※本記事は2026年10月6日時点の公表資料に基づきます。
「CGコードの2026年改訂で、補充原則がなくなったと聞いた。では何を残し、何を変えればよいのか」。コーポレート・ガバナンス報告書(CG報告書)の担当者からは、こうした相談が増えています。
結論からいえば、今回の改訂の中心は「原則を減らすこと」ではなく、原則の趣旨に立ち返って各社が自ら考えるための構成変更です。コンプライ・オア・エクスプレインの対象を基本原則と原則に絞り、具体的な内容や趣旨は新設された「解釈指針」に記載されました。本記事では、プリンシプル化の意味と解釈指針の読み方、CG報告書の見直し手順を整理します。
この記事の見出し
2026年改訂の構成変更は「プリンシプル化」
2026年7月、金融庁と東京証券取引所はコーポレートガバナンス・コードの改訂版を公表しました。2015年の策定以来、2018年、2021年に続く3度目の改訂です。企業が持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向けた本質的な取組みに注力できるよう後押しすることが、改訂の狙いとされています。
構成面での最大の変化は、コンプライ・オア・エクスプレインの対象となる原則の内容を、概念的かつ抽象的なものに限定した点です。改訂前のコードは「基本原則」「考え方」「原則」「補充原則」で構成されていましたが、改訂後は「基本原則」と「原則」の二層となり、全ての基本原則と一部の原則に「解釈指針」が付く形に再編されました(序文9項)。補充原則は削除されています。
図1 網掛けの濃い箱がコンプライ・オア・エクスプレインの対象です。補充原則は削除され、内容は原則と解釈指針に引き継がれました。
| 構成要素 | 改訂前 | 改訂後 |
|---|---|---|
| 基本原則 | コンプライ・オア・エクスプレインの対象 | 引き続き対象 |
| 原則 | 対象 | 対象(内容を概念的・抽象的に整理) |
| 補充原則 | 対象 | 削除(内容は原則・解釈指針へ) |
| 考え方/解釈指針 | 「考え方」は対象外 | 「解釈指針」を新設。対象外 |
当局の解説では、この再編は「コードの実質化」を狙ったものとされています。コード策定時のプリンシプルベースの精神に立ち返り、上場会社が自社の置かれた状況に応じて各原則の趣旨・精神に沿った実践を行うことが期待されています。チェックリストのように項目を埋める対応から、趣旨を理解したうえでの取組みへ移ることが求められているといえます。
なお、プリンシプル化によって説明の自由度が増した分、説明の巧拙の差は以前より見えやすくなります。原則の文言が抽象的になったことで、「実施」と記載するだけでは、何をもって実施と判断したのかが読み手に伝わりません。判断の基準を社内で言葉にしておくことが、結果として報告書の質を左右します。
社内向けの判断基準は、原則ごとに「趣旨」「自社で満たすべき状態」「確認した事実」「判定」の四つの欄を持つ簡単な表で十分です。毎年同じ表を更新していけば、前年から何が変わったのかも自然に記録され、取締役会への報告資料や投資家からの質問への回答にもそのまま使えます。
原則の数が減っても、求められる水準は下がらない
対象となる原則等の数は減りましたが、それは負担軽減を意味しません。序文では、各社において自社にふさわしいガバナンスのあり方を探求し実践するという、プリンシプル化・スリム化は対応コストや開示負担の軽減だけを意図したものではなく、各原則への対応の実質化に取り組むことが期待されているとされています(序文12項)。
たとえば、補充原則として個別に書かれていた記載は、必ずしも原則として残っていません。しかし当局は、移管された記載の重要性が失われたわけではないと説明しています。番号が消えたからといって、取組みをやめてよいとはいえない点に注意が必要です。
図2 番号が消えた項目も、趣旨は原則や解釈指針に残っています。社内の管理表から外す前に移管先を確認します。
なぜ今、プリンシプル化なのか
2015年の適用開始以降、独立社外取締役の選任や委員会の設置など、わが国のコーポレートガバナンス改革には一定の進捗がみられました。一方で、形式的な対応にとどまることなく、企業と投資家の双方の取組みにおけるガバナンス改革の実質化が重要だという指摘が続いてきました。
原則と補充原則の数が増えるほど、報告書の作成は「全項目にコンプライと書けるか」という確認作業になりがちです。項目ごとの充足に意識が向くと、自社にとって本当に重要な課題、たとえば成長投資の判断や取締役会の議論の質に十分な時間を割けなくなります。今回の改訂は、こうした状況を踏まえ、企業の注力先を本質的な取組みへ向け直すための構成変更と位置付けられます。
あわせて、コードの趣旨・精神を再周知する観点から序文が新設されました。序文では、コードが市場における中長期の投資を促す効果をもたらすことも期待していること、原則をコンプライする場合・しない場合のいずれであっても、その理由を丁寧に説明することが投資家との建設的な対話に資すると考えられることが明記されています。
解釈指針とは何か|対象外でも読む理由
解釈指針は、各原則への対応を支援するための具体的な内容や趣旨を記載したものです。それ自体はコンプライ・オア・エクスプレインの対象ではありません。また、解釈指針で示された内容を必ずしもすべて実施することまでは求められていないと説明されています(序文9項)。
