上場準備の過程では、関係会社を整理するために子会社同士を合併させることがあります。親会社が両社の株式を100%持っている場合、対価を交付しない無対価の合併にすることが多くあります。
この処理は共通支配下の取引として、帳簿価額を引き継ぐ形で行われます。ただし、株主資本の内訳をどう引き継ぐか、抱合せ株式があるとどうなるか、税務で適格になる要件は何かといった点で、押さえておくべき論点があります。
この記事では、子会社同士の吸収合併について、会計処理と税務の適格要件を整理します。
- 共通支配下の取引として帳簿価額で引き継ぐこと
- 無対価の場合に資本金や準備金がどの科目に引き継がれるか
- 親会社が子会社を合併する場合との損益の違い
- 無対価合併が税務上の適格合併になるための要件
図 子会社同士の吸収合併の処理の判定
📌 共通支配下の取引として処理する
親会社が100%保有する子会社同士の合併は、企業結合に関する会計基準でいう共通支配下の取引にあたります。結合当事企業のすべてが企業結合の前後で同一の株主により最終的に支配され、その支配が一時的でない場合の企業結合で、親会社と子会社の合併や子会社同士の合併が含まれます。
共通支配下の取引により企業集団内を移転する資産および負債は、原則として、移転の直前に付されていた適正な帳簿価額により計上します。時価に評価替えすることはありません。グループの内側で資産が動いただけであり、外部との取引ではないためです。
この考え方は連結財務諸表にも表れています。共通支配下の取引は内部取引としてすべて消去されるため、親会社が両社の株式を100%保有していれば、合併の前後で連結の数値は変わりません。
📌 存続会社の個別財務諸表での処理
存続会社は、消滅会社から受け入れる資産と負債を合併期日の前日に付された適正な帳簿価額で計上します。のれんは生じません。
問題になるのは差額の行き先です。受け入れた純資産と、対価として交付した株式の関係をどう処理するかで、株主資本の内訳が変わります。
表 企業結合会計基準および適用指針の定めをもとに作成
実務で多いのは無対価の合併です。親会社が両社の株式を100%持っているため、存続会社が新株を発行して親会社に交付しても、親会社の持分は結局変わりません。そこで対価を交付しない形が選ばれます。
この場合、消滅会社の資本金と資本準備金はその他資本剰余金として、利益準備金はその他利益剰余金として引き継ぎます。会社法上は対価として株式を発行していないため、資本金や準備金を増加させることが認められないという理由によるものです。
消滅会社の株主資本がマイナスの場合は、払込資本をゼロとして、その他利益剰余金のマイナスとして処理することになります。
📌 親会社が子会社を合併する場合との違い
同じ共通支配下の取引でも、親会社が100%子会社を吸収合併する場合は処理が変わります。親会社が保有していた子会社株式と、受け入れた資産および負債の差額は、抱合せ株式消滅差損益として特別損益に計上されます。損益が出るということです。
これに対して子会社同士の合併では、存続会社が消滅会社の株式を持っている場合であっても、抱合せ株式は払込資本の調整として処理され、損益は生じません。同じグループ内の合併でも、どの会社が存続するかで損益計算書への影響が変わります。
合併の形を決める段階で、この違いを知らないまま進めると、想定していなかった特別損益が計上されることになります。
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📌 親会社の処理と連結上の扱い
消滅会社の株主である親会社は、引き換えられた消滅会社株式の企業結合日の直前の適正な帳簿価額にもとづいて、取得する存続会社株式の取得原価を計上します。無対価の場合は、消滅会社株式の帳簿価額を存続会社株式の帳簿価額に加算します。
連結財務諸表では、共通支配下の取引は内部取引としてすべて消去されます。親会社の持分比率が変動する場合には、それに伴って生じる差額を資本剰余金に計上します。100%子会社同士であれば持分比率は変わらないため、連結への影響はありません。
📌 税務上の適格要件
会計とは別に、税務では適格合併に該当するかどうかを確かめる必要があります。適格合併に該当すれば、資産と負債は帳簿価額で引き継がれ、譲渡損益は生じません。該当しなければ時価で譲渡したものとして課税されます。
子会社同士の合併は、同一の者による完全支配関係がある場合の適格要件で判定します。無対価の合併については、法人税法施行令に定めが置かれており、被合併法人および合併法人の株主等のすべてについて、その者が保有する被合併法人の株式の数の占める割合と、合併法人の株式の数の占める割合とが等しい場合とされています。
親会社が両社の発行済株式のすべてを保有していれば、どちらも100%で割合が等しいため、無対価でも適格合併になります。
図 無対価合併が適格になるかの確かめ方
ここが実務で最も事故が起きやすいところです。完全支配関係があれば無対価でも常に適格になると理解していると、間違えます。株主構成が完全に一致していることが要件です。
たとえば一方の会社にだけ少数株主が残っている、役員が個人で数株だけ持っている、持株比率がわずかにずれている。こうした場合には要件を満たさず、非適格合併として時価による譲渡があったものとされます。合併の前に株式を集約しておく必要があります。
上場準備の過程では、関係会社を整理するために子会社同士を合併させる場面がよくあります。合併の登記を済ませてから非適格だったと気づくと、修正のしようがありません。株主名簿を確かめるところから始めてください。
どの会社を存続会社にするか、対価を交付するかどうかで、会計処理も税務の結論も変わります。合併の形を決める段階から対応できます。上場準備会社の会計と税務の実務に携わっている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。
❓ よくある質問
A. 共通支配下の取引は、同一の株主に最終的に支配されている企業の間の取引であり、外部との取引ではないためです。企業集団の内側を移転する資産と負債は、移転の直前の適正な帳簿価額で計上します。
A. 増えません。会社法上、対価として株式を発行していない以上、資本金や準備金を増加させることが認められないためです。消滅会社の資本金と資本準備金はその他資本剰余金として、利益準備金はその他利益剰余金として引き継ぎます。
A. 出ません。存続会社が消滅会社の株式を持っている場合でも、抱合せ株式は払込資本の調整として処理されます。これに対し、親会社が子会社を吸収合併する場合は抱合せ株式消滅差損益が特別損益に計上されます。
A. なりません。子会社同士の合併では、株主のすべてについて両社の株式の保有割合が等しいことが要件です。一方の会社にだけ少数株主がいる場合や持株比率がずれている場合は非適格になり、時価で譲渡したものとして課税されます。
📄 まとめ
子会社同士の吸収合併は共通支配下の取引として、移転の直前の適正な帳簿価額で資産と負債を引き継ぎます。のれんは生じず、連結財務諸表への影響もありません。
無対価の場合、消滅会社の資本金と資本準備金はその他資本剰余金として、利益準備金はその他利益剰余金として引き継ぎます。親会社が子会社を合併する場合と違い、特別損益は生じません。
税務では、株主のすべてについて両社の株式の保有割合が等しいことが無対価合併の適格要件です。少数株主が一方にだけ残っていると非適格になります。合併の前に株主名簿を確かめてください。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。