株主総会を正常化する|書面決議で済ませてきた会社が最初にすること

株主が数名の会社では、定時株主総会を書面だけで済ませてきたという話をよく聞きます。会社法319条1項の決議の省略です。これは適法な制度ですが、上場準備に入ると、そのままでは立ち行かなくなります。

上場後は株主が入れ替わり、全員の同意を集めることは事実上できないからです。この記事では、決議の省略に頼ってきた会社が株主総会を実地の運営に切り替えるとき、どの条文の何を、どの順で整えるのかを日程の形で示します。

この記事でわかること

  • 決議の省略が適法である根拠と、それでも上場準備では使えなくなる理由
  • 招集の決定が取締役会の決議事項であること(会社法298条4項)
  • 招集通知の2週間前を中2週間で数えること
  • 議事録と同意書の保存年数(本店10年、支店5年)

書面決議は違法ではない。ただし上場準備では通らない

会社法319条1項は、取締役または株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合に、議決権を行使することができる株主の全員が書面または電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、その提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなすと定めています。株主が数名の会社で、この決議の省略によって定時株主総会を済ませている例は珍しくありません。

これ自体は適法です。会社法320条は株主総会への報告の省略も認めていますし、319条5項は、定時株主総会の目的である事項のすべてについて決議があったものとみなされた場合には、その時に定時株主総会が終結したものとみなすとしています。書面だけで定時株主総会を終わらせる仕組みが、条文の側に用意されているわけです。

問題は上場準備です。上場後は株主が入れ替わり、議決権を行使することができる株主の全員から同意を集めることは事実上できません。決議の省略に頼った運営は、そのままでは上場後に機能しないのです。引受審査でも、直前期には実際に総会を開催した実績が確認されます。遅くとも直前々期のうちに、招集から議事録の保存までを一度は実地で回しておく必要があります。

正常化とは、4つの手続を実地で回すこと

株主総会の正常化と言うと漠然としますが、やるべきことは決まっています。招集の決定、招集通知の発送、当日の運営、議事録の作成と保存の4つです。順に見ていきます。

株主総会を正常化する4つの手続1 招集の決定日時と場所と議題を取締役会で決議会社法298条4項2 招集通知総会日との間に中2週間を空ける会社法299条1項3 当日の運営議案ごとに定足数と可決要件を確認会社法309条4 議事録本店に10年支店に写しを5年会社法318条

この4つを実地で回せる状態にすることが正常化です

招集の決定は取締役会の決議事項

会社法298条1項は、株主総会を招集する場合に定めるべき事項として、日時と場所、目的である事項、書面によって議決権を行使することができることとするときはその旨、電磁的方法によって議決権を行使することができることとするときはその旨、その他法務省令で定める事項を挙げています。そして同条4項は、取締役会設置会社においては、これらの決定は取締役会の決議によらなければならないと定めています。

決議の省略で済ませてきた会社では、この取締役会決議そのものが抜けていることがあります。総会の日程を役員が口頭で決め、そのまま議事録だけを作っていたというケースです。まずここを直してください。招集を決める取締役会の議事録に、日時、場所、議題が具体的に残っている状態が出発点になります。

なお同条2項は、議決権を行使することができる株主の数が1,000人以上である場合には、書面による議決権行使を定めなければならないとしています。非上場の段階では該当しない会社がほとんどですが、株主数が増えていく局面では確認が要ります。

招集通知は2週間前。中2週間を空ける

会社法299条1項は、株主総会の日の2週間前までに、株主に対して通知を発しなければならないと定めています。書面または電磁的方法による議決権行使を定めておらず、かつ公開会社でない株式会社であれば1週間前まで、さらに取締役会を置かない会社は定款でこれを下回る期間を定めることができます。

実務が誤りやすいのは日数の数え方です。判例は初日を算入しない立場で、発送日と総会日の間に中2週間を置くことを求めます。6月28日に総会を開くなら、6月13日までに発送しなければなりません。2週間前だから6月14日でよい、とはなりません。

会社法300条は、株主全員の同意があるときは招集の手続を経ることなく総会を開催できるとしていますが、ただし書により、書面または電磁的方法による議決権行使を定めた場合は省略できません。上場準備では、この省略にも頼らず、期限どおりに発送する運用へ切り替えてください。

決議要件を議案ごとに確かめる

会社法309条1項は普通決議について、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数をもって行うと定めています。定款に別段の定めがある場合を除く、という書き方ですので、定足数を定款で軽減している会社もあります。自社の定款を先に読んでください。

同条2項は特別決議です。議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合はその割合以上)を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上に当たる多数で行います。定款変更、監査役の解任、募集株式の有利発行などがここに入ります。上場準備では定款変更が続きますので、特別決議の議案が並ぶことになります。