一方で、企業には、各原則の内容に加え、解釈指針で示された内容も踏まえて各原則の趣旨・精神を解釈し、自社が置かれた状況を踏まえてコンプライまたはエクスプレインの選択や、株主等との建設的な対話のための説明等を行うことが期待されています。対象外だから読まなくてよい、という性格のものではありません。
図3 解釈指針は実施・説明の対象ではありませんが、原則への対応を考える手掛かりになります。
例示は「正解」ではなく「選択肢」
解釈指針には、望ましい取組みの例が具体的に書かれています。ただし、例示された手段をそのまま採用することが唯一の正解とは限りません。事業の特性、成長段階、株主構成、リスクの状況が違えば、同じ趣旨を実現する最適な方法も変わるからです。
実務では、解釈指針を読む順番を決めておくと迷いにくくなります。まず原則が何を求めているかを確認し、次に解釈指針の例示を手段の選択肢として読み、最後に自社が採る方法とその理由を記録します。例示を採らない場合も、なぜ採らないのか、代わりに何で趣旨を満たすのかを説明できれば、取組みの説得力はむしろ高まります。
図4 例示の採否から入らず、原則の趣旨から読み始めると説明の筋が通りやすくなります。
既存の記事「コーポレートガバナンス・コード改訂|補充原則の廃止と解釈指針」では、改訂の検討過程も含めて整理しています。あわせてご覧ください。
コンプライ・オア・エクスプレインの考え方も再確認する
コードは法的拘束力を有する規範ではありません。そのため、「すべての原則についてコンプライしなければならない」と考える必要はなく、個別事情によっては各原則を形式的にコンプライするのではなく、エクスプレインを積極的に選択し、原則を「実施しない理由」を丁寧に説明すべき場合があると解説されています。
また、「ひな型」的な表現により表層的な説明に終始することは、コンプライ・オア・エクスプレインの趣旨に反すると考えられます。コンプライする場合であっても、ステークホルダーに対して十分な情報提供を行う観点から、コンプライとする理由を説明することが投資家との建設的な対話に資する取組みとして望ましいとされています。
図5 コンプライする場合も、取組みの中身を十分に説明することが望ましいとされています。
説明内容が適切かどうかの評価は、基本的には対話の相手方となる株主等のステークホルダーの判断に委ねられます。株主の側にも、コンプライ・オア・エクスプレインの手法の趣旨を理解し、会社の個別の状況を十分に尊重することが求められています。
図6 同じ「実施」でも、読み手が判断に使える情報量は大きく異なります。
| 場面 | 避けたい書き方 | 改善の方向 |
|---|---|---|
| 実施の説明 | 「適切に対応している」とだけ書く | 何を、誰が、どの頻度で検証しているかを書く |
| 不実施の説明 | 「今後検討する」で終える | 自社固有の事情、代替策、検討の時期を示す |
| 毎年の更新 | 前年と同じ文章を繰り返す | 前年から変わった点と、変わらない理由を示す |
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機関設計による読替えと、市場区分による範囲
コードの一部の原則は、特定の機関設計を想定した記載ぶりとなっています。プリンシプルベース・アプローチのもと、原則において念頭に置かれている機関設計を採用していない上場会社は、各社において自らの機関設計に応じて所要の読替えを行ったうえで適用することが想定されています(序文10項)。
図7 監査役会設置会社を念頭に置いた記載は、自社の機関設計に応じて読み替えて適用します(序文10項)。
たとえば、監査役に関する記載を、監査等委員会設置会社であれば監査等委員会に当てはめて考えるといった対応です。読替えの判断に迷う場合は、その原則が守ろうとしている機能、つまり誰がどの立場で何を監督・監査するのかに立ち返ると整理しやすくなります。
自社の市場区分で説明対象を確定する
東証の資料では、改訂後の基本原則は各市場でコンプライ・オア・エクスプレインの対象となり、原則はプライム市場とスタンダード市場で対象となる整理が示されています。プライム市場上場会社向けの記載もあるため、他社の報告書を参考にする場合は、市場区分の違いに注意が必要です。
図8 東証の資料に基づく整理です。グロース市場でも基本原則の趣旨の検討は必要です。
グロース市場の会社は、説明対象が基本原則に限られます。ただし、それは原則の趣旨を考えなくてよいという意味ではありません。上場市場の変更を視野に入れている会社であれば、早い段階から原則レベルの取組みを整えておくと、移行時の負担を抑えられます。
CG報告書をどう見直すか|実務の手順
東京証券取引所の資料では、上場会社は遅くとも2027年7月31日までに、改訂後のコードに基づくCG報告書を提出する扱いとされています。準備ができた会社から順次更新する扱いであり、2027年7月末は改訂の施行日ではなく報告書の更新期限である点に注意します。
図9 2027年7月31日は報告書の提出期限です。準備ができた会社から順次更新します。
見直しの第一歩は、新旧対照表を「削除箇所の一覧」としてではなく「移管先の地図」として使うことです。現在の報告書で記載している各項目が、改訂後のどの原則、どの解釈指針に引き継がれたのかを特定し、運用が続いているかを確認したうえで記載に反映します。
図10 削除箇所の一覧として読むと、趣旨が残っている取組みを見落としやすくなります。
