役員報酬を「定期同額給与」として毎月同額で払い、株主総会も期首から3か月以内に済ませた。これで損金算入は安心――とはいきません。法人税法第34条は、第1項で「支給の仕方」を、第2項で「金額の大きさ」を、それぞれ別の物差しで見る二段構えの条文だからです。
第2項は、役員に対する給与の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額を損金の額に算入しないと定めています。政令とは施行令第70条で、ここに実質基準・形式基準・退職給与・使用人兼務役員の賞与という4つの判定が並んでいます。
本記事では、この施行令第70条の構造を条文の順に追いながら、実質基準と形式基準がどう組み合わさるのか、退職金がなぜ別扱いなのか、そして税務調査で何を求められるのかを整理します。
この記事の見出し
「3類型に入れば終わり」ではない理由
役員給与の損金算入は、多くの解説が第34条第1項の3類型(定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与)の話で終わってしまいます。しかし条文を最後まで読むと、第1項を通過した給与に対して、さらに第2項と第3項というふるいがかかる構造になっていることが分かります。
第34条第2項は「内国法人がその役員に対して支給する給与(前項又は次項の規定の適用があるものを除く。)の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない」と規定しています。括弧書きが示すとおり、第1項で既に否認された部分は第2項の対象外です。つまり、第1項を通った給与だけが第2項の土俵に上がります。
さらに第3項は、事実を隠蔽し、または仮装して経理することによりその役員に対して支給する給与の額について損金算入を認めないとしています。名義だけの役員に給与を払って利益を圧縮するようなケースは、ここで落ちます。
第1項の類型判定を通っても、第2項の金額判定が待っている
第1の関門については、定期同額給与とは?改定できる時期と3か月ルールをわかりやすく解説と事前確定届出給与の届出期限はいつ?1日でも遅れたらどうなるかで扱っています。本記事は第2の関門、すなわち金額の話です。
施行令第70条は4つの判定を並べている
第34条第2項の委任を受けた施行令第70条は、「法第34条第2項に規定する政令で定める金額は、次に掲げる金額の合計額とする」として、第1号から第3号までを掲げています。第1号がさらにイとロに分かれるため、実質的には4つの判定が並ぶ構造です。
| 号 | 対象となる給与 | 損金不算入となる金額 |
|---|---|---|
| 第1号イ (実質基準) |
退職給与以外の役員給与 | 職務の内容・収益の状況・使用人給与の支給状況・同種同規模法人の支給状況等に照らし、職務に対する対価として相当と認められる金額を超える部分 |
| 第1号ロ (形式基準) |
定款・株主総会等で限度額等を定めている法人の役員給与 | その事業年度に支給した給与の合計額が、定めた限度額等を超える部分 |
| 第2号 | 退職した役員に対する退職給与 | 業務に従事した期間・退職の事情・同種同規模法人の退職給与の支給状況等に照らし、相当と認められる金額を超える部分 |
| 第3号 | 使用人兼務役員の使用人分賞与 | 他の使用人に対する賞与の支給時期と異なる時期に支給したものの額 |
ここで押さえておきたいのが、第1号はイとロのうち「いずれか多い金額」とされている点です。イとロを足し合わせるのではありません。他方で、第1号・第2号・第3号の相互は「合計額」ですので、退職給与の過大部分と月額報酬の過大部分は別々に計算して足すことになります。
実質基準|職務の対価として相当か(第1号イ)
実質基準は、支給額が「当該役員の職務に対する対価として相当であると認められる金額」を超えているかを見ます。条文が挙げる判断材料は次の4つです。
- 当該役員の職務の内容
- その内国法人の収益の状況
- その内国法人の使用人に対する給与の支給の状況
- その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する給与の支給の状況
条文は「等」で締めているため、この4つに限られるわけではありません。ただし実務では、この4つが調査での論点になります。
職務の内容が最も重い
