新リース会計基準の使用権資産の当初測定は?敷金・権利金の扱いも解説

新リース会計基準では、借手はほぼすべてのリースについて使用権資産を計上します。このとき「使用権資産の金額=リース負債の金額」と考えてしまうと、計上額を過少に見積もることになりかねません。

IPO準備会社や上場企業の経理・管理部門で、リース負債の現在価値までは計算できたものの、敷金・保証金・仲介手数料・原状回復費用をどう扱うのか整理しきれていない、という段階の方に向けて、公認会計士・税理士が使用権資産の当初測定を条項ベースで解説します。

当初測定に何を含めるか使用権資産の当初測定の要素を並べるリース負債の計上額があるか当初測定の基礎とするはいいいえ前払リース料や初期直接費用があるか加算するはいいいえ原状回復の費用の見積りがあるか加算するはいいいえ受け取ったインセンティブは控除する

図 使用権資産の当初測定に含める要素

結論:使用権資産はリース負債に4つを加算し、1つを控除して算定します

借手は、リース開始日に、リース負債を現在価値により算定して計上します(基準33項、基準34項)。使用権資産は、そのリース負債に、リース開始日までに支払った借手のリース料、付随費用および資産除去債務に対応する除去費用を加算し、受け取ったリース・インセンティブを控除した額により計上します(基準33項、指針18項)。

ここで「リース開始日」とは、貸手が、借手による原資産の使用を可能にする日をいいます(基準18項)。契約締結日ではない点に注意が必要です。

図1 使用権資産の当初測定=リース負債±4項目 リース負債 (現在価値・基準34項) 加算する3項目(基準33項) ① リース開始日までに支払った借手のリース料 ② 付随費用 ③ 資産除去債務に対応する除去費用 ③は資産除去債務の計上額と同額を加算します(指針28項) 控除する1項目(基準33項) ④ 受け取ったリース・インセンティブ = リース開始日の使用権資産の計上額(基準33項、指針18項)

図1 使用権資産はリース負債そのものではなく、3項目を加算し1項目を控除した額になります。

現行実務からの変更点:見積現金購入価額との比較は行いません

従来の実務では、リース資産の計上額はリース料総額の割引現在価値と貸手の購入価額または借手の見積現金購入価額のいずれか低い額によるとされていました(指針BC36項)。新基準では、ファイナンス・リースに限らず借手のすべてのリースについて資産および負債を計上することとしたため、この比較を行う方法は踏襲せず、借手のリース料の現在価値を基礎として算定することとされています(指針BC36項)。

実務で漏れやすいのは「加算する側」の項目です

リース負債の現在価値計算はExcelで機械的に処理できます。実務で誤りが生じやすいのは、むしろ加算・控除する項目の拾い漏れです。とくに不動産のリースでは、契約に付随して支払う金銭が複数の科目に分かれて計上されているため、契約書と総勘定元帳の両方を突き合わせる必要があります。

差入敷金:返還されない部分だけが使用権資産に入ります

差入敷金のうち、貸手から借手に将来返還される差入敷金については、取得原価で計上します(指針33項)。ただし、建設協力金等と同様に、返済期日までのキャッシュ・フローを割り引いた現在価値による会計処理を行うこともできます(指針33項ただし書き、指針29項、指針30項)。

一方、差入敷金のうち、貸手から借手に返還されないことが契約上定められている金額は、使用権資産の取得価額に含めます(指針34項)。これは、当該金額が原資産を使用する権利に関する支払である点で毎月支払われるリース料と相違はないと考えられるためです(指針BC65項)。敷金は賃料および修繕の担保的性格を有し、通常無金利であることから、返還される部分については取得原価で計上する従来の取扱いを踏襲しています(指針BC64項)。

実務では、いわゆる「敷引き」「償却」と呼ばれる返還されない部分がこれに当たります。契約書の敷金条項を1件ずつ読み、返還される部分と返還されない部分に分解する作業が必要になります。

建設協力金等の差入預託保証金

建設協力金等の差入預託保証金(敷金を除く)に係る当初認識時の時価は、返済期日までのキャッシュ・フローを割り引いた現在価値であり、借手は支払額と当該時価との差額を使用権資産の取得価額に含めます(指針29項)。当初時価と返済額との差額は、弁済期または償還期に至るまで毎期一定の方法で受取利息として計上します(指針29項)。対象となった土地建物に抵当権を設定している場合、現在価値に割り引くための利子率は原則としてリスク・フリーの利子率を使用します(指針30項)。