この作業を一つの部署だけで抱え込むと、文章の整合は取れても実態との乖離が残りがちです。原則ごとに担当部門を決め、取組みの事実と根拠資料を集めたうえで、取締役会で記載方針を確認する流れが現実的でしょう。
| 作業 | 主担当の例 | 確認する資料 |
|---|---|---|
| 原則ごとの対応表 | 法務・総務 | 新旧対照表、現行CG報告書 |
| 運用実態の確認 | 各所管部門 | 規程、議事録、実施記録 |
| 不実施理由の検討 | 経営企画・事務局 | 取締役会資料、検討メモ |
| 記載方針の承認 | 取締役会 | 報告書案、他の開示との対照 |
実務上、つまずきやすい点
最も多いのは、補充原則の番号が消えたことを理由に、その取組みの記載を報告書から一律に削ってしまうケースです。移管先の解釈指針に趣旨が残っていれば、従来の取組みを説明することは引き続き有用です。削る場合も、なぜ説明を不要と判断したかを社内に残しておくと、後の対話で困りません。
次に、解釈指針の例示をすべて「実施済み」にしようとして、実態以上の記載になってしまうケースがあります。解釈指針は実施を義務付けるものではありません。できていない例示を無理に書くより、自社が選んだ方法と理由を正確に書くほうが信頼につながります。
IPO準備会社にとっても、この変化は無関係ではありません。上場申請時にはCG報告書の提出が求められ、審査の過程では取締役会の運営や開示体制が確認されます。上場会社の報告書の文言をまねて「実施」と並べるより、自社の取締役会で何を議論し、どう判断しているかを説明できる状態を先に作っておくほうが、上場後の更新作業もはるかに楽になります。
また、報告書の記載方針を決める場面では、取締役会での議論の進め方も工夫が必要です。全原則の判定を一度に諮ると、時間の多くが文言の確認に使われてしまいます。判断が分かれる原則、不実施とする原則、前年から運用を変えた原則に絞って議論し、それ以外は担当部門の確認結果を報告する形にすると、限られた審議時間を重要な論点に充てられます。
もう一つの落とし穴は、他の開示書類との不整合です。CG報告書で説明した取締役会の運営や経営資源の配分方針が、有価証券報告書のコーポレート・ガバナンスの状況や統合報告書の記述と食い違っていると、読み手は説明全体を信頼しにくくなります。改訂対応を機に、同じ事実をどの書類でどう説明しているかを一覧にしておくと、毎年の更新でも整合を保ちやすくなります。
- 改訂後の原則ごとに、旧番号の取組みの移管先を特定したか
- 解釈指針の例示を採らない場合の理由を記録しているか
- 実施している原則についても、中身を説明できるか
- 機関設計に応じた読替えの判断を整理したか
- 自社の市場区分で説明対象を確定したか
よくある質問
解釈指針それ自体はコンプライ・オア・エクスプレインの対象ではありません。ただし、原則の趣旨を実現しているかを判断する手掛かりになるため、例示を採らない理由と代替の方法を説明できるようにしておくことが有用です。
番号が消えても、移管された記載の重要性が失われたわけではないと説明されています。移管先の原則や解釈指針を確認し、取組みの必要性を改めて判断します。
説明対象は基本原則ですが、原則の趣旨も参考にして自社に必要な仕組みを検討します。市場変更を予定している場合は、原則レベルの対応を早めに整えておくと移行が円滑です。
東証の資料では遅くとも2027年7月31日までとされています。期限に合わせて文言だけを直すのではなく、運用の確認と取締役会での検討を先に進めます。
最初の一歩は、補充原則の対応表を一枚作ること
改訂対応を始める際は、現在のCG報告書で補充原則として説明している項目を一覧にし、それぞれが改訂後のどこへ移ったかを書き込む表を一枚作ると効率的です。移管先が分かれば、記載を残すか、まとめ直すか、取組み自体を見直すかの判断が具体的になります。
まとめ
2026年改訂の「プリンシプル化」は、原則を減らして負担を軽くする改訂ではなく、原則の趣旨に立ち返って各社が考え、説明することを求める構成変更です。解釈指針は対象外ですが、原則への対応を考えるための重要な手掛かりとして読み込み、自社の方法と理由を記録しておくことが実務の要点になります。
新旧対照表を基にした移管先の整理、不実施理由の検討、取締役会への説明資料まで、現在の報告書を基に論点を整理します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
本記事の根拠
- 金融庁・東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版)の確定について」
- コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版)(序文8〜10項)
- コーポレートガバナンス・コード改訂(2026年)の概要
- 東証「コーポレートガバナンス・コード(2026年7月版)の公表について」
- 東京証券取引所「コーポレートガバナンス報告書の更新について」(2026年7月21日更新)
- 新谷亜紀子・福田輝人・金子慧史・日野雄介「コーポレートガバナンス・コード改訂版の解説」『経理情報』No.1787(2026年9月20日号)42〜46頁
免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。