未適用の会計基準等に関する注記は、公表されているけれどまだ適用していない会計基準について、名称と適用予定日と影響を書く注記です。新リース会計基準の適用が近づいたことで、いま多くの会社がこの注記を書くことになっています。
この記事では、財務諸表等規則が求めている3つの記載事項を確認したうえで、新リース会計基準を例に記載例を示します。連結を作っている会社が個別で省略できること、会社法の計算書類には不要であることもあわせて整理します。
- 書くべき3つの事項(財務諸表等規則8条の3の3第1項)
- 影響に関する事項を評価の進み具合でどう書き分けるか
- 新リース会計基準を例にした記載例
- 連結を作っていれば個別では書かなくてよいこと(同条第3項)
- 会社法の計算書類には不要であること
- 表示方法と注記事項だけを定めた基準の場合の省略(同条第2項)
なお、似た名前の注記に会計方針の変更に関する注記がありますが、こちらは実際に適用を始めた期に書くものです。未適用の会計基準等に関する注記は、まだ適用していない段階で書きます。適用を開始した期には、この注記は落ちて、代わりに会計方針の変更に関する注記が入ります。この入れ替わりを忘れると、適用したのに未適用として書き続けることになります。
この記事の見出し
📌 結論 書くのは名称・適用予定日・影響の3つ
重要性の乏しいものについては注記を省略することができます。省略した場合、その判断の根拠は社内に残しておいてください。
財務諸表等規則8条の3の3第1項は、既に公表されている会計基準等のうち適用していないものがある場合に、当該会計基準等の名称及びその概要、当該会計基準等の適用予定日、当該会計基準等が財務諸表に与える影響に関する事項を注記することを求めています。ただし、重要性の乏しいものについては注記を省略することができます。
この3つのうち、実務で迷うのは3番目です。名称と適用予定日は事実なので書けますが、影響については、まだ評価が終わっていないことが多いためです。
なぜこの注記が求められるのか
この注記は、いまの財務諸表の数字を説明するためのものではありません。すでに公表されている基準が適用されると、将来の財務諸表がどう変わるのかを読み手に伝えるためのものです。だからこそ、影響に関する事項が中心になります。
読み手の立場に立つと、いちばん知りたいのは、どの期からどれくらい変わるのかです。名称と概要を丁寧に書いても、適用予定日と影響が曖昧では、注記としての役目を果たしません。文章量の配分を考えるときの目安にしてください。
概要はどこまで書くか
概要は、その基準が何を変えるのかが分かる程度で足ります。基準の目的や経緯まで書き込む必要はありません。新リース会計基準であれば、借手のリースについて原則としてすべてを貸借対照表に計上する方法に改められた、という趣旨が伝わればよく、数行で収まります。
🗂️ どの書類に書くのか
連結を作っている会社が個別にも同じ注記を入れているケースを見かけますが、規則上は求められていません。
連結を作っていれば個別では不要
見落とされやすいのが第3項です。連結財務諸表を作成している会社は、個別の財務諸表においてこの注記を記載することを要しないとされています。連結財務諸表規則14条の4は、財務諸表等規則8条の3の3の第1項と第2項を準用しており、第3項は準用の対象になっていません。連結では書き、個別では書かないという形になります。
会社法の計算書類には項目がない
会社計算規則98条1項は、注記表に表示すべき事項を列挙していますが、そのなかに未適用の会計基準等に関する注記はありません。したがって、計算書類には記載する必要がありません。有価証券報告書の注記をそのまま計算書類に流用すると、不要な注記が入ります。金商法と会社法で求められる注記が違う点は会計方針の変更の注記の書き方と記載例でも扱っています。
複数の基準を並べるとき
未適用の基準が複数あるときは、基準ごとに名称、概要、適用予定日、影響を書き分けます。まとめて1つの段落にすると、どの基準の適用予定日なのかが読み取れなくなります。基準と適用指針のように一体で公表されたものは、名称を並べたうえで概要以下を共通で書く形が一般的です。
📊 影響に関する事項をどう書くか
評価中のまま何期も置くと、進んでいないのではないかと見られます。期を追うごとに記載が具体的になっていくのが自然な形です。
影響額を金額で書けるのが理想ですが、評価が終わっていない段階では、評価中である旨を記載することになります。実務では、公表された直後の期は評価中とし、期を追うごとに記載を具体化していく形が一般的です。
評価中のまま置き続けない
適用予定日が近づいているのに評価中のままだと、準備が進んでいないのではないかという見方をされます。とくに上場準備中の会社では、審査の場で進捗を聞かれます。前期の記載と読み比べて、何も変わっていない状態が続かないようにしてください。
