連結の開始仕訳とは
開始仕訳は、前期までに入れた連結修正仕訳を、当期の連結作業の最初にもう一度入れ直す仕訳です。連結財務諸表は毎期、個別財務諸表を基礎として作成するため(企業会計基準第22号 第10項)、前期の修正は当期の個別財務諸表に残っていません。前期までの損益に効いた修正は、当期の損益ではなく利益剰余金の期首残高に置き換えて入れます。
- 主な対象は、子会社の資産・負債の時価評価、投資と資本の相殺消去、のれん償却の累計、非支配株主持分への振替の累計、期末在庫の未実現利益の消去です
- 損益の科目は「利益剰余金期首残高」に、資産・負債・純資産の科目は同じ勘定のまま入れ直します
- 「開始仕訳」は会計基準の用語ではなく、実務上の呼び名です
2026年10月12日更新
連結の作業を引き継いだ人が最初につまずくのが、開始仕訳です。なぜ前期と同じ仕訳をもう一度書くのか。
理由は1つです。連結財務諸表は、毎期、個別財務諸表を基礎として作成するからです。企業会計基準第22号の第10項がそう定めています。連結だけの帳簿が翌期に引き継がれる仕組みにはなっていません。
ですから前期に入れた連結修正は、翌期にもう一度入れ直すことになります。そのとき、前期の損益に効いた修正は当期の損益ではありませんから、利益剰余金の期首残高に置き換えます。
- 開始仕訳が必要になる理由(第22号 第10項)
- 開始仕訳という語が会計基準にないこと
- 損益項目は利益剰余金の期首残高に置き換えること
- 資産負債項目はそのまま入れ直すこと
- 毎期の連結作業の順番
- まちがえやすい4点
この記事の見出し
📌 結論 個別から毎期積み上げるから
開始仕訳という言葉は会計基準にも実務指針にも出てきません。第10項の考え方から、実務上そうせざるを得なくなるという性質のものです。
企業会計基準第22号の第10項は、連結財務諸表は企業集団に属する親会社及び子会社が一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して作成した個別財務諸表を基礎として作成しなければならない、としています。
この一文が開始仕訳の出発点です。基礎になるのは個別財務諸表であって、前期の連結精算表ではありません。ですから前期の連結修正は、当期の個別財務諸表のどこにも反映されていません。
なお、開始仕訳という言葉そのものは会計基準にも実務指針の本文にも出てきません。基準が名前をつけて定めた処理ではなく、第10項の考え方から実務上そうせざるを得なくなる手続です。項番号を挙げて開始仕訳を説明している解説を見かけたら、その項番号を確かめてみてください。
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🧭 毎期の手順
2番目が開始仕訳です。ここを飛ばすと、前期に消したはずのものが復活します。
合算のあとに開始仕訳を入れ、そのうえで当期分の連結修正を入れます。この順番が崩れると、二重に消したり消し忘れたりします。
開始仕訳を飛ばすとどうなるか。前期に消した未実現利益が復活し、前期に計上したのれんの償却費が消えます。連結上の利益剰余金が個別の合算値に戻ってしまうということです。
逆に、開始仕訳を入れたうえで当期分をもう一度入れてしまうと、二重に計上されます。どこまでが前期分でどこからが当期分かを、資料の上で分けておいてください。
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🔀 損益と資産負債で分ける
損益に効いたものは利益剰余金の期首残高に置き換わります。資産負債はそのままです。この切り分けができれば開始仕訳は組めます。
前期の連結修正のうち、損益に効いたものは利益剰余金の期首残高に置き換えます。のれんの償却費、未実現利益の消去による売上原価の増減などです。
資産負債に効いたものは、同じ勘定でそのまま入れ直します。子会社資産の評価差額、のれんの残高などです。
この切り分けができれば、開始仕訳は機械的に組めます。逆にここが曖昧なままだと、毎期どこかで数字が合わなくなります。
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🚫 まちがえやすいところ
とくに1つめは解説記事でよく見かけます。項番号を挙げている記事があれば、その項番号を実際に確かめてみてください。
