上場準備で必ず点検されるのが、会社法の手続がきちんと踏まれているかです。定款、機関設計、株主総会、取締役会、株式の発行。どれも非上場のうちは省略されがちで、記録が残っていないことがよくあります。
やっかいなのは、過去にさかのぼって直せない手続があることです。決議が要る場面で決議がなかった、議事録がない、通知の期間が足りない。こうした瑕疵は、あとから議事録を作れば済むものではありません。
この記事は、上場準備で点検される会社法の論点を場面ごとに並べ、それぞれのくわしい解説への入口にしたものです。いまの自社がどこまで整っているかを確かめる目次として使ってください。
- 定款と登記でまず直すところ
- 機関設計をどう上場水準に持っていくか
- 取締役会と役員の義務まわりで点検すること
- 株主総会の日程と手続
- 増資と株式の手続、そして過去の不備の直し方
📌 まず定款と登記から
上場会社の定款には、非上場の定款にない条項が要ります。逆に、非上場のうちは当然だった条項を外すことにもなります。
- 譲渡制限は上場前に外します。ただし外す時期は、株主構成の整理と順番があります
- 単元株式数は100株にそろえます
- 公告方法を電子公告に変えると、決算公告の負担が変わります
- 発行可能株式総数は発行済株式総数の4倍以内という制約があります。株式分割や増資の前に確認が要ります
- 種類株式を発行しているなら、上場までに整理するか、設計と登記を確認します
📌 機関設計を上場水準にする
監査役1名の体制から、監査役会設置会社か監査等委員会設置会社へ移行します。会計監査人の設置も必要です。それぞれ選任の手続と登記があり、任期の起算も変わります。
移行のときに見落とされやすいのが任期です。非上場のうちに取締役の任期を10年に伸ばしている会社は、2年に戻すことになります。監査役の4年との組み合わせも整理が要ります。
監査役の監査の範囲を会計に限定している会社は、その定めを外す必要があります。定款変更と登記のほか、監査役の権限が変わるため、実際の監査のやり方も変わります。
📌 取締役会と役員の義務
取締役会は、開催の頻度、招集の手続、議事録の記載が点検されます。持ち回りで決めていた事項を、取締役会の議題に載せるところから始まる会社が多いです。
| 場面 | 点検されること |
|---|---|
| 取締役会の運営 | 開催頻度、招集通知、定足数、決議事項と報告事項の切り分け |
| 議事録 | 記載事項、出席者、反対意見の記録、署名または記名押印 |
| 利益相反取引 | 承認の要否、事後報告も義務であること |
| 競業取引 | 役員が別会社を持っている場合の承認 |
| 役員報酬 | 株主総会の決議と、取締役会での配分 |
| 責任限定契約と補償契約 | 定款の定めと契約の手続 |
| 役員等賠償責任保険 | 契約の内容の決定に要る手続 |
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
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📌 株主総会を上場水準に
非上場のうちは書面決議で済ませていた会社も、上場に向けて実際に招集して開催する形に戻します。日程の逆算が必要です。
- 基準日を設定し、公告する
- 計算書類を作成し、監査を受ける
- 取締役会で招集を決定する
- 招集通知を発送する。株主総会資料の電子提供制度を使う場合は、掲載の時期にも定めがあります
- 計算書類を備え置く
- 開催し、議事録を作成する
株主提案があるときは8週間前という期限があります。決議の種類(普通決議か特別決議か)を取り違えると、決議取消しの訴えの対象になります。招集手続の省略ができる場面もありますが、条件があります。
📌 増資と株式の手続
上場準備の期間中に増資をする会社は多く、ここが過去の不備として見つかりやすい領域です。
- 募集株式の発行には決議と通知の日程があります。払込金額が有利発行に当たるかで決定機関が変わります
- 現物出資には検査役の調査が要る場合があります
- 新株予約権、株式分割、株主割当てにもそれぞれ手続があります
- 株式交換や株式移転で持株会社を作る場合は、組織再編の手続になります
過去の増資に不備が見つかったときは、放置せずに手当てします。何ができるかは不備の種類と時期によります。
定款、株主総会、取締役会、株主名簿、増資。上場準備で必ず点検される書類と手続は決まっています。いまの運用のどこに抜けがあるかは、定款と直近の議事録を拝見すれば短時間で見立てが立ちます。上場準備の実務を経験した公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。支援の内容と進め方はIPO支援業務のページにまとめています。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
🔗 論点別のくわしい解説
定款と登記
❓ よくある質問
A. 定款と登記事項証明書を並べて、いまの状態を確かめるところからです。譲渡制限、単元株式数、発行可能株式総数、公告方法、機関設計。この5つを見れば、直すべき項目はおおむね洗い出せます。
A. あとから作ることはできません。いつの、どの決議についての記録がないのかを整理し、影響が及ぶ範囲を確かめたうえで、必要なら追認や再決議を検討します。何ができるかは時期と内容によります。
A. 譲渡制限を外すと、任期を短くする必要が生じます。監査役の任期との組み合わせもあるため、機関設計の変更とあわせて日程を組んでください。
A. 不備の内容と時期によります。放置して申請することはできませんので、早い段階で洗い出し、手当ての方法を主幹事証券会社と相談してください。
A. 会社法上は可能な場面があります。ただし上場準備では、実際に招集して開催した実績が求められます。少なくとも申請期の前から、通常の招集と開催に戻しておいてください。
📄 まとめ
会社法の手続は、定款と登記の点検から始まります。譲渡制限、単元株式数、発行可能株式総数、公告方法、機関設計。ここが決まると、必要な決議と登記の日程が見えます。
機関設計の変更には、選任の手続と任期の整理が伴います。取締役会と株主総会は、開催して記録を残す運用に戻します。書面で済ませていた決議を、実際の招集と開催に戻すのに時間がかかります。
増資まわりは、過去の不備が見つかりやすい領域です。決議、通知、払込み、登記。1つずつたどって確かめてください。
会社法の手続は、あとからの修復がいちばん効かない領域です。いまの状態を洗い出して、直せるものから直していくのが結局は近道になります。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。手続の要否や日程は会社の機関設計と定款によって変わります。実際の手続にあたっては司法書士および主幹事証券会社にご確認ください。