社用車・社宅の私的利用|按分の考え方と証拠

税務調査で社用車と社宅の話が出ると、多くの社長が身構えます。会社の名義で買った車に休日も乗っている、会社が借りた部屋に住んでいる。その事実そのものが、ただちに税務上の問題になるわけではありません。問題になるのは、私的に使っている部分をいくらと見るのか、いくらを本人から受け取っているのか、そしてそれを何の記録で説明できるのかという3点です。この記事では、どの条文と通達がこの論点を決めているのかをたどったうえで、按分の考え方と、調査の場で示せる記録の作り方を整理します。

この記事は、税務調査で指摘される項目を1本ずつ扱う別冊の一部です。全体像は税務調査で指摘される項目 別冊|26項目の指摘理由と反論の型をご覧ください。

🧭 調査官が社用車と社宅を見る理由

役員給与の損金不算入を定める法人税法第34条は、第4項で給与の範囲を広げています。

前三項に規定する給与には、債務の免除による利益その他の経済的な利益を含むものとする。(法人税法第34条第4項)

つまり、現金で支払ったものだけが役員給与ではありません。会社が負担したことで役員の手元に残る利益も、同じ条文の枠の中で判定されます。そして同条第1項は、そこに掲げる給与のいずれにも該当しないものの額は損金の額に算入しないと定めています。定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与の3類型に乗らない経済的利益は、法人の側で損金にならないということです。

社用車と社宅が調査で狙われるのは、この構造があるからです。帳簿では車両費や地代家賃として費用に入っているのに、実質は役員個人の生活費を会社が負担している。そう認定されれば、費用の性格が役員給与に変わり、3類型に乗らなければ損金から外れます。

個人の側も動きます。所得税法第36条第1項は、収入金額とすべき金額について、金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合にはその価額とすると定めています。給与所得として課税対象になるということです。会社は支払者として、所得税法第183条第1項により、その支払の際に所得税を徴収し、徴収の日の属する月の翌月10日までに納付しなければなりません。

私的利用が給与として扱われるまで社用車や社宅を私的に使っている経済的な利益になる法基通9-2-9役員給与に含まれる法人税法第34条第4項法人の側毎月おおむね一定なら定期同額給与3類型に乗らなければ損金不算入個人の側給与として収入金額に算入支払の際に源泉徴収して翌月10日法人の損金と個人の源泉徴収は、それぞれ別の条文で判定されます

私的利用は法人の損金と個人の源泉の両方に効きます

経済的な利益の具体例は、法人税基本通達9-2-9が12号にわたって列挙しています。社用車と社宅に関係するのは次の4つです。

法基通9-2-9の号 定めている内容
(6) 居住用の土地家屋の提供 役員等に居住の用に供する土地又は家屋を無償又は低い価額で提供した場合における、通常取得すべき賃貸料の額と実際に徴収した賃貸料の額との差額に相当する金額
(8) その他の用役の提供 (6)と(7)以外の用役の提供を無償又は低い対価でした場合における、通常その用役の対価として収入すべき金額と実際に収入した対価の額との差額に相当する金額
(9) 業務使用が明らかでない支給 機密費、接待費、交際費、旅費等の名義で支給したもののうち、その法人の業務のために使用したことが明らかでないもの
(10) 個人的費用の負担 役員等のために個人的費用を負担した場合における、その費用の額に相当する金額

同通達は冒頭で、これらは実質的に役員等に対して給与を支給したと同様の経済的効果をもたらすものをいうとし、明らかに株主等の地位に基づくものと純然たる贈与と認められるものを除いています。

🚗 社用車の私的利用|評価の手がかりはどこにあるか

社用車について、金額の評価に最も近い定めは所得税法施行令第84条の2です。

法人又は個人の事業の用に供する資産を専属的に利用することにより個人が受ける経済的利益の額は、その資産の利用につき通常支払うべき使用料その他その利用の対価に相当する額(その利用者がその利用の対価として支出する金額があるときは、これを控除した額)とする。(所得税法施行令第84条の2)