区分 定足数 可決要件
普通決議(309条1項) 議決権の過半数を有する株主の出席(定款で別段の定め可) 出席した株主の議決権の過半数
特別決議(309条2項) 議決権の過半数(定款で3分の1以上まで軽減可) 出席した株主の議決権の3分の2以上

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議事録は本店に10年、支店に写しを5年

会社法318条2項は、株主総会の日から10年間、議事録を本店に備え置かなければならないと定めています。同条3項は、支店には5年間、その写しを備え置くこととしています。この10年と5年の組み合わせは、計算書類の5年と3年(442条1項・2項)とは別物です。混同しないでください。

決議の省略を使った場合も記録は残ります。会社法319条2項は、決議があったものとみなされた日から10年間、同意の書面または電磁的記録を本店に備え置くことを求めています。過去に決議の省略で済ませてきた会社は、その同意書がそろっているかを先に確認してください。法務のデューデリジェンスで最初に見られる書類のひとつです。

臨時株主総会と、少数株主による招集の請求

会社法296条2項は、株主総会は必要がある場合にはいつでも招集することができると定めています。定時株主総会は同条1項により毎事業年度の終了後の一定の時期に招集しますが、上場準備では定款変更や機関設計の移行のために臨時株主総会を開く場面が増えます。

あわせて押さえておきたいのが会社法297条です。総株主の議決権の100分の3以上の議決権を6か月前から引き続き有する株主は、目的である事項と招集の理由を示して株主総会の招集を請求することができます。公開会社でない株式会社では、この保有期間の要件がありません。請求の後に遅滞なく招集の手続が行われない場合や、請求があった日から8週間以内の日を総会の日とする招集の通知が発せられない場合には、その株主は裁判所の許可を得て自ら総会を招集できます。

資本政策で外部の株主を入れた後は、この請求が現実の可能性になります。招集を決める取締役会を毎回きちんと開くことは、こうした請求に備える意味でも実益があります。

切り替えの目安は直前々期

直前期には実際の開催実績が求められますので、その前の期に一度、招集の取締役会から議事録の保存までを通しで行い、日程と分担を固めます。決算日から3か月以内という枠は、124条2項が基準日株主の権利行使を基準日から3か月以内に限っていることと、決算日を基準日とする定款の定めが組み合わさって生まれるものです。会社法296条1項自体は「一定の時期」としか定めていません。ここを条文上の期限だと説明すると誤りになりますので、社内の説明資料でも書き分けてください。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

❓ よくある質問

Q. 決議の省略で定時株主総会を済ませても違法ではないのですか。

A. 会社法319条1項の要件を満たせば適法です。ただし議決権を行使することができる株主の全員の同意が必要ですので、株主が増えると使えなくなります。上場準備では実際に開催する運営へ切り替えます。

Q. 招集通知は2週間前と1週間前のどちらですか。

A. 原則は会社法299条1項の2週間前です。書面や電磁的方法による議決権行使を定めておらず、かつ公開会社でない株式会社であれば1週間前まで短縮できます。譲渡制限を外して公開会社になれば2週間前に戻ります。

Q. 支店がない会社でも議事録の写しは必要ですか。

A. 会社法318条3項は支店に写しを備え置くことを求める規定ですので、支店がなければ本店における10年間の備置きだけで足ります。

📄 まとめ

決議の省略は適法な制度ですが、株主が入れ替わる上場後には使えません。上場準備の株主総会の正常化とは、招集の決定、招集通知、当日の運営、議事録の保存という4つの手続を、条文どおりの日程で回せる状態にすることです。

最初の一歩は、招集を決める取締役会を実際に開き、その議事録に日時と場所と議題を残すことです。あわせて、過去の決議の省略にかかる同意書がそろっているかを点検してください。直前々期のうちに一度通しで回しておけば、直前期は同じ段取りを繰り返すだけで済みます。

⚖ 本記事の根拠

記載内容の根拠

  • 会社法298条1項・2項・4項(招集にあたり定める事項と、取締役会による決定)
  • 会社法299条1項(招集通知の期限)および300条(招集手続の省略とそのただし書)
  • 会社法309条1項・2項(普通決議と特別決議の定足数と可決要件)
  • 会社法318条2項・3項(議事録の備置き)、319条1項・2項・5項、320条(決議と報告の省略)
  • 会社法296条1項・2項、297条1項・2項・4項(臨時株主総会と少数株主による招集の請求)
  • 会社法124条2項(基準日株主が権利を行使できるのは基準日から3か月以内)

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。

このテーマの全体像は上場準備の会社法|定款・機関・株主総会・株式の手続にまとめています。

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