解説記事の中には、開始仕訳に条番号を付しているものがあります。会計基準の本文にも注解にもその語はありませんので、引用する前に原典で確かめてください。
用語の面では、少数株主持分は現在の名称ではありません。非支配株主持分です。古い教材をそのまま使っている社内資料は、この機会に直しておくとよいと思います。
のれんの償却についてはのれんの償却年数は何年にするかで扱っています。開始仕訳で毎期入れ直すのは、この償却の累計です。
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📝 開始仕訳の仕訳例(支配獲得から2年目)
数字で追うと、何を利益剰余金の期首残高に置き換えるのかがはっきりします。次の架空の例で、1年目に入れた連結修正が2年目の開始仕訳でどう変わるかを見ます。
親会社P社は、X1年3月31日に子会社S社の株式の80%を1,000で取得し、支配を獲得しました。支配獲得日のS社の純資産は資本金500、利益剰余金300で、S社の土地の時価が帳簿価額を100上回っています。説明を簡単にするため税効果は考えません。のれんは10年の定額法で償却し、X2年3月期のS社の当期純利益は200、配当はなかったものとします。
1年目(X2年3月期)に入れた連結修正
| 仕訳 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 子会社の資産の時価評価 | 土地 100 | 評価差額 100 |
| 投資と資本の相殺消去 | 資本金 500 利益剰余金 300 評価差額 100 のれん 280 |
S社株式 1,000 非支配株主持分 180 |
| のれんの償却 | のれん償却額 28 | のれん 28 |
| 当期純利益の非支配株主への按分 | 非支配株主に帰属する当期純利益 40 | 非支配株主持分 40 |
のれん280は、投資1,000から、時価で評価したS社の資本900(500+300+100)の80%にあたる720を差し引いた額です。非支配株主持分180は900の20%、のれんの償却額28は280の10分の1、非支配株主への按分40はS社の当期純利益200の20%です。
2年目(X3年3月期)の開始仕訳
| 仕訳 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 子会社の資産の時価評価 | 土地 100 | 評価差額 100 |
| 投資と資本の相殺消去・のれんの償却・非支配株主持分への振替(前期までの累計をまとめて1本) | 資本金 500 利益剰余金期首残高 368 評価差額 100 のれん 252 |
S社株式 1,000 非支配株主持分 220 |
利益剰余金期首残高の368は、支配獲得時のS社の利益剰余金300に、前期ののれん償却額28と前期の非支配株主に帰属する当期純利益40を足したものです。のれん償却額も非支配株主に帰属する当期純利益も前期の損益ですから、当期の損益科目ではなく利益剰余金の期首残高で入れます。
のれん252は280から前期の償却28を引いた残高、非支配株主持分220は180に前期の按分40を足した残高です。借方は500+368+100+252=1,220、貸方は1,000+220=1,220で一致します。土地と評価差額は資産と純資産の科目ですので、1年目と同じ形で入れ直します。
このあとに当期分として、X3年3月期ののれん償却額28と、X3年3月期のS社の当期純利益の20%の按分を入れます。開始仕訳には当期分を含めません。資本連結の考え方そのものは資本連結でのれんはどう出るかで、持分比率が変わった場合は非支配株主持分はどの時点の比率で計算するかで扱っています。
🗂 開始仕訳に入れるもの・入れないもの
前期の連結修正がすべて開始仕訳になるわけではありません。前期の利益剰余金や資産・負債の残高に影響が残っているものだけを入れ直します。損益を両建てで消しただけのものや、当期末の残高で改めて相殺するものは入れません。
| 前期までの連結修正 | 開始仕訳での入れ方 |
|---|---|
| 子会社の資産・負債の時価評価 | 同じ勘定(土地など)と評価差額で入れ直す |
| 投資と資本の相殺消去 | 支配獲得時の仕訳を入れ直す。子会社の利益剰余金は利益剰余金期首残高で入れる |