通常支払うべき使用料から、本人が実際に支出した対価を引いた残りが経済的利益になる、という構造です。ただしこの条文は専属的に利用することにより、と限定しています。業務にも私的にも使っている車がこの条文に直接当てはまるかどうかは、条文の文言だけからは一義に読み取れませんでした。実務では、私的利用部分を法人税基本通達9-2-9の(8)または(10)の経済的利益として評価する整理と、費用のうち私的利用に対応する部分を損金から外す整理の両方が行われています。

ここで押さえておきたいのは、調査で争点になるのは金額の計算方法より前の段階だということです。私的利用があったのかどうか、あったとしてどれだけの割合だったのか。この2点が固まらなければ、どの評価方法を使うかの議論には進めません。

会社が負担した燃料費、駐車場代、任意保険料、高速道路の料金に私的な走行の分が混ざっていれば、それは9-2-9の(10)が定める個人的費用の負担に当たる余地があります。車両本体の減価償却費も同じです。

🏠 社宅は役員と使用人で基準が分かれます

社宅は、役員と使用人で従うべき通達が別です。ここを取り違えている会社が少なくありません。

役員については、所得税基本通達36-40が通常の賃貸料の額の計算を定め、36-41が小規模住宅等について別の算式を置いています。36-41の対象になるのは、貸与した家屋の床面積が132平方メートル以下、木造家屋以外の家屋については99平方メートル以下であるものです。36-40の注記は、木造家屋以外の家屋とは耐用年数省令別表第一に規定する耐用年数が30年を超える住宅用の建物をいい、木造家屋とはその耐用年数が30年以下の住宅用の建物をいうとしています。

国税庁のタックスアンサーNo.2600(令和8年4月1日現在法令等)は、この算式を次のように示しています。小規模な住宅の場合は、建物の固定資産税の課税標準額の0.2パーセント、12円に総床面積を3.3平方メートルで割った数を乗じた額、敷地の固定資産税の課税標準額の0.22パーセントの合計額です。小規模な住宅でない自社所有の社宅は、建物の課税標準額の12パーセント(法定耐用年数が30年を超える建物は10パーセント)と敷地の課税標準額の6パーセントの合計額の12分の1になります。

他から借り受けた住宅等を役員に貸与する場合は、会社が家主に支払う家賃の50パーセントの金額と、いま述べた算式で出した額とのいずれか多い金額が賃貸料相当額になります。36-40の本文も、支払う賃借料の額の50パーセントに相当する金額が算式による金額を超えるものについてはその50パーセント相当額とし、ただし36-41に定める住宅等についてはこの限りでないとしています。小規模住宅にはこの読み替えが及ばない点に注意してください。

いわゆる豪華社宅は算式の対象から外れ、通常支払うべき使用料に相当する額が賃貸料相当額になります。No.2600は、床面積が240平方メートルを超えるもののうち、取得価額、支払賃貸料の額、内外装の状況等の各種の要素を総合勘案して判定するとし、240平方メートル以下でもプール等の設備や役員個人のし好を著しく反映した設備等を有するものは該当することとなるとしています。

使用人については、所得税基本通達36-45が、通常の賃貸料の額は36-41に掲げる算式により計算した金額とすると定めています。そのうえで36-47が、使用人から実際に徴収している賃貸料の額が36-45により計算した通常の賃貸料の額の50パーセント相当額以上である場合には、その使用人が住宅等の貸与により受ける経済的利益はないものとするとしています。

この50パーセントの取扱いは、使用人についての定めです。役員に同じ扱いをする定めは、確認した範囲では見当たりませんでした。役員の社宅で家賃を賃貸料相当額の半分に設定している場合、残りの半分が経済的利益として扱われる可能性があります。社宅の家賃の決め方そのものは役員社宅の家賃はいくら取ればいい?小規模住宅と豪華社宅の分岐で詳しく扱っています。

No.2600とNo.2597はいずれも、現金で支給される住宅手当や、入居者が直接契約している場合の家賃負担は社宅の貸与とは認められないので給与として課税されるとしています。会社が賃貸借契約の当事者でなければ、そもそも社宅の議論に入れません。

