新リース会計基準を適用すると、借手はすべてのリースについて使用権資産とリース負債を計上します。ところが法人税は、この単一モデルをそのまま受け入れているわけではありません。IPO準備会社や上場企業の経理・管理部門では、会計方針は固まったものの申告書をどう直すかが決まらない、という状態になりがちです。
本記事では、公認会計士・税理士の立場から、会計と法人税がどこでずれるのか、令和7年度税制改正で何が手当てされたのか、実際にどのような申告調整が生じるのかを、自作の数値例で整理します。本連載の全体像は新リース会計基準の連載目次をご覧ください。
図 新リース会計基準と税務の差異の確認
この記事の見出し
結論:会計は1つのモデル、税務は3つの区分のまま
会計上、借手は区分を問わず、リース開始日に使用権資産とリース負債を計上し(基準33項)、利息相当額を借手のリース期間にわたり原則として利息法により配分し(基準36項)、使用権資産の減価償却費を計上します(基準38項)。
これに対し法人税では、リース取引を行った場合にはリース資産の引渡しの時に売買があったものとして所得の金額を計算する枠組み(法法64の2①)が維持されています。そのうえで、所有権移転外リース取引に該当するものはリース期間定額法により償却し(法令48の2①六)、それ以外のリース取引に係るリース資産は自己が有する同じ区分の減価償却資産について採用している償却の方法により償却します(法令48の2①)。税務上のリース取引に当たらない賃貸借取引については、債務の確定した部分の金額を損金の額に算入します(法法53①)。
会計側が1本化された一方で、税務側は3区分が残っています。申告調整が必要になるか、調整額がどれくらい大きくなるかは、契約がこの3区分のどこに入るかでほぼ決まります。
会計上の区分ではなく、税務上のリース取引該当性で3つに分かれます。
令和7年度税制改正で税務側に入った3つの手当て
新リース会計基準の公表を受け、令和7年度税制改正でリース税制にも見直しが行われました。主な内容は次の3点です。
1 賃貸借取引に係る費用の別段の定めの新設
法人が賃貸借取引により資産の賃借を行った場合において、その契約に基づき支払うこととされている金額があるときは、そのうち各事業年度において債務の確定した部分の金額を損金の額に算入することとされました(法法53①)。会計上は使用権資産を計上しても、税務上は引き続き支払賃借料ベースで損金算入するという整理が明文化された形です。令和7年4月1日以後に開始する事業年度分の法人税から適用されます(令和7年改正法附則14)。
2 リース期間定額法の見直し
令和9年4月1日以後に締結された所有権移転外リース取引に係る契約のリース資産については、取得価額に含まれている残価保証額に相当する金額を控除しないこととし、リース期間内において定額で1円(備忘価額)まで償却できることとされました(法令48の2①六、法令48の2④、法令61①二イ)。令和9年3月31日以前に契約した経過リース資産について経過リース期間定額法を選定できる経過措置も設けられています(令和7年改正法令附則7②)。
3 リース譲渡に係る延払基準の特例の廃止
リース譲渡に係る収益及び費用の帰属事業年度の特例は廃止され(旧法法63、旧法令124から128まで)、新リース会計基準で引き続き認められる方法により経理された収益及び費用の額が益金・損金に算入されます(法法22、法法22の2)。貸手側の論点ですので、以下は借手を中心に扱います。
| 項目 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 賃貸借取引の費用 | 一般規定により債務確定を判定 | 債務の確定した部分の金額を損金算入する別段の定めを新設(法法53①) |
| リース期間定額法 | 取得価額から残価保証額を控除して計算 | 残価保証額を控除せず1円まで償却(法令48の2①六)。令和9年4月1日以後に締結する契約から |
| リース譲渡の特例 | 延払基準により収益・費用を計上(旧法法63) | 特例は廃止。経理した額を計上(法法22、法法22の2) |
所有権移転外ファイナンス・リース:差異が出にくいように手当てされている
税務上のリース取引に該当する場合、会計上は使用権資産、税務上はリース資産という別の資産を扱います。そのままでは会計上の減価償却費が税務上の「償却費として損金経理をした金額」に当たるかがはっきりしませんが、令和7年6月に法人税基本通達(以下「基通」といいます)が整備されました。
使用権資産の減価償却費は損金経理額に含まれる