返済期日までの期間が短いもの等、影響額に重要性がない場合には、この会計処理を行わないことができます(指針31項)。また、差入預託保証金(敷金を除く)のうち将来返還されないことが契約上定められている金額は、使用権資産の取得価額に含めます(指針32項)。

借地権の設定に係る権利金等

借地権の設定に係る権利金等は、使用権資産の取得価額に含め、原則として、借手のリース期間を耐用年数とし、減価償却を行います(指針27項)。ただし、旧借地権または普通借地権の設定に係る権利金等については、一定の場合に減価償却を行わないものとして取り扱うことができます(指針27項(1)、指針27項(2))。

資産除去債務に対応する除去費用

資産除去債務を負債として計上する場合の関連する有形固定資産が使用権資産であるときは、資産除去債務会計基準第7項に従って当該負債の計上額と同額を当該使用権資産の帳簿価額に加えます(指針28項)。資産除去債務会計基準では有形固定資産に「それに準じる有形の資産」も含むとされていることが、その理由とされています(指針BC58項)。

なお、敷金の回収が最終的に見込めないと認められる金額を合理的に見積り、そのうち当期の負担に属する金額を費用に計上する方法を選択する場合には、資産除去債務に関する会計基準の適用指針第9項に従って差入敷金の会計処理を行います(指針35項)。原状回復義務を敷金の回収可能性の問題として処理してきた会社は、この選択との関係を整理しておく必要があります。

図2 契約に付随して支払った金銭の振り分け 契約に基づき貸手等へ支払った金銭 敷金 返還される部分 →取得原価で計上 (指針33項) 敷金 返還されない部分 →使用権資産に算入 (指針34項) 建設協力金等 支払額と時価の差額 →使用権資産に算入 (指針29項) 借地権の権利金等 →使用権資産に算入し  リース期間で償却 (指針27項) 原状回復義務 →資産除去債務と同額を  使用権資産に加算 (指針28項) 貸手から受け取った額 リース・インセンティブは →使用権資産から控除 (基準33項)

図2 同じ「支払った金銭」でも、返還されるか否かで会計処理が分かれます。

項目別の取扱い一覧

項目 使用権資産への影響 根拠
開始日までに支払ったリース料 加算する 基準33項
付随費用 加算する 基準33項、指針18項
資産除去債務に対応する除去費用 資産除去債務の計上額と同額を加算する 基準33項、指針28項
受け取ったリース・インセンティブ 控除する 基準33項
敷金(返還される部分) 使用権資産には含めず取得原価で計上する(現在価値による処理も可) 指針33項
敷金(返還されない部分) 取得価額に含める 指針34項、指針BC65項
建設協力金等(支払額と当初時価の差額) 取得価額に含める 指針29項
建設協力金等(返還されない部分) 取得価額に含める 指針32項
借地権の設定に係る権利金等 取得価額に含め、リース期間を耐用年数として償却する 指針27項

付随費用について、基準および適用指針はその具体的な範囲を列挙していません。仲介手数料や契約書の作成に要した費用など、当該リースを開始するために直接要した支出を対象とし、社内人件費や一般管理費との線引きをあらかじめ社内基準として文書化しておくことが、監査対応上は有効と考えられます。

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数値例:加算項目を落とすと計上額が26%変わります

前提(すべて筆者が設定した架空の数値です)

  • 本社オフィスの賃借。借手のリース期間6年、年額賃料30,000千円(各年度末払い)
  • 割引率は年3.0%(貸手の計算利子率を知り得ないため追加借入利子率を使用)
  • 入居時に敷金150,000千円を差し入れ、うち30,000千円は契約上返還されない
  • 仲介手数料3,000千円を支払い、入居前の1か月分の賃料2,500千円を前払い
  • 原状回復義務に係る資産除去債務の計上額は12,000千円
  • 貸手から内装工事負担金5,000千円を受領(リース・インセンティブ)

リース負債は、年額30,000千円を年3.0%で6年間割り引いた162,516千円となります。使用権資産はここに加算・控除を行って算定します。

内訳 金額(千円) 取扱い
リース負債(現在価値) 162,516 基準34項
開始日までに支払った賃料 +2,500 基準33項
付随費用(仲介手数料) +3,000 基準33項
除去費用(資産除去債務と同額) +12,000 指針28項
返還されない敷金 +30,000 指針34項
リース・インセンティブ △5,000 基準33項
使用権資産の計上額 205,016 基準33項

リース負債と同額の162,516千円で計上してしまうと、使用権資産は42,500千円、率にして26.2%過少になります。所有権が移転すると認められるリース以外のリースについて定額法により6年で償却すると仮定した場合、年間の減価償却費は34,169千円と27,086千円で、年7,083千円の差が生じます(基準38項)。返還される残りの敷金120,000千円は使用権資産には含めず、取得原価で計上します(指針33項)。

