外注費は、調査で必ずと言ってよいほど確認される科目です。とくに、金額が大きいのに書類が請求書1枚しかない、振込ではなく現金で払っている、相手方の連絡先が分からない、といった支払は、その場で説明を求められます。
ここで問われているのは、金額が妥当かどうかではありません。その役務の提供が本当にあったのかという、実在性そのものです。実在しないと判断されれば損金になりませんし、証ひょうに手が入っていたとされれば重加算税の話になります。消費税の仕入税額控除にも影響します。
この記事では、損金になる外注費の条件を条文と通達で確認したうえで、その条件のひとつひとつに、どの書類が対応するのかを整理します。指摘項目の全体像は税務調査で指摘される項目 別冊にまとめています。
この記事は左の入口を扱います。右の入口は別の回で扱います。
この記事の見出し
🧭 疑われるのは金額ではなく、確かめられないことです
調査官が外注費の実在性を疑うとき、きっかけになるのは、だいたい次のような点です。どれも、それ自体が違法なわけではありません。しかしほかの取引と比べて、あとから確かめる手がかりが少ないという共通点があります。
| 疑われやすい支払の特徴 | なぜ確かめにくいのか |
|---|---|
| 書類が請求書1枚だけ | 何をいくらで頼んだのか、実際に何が行われたのかを示すものが残らない |
| 現金で支払っている | 資金の流れが会社の外で切れてしまい、相手方に届いたことを追えない |
| 請求書の体裁が毎回同じで金額だけが違う | 作業量との対応が読み取れず、作成の経緯を説明しにくい |
| 期末にまとめて計上している | いつ役務の提供を受けたのかが分からず、債務の確定時期も示せない |
| 相手方の所在や連絡先が分からない | 反面調査で確認が取れず、支払先の実在そのものが確かめられない |
逆にいえば、これらを裏返した記録がそろっていれば、説明はそれほど難しくありません。争いになるのは、記録がないところだけです。
もうひとつ、会社側が見落としがちな点があります。調査官は、外注費そのものだけを見ているわけではありません。同じ時期の売上や工事の動きと突き合わせて、その外注が必要だった仕事が実際にあったのかを確かめます。受注していない時期に外注費だけが計上されていれば、金額が小さくても目に留まります。反対に、どの案件のためにいくら支払ったのかが工事台帳や案件別の原価表でつながっていれば、それ自体が有力な説明になります。外注費の実在性は、外注費の書類だけで守るものではなく、売上側の記録とのつながりで守るものです。
📌 損金になる条件は、条文と通達に書かれています
外注費が損金になる根拠は、法人税法第22条第3項です。同項第2号は、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用の額を損金の額に算入するとしたうえで、括弧書きで償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除くとしています。
前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額(法人税法第22条第3項第2号)
この債務の確定という言葉について、国税庁の法人税基本通達2-2-12は、当該事業年度終了の日までに次の3つのすべてに該当するものとすると定めています。
| 法人税基本通達2-2-12が挙げる要件 | 外注費で言い換えると |
|---|---|
| 当該費用に係る債務が成立していること | 発注と受注の意思表示がそろっていること。契約書や注文書と、その承諾が分かるもの |
| 当該債務にもとづいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること | 頼んだ役務が実際に提供されていること。作業報告や検収の記録 |
| その金額を合理的に算定することができるものであること | 単価や数量、出来高など、金額の決まり方が説明できること |
3つの要件は、いずれも当該事業年度終了の日までにという限定の下に置かれています。期末の時点でそろっている必要があります。
実在性を示すという作業は、この3つに証拠を対応させることにほかなりません。請求書は3つ目の金額を示すだけの書類であって、1つ目と2つ目を示すものではありません。請求書しか残っていない支払が弱いのは、このためです。
請求書が答えているのは3だけです。1と2は別の書類で示します。
🧾 相手方が実在することを示す材料
役務の提供があったことに加えて、その相手方が実在することも確かめられます。ここは、支払先が法人か個人かで用意するものが変わります。
| 確認しておくこと | 実務での確かめ方 |
|---|---|
| 事業者としての登録 | 適格請求書発行事業者であれば登録番号が示されます。国税庁の公表サイトで番号から事業者を確認できます |
| 支払の経路 | 振込にして、相手方名義の口座に着金していることを通帳で示せるようにします |
| やり取りの記録 | 発注や納期の連絡、修正の依頼など、日付の入ったやり取りが残っていること |
