相続税の税務調査とは?確率・時期と当日聞かれることを解説

相続税の申告書を出したあと、「税務署から連絡が来たらどうしよう」「うちにも調査が来るのだろうか」と落ち着かない気持ちで過ごしている方は少なくありません。相続税の税務調査は、ニュースやドラマの印象もあって、実際以上に恐ろしいものとして受け止められがちです。

しかし、税務調査は法律で手続きが定められた行政の手続きであり、多くの場合は事前に日時の連絡があり、聞かれる内容にも一定の傾向があります。何が行われるのかを知っておけば、必要以上に不安になることはありません。

この記事では、相続税の税務調査について、国税庁が公表している最新の件数、法律で定められた手続きの流れ、当日よく聞かれること、そして事前にできる準備を、税金の知識がない方にもわかるように解説します。

この記事でわかること

  • 相続税の税務調査には「実地調査」と「簡易な接触」の2種類があること
  • 国税庁が公表している最新の調査件数と、申告漏れが見つかった割合
  • 税務調査がいつまで行われる可能性があるか(法律上の期間)
  • 調査の当日に聞かれることと、事前にそろえておきたい資料
  • 書面添付制度によって調査に至らない場合があること

🧾 相続税の税務調査とは?2つの種類がある

相続税の税務調査とは、提出された相続税の申告書の内容が正しいかどうかを、税務署が確認する手続きです。相続税と贈与税については、国税通則法74条の3で、税務署の職員が納税者などに質問し、財産に関する帳簿書類その他の物件を検査し、またはその提示・提出を求めることができると定められています。これを「質問検査権」といいます。

相続税の税務調査には、大きく分けて2つの種類があります。

実地調査

実地調査とは、税務署の職員が実際に自宅などを訪れて行う調査です。一般に「税務調査が来た」といわれるのは、こちらを指します。国税庁は、資料情報などから申告額が過少であると想定される事案や、申告義務があるのに無申告であると想定される事案などについて実地調査を実施している、と説明しています。

簡易な接触

簡易な接触とは、文書や電話による連絡、あるいは税務署へ来てもらっての面接によって、申告漏れや計算誤りなどがある申告を是正する手法です。自宅を訪問されるわけではなく、書類の確認や電話でのやりとりで完結する場合もあります。国税庁は、実地調査を適切に実施する一方で、この簡易な接触も効果的・効率的に活用していると公表しています。

令和6事務年度の相続税の調査(国税庁公表) 実地調査(自宅などを訪問) ・件数 9,512件 ・申告漏れなどの非違 7,826件 ・非違割合 82.3% ・追徴税額の合計 824億円 ・1件当たり追徴税額 867万円 自宅などを訪れて行う調査です 簡易な接触(文書・電話など) ・件数 21,969件 ・申告漏れなどの非違 5,796件 ・追徴税額の合計 138億円 ・1件当たり追徴税額 63万円 文書・電話・来署依頼による面接で行われます 件数・追徴税額とも公表開始以降で最高でした

相続税の調査は「実地調査」と「簡易な接触」の2種類。数値は国税庁「令和6事務年度における相続税の調査等の状況」による

📊 相続税の税務調査の確率はどれくらい?

気になるのは「自分のところに来る確率」ではないでしょうか。国税庁が公表している数字から、おおよその規模感をつかむことができます。

国税庁「令和6年分 相続税の申告事績の概要」によると、令和6年分の被相続人数(死亡者数)は1,605,378人、そのうち相続税の申告書の提出に係る被相続人数は166,730人で、課税割合は10.4%でした。つまり、亡くなった方のおよそ10人に1人について相続税の申告が行われている計算になります。