逆に、無理に金額を書く必要もありません。根拠のない概算を出すと、翌期に大きく動いたときに説明が必要になります。どこまで書けるかは監査法人と擦り合わせて決めるのが確実です。
未適用の会計基準等に関する注記は、書く内容そのものより、影響の評価がどこまで進んでいるかで決まります。契約の状況をお預かりできれば、影響額の試算と、その段階に合った文案をお返しします。新リース会計基準の適用準備そのものからのご相談も承ります。公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。
🧾 新リース会計基準を例にした記載例
強制適用は2027年4月1日以後開始する連結会計年度・事業年度の期首から、早期適用は2025年4月1日以後開始する年度からです(基準58項)。
評価中の段階の記載例
(未適用の会計基準等)
企業会計基準第34号 リースに関する会計基準(2024年9月13日 企業会計基準委員会)
企業会計基準適用指針第33号 リースに関する会計基準の適用指針(2024年9月13日 企業会計基準委員会)
(1) 概要 借手のリースについて、原則としてすべてのリースを貸借対照表に計上する方法に改められたものであります。
(2) 適用予定日 2028年3月期の期首より適用予定であります。
(3) 当該会計基準等の適用による影響 当該会計基準等の適用による連結財務諸表に与える影響額については、現時点で評価中であります。
金額を書ける段階の記載例
(3) 当該会計基準等の適用による影響 当該会計基準等の適用により、適用開始日において使用権資産が◯◯百万円、リース負債が◯◯百万円増加する見込みであります。
金額を出すには、リースに該当する契約の洗い出しが終わっている必要があります。契約の棚卸しの進め方は新リース会計基準のリースの識別とは?判定フローを3ステップで解説を、リース期間の決め方は新リース会計基準のリース期間の決め方をご覧ください。
省略できるかどうかの目安
重要性が乏しいものは省略できますが、どこからが乏しいのかの基準は規則に書かれていません。判断のよりどころになるのは、その基準を適用したときに財務諸表の数字がどれだけ動くか、読み手の判断に影響するかです。
新リース会計基準のように貸借対照表に新しい資産と負債が載る基準は、金額が小さい会社でも比率で見ると影響が出ることがあります。オフィスを賃借しているだけの会社でも、リース期間の取り方によっては使用権資産がまとまった額になります。重要性が乏しいと整理する場合は、その根拠を数字で残しておいてください。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。
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🔢 影響額はどうやって試算するか
注記に金額を書けるかどうかは、この流れが3番目まで進んでいるかで決まります。契約の集め方が最初の関門です。
新リース会計基準で金額を書くには、少なくとも契約の洗い出しとリース期間の決定まで進んでいる必要があります。実務でいちばん時間がかかるのが最初の契約集めで、賃貸借契約書だけを見ていると、駐車場、複合機、車両、サーバの利用契約といったものが漏れます。
洗い出しが終わっていない段階では、金額を書くことはできません。無理に概算を出すより、評価中としたうえで、翌期に向けて洗い出しを進めるほうが結果的に早く済みます。
どこまで進めば金額を書けるか
目安としては、金額的に大きい契約について期間と割引率が決まっていれば、見込みとして書ける水準になります。すべての契約を精緻に積み上げる必要はなく、重要性の高いものから固めていく進め方で構いません。この考え方は少額リースの300万円基準は引き上げられるかでも触れています。
⚖️ 影響に関する事項を書かなくてよい場合
財務諸表等規則8条の3の3第2項は、表示方法及び注記事項のみを定めた会計基準等については、第1項第3号(財務諸表に与える影響に関する事項)の記載を要しないとしています。つまり、認識や測定に影響しない基準であれば、名称と概要、適用予定日だけを書けば足ります。
ただし、その基準が本当に表示方法と注記事項だけを定めたものなのかは、内容を見て判断する必要があります。迷う場合は、影響に関する事項まで書いておくほうが安全です。
✅ 書くまでの手順
適用予定日を決めないまま期末を迎えると、注記が書けません。早期適用の可否は期中に判断しておいてください。
洗い出しは毎期やる
公表されている会計基準等は毎年増えます。前期の注記をそのまま使い回していると、新しく公表された基準が漏れます。決算のたびに、企業会計基準委員会が公表した基準等を確認し、自社に関係するものを拾う手順を入れておいてください。
重要性が乏しいと判断して省略する場合も、何を検討して省略したのかを記録に残しておくと、監査での説明が短く済みます。
