投資契約には、優先分配、みなし清算、拒否権、取締役の指名権といった条項が並びます。これらのうち、会社法の種類株式として定款に落とせるものと、当事者間の契約にとどまるものがあります。
落とせるものは会社法108条1項に列挙された9つの類型だけです。列挙されていない内容を株式の内容として定款に定めることはできませんし、定めても登記されません。
この記事では、投資契約の条項を9類型に落とし込むという視点で、種類株式の設計と登記を整理します。公開会社では使えない類型があることも押さえます。
- 会社法が認める種類株式の9つの類型
- 投資契約の条項のうち定款に落とせるものと落とせないもの
- 定款に定める事項と登記される内容
- 種類株主総会が必要になる場面
- 公開会社では発行できない類型
この記事の見出し
📌 種類株式にできるのは9つの類型だけ
会社法108条1項は、株式会社は次に掲げる事項について異なる定めをした内容の異なる2以上の種類の株式を発行することができるとして、9つの事項を列挙しています。
| 号 | 内容 | よくある呼び方 |
|---|---|---|
| 1号 | 剰余金の配当 | 優先配当 |
| 2号 | 残余財産の分配 | 優先分配 |
| 3号 | 株主総会において議決権を行使することができる事項 | 議決権制限株式 |
| 4号 | 譲渡による当該種類の株式の取得について会社の承認を要すること | 譲渡制限 |
| 5号 | 株主が会社に対して取得を請求することができること | 取得請求権付株式 |
| 6号 | 一定の事由が生じたことを条件として会社が取得することができること | 取得条項付株式 |
| 7号 | 株主総会の決議によって会社がその全部を取得すること | 全部取得条項付種類株式 |
| 8号 | 一定の事項について種類株主総会の決議を必要とすること | 拒否権付株式(黄金株) |
| 9号 | 種類株主総会において取締役または監査役を選任すること | 役員選任権付株式 |
9つで足りるのかと思われるかもしれませんが、組み合わせることができます。優先配当と残余財産の優先分配と議決権制限と取得請求権を1つの種類に盛り込む、といった設計が可能です。実際の優先株式は、複数の号を重ねて作られています。
📌 投資契約の条項をどこに落とすか
投資契約に出てくる条項を、9類型に落とせるものと落とせないものに分けて考えます。
優先分配は2号です。1倍参加型といった設計は、残余財産の分配についての定めとして定款に書きます。転換の条項は5号の取得請求権として組み立てます。投資家が請求すれば普通株式が交付される、という形です。上場前に会社側から普通株式に変える必要があるなら、6号の取得条項をあわせて入れておきます。
重要な事項への拒否権は8号です。会社法323条は、ある種類の株式の内容として、株主総会または取締役会で決議すべき事項についてその決議のほか種類株主総会の決議を必要とする旨の定めがあるときは、その事項は定款の定めに従い種類株主総会の決議がなければ効力を生じないと定めています。取締役会決議事項にも掛けられる点が実務では効いてきます。
一方、みなし清算条項は会社法に対応する類型がありません。株主間契約に置くか、残余財産の分配の定めとして書けるところまで書くかの判断になります。買収時の分配を株式の内容として完全に再現することはできません。
定款に落ちるのは9類型に当たるものだけです。落ちないものは契約に残り、上場準備で別途整理することになります。
📌 定款に何を定め、何が登記されるか
会社法108条2項は、各号に掲げる事項について内容の異なる2以上の種類の株式を発行する場合には、当該各号に定める事項および発行可能種類株式総数を定款で定めなければならないと規定しています。種類ごとの発行可能株式総数まで定款事項です。
登記のほうは会社法911条3項7号が、発行する株式の内容、種類株式発行会社にあっては発行可能種類株式総数および発行する各種類の株式の内容を登記事項としています。つまり、優先配当の計算方法も、転換の条件も、登記されて公開されます。
投資契約の条件が登記簿から読み取れるということです。取引先や採用候補者が見ようと思えば見られますので、どこまでを株式の内容として書き、どこからを契約に置くかは、開示の観点からも判断することになります。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。
初回のご相談は無料です。お問い合わせはこちら
📌 種類株主総会が要る場面
種類株式を発行すると、株主総会とは別に種類株主総会が登場します。会社法322条1項は、種類株式発行会社が一定の行為をする場合において、ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、その種類株主総会の決議がなければ効力を生じないと定めています。
掲げられている行為には、株式の種類の追加、株式の内容の変更、発行可能株式総数または発行可能種類株式総数の増加といった定款変更のほか、株式の併合や分割、募集株式の割当て、組織再編が含まれます。上場準備で行う手続の多くが該当します。
この決議を1つ落とすと、行為そのものが効力を生じません。種類株式が残っている間は、株主総会の議案を組むたびに種類株主総会の要否を点検する必要があります。上場前に普通株式へ整理する実務上の理由のひとつがここにあります。
📌 公開会社では使えない類型がある
会社法108条1項のただし書きは、指名委員会等設置会社および公開会社は、9号に掲げる事項についての定めがある種類の株式を発行することができないと定めています。9号は役員選任権付株式です。
投資契約で取締役の指名権が定められている場合、それを株式の内容として定款に書けるのは非公開会社の間だけです。公開会社になる時点、つまり譲渡制限を外す時点で、この定めは維持できません。
拒否権付株式には条文上の禁止がありませんが、上場審査では支配権の偏りとして議論の対象になります。実務では、上場前に普通株式へ転換して解消するのが通例です。設計の段階から、上場時にどう外すかまで決めておいてください。
定款、株主総会、取締役会、株主名簿、増資。上場準備で必ず点検される書類と手続は決まっています。いまの運用のどこに抜けがあるかは、定款と直近の議事録を拝見すれば短時間で見立てが立ちます。上場準備の実務を経験した公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。支援の内容と進め方はIPO支援業務のページにまとめています。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
❓ よくある質問
A. 株式の内容としては書けません。会社法108条1項は列挙されている事項について異なる定めをすることを認めているだけです。列挙外の内容は株主間契約に置くことになります。
A. 通常は複数の号を組み合わせます。優先配当が1号、残余財産の優先分配が2号、議決権の制限が3号、転換の請求が5号というように重ねて、1つの種類株式として設計します。
A. 公開されます。会社法911条3項7号により、発行可能種類株式総数と各種類の株式の内容が登記事項です。転換の条件や優先配当の計算方法も登記簿に記載されます。
A. 会社法322条1項は、種類株主総会の決議がなければその行為は効力を生じないとしています。あとから追認する仕組みではありませんので、行為をやり直すことになります。
A. 会社法上の禁止はありません。ただし上場審査では支配権の偏りとして議論になりますので、上場前に解消するのが実務です。取得条項を入れておくと会社側から整理できます。
📄 まとめ
種類株式にできるのは会社法108条1項に列挙された9つの類型だけです。組み合わせることで実際の優先株式が組み立てられます。
投資契約の条項のうち、優先分配、転換、拒否権は定款に落とせます。みなし清算や先買権は落とせず、契約に残ります。
発行可能種類株式総数と各種類の株式の内容は定款事項であり、登記事項でもあります。条件は登記簿から読み取れます。
種類株主総会を要する行為は多岐にわたり、決議を落とすと行為が効力を生じません。役員選任権付株式は公開会社では発行できません。
⚖ 本記事の根拠
- 会社法108条1項(種類株式にできる9つの事項)
- 会社法108条2項
- 会社法911条3項7号
- 会社法322条1項
- 会社法323条
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
このテーマの全体像は上場準備の会社法|定款・機関・株主総会・株式の手続にまとめています。