有償ストックオプションはどう会計処理するか|実務対応報告第36号の読み方

有償ストックオプションは費用計上が不要、という説明を見かけます。ただ、実務対応報告第36号はそう書いていません。

第5項(3)は、公正な評価額から払込金額を差し引いた金額のうち、対象勤務期間を基礎とする方法その他の合理的な方法により当期に発生したと認められる額を費用計上する、としています。

費用が出ないのは、公正な評価額と払込金額が等しい場合です。有償だから出ない、ではありません。

この記事でわかること

  • 権利確定条件付き有償新株予約権がストック・オプションに該当すること
  • 払込金額の計上区分
  • 費用計上額の計算
  • ストック・オプション会計基準との関係
  • 適用時期と経過的な取扱い
  • 適用日前の付与分の注記

📌 結論 差額があれば費用になる

図1 実務対応報告第36号の要点内容第4項権利確定条件付き有償新株予約権は、ストック・オプション会計基準第2項(2)に定めるストック・オプションに該当するものとする第5項(1)従業員等からの払込金額を、純資産の部に新株予約権として計上する第5項(3)公正な評価額から払込金額を差し引いた金額のうち、対象勤務期間を基礎とする方法その他の合理的な方法により当期に発生したと認められる額を費用計上する第8項本実務対応報告に定めのないその他の会計処理については、ストック・オプション会計基準及びストック・オプション適用指針の定めに従う

有償だから費用計上は要らない、ではありません。公正な評価額が払込金額を上回る部分は費用になります。

実務対応報告第36号、従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱いです。平成30年1月12日に公表されました。

第4項が、権利確定条件付き有償新株予約権をストック・オプション会計基準第2項(2)に定めるストック・オプションに該当するものとする、としています。有償で発行しても、権利確定条件が付いていればストック・オプションです。

そのうえで第5項(1)が払込金額を純資産の部に新株予約権として計上するとし、第5項(3)が公正な評価額と払込金額の差額を費用計上するとしています。

🧭 費用が出ないのはどんなときか

図2 払込金額と公正な評価額の関係場合会計処理公正な評価額と払込金額が等しい費用計上額は生じない公正な評価額が払込金額を上回る差額を対象勤務期間にわたって費用計上するいずれの場合も払込金額は純資産の部に新株予約権として計上する

評価額の算定が実質的な論点になります。払込金額を評価額に一致させる設計であれば費用は出ませんが、その一致を説明できるかどうかが問われます。

公正な評価額と払込金額が等しければ、差額がないので費用計上額は生じません。有償ストックオプションが費用計上不要と言われるのは、この設計を前提にしているからです。

ただし、公正な評価額の算定が実務上の論点になります。オプション価格算定モデルの選択、前提となるボラティリティや割引率の設定、そして権利確定条件の織り込み方です。

払込金額を評価額に一致させた、と説明するには、その評価額の算定過程が要ります。算定書がないまま費用ゼロとする処理は、監査で必ず問われます。

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🧾 ストック・オプション会計基準との関係

図3 適用時期論点内容公表日平成30年1月12日同時公表改正 企業会計基準適用指針第17号(払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理)適用平成30年4月1日以後適用する。ただし公表日以後適用することができる(第10項(1))経過的な取扱い適用日より前に付与されたものは、従来採用していた会計処理を継続することができる。この場合、概要と採用している会計処理の概要を注記する(第10項(3))

適用日前に付与したものは遡って直す必要がありません。ただし注記が要ります。上場準備で過去の期を作り直すときは、ここを確認してください。

第8項が、本実務対応報告に定めのないその他の会計処理については、ストック・オプション会計基準及びストック・オプション適用指針の定めに従う、としています。

つまり第36号は企業会計基準第8号を置き換えるものではありません。第8号の枠内で、有償発行という要素の取扱いを補完する位置づけです。

権利確定日以後の行使時に払込資本へ振り替え、失効時に利益計上する、という流れも同じです。

📅 いつから適用するか

図4 確認の順番有償で発行した新株予約権に権利確定条件が付いているかを見る付いていれば、ストック・オプションとして扱う(第4項)公正な評価額を算定する払込金額との差額があるかを確かめる差額があれば、対象勤務期間にわたって費用計上する適用日前の付与分は、継続適用と注記を検討する

権利確定条件が付いていない有償新株予約権は、この実務対応報告の対象ではありません。まず条件の有無を見てください。

第10項(1)は、本実務対応報告は平成30年4月1日以後適用する、ただし本実務対応報告の公表日以後適用することができる、としています。

第10項(3)が経過的な取扱いです。適用日より前に付与された権利確定条件付き有償新株予約権の取引については、従来採用していた会計処理を継続することができる、とされています。

この場合、権利確定条件付き有償新株予約権の概要と、採用している会計処理の概要を注記します。遡って直す必要はありませんが、注記は要ります。

税制適格ストックオプションの要件は税制適格ストックオプションはどの要件で落ちるかにまとめています。有償は税制適格の要件を満たしません。

❓ よくある質問

Q. 有償なら費用計上は不要ですか。

A. 公正な評価額と払込金額が等しい場合に費用が出ないだけです。差額があれば費用計上します(第5項(3))。

Q. 払込金額はどこに計上しますか。

A. 純資産の部に新株予約権として計上します(第5項(1))。

Q. 権利確定条件が付いていない場合は。

A. この実務対応報告の対象ではありません。まず条件の有無を確認してください。

Q. 企業会計基準第8号は使わなくてよいですか。

A. 第8項により、定めのないその他の会計処理は第8号と適用指針に従います。

Q. いつから適用ですか。

A. 平成30年4月1日以後です。公表日以後の早期適用もできます。

Q. 適用日前に付与したものは直しますか。

A. 従来の会計処理を継続できます。ただし概要と会計処理の概要を注記します。

Q. 有償なら税制適格になりますか。

A. なりません。税制適格は無償で発行された新株予約権に限られます。

Q. 公正な評価額はどう算定しますか。

A. オプション価格算定モデルを用います。前提の設定と権利確定条件の織り込み方を算定書に残してください。

📄 まとめ

権利確定条件が付いていれば、有償でもストック・オプションです(第4項)。

公正な評価額と払込金額の差額は費用計上します。有償だから不要、ではありません。

適用日前の付与分は継続適用できますが、注記が要ります(第10項(3))。

費用ゼロとするなら、評価額の算定書を残してください。それがないと、監査で説明できません。

📚 参考(公的な一次情報)

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