| のれんの償却 | 償却の累計額を、利益剰余金期首残高とのれんで入れる |
| 非支配株主に帰属する当期純利益 | 累計額を、利益剰余金期首残高と非支配株主持分で入れる |
| 子会社が支払った配当金の修正 | 非支配株主持分の減少分を、非支配株主持分と利益剰余金期首残高で入れる。親会社の受取配当金の消去分は期首残高の中で打ち消し合うので残らない |
| 期末在庫に含まれる未実現利益の消去 | 利益剰余金期首残高と棚卸資産で入れ、当期に外部へ販売された分は売上原価で戻す |
| 債権債務の相殺に伴う貸倒引当金の修正 | 利益剰余金期首残高と貸倒引当金で入れ直す |
| 売上と仕入などの内部取引高の相殺 | 入れない(損益を両建てで消しただけで、利益剰余金に影響が残らない) |
| 債権と債務の相殺 | 入れない(当期末の残高で当期分として相殺する) |
未実現利益の例で確かめます。X2年3月期末に、P社がS社に売った商品の未実現利益50がS社の在庫に残っていたとします。P社からS社への販売ですので、未実現利益は全額を消去します(企業会計基準第22号 第36項)。売手が親会社ですから、非支配株主持分への配分(同 第38項)はありません。1年目は「売上原価 50/商品 50」を入れました。
2年目の開始仕訳は「利益剰余金期首残高 50/商品 50」です。S社がX3年3月期中にこの商品を外部に販売したら、当期分として「商品 50/売上原価 50」を入れます。2本を合わせると「利益剰余金期首残高 50/売上原価 50」となり、前期に消した利益が当期の利益として実現します。開始仕訳と戻しをどちらも入れないと、利益剰余金期首残高が50大きく、当期の利益が50小さくなります。
❓ よくある質問
A. 連結財務諸表を毎期、個別財務諸表を基礎として作成するためです(企業会計基準第22号 第10項)。連結だけの帳簿が翌期に引き継がれる仕組みではありません。
A. 開始仕訳という語を定めた条文はありません。第10項の考え方から実務上必要になる手続です。
A. 当期の損益ではありませんので、利益剰余金の期首残高に置き換えます。
A. 同じ勘定でそのまま入れ直します。
A. 前期に消した未実現利益が復活し、のれんの償却費が消えます。連結の利益剰余金が合算値に戻ります。
A. 前期分と当期分を資料の上で分けておくことです。開始仕訳の一覧を毎期更新してください。
A. 現行の名称は非支配株主持分です。
A. 社内で管理表を持つことは有用です。ただし制度上の作成は個別財務諸表から積み上げます。
A. 前期までの修正の影響を、連結株主資本等変動計算書の期首残高として示すためです。当期の損益科目や当期の変動額に入れると、当期の利益や変動額が前期分だけずれます。
A. 入れません。売上と仕入の相殺は損益を両建てで消すだけで利益剰余金に影響が残らず、債権と債務は当期末の残高で当期分として相殺し直すからです。ただし、債権の相殺に伴って修正した貸倒引当金や、期末在庫に含まれる未実現利益のように前期の損益に効いたものは、利益剰余金期首残高で入れます。
📄 まとめ
開始仕訳が必要なのは、連結を毎期、個別財務諸表から積み上げるからです。根拠は企業会計基準第22号の第10項という考え方であって、開始仕訳という名前の条文ではありません。
前期の損益修正は利益剰余金の期首残高に置き換え、資産負債の修正はそのまま入れ直します。
手順は、合算、開始仕訳、当期分の修正、相殺消去、未実現損益の消去の順です。
いま社内に開始仕訳の一覧がないなら、まずそれを作ってください。担当者が変わったときに引き継げるかどうかは、その一覧があるかどうかで決まります。
📚 参考(公的な一次情報)
- 企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準委員会) 第10項、第23項、第24項、第26項、第36項、第38項
- 移管指針第4号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」(企業会計基準委員会)
- 企業会計基準第6号「株主資本等変動計算書に関する会計基準」(企業会計基準委員会) 第6項
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