4つのうち最初に置かれているのが職務の内容です。役員としてどのような意思決定に関与し、どの範囲の業務を統括しているのかが、対価の相当性を決める出発点になります。非常勤の親族役員に常勤の代表取締役と同水準の報酬を払っているというケースが典型的に問題となるのは、この項目に照らして説明が付かないからです。
実務上は、取締役会規程・職務分掌規程・決裁権限規程を整備し、各役員が実際にどの決裁を行っているかを文書で示せる状態にしておくことが防御になります。「代表取締役だから」という肩書の説明では足りません。
同種・類似規模法人との比較は納税者側では作りにくい
4つ目の「同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する給与の支給の状況」は、いわゆる類似法人比較です。課税当局は同業種・同規模法人のデータを保有していますが、納税者側が同等のデータを用意することは容易ではありません。
この点は国税不服審判所が公表している過大報酬の判定に関する裁決事例でも争点になっており、類似法人の抽出基準そのものが議論の対象となることがあります。納税者側としては、上場企業の有価証券報告書や公的統計から得られる役員報酬水準を補助的な資料として押さえつつ、最終的には職務の内容と収益への貢献で説明できるように準備しておくのが現実的です。
経済的な利益も含まれる
第34条第4項は、同条第1項から第3項に規定する給与には債務の免除による利益その他の経済的な利益を含むとしています。したがって、社宅の低額貸与や個人的費用の会社負担といった経済的利益も、実質基準の判定対象となる「給与の額」に含めて考えることになります。月額報酬の額面だけを見て限度額に収まっていると判断すると、思わぬ超過が生じます。
形式基準|定款・株主総会の限度額を超えていないか(第1号ロ)
形式基準は、定款の規定または株主総会・社員総会もしくはこれらに準ずるものの決議により、役員に対する給与として支給することができる金銭その他の資産について限度額等を定めている法人を対象とします。定めている限度額等には、次のものが含まれます。
- 金銭の額の限度額または算定方法
- その内国法人の株式または新株予約権の数の上限
- 金銭以外の資産(支給対象資産)の内容
その事業年度に支給した給与の額の合計額が、これらの限度額等により算定される金額の合計額を超える場合、その超える部分が損金不算入となります。実質基準と違って計算は単純です。決議した枠を超えたか超えていないかだけで決まります。
使用人兼務役員の使用人分をどう扱うか
ここに施行令第70条第1号ロの長い括弧書きが関わってきます。使用人としての職務を有する役員(使用人兼務役員)に支給する給与のうち、使用人としての職務に対するものを含めないで限度額等を定めている法人については、その事業年度に当該職務に対する給与として支給した金額のうち、他の使用人に対する給与の支給の状況等に照らして相当と認められる金額を、比較対象から除くこととされています。
この取扱いについて、法人税基本通達9-2-22は、括弧書きにいう「使用人としての職務に対するものを含めないで当該限度額等を定めている法人」とは、定款または株主総会、社員総会もしくはこれらに準ずるものにおいて役員給与の限度額等に使用人兼務役員の使用人分の給与を含めない旨を明らかにしている法人をいうとしています。「含めない」という意思を決議で明示していない限り、この除外は使えません。
実務では、株主総会議事録に「本限度額には使用人兼務役員の使用人分給与を含まない」旨を明記しているかどうかで結論が変わります。議事録の一文の有無が数百万円の損金算入可否を左右する場面です。
使用人分の適正額はどう見るか
使用人分として除ける金額は無制限ではありません。法人税基本通達9-2-23は、当該使用人兼務役員が現に従事している使用人の職務とおおむね類似する職務に従事する使用人に対して支給した給与の額に相当する金額を、原則として使用人分として相当な金額とするとしています。
比準すべき使用人がいない場合には、当該使用人兼務役員が役員となる直前に受けていた給与の額、その後のベースアップ等の状況、使用人のうち最上位にある者に対して支給した給与の額などを参酌して適正に見積もることができるとされています。
あわせて法人税基本通達9-2-21は、施行令第70条第1号イの「その役員に対して支給した給与の額」には、使用人兼務役員に対して支給する使用人分の給与・手当も含まれることに留意するとしています。実質基準では使用人分も込みで見る一方、形式基準では決議次第で除けるという非対称があることに注意が必要です。