一方、国税庁「令和6事務年度における相続税の調査等の状況」によると、実地調査の件数は9,512件、簡易な接触の件数は21,969件でした。

申告件数16万6,730件に対し、実地調査は9,512件です。単純に割ると約5.7%、簡易な接触も合わせると約19%という水準になります。

※ 申告事績は「年分」、調査等の状況は「事務年度」という異なる期間区分で集計されており、対象となる申告も同一ではありません。上の割合はあくまで規模感をつかむための目安であり、個々の方が調査を受ける確率を示すものではありません。

調査を受けると8割超で申告漏れが見つかっている

実地調査の結果として注目すべきは、非違(申告漏れなど)の割合です。令和6事務年度の実地調査9,512件のうち、申告漏れなどの非違があった件数は7,826件で、非違割合は82.3%でした。実地調査が行われた場合、8割を超えるケースで何らかの申告漏れなどが指摘されているということです。

これは、税務署が事前に金融機関などから収集した資料情報をもとに、申告内容に疑問がある事案を選んで調査に入っていることの表れといえます。

項目 令和5事務年度 令和6事務年度
実地調査件数 8,556件 9,512件
申告漏れなどの非違件数 7,200件 7,826件
非違割合 84.2% 82.3%
重加算税の賦課件数 971件 1,065件
申告漏れ課税価格 2,745億円 2,942億円
追徴税額の合計 735億円 824億円
1件当たり申告漏れ課税価格 3,208万円 3,093万円
1件当たり追徴税額 859万円 867万円

出典:国税庁「令和6事務年度における相続税の調査等の状況」

申告漏れが多いのは現金・預貯金

同じ資料には、申告漏れとなった相続財産の内訳も公表されています。令和6事務年度の申告漏れ相続財産のうち、金額が最も大きかったのは「現金・預貯金等」で837億円、次いで「有価証券」393億円、「土地」353億円、「家屋」50億円、「その他」1,247億円でした。

不動産のように登記されていて把握しやすい財産よりも、現金や預貯金といった動かしやすい財産で申告漏れが多く見つかっている点は、押さえておきたいところです。財産の調べ方については、相続財産の調べ方は?預貯金・不動産・株・借金の調査と財産目録もあわせてご覧ください。

📅 税務調査はいつまで来る可能性があるのか

「いつになれば安心できるのか」という疑問については、国税庁が調査の時期を公表しているわけではないため、確実なことはいえません。ただし、法律上いつまで課税処分ができるかは決まっています。

国税通則法70条は、更正(申告した税額を税務署が正しい額に直す処分)や決定(申告がない場合に税務署が税額を決める処分)などについて期間制限を定めており、原則として法定申告期限から5年を経過する日までとされています。さらに、偽りその他不正の行為によって税額を免れた場合には、法定申告期限から7年を経過する日まで行うことができるとされています。

相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です(相続税法27条1項)。したがって、この申告期限を起点として、原則5年、不正があった場合は7年という期間が、法律上の目安になります。

📍 どこで 被相続人(亡くなった方)の住所地を管轄する税務署が担当します。台東区の場合、下谷地区は東京上野税務署(台東区池之端1-2-22)、浅草地区は浅草税務署(台東区蔵前2-8-12)が管轄ですが、資産課税に関する事務は東京上野税務署で広域的に運営されています。

⏰ いつまで 国税通則法70条により、原則として法定申告期限から5年(偽りその他不正の行為があった場合は7年)。

🧾 何を持って 通帳、証書、契約書、遺産分割協議書、申告書の控えと添付資料一式。

⏰ 税務調査の流れ:事前通知から調査結果の説明まで

実地調査は、いきなり職員が訪ねてくるわけではありません。国税通則法には、調査の前後の手続きが定められています。

1. 事前通知(国税通則法74条の9)

税務署長などが職員に質問検査権を行使させる場合には、あらかじめ納税義務者(税理士に依頼している場合はその税理士にも)に対し、調査の実施予定日時、調査場所、調査の目的、調査の対象となる税目、対象期間、対象となる帳簿書類などを通知することとされています。通常は、税理士に依頼していればまず税理士に電話が入り、日程を調整することになります。