比べる点 役員に貸した社宅 使用人に貸した社宅
よる通達 所基通36-40、36-41 所基通36-45
床面積による分岐 132平方メートル以下(耐用年数30年を超える建物は99平方メートル以下)なら36-41の算式 床面積で算式が変わる定めは確認できず、36-41の算式による
他から借りた住宅 小規模住宅でない場合は、支払家賃の50パーセントと算式額のいずれか多い額 所有でも借上げでも算式により計算するため、貸主から課税標準額の確認が必要
半額徴収で課税されない定め 確認できなかった 36-47により、通常の賃貸料の額の50パーセント相当額以上を徴収していれば経済的利益はないものとされる

📐 按分の考え方|割合は記録から出します

按分の方法そのものを一般的に定めた条文や通達は、確認できませんでした。走行距離で按分せよ、使用日数で按分せよ、という決まりはないということです。だからこそ、選んだ基準が事実に合っていることを記録で示せるかどうかが決め手になります。順序は次の3つです。

私的利用の按分は3つの順序で決まります1 私的利用の有無休日や通勤での使用があるかどうかを事実として確定する2 割合を決める走行距離や使用日数など事実に合う基準を選び選んだ理由も残す3 精算と記録毎月定額で受け取り給与から控除して賃金台帳に残す按分の方法を一般的に定めた通達は、確認できませんでした

按分は事実の確定、基準の選択、記録の順に進めます

数値で追ってみます。年間の走行距離が20,000キロ、そのうち業務が16,000キロ、私的な走行が4,000キロだったとします。私的利用の割合は20パーセントです。減価償却費、燃料費、任意保険料、駐車場代を合わせた年間の車両関係費が1,200,000円なら、私的利用に対応する部分は240,000円、月20,000円になります。

私的利用の割合から毎月の精算額を出す私的の走行4,000キロ ÷ 全体20,000キロ = 20パーセント年間の車両関係費1,200,000円 × 20パーセント = 240,000円240,000円 ÷ 12か月 = 毎月20,000円

走行距離で按分した場合の計算例です

毎月20,000円を役員から受け取っていれば、通常支払うべき対価との差額は生じません。受け取っていなければ、月20,000円の経済的な利益があるという整理になります。繰り返しますが、この計算の枠組みが通達に定められているわけではありません。走行距離より使用日数のほうが事実に合う業種もありますし、車種ごとに分けたほうが説明しやすい場合もあります。

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🧾 そろえておく記録|按分は記録がないと主張できません

調査の場で私的な利用はありませんと述べるのは簡単です。しかし記録がなければ、それ以上の説明ができません。逆に、行き先と用務と走行距離が並んだ運行記録があれば、経済的利益があるかないかという入口から議論できます。記録は反論の材料であると同時に、そもそも指摘を受けにくくする装置でもあります。

対象 残しておく記録 その記録で示せること
社用車 運行記録(日付、行き先、用務、走行距離) 業務利用と私的利用の区分と、按分に使った割合の根拠
社用車 社内規程(使用できる者、私的利用の可否、負担額の定め) 会社が定めた基準にもとづいて負担額を決めていること
社宅 賃貸借契約書(会社が契約の当事者であること) 社宅の貸与であって住宅手当の支給ではないこと
社宅 固定資産税の課税明細書など課税標準額が分かる資料 賃貸料相当額の計算の基礎となる金額
社宅と社用車 給与からの控除の記録と賃金台帳 定めた金額を実際に毎月受け取っていたこと

現金で受け渡す方式は避け、給与から控除する形にしておけば、賃金台帳と給与明細に毎月の記録が残ります。規程は作成した日付が分かる形で保管してください。指摘を受けてから作った書類は、記録としての力が弱くなります。

⚠️ 指摘されると3つの方向に波及します

社用車や社宅の私的利用は、法人税だけの話では終わりません。

波及先 何が起きるか 根拠
法人税 経済的な利益が役員給与に含まれ、第34条第1項に掲げる給与のいずれにも該当しなければ、その額は損金の額に算入されない 法人税法第34条第1項、第4項
源泉所得税 経済的な利益の価額が収入金額に算入され、支払の際に徴収して翌月10日までに納付すべき税額が不足していたことになる 所得税法第36条第1項、第183条第1項
過少申告加算税 修正申告又は更正に基づき納付すべき税額に100分の10の割合(調査があったことにより更正があるべきことを予知してされたものでないときは100分の5の割合) 国税通則法第65条第1項
重加算税 課税標準等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、かつ、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき 国税通則法第68条第1項