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実質基準と形式基準は「いずれか多い方」
第1号は「次に掲げる金額のうちいずれか多い金額」と規定しており、イとロを比較して大きい方が損金不算入額になります。両方を足すわけではないため、たとえば実質基準による超過が300万円、形式基準による超過が200万円であれば、損金不算入額は300万円です。
2つの基準は視点が異なり、大きい方の超過額が採用される
| 項目 | 実質基準(第1号イ) | 形式基準(第1号ロ) |
|---|---|---|
| 判定の物差し | 職務に対する対価として相当か | 決議した限度額等の枠内か |
| 適用される法人 | すべての内国法人 | 定款または株主総会等で限度額等を定めている法人 |
| 使用人兼務役員の使用人分 | 含めて判定する(法基通9-2-21) | 限度額等に含めない旨を明らかにしていれば控除できる(法基通9-2-22) |
| 争いになりやすい点 | 類似法人の抽出、職務の内容の立証 | 議事録の記載内容、限度額の改定漏れ |
| 事前に備える資料 | 職務分掌規程、決裁権限規程、業績推移、使用人給与の分布 | 定款、株主総会議事録、取締役会での配分決議 |
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退職給与は別の物差しで見る(第2号)
施行令第70条第2号は、退職した役員に対する退職給与について、次の要素に照らして相当と認められる金額を超える部分を過大とします。
- 当該役員のその内国法人の業務に従事した期間
- その退職の事情
- その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況
月額報酬の実質基準と比べると、「収益の状況」や「使用人に対する給与の支給の状況」が判断材料に入っていません。代わりに在任期間と退職の事情が正面から挙げられています。退職金は在任期間全体に対する後払い的性格を持っため、単年度の収益とは切り離して評価するという発想です。
なお、この第2号の対象からは「法第34条第1項又は第3項の規定の適用があるもの」が除かれています。第1項の3類型に該当せず既に否認された退職給与や、隠蔽仮装により支給されたものは、第2号の判定に進みません。
功績倍率法は業績連動給与ではない
実務で広く用いられる功績倍率法(最終月額報酬×在任年数×功績倍率)について、平成29年6月30日付で新設された法人税基本通達9-2-27の2は、いわゆる功績倍率法に基づいて支給する退職給与は業績連動給与に該当しない旨を明らかにしています。退職金は業績連動給与の枠組みでは考えないという整理です。
ただし、功績倍率法によって計算したから自動的に相当額になる、というわけではありません。第2号が挙げる3要素に照らして相当と認められるかが問われるため、最終月額報酬そのものが実質基準で過大と判断されれば、それを基礎にした退職金も連動して問題になります。退職金の適正額を確保するには、在任中の月額報酬の水準管理が前提になります。
使用人兼務役員の使用人分賞与(第3号)
第3号は、使用人兼務役員の使用人としての職務に対する賞与で、他の使用人に対する賞与の支給時期と異なる時期に支給したものの額を、そのまま損金不算入としています。金額の多寡ではなく支給時期のズレだけで全額が否認されるという、かなり厳しい規定です。
法人税基本通達9-2-26は、法人が使用人兼務役員の使用人としての職務に対する賞与を他の使用人に対する賞与の支給時期に未払金として経理し、その役員への給与の支給時期に支払ったような場合には、当該賞与は第3号に規定する「他の使用人に対する賞与の支給時期と異なる時期に支給したもの」に該当することに留意するとしています。未払計上の日ではなく、実際に支払った日で判定されるということです。
使用人兼務役員に賞与を出す場合は、他の使用人と同じ支給日に、同じタイミングで実際に振り込むのが基本です。「役員分は資金繰りを見て後で」という運用は、この規定に正面から抵触します。