| 源泉徴収の要否 | 所得税法第204条第1項は源泉徴収の対象となる報酬や料金を号で限定しています。掲げられていない役務であれば、報酬としての源泉徴収は生じません |
支払先が個人の場合、その働き方によっては外注費ではなく給与と判断されることがあります。その場合は所得税法第183条第1項の源泉徴収義務の問題になります。この論点は別の回で扱います。
現金払いをすべてやめる必要はありませんが、金額の大きい支払は振込にしておくだけで、説明の手間が大きく変わります。領収書は相手方が作った書類ですが、着金の記録は金融機関が作った記録です。証拠としての強さが違います。
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⚖️ 架空とされたときに動くもの
実在しないと判断された場合、影響は法人税だけにとどまりません。
| 動くもの | 内容 |
|---|---|
| 法人税 | 費用として認められず、その分だけ所得が増えます |
| 加算税 | 隠蔽または仮装があり、それにもとづき申告していたときは、過少申告加算税に代えて100分の35の重加算税(国税通則法第68条第1項) |
| 消費税 | 課税仕入れがなかったことになれば、その分の仕入税額控除ができません。帳簿および請求書等を保存しない場合にも控除が適用されません(消費税法第30条第7項) |
| 支出先を明かせないとき | 相手方の氏名等を帳簿書類に記載していない金銭の支出は使途秘匿金とされ、支出額の100分の40が法人税額に加算されます(租税特別措置法第62条) |
国税庁の事務運営指針「法人税の重加算税の取扱いについて」は、隠蔽または仮装に該当する場合の型として、帳簿書類の隠匿、虚偽記載等を挙げ、その中に相手方との通謀による虚偽の証ひょう書類の作成を含めています。外注先に頼んで請求書を作ってもらった、という事実が出てくると、ここに当てはめられます。金額を水増ししただけのつもりでも、証ひょうを作らせた経緯が残っていれば、同じ評価を受けます。
この指針は、隠蔽または仮装に該当する場合として6つの型を挙げています。二重帳簿の作成、いま見た帳簿書類の隠匿・虚偽記載等、特定の損金算入や税額控除の要件とされる書類の改ざん等、簿外資産の果実を計上していないこと、簿外資金による役員賞与その他の費用の支出、同族会社が非同族会社を装うことの6つです。外注費の場面で持ち出されるのは、ほぼ2つ目の型に限られます。言い換えれば、証ひょうに手を入れていない、相手方と口裏を合わせていない、という2点を示せるかどうかが、加算税の割合を分けます。
調査の場で「相手先は言えない」と答えるのは、いちばん不利な選択です。損金にならないうえに、租税特別措置法第62条の使途秘匿金として支出額の40パーセントが加算される余地を残すことになります。相手方を明らかにできない事情があるなら、答え方をその場で決めず、先に整理してください。
1件の外注費が、3つの税目の話になります。
🧮 否認されたときに、いくら動くのか
影響の大きさは、実際に数字を置いてみると分かりやすくなります。税率10パーセントの課税仕入れとして、税込660万円の外注費を計上していたとします。本体価格は600万円、消費税額は660万円×10÷110=60万円です。この支払の実在性が認められず、かつ隠蔽または仮装があったとされた場合を見てみます。
まず法人税です。600万円が損金になりませんから、その分だけ所得が増えます。実効税率を仮に30パーセントとすれば、追加の法人税等は600万円×30パーセント=180万円です。次に消費税で、仕入税額控除ができなくなる60万円がそのまま増えます。あわせて240万円です。ここに重加算税が乗ります。240万円×35パーセント=84万円なので、合計は324万円になります。もともと660万円の支払について、その半分近い金額が後から出ていく計算です。
実効税率30パーセントは説明のために置いた仮の数値です。実際の税率は法人の規模や所得の水準によって異なります。延滞税も含めていません。
同じ660万円でも、実在性が認められたうえで計上時期だけがずれていた、という結論になれば、動くのは時期だけです。翌期の損金が当期に移るか、その逆かという話に収まります。この差を生むのは、書類がそろっているかどうかという、支払の時点で決まってしまう条件です。調査の連絡が来てから用意できるものではありません。
🗂️ 発注から支払までに、何を残しておくか
あとから作った書類は、作成日が分からない時点で説得力を失います。取引の流れの中で自然に残る形にしておくのが、いちばん確実です。工程ごとに1つずつ決めておけば、負担も大きくありません。
| 工程 | 残すもの |
|---|---|
| 発注の前 | 見積書。金額の根拠となる単価や数量が入っているもの |
| 発注のとき | 注文書と注文請書、または業務委託契約書。作業範囲、納期、報酬の決め方を書く |
| 作業の間 | 日報、進捗の連絡、現場や成果物の写真。日付が分かる形で |
| 完了のとき | 納品書と検収書。誰がいつ確認したかを残す |
| 支払のとき | 請求書と振込記録。請求書には登録番号があるかを確認する |