重加算税の要件は2つが重なることです。私的利用を単に認識していなかった場合と、走行記録を書き替えていた場合では、条文のあてはめが変わります。

🔁 金額を毎月一定にしておくと整理しやすくなります

法人税法施行令第69条第1項第2号は、定期同額給与に含まれるものとして、継続的に供与される経済的な利益のうち、その供与される利益の額が毎月おおむね一定であるものを掲げています。法人税基本通達9-2-11は、この号に該当するものの例として、9-2-9の(6)または(7)に掲げる金額(その額が毎月著しく変動するものを除く。)と、9-2-9の(10)に掲げる金額で毎月負担する住宅の光熱費、家事使用人給料等(その額が毎月著しく変動するものを除く。)を挙げています。

社宅の家賃差額のように毎月同じ額になるものは、この号に乗せやすい形です。逆に、走行距離に応じて毎月大きく変わる精算や、年1回まとめての精算は、毎月おおむね一定という要件から外れる余地が出てきます。

税務調査の連絡が来たら、まずご相談ください

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。法人の税務顧問と申告業務、新しい会計基準の導入支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

❓ よくある質問

社用車を役員が通勤に使っている場合はどうなりますか

通勤のための使用を業務に含めるかどうかを一般的に定めた条文は、確認できませんでした。会社の所在地や役員の職務の内容によって事実関係が変わるため、通勤は業務だと決めて記録を省くのは危険です。通勤分を含めて走行記録を残し、どう区分したかを説明できる状態にしておくのが現実的な備えになります。

私的利用分を役員から受け取っていれば、それで終わりですか

受け取った額が通常支払うべき対価に足りているかが次の論点になります。所得税法施行令第84条の2は、通常支払うべき使用料その他その利用の対価に相当する額から、利用者が支出する金額を控除した額を経済的利益の額としています。金額の根拠を示せなければ、差額の議論は残ります。

社宅の家賃を賃貸料相当額の50パーセントにしていますが、役員でも問題ありませんか

所得税基本通達36-47の50パーセントの取扱いは、使用人について定められたものです。役員に同じ扱いを認める定めは確認できませんでした。役員の社宅では、通常の賃貸料の額と実際に徴収した額との差額が法人税基本通達9-2-9の(6)に当たる余地があります。

運行記録は毎日つけないといけませんか

記録の頻度を定めた条文や通達は確認できませんでした。ただし按分の割合は記録から導くほかないため、記録の密度がそのまま主張の強さになります。

指摘されたら必ず重加算税になりますか

国税通則法第68条第1項は、事実の隠蔽または仮装があり、かつ、その隠蔽または仮装したところに基づき納税申告書を提出していたことを要件としています。2つがそろわなければ、条文の文言上はこの規定の適用にはなりません。ただし、記録を書き替えた、私的な支出であることが分かる書類を差し替えたといった事情があれば、判断は変わり得ます。

📄 まとめ

この論点は、法人税法第34条第4項が給与に経済的な利益を含めていることから始まります。法人の側では3類型に乗るかどうかで損金になるかが決まり、個人の側では所得税法第36条第1項により収入金額に算入され、会社は第183条第1項により源泉徴収の義務を負います。社宅は役員と使用人で従う通達が分かれ、50パーセント徴収で課税されないという取扱いは使用人についての定めです。按分の方法を定めた通達は確認できませんでした。だからこそ、運行記録、社内規程、賃貸借契約書、課税標準額の資料、給与控除の記録をそろえておくことが説明力になります。

🔗 参考(公的な一次情報)

本記事は公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所・東京都台東区)が、法令・通達および国税庁の公表資料に基づいて作成しています。本記事は一般的な情報提供を目的としています。制度は改正される可能性があり、個別の事実関係により結論が異なります。実際の判断にあたっては、専門家にご確認ください。

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