2. 実地調査

通知された日に職員が自宅などを訪れ、質問検査権(国税通則法74条の3)に基づいて質問を行い、通帳や書類の提示・提出を求めます。

3. 調査結果の説明(国税通則法74条の11)

調査の結果、更正決定等をすべきと認められない場合には、その旨が書面で通知されます。一方、申告内容に誤りがあると認められた場合には、調査結果の内容が説明され、修正申告の提出が勧奨されます。修正申告に応じない場合は、税務署が更正処分を行うことになります。

相続税の税務調査の流れ(国税通則法上の手続) 1. 相続税の申告書を提出(相続の開始を知った日の翌日から10か月以内) 相続税法27条1項。ここが期間制限の起点になります 2. 税務署から事前通知(国税通則法74条の9) 日時・場所・目的・税目・対象期間・帳簿書類などが通知されます 3. 実地調査(国税通則法74条の3の質問検査権) 質問を受け、帳簿書類その他の物件の提示・提出を求められます 4. 調査結果の説明(国税通則法74条の11) 問題がなければ、その旨が書面で通知されます 5. 修正申告の提出、または税務署による更正・決定 内容に応じて過少申告加算税・重加算税・延滞税がかかります

実地調査は法律で手続きが定められています。原則として事前に日時の通知があります

注意 国税通則法74条の10には、事前通知を要しない場合が定められています。したがって、必ず事前通知があるとは限りません。

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👤 調査の当日に聞かれること

実地調査では、申告書の数字だけでなく、被相続人(亡くなった方)や相続人の生活実態についても質問されます。一見すると税金と関係のない話題に思えるかもしれませんが、財産の形成過程や管理状況を確認するための質問です。

質問のテーマ 質問の例と、確認されている内容
被相続人の経歴 勤務先、退職金の額、事業の内容など。どの程度の財産が形成され得たかを確認するための質問です。
趣味・交友関係 趣味やつきあいの範囲。骨とう品・貴金属・ゴルフ会員権など、申告に出てきていない財産の有無を確認する趣旨です。
預貯金の管理 通帳や印鑑を誰が保管していたか、口座を誰が動かしていたか。名義と実質の持ち主が一致しているかの確認です。
生前の出金 亡くなる前に引き出された多額の現金の使い道。国税庁が公表した調査事例でも、引き出した現金を自宅で保管し申告から除外していた例が挙げられています。
家族名義の財産 配偶者や子・孫名義の預貯金の原資は誰か。国税庁の調査事例には、家族名義の口座へ預金を移して基礎控除以下に見せかけた例があります。
貸金庫・自宅内 貸金庫の有無、金庫や書類の保管場所。必要に応じて現況の確認が行われることがあります。
海外の財産 海外口座や海外資産の有無。国税庁は租税条約等に基づく情報交換制度などを活用していると公表しています。

質問例は、国税庁「令和6事務年度における相続税の調査等の状況」に掲載された調査事例をもとに整理したものです。実際に聞かれる内容は事案によって異なります。

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🗒️ 調査の連絡が来たときの準備

事前通知を受けたら、慌てて資料を探すのではなく、順番にそろえていくことが大切です。特に、申告のときに集めた資料をもう一度手元に戻しておくと、当日の受け答えがスムーズになります。

そろえておきたいもの

  • 相続税の申告書の控えと、添付した書類一式
  • 被相続人の預貯金通帳(できれば過去数年分)と、定期預金の証書
  • 相続人・その家族名義の預貯金通帳
  • 不動産の登記事項証明書、固定資産税の課税明細書
  • 証券会社の取引残高報告書
  • 生命保険の証券と支払通知書
  • 遺産分割協議書、遺言書の写し
  • 葬儀費用の領収書、香典帳
  • 貸金庫の契約書と開閉記録

