス(適格請求書発行事業者)の登録は引き継がれないため、事業を継ぐ相続人が改めて登録申請を検討する
❓ よくある質問
相続放棄をした人は初めから相続人でなかったことになるため(民法939条)、準確定申告の義務も負いません。他に相続人がいればその方が申告します。相続放棄を検討中で判断がついていない段階では、遺産に手をつけると放棄できなくなる可能性があるため、進め方に注意が必要です。詳しくは第8回:相続放棄の期限は3か月!手続き・費用・限定承認との違いを解説をご覧ください。
個人住民税は毎年1月1日(賦課期日)現在の住所地で、前年中の所得に対して課税されます(地方税法39条・318条)。そのため、1月2日以降に亡くなった場合、その年度分の住民税は課税され、未納分は相続人が納めることになります。一方、亡くなった年の所得に対する翌年度分の住民税は課税されません。納めた住民税は相続税の債務控除の対象になります。
納める税額がある場合は、無申告加算税や延滞税がかかる可能性があります。しかも、相続人の責任で生じた延滞税・加算税は相続税の債務控除ができません(No.4126)。気づいた時点でできるだけ早く申告・納付することが、負担を小さくする一番の方法です。還付になる申告であれば、期限後でも問題なく手続きできます。
📝 まとめ:4か月は「相続税10か月」への準備期間
準確定申告は、亡くなった方の1月1日から死亡日までの所得税を、相続人が代わりに申告・納税する手続きです。期限は相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内。会社員や年金生活者だった方は不要なことも多い一方、医療費がかさんでいた場合は還付が受けられることもあります。事業や不動産賃貸をされていた方は、青色申告承認申請など期限の短い手続きが重なるため、早めの着手が肝心です。
この4か月は、相続税の申告期限である10か月に向けて、財産と債務の全体像を数字で固めていく期間でもあります。連載の全体像と各回の一覧は「相続税 完全ガイド」をご覧ください。次回・第10回は、相続人全員で財産の分け方を決める「遺産分割協議」の進め方と協議書の作り方を解説します。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。IPO支援・法人税務とともに、台東区(上野・浅草・入谷)を中心に相続税申告のサポートを行っています。
準確定申告から相続税申告まで、初めての方にもわかりやすくご説明します。お問い合わせフォームからご連絡ください。
※本記事は掲載日時点の法令等に基づく一般的な情報です。個別の判断は税理士等の専門家にご相談ください。
参考:国税庁 No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)/国税庁 No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人/国税庁 No.1600 公的年金等の課税関係/国税庁 No.2070 青色申告制度/国税庁 No.4126 相続財産から控除できる債務/国税庁 質疑応答事例 被相続人の準確定申告に係る還付金等/東京国税局 東京上野税務署のご案内/東京国税局 浅草税務署のご案内/e-Gov法令検索 所得税法