とくに効くのは、真ん中の作業の間の記録です。これがあると、役務の提供があったという2つ目の要件を、相手方に頼らずに自社の記録だけで示せます。相手方が廃業していても、連絡が取れなくなっていても、説明が成り立ちます。
すべての外注について同じ密度でそろえる必要はありません。金額の基準を社内で決めておき、それを超える発注については注文書と検収書を必ず作る、という運用にするだけでも十分です。基準を決めておくことには、もうひとつ意味があります。どの取引にどの書類があるのかが説明できる状態になるので、調査の場で「この支払だけ書類がないのはなぜか」という問いが立ちにくくなります。例外が説明できないときに、疑いは深まります。
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公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。法人の税務顧問と申告業務、新しい会計基準の導入支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
❓ よくある質問
契約書がない外注は、それだけで否認されますか
法人税基本通達2-2-12が求めているのは債務が成立していることであって、契約書という特定の書類ではありません。注文書と注文請書、メールでの発注と承諾など、意思表示のやり取りが残っていれば説明はできます。ただし、何も残っていない場合は、ほかの2つの要件で補うことになります。
反面調査で相手方と連絡が取れなかったら、架空とされますか
相手方に確認が取れないことと、役務の提供がなかったことは別のことです。自社に作業の記録と支払の記録が残っていれば、それを示して説明することになります。だからこそ、相手方の書類に頼らない記録を自社側に持っておく意味があります。数年前の取引で相手方が廃業しているという状況は珍しくありませんから、当時の日報や写真、振込の記録が残っているかどうかが、そのまま結論を左右します。
金額を水増ししていた場合、全額が否認されるのですか
実際に提供された役務に対応する部分と、水増しされた部分は、事実として別に評価されます。ただし、水増しのために相手方と通謀して請求書を作らせていれば、その事実は事務運営指針が挙げる型に当てはまります。水増し部分の金額が小さくても、加算税の判断は別に及びます。
過去の分をいま自主的に修正した場合はどうなりますか
国税通則法第65条第1項は、調査があったことにより更正があるべきことを予知してされたものでない修正申告には100分の5とし、同条第6項は、予知前かつ調査通知がある前のものには第1項を適用しないとしています。第68条第1項も、予知しないでされた修正申告の場合を括弧書きで除いています。気づいた時期が結論を分けます。
消費税の仕入税額控除は、帳簿があれば大丈夫ですか
消費税法第30条第7項は、帳簿および請求書等を保存しない場合には仕入税額控除を適用しないとしています。帳簿だけでよいのは政令で定める一定の場合に限られます。帳簿には、相手方の氏名または名称、課税仕入れを行った年月日、資産または役務の内容、支払対価の額を記載することとされています(同条第8項)。
📄 まとめ
架空外注費の指摘は、金額の争いではなく、記録の争いです。損金になる条件は法人税法第22条第3項第2号の債務の確定であり、法人税基本通達2-2-12はそれを3つの要件に分けています。請求書が示すのは3つ目の金額だけなので、1つ目の債務の成立と、2つ目の給付の原因となる事実の発生を、別の書類で残しておく必要があります。
実在性が崩れたときに動くのは、法人税、加算税、消費税の3つです。相手方を明らかにできない場合には、租税特別措置法第62条の使途秘匿金として支出額の100分の40が加算される余地も残ります。見積、注文、作業の記録、検収、振込という5つの工程に1つずつ書類を割り当てるだけで、この論点はほとんど手当てできます。
すでに指摘を受けている場合でも、どの要件について何が足りないと言われているのかを分けて確認すれば、示せる材料が見つかることがあります。修正申告に応じる前に、一度整理してみることをおすすめします。
🔗 参考(公的な一次情報)
- 法人税法(e-Gov法令検索) 第22条第3項
- 国税庁 法人税基本通達 第2節第2款 販売費及び一般管理費等 2-2-12
- 国税通則法(e-Gov法令検索) 第65条、第68条
- 国税庁 法人税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針) 第1の1
- 消費税法(e-Gov法令検索) 第30条第7項、第8項
- 租税特別措置法(e-Gov法令検索) 第62条
- 所得税法(e-Gov法令検索) 第183条、第204条
- 国税庁 インボイス制度適格請求書発行事業者公表サイト
本記事は公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所・東京都台東区)が、法令・通達および国税庁の公表資料に基づいて作成しています。本記事は一般的な情報提供を目的としています。制度は改正される可能性があり、個別の事実関係により結論が異なります。実際の判断にあたっては、専門家にご確認ください。