準備の段階で申告内容の誤りに気づくこともあります。国税通則法65条では、調査の通知を受けた後であっても、更正があるべきことを予知してされたものでない修正申告については、過少申告加算税の割合が軽減される取扱いが定められています。気づいた時点で税理士に相談することをおすすめします。ペナルティの詳しい内容は、連載の「第22回 相続税を申告しないとどうなる?無申告加算税・延滞税とペナルティ」で解説します。

⚖️ 書面添付制度:調査に至らない場合もある

あまり知られていませんが、税理士に申告を依頼する際に検討したいのが「書面添付制度」です。

これは、税理士法33条の2に基づき、税理士が申告書の作成にあたってどのような資料を確認し、どのように計算・整理したかを記載した書面(計算事項等記載書面)を、申告書に添付して提出する制度です。この書面が添付されている場合、税務署は納税者に調査の日時・場所を通知する前に、その税理士に対して書面の記載事項について意見を述べる機会を与えなければならないとされています(税理士法35条1項)。これを「意見聴取」といいます。

国税庁は、意見聴取が行われて疑義が解消した場合など、結果的に調査に至らないことはあり得る、と説明しています。ただし、同時に、書面添付制度は調査の省略を前提とした制度ではない、とも明記しています。「書面を付ければ調査が来ない」というものではない点に注意してください。

項目 内容
根拠となる法律 税理士法33条の2(計算事項等記載書面の添付)、35条1項(調査通知前の意見聴取)
添付する人 申告書を作成した税理士。添付するかどうかは税理士自身の判断です
意見聴取の時期 国税庁の事務運営指針では、調査通知予定日の1週間から2週間前までに、税理士へ日時・場所を決めるための連絡を行うこととされています
調査に至らない場合 疑義が解消し調査の必要がないと認められたときは、税理士に「意見聴取結果についてのお知らせ」という書面で連絡されます
留意点 調査の省略を前提とした制度ではありません

出典:国税庁「4 書面添付・意見聴取制度」(税理士制度のQ&A)

📄 よくある質問

Q. 税務調査は必ず自宅に来るのですか。

いいえ。相続税の調査には、自宅などを訪問する「実地調査」のほか、文書や電話による連絡、税務署への来署依頼による面接で行われる「簡易な接触」があります。令和6事務年度の件数は、実地調査9,512件に対し、簡易な接触は21,969件でした。

Q. 相続税の申告をしていなければ、調査は来ないのではありませんか。

そうとは限りません。国税庁は、申告義務があるにもかかわらず無申告であると想定される事案についても実地調査を実施しており、令和6事務年度の無申告事案に対する実地調査は650件、追徴税額は142億円と公表されています。

Q. 調査の途中でも、税理士に依頼できますか。

できます。ただし、事前通知の段階から税理士が関与していたほうが、税務署とのやりとりや資料の準備を任せられるため、負担は小さくなります。事前通知を受けた時点でご相談ください。

📍 まとめ

  • 相続税の調査には「実地調査」と「簡易な接触」の2種類がある
  • 令和6事務年度の実地調査は9,512件、うち82.3%で申告漏れなどの非違があった
  • 申告漏れが最も多い財産は現金・預貯金等(令和6事務年度で837億円)
  • 更正・決定は原則として法定申告期限から5年、不正があった場合は7年まで可能(国税通則法70条)
  • 実地調査には原則として事前通知がある(国税通則法74条の9)
  • 書面添付制度により調査に至らない場合もあるが、省略を前提とした制度ではない

税務調査は、申告の段階で財産をきちんと洗い出し、根拠を残しておくことが最大の備えになります。相続手続き全体の流れは親が亡くなったらやることは?相続手続きの流れと期限一覧で、連載の全体像は相続税 完全ガイド|初めての相続を全30回でやさしく解説でご確認いただけます。次回は「第24回 相続登記は義務化済み:3年以内・過料10万円のルール」を取り上げます。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。相続税の申告と事業承継の支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

🗒️ 参考

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