自社対応が重くなるのはどこか

当初測定でつまずくのは、計算そのものよりも情報の収集です。監査法人からは、計上額の網羅性、すなわち「加算すべき項目を漏れなく拾えているか」を必ず問われます。IPO準備の局面では、過年度から継続している賃貸借契約の敷金がどのような条件で差し入れられたのかを遡って確認する必要があり、契約書の原本が見当たらないケースも珍しくありません。

実務で作業量が膨らむ論点

  • 賃貸借契約書の敷金・保証金条項を1件ずつ読み、返還される部分と返還されない部分に分解する
  • 敷金・差入保証金・長期前払費用・建設協力金など複数科目に分散した残高を契約単位で名寄せする
  • 原状回復義務について資産除去債務を計上しているか、敷金の回収可能性で処理しているかを整理する(指針35項)
  • フリーレントや内装工事負担金がリース・インセンティブに該当するかを契約ごとに判断する
  • 付随費用の範囲について社内基準を定め、継続適用できる形で文書化する
  • 算定した使用権資産の内訳を、後年度の監査で追跡できる管理台帳の形式に落とし込む

当初測定チェックリスト

  • リース開始日を、契約締結日ではなく原資産の使用が可能になった日で特定したか(基準18項)
  • リース負債を現在価値により算定したか(基準34項)
  • 開始日までに支払った借手のリース料を加算したか(基準33項)
  • 付随費用の範囲を社内基準に照らして判定し、加算したか(基準33項)
  • 資産除去債務の計上額と同額の除去費用を加算したか(指針28項)
  • 受け取ったリース・インセンティブを控除したか(基準33項)
  • 敷金を返還される部分と返還されない部分に分解し、後者を取得価額に含めたか(指針33項、指針34項)
  • 建設協力金等について支払額と当初時価の差額を取得価額に含めたか(指針29項)
  • 借地権の設定に係る権利金等を取得価額に含め、償却方法を決定したか(指針27項)

よくある質問

Q. 使用権資産とリース負債の金額は必ず一致しますか。

一致しません。使用権資産は、リース負債に開始日までに支払ったリース料・付随費用・除去費用を加算し、リース・インセンティブを控除した額により計上します(基準33項)。加算・控除項目がない場合に結果として一致することはありますが、一致することが前提ではありません。

Q. 敷金は全額が使用権資産になるのですか。

いいえ。将来返還される差入敷金は取得原価で計上し(指針33項)、返還されないことが契約上定められている金額のみを使用権資産の取得価額に含めます(指針34項)。契約書の敷引条項の確認が必要です。

Q. フリーレント期間がある場合はどう考えますか。

貸手から受け取ったリース・インセンティブに該当する場合は、使用権資産の計上額から控除します(基準33項)。賃料そのものが期間按分で設定されている場合は借手のリース料の算定に反映されるため、契約条項に即した判断が必要になると考えられます。

Q. 見積現金購入価額との比較は不要になったのですか。

使用権資産の計上額については、従来の貸手の購入価額または借手の見積現金購入価額と比較する方法は踏襲されず、借手のリース料の現在価値を基礎として算定することとされています(指針BC36項)。

まとめ

使用権資産の当初測定は、リース負債に3項目を加算し1項目を控除するという式自体は単純です(基準33項)。実務の難所は、敷金・建設協力金・権利金といった契約に付随する支払を、返還されるか否かで正しく振り分ける点にあります(指針27項、指針29項、指針33項、指針34項)。この振り分けを誤ると、使用権資産の金額と、その後の減価償却費が継続的にずれ続けることになります。

本会計基準は、2027年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用され、2025年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から早期適用することができます(基準58項)。契約書の棚卸しには相応の時間がかかりますので、早めに着手されることをお勧めします。

本連載の全体像は新リース会計基準の連載目次をご覧ください。リース負債の割引率の決め方については新リース会計基準の割引率とは?追加借入利子率の決め方を解説で、リース料に何を含めるかについては新リース会計基準のリース料とは?含める5要素と変動リース料を解説で解説しています。次回は「事後測定──減価償却と利息費用」を取り上げます。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援と内部統制の整備支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の会計処理の判断を保証するものではありません。最終的な会計処理および投資判断にあたっては、監査人その他の専門家にご相談ください。

参考:企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」18項、33項、34項、38項、58項/企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」18項、27項、28項、29項、30項、31項、32項、33項、34項、35項、BC36項、BC58項、BC64項、BC65項

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