前期の注記を毎期見直す
この注記は、前期のものをそのまま持ってきやすい箇所です。適用予定日が近づいているのに文言が変わっていない、公表された新しい基準が入っていない、といったことが起きます。決算の作業手順に、未適用の基準の洗い出しと注記文言の見直しを独立した項目として入れておくと漏れません。
表示方法と注記事項だけかどうかの見分け方
基準の本文を読んで、認識や測定に関する定めがあるかを見ます。どの科目にいくら計上するか、いつ計上するかに触れているものは、表示方法と注記事項だけを定めた基準にはあたりません。逆に、開示すべき事項の追加だけであれば、第2項による省略の対象になります。判断に迷ったときは、影響に関する事項も書いておけば足りないということにはなりません。
🏢 上場準備中の会社が気をつけること
上場準備中の会社は、申請書類のなかでこの注記を書くことになります。ここで見られるのは注記の文言そのものより、その裏づけとなる準備が進んでいるかどうかです。新リース会計基準であれば、契約の棚卸しが済んでいるか、システムをどうするかが決まっているかが問われます。
強制適用が2027年4月1日以後開始する連結会計年度・事業年度の期首からなので、上場のタイミングによっては、適用前の期と適用後の期が申請書類に並ぶことになります。比較可能性をどう説明するかも含めて、早めに監査法人と話をしておいてください。
❓ よくある質問
A. 差し支えありません。財務諸表等規則8条の3の3第1項3号は、財務諸表に与える影響に関する事項としており、必ず金額を求めているわけではありません。ただし、適用予定日が近い時期にも評価中のままだと、進捗を問われます。
A. 連結財務諸表を作成している場合、個別の財務諸表では記載を要しません(同条第3項)。連結だけに書けば足ります。
A. 要りません。会社計算規則98条1項の注記表の項目に、未適用の会計基準等に関する注記は含まれていません。
A. 適用予定日のところで、早期適用する期を示します。早期適用するかどうかを決めていない段階であれば、強制適用の時期を前提に書いたうえで、早期適用の可能性を検討中である旨を記載する例が見られます。
A. 一体で公表されたものは、名称を並記したうえで概要以下を共通で書く形が一般的です。適用予定日が同じであれば、分けて書く実益はありません。
A. 使用権資産とリース負債の増加額を示す例が多く見られます。純資産や損益への影響まで書くかは、評価の進み具合と、読み手にとっての有用性で判断してください。
A. できます。ただし、何を検討して重要性が乏しいと判断したのかは残しておいてください。新リース会計基準のように貸借対照表の規模が変わる基準は、重要性が乏しいという整理は難しくなります。
A. どの期から適用するかが分かる書き方であれば、2028年3月期の期首より、といった表現で差し支えありません。連結会計年度の期首から適用する旨が読み取れることが必要です。
📄 まとめ
未適用の会計基準等に関する注記で書くのは、名称及び概要、適用予定日、財務諸表に与える影響に関する事項の3つです(財務諸表等規則8条の3の3第1項)。重要性の乏しいものは省略できます。
連結財務諸表を作成している会社は、個別の財務諸表では記載を要しません(同条第3項)。会社法の計算書類には、そもそもこの注記の項目がありません。表示方法と注記事項だけを定めた基準については、影響に関する事項の記載が不要です(同条第2項)。
実務の中心は3番目の影響に関する事項です。評価中と書くこと自体は問題ありませんが、期を追っても記載が変わらないと、準備が進んでいないと見られます。新リース会計基準は2027年4月1日以後開始する連結会計年度・事業年度の期首から強制適用なので、いまは記載を具体化していく時期にあたります。
📚 参考(公的な一次情報)
- 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則 8条の3の3(未適用の会計基準等に関する注記)第1項・第2項・第3項
- 連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則 14条の4(未適用の会計基準等に関する注記)
- 会社計算規則 98条1項(注記表に表示すべき事項)
- 企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」58項
未適用の会計基準等に関する注記は、書く内容そのものより、影響の評価がどこまで進んでいるかで決まります。リース契約の状況をお預かりできれば、使用権資産とリース負債の試算と、その段階に合った注記文案をお返しします。新リース会計基準の適用準備そのものからのご相談も承ります。公認会計士・税理士が直接お受けします。初回のご相談は無料です。
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