関連して法人税基本通達9-2-27は、使用人であった者が役員となった場合、または使用人兼務役員であった者が施行令第71条第1項第5号に掲げる役員となった場合において、その直前にその者に対して支給した賞与の額のうち、その使用人または使用人兼務役員であった期間に係る賞与の額として相当であると認められる部分の金額は、使用人または使用人兼務役員に対して支給した賞与の額として認めるとしています。役員就任のタイミングで賞与が挟まる場合の救済規定です。
使用人兼務役員の範囲そのものについては、役員給与の税務 完全ガイド|定期同額・事前確定・退職金の全体像で全体像を整理しています。
過大認定を避けるための実務対応
決議から期末の突合までを一連の作業として設計する
期末までにやっておくこと
- 株主総会で決議した役員給与の限度額を確認し、当期の支給予定額の合計が枠内に収まるか試算する
- 限度額に使用人兼務役員の使用人分を含めない旨を決議しているか、議事録の文言を確認する
- 社宅の貸与差額、個人的費用の会社負担など経済的利益がないかを洗い出し、給与の額に加算して枠と照合する
- 役員が複数いる場合、取締役会での個別配分決議が総会の枠内で行われているかを確認する
- 非常勤役員・親族役員について、実際の職務内容を示す資料(会議出席記録、決裁実績)が残っているか点検する
- 役員退職金を予定している場合、退職金規程と功績倍率の根拠、在任期間の記録を整理する
限度額の改定を長年していない会社は要注意です。設立時に決めた枠のまま報酬だけを引き上げていると、実質基準では問題がなくても形式基準で機械的に否認されます。増額を決める前に、まず枠を確認してください。
よくある質問
施行令第70条第1号は「いずれか多い金額」としているため、多い方の金額のみが損金不算入となります。ただし、第2号の退職給与や第3号の使用人兼務役員賞与に該当する金額がある場合は、それらとの合計額が損金不算入額になります。
施行令第70条第1号ロは限度額等を定めている法人を対象とする規定です。定めていなければロによる超過額は生じませんが、実質基準(イ)は法人の別なく適用されます。また会社法上、取締役の報酬等は定款または株主総会の決議で定めることが求められるため、決議していないこと自体が別の問題になります。
法人税基本通達9-2-26は、他の使用人の賞与支給時期に未払金として経理し、役員給与の支給時期に支払った場合も「異なる時期に支給したもの」に該当するとしています。経理処理の時期ではなく実際の支払時期で判定されます。
功績倍率法は実務で広く用いられる計算方法ですが、施行令第70条第2号は業務従事期間・退職の事情・同種同規模法人の支給状況等に照らした相当性を求めています。計算方法を採用したことのみで相当性が担保されるものではなく、功績倍率の水準や基礎となる最終月額報酬の妥当性が併せて問われます。
法人税法第34条第4項は、同条第1項から第3項の給与に債務の免除による利益その他の経済的な利益を含むとしています。無償または低額での社宅貸与により生じる経済的利益は給与の額に含まれるため、限度額との照合では額面の報酬に加えて考える必要があります。
まとめ
役員給与の損金算入は、第34条第1項の類型判定を通ったあとに第2項の金額判定が控えています。施行令第70条は、実質基準(第1号イ)と形式基準(第1号ロ)のいずれか多い金額に、退職給与の過大部分(第2号)と使用人兼務役員の使用人分賞与のうち支給時期が異なるもの(第3号)を加えた合計額を損金不算入としています。
実質基準は職務の内容を中心とした実態の話で、事前の準備は規程と記録に尽きます。形式基準は議事録の文言で決まる手続の話で、こちらは確認すれば防げます。防げる方を確実に防いだうえで、防ぎにくい方に資料を積む。これが役員報酬の水準設定における基本姿勢です。
次回は、役員退職金の適正額の考え方をより詳しく取り上げます。
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公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。法人の税務顧問と申告業務、新しい会計基準の導入支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
※本記事は2026年9月時点の法令等に基づいて作成しています。個別の事案への適用については、必ず専門家にご相談ください。
※参考:国税庁 法人税基本通達 第6款 過大な役員給与の額/e-Gov法令検索(法人税法・法人税法施行令)/国税不服審判所 公表裁決事例「過大報酬の判定」