リース資産に係る「その償却費として損金経理をした金額」には、確定した決算においてそのリース資産に係る使用権資産の減価償却費として経理した金額が含まれます(基通7-5-3)。使用権資産という別科目で償却していても、税務上のリース資産の損金経理額として扱われるということです。
取得価額と利息相当額の切り分け
賃借人におけるリース資産の取得価額は、原則としてリース期間中のリース料の額の合計額によります(基通7-6の2-9本文)。ただし、そのうち利息相当額から成る部分の金額を合理的に区分できる場合には、これを控除した金額を取得価額とすることができ(基通7-6の2-9ただし書)、控除した利息相当額はリース期間の経過に応じて利息法又は定額法により損金の額に算入します(基通7-6の2-9(注)3)。
リース期間は会計リース期間を使える
法人税法上、リース期間は契約において定められている賃貸借の期間をいうとされ(法令48の2⑤七)、会計上は解約不能期間に一定のオプション対象期間を加えて決定するため(基準31項)、両者がずれる懸念がありました。この点、賃借人が会計リース期間を用いて経理を行っているリース資産については、その会計リース期間をリース期間定額法の規定等における「リース期間」とすることとされています(基通7-6の2-10の2)。延長オプションを含めて見積もった期間でも、税務上のリース期間として使えるということです。
もっとも完全に一致するわけではありません。会計上、使用権資産には資産除去債務に対応する除去費用を加算しますが(基準33項)、この金額はリース料でも事業供用のために直接支出した費用でもないため、税務上の取得価額には含まれないものと考えられます。他方、事業の用に供するために賃借人が支出する付随費用の額は取得価額に含まれ(基通7-6の2-9(注)2)、再リース料の額は原則として算入しませんが、再リースをすることが明らかな場合には含まれます(基通7-6の2-9(注)1)。
オペレーティング・リース:ここが申告調整の本丸
前回の使用権資産の減損は会計側の測定の話でしたが、ここからは税務との差異が最も大きくなる区分です。税務上のリース取引に該当しない賃貸借取引、すなわち会計上のオペレーティング・リースの多くがここに入ります。会計上は使用権資産の減価償却費と利息費用の合計が費用となり、税務上は債務の確定した支払賃借料が損金となります(法法53①)。利息費用は残高が大きい初期ほど多いため、会計上の費用は前半に厚く後半に薄くなります。賃料が定額なら税務上の損金は毎期一定ですから、前半は加算、後半は減算という申告調整が生じます。
調整はいずれ解消しますが、リース期間が10年を超える不動産賃貸借では加算が続く期間も長くなります。使用権資産とリース負債には税務上の簿価がありませんので、別表五(一)でその差額を契約単位で管理し続けることになります。
フリーレントがある契約の取扱い
賃料の支払がない又は通常に比して少額である期間(無償等賃借期間)が定められた契約については、課税上弊害があるものを除き、損金経理をした金額を限度として、支払額が賃借期間にわたり支払われるべきものとした場合に各事業年度中に支払われるべきこととなる金額を損金の額に算入する取扱いが定められています(基通12の5-3-2)。ただし、無償等賃借期間の定めがないとした場合との差額が契約上の支払額のおおむね2割を超える場合(基通12の5-3-2(1))や、いずれかの事業年度でその事業年度の賃借期間のおおむね5割を超える期間が無償等となると見込まれる場合(基通12の5-3-2(2))は、適用がありません。
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数値例:オペレーティング・リースの5年間
支店オフィスの賃貸借契約を例に、会計上の費用と税務上の損金のずれを追います。数値はすべて筆者が設定したものです。
借手のリース期間5年、賃料は年額10,000千円(期末年払、フリーレントなし)、借手の追加借入利子率は年4.0%。税務上のリース取引には該当せず、賃貸借取引として処理するものとします。
リース負債の当初計上額は44,518千円、使用権資産も同額とし、5年・残存価額ゼロの定額法で償却すると年間の減価償却費は8,904千円(最終年度は8,902千円)です。
| 年度 | 減価償却費 | 利息費用 | 会計費用計 | 税務損金 | 申告調整 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1年目 | 8,904 | 1,781 | 10,685 | 10,000 | 加算 685 |
| 2年目 | 8,904 | 1,452 | 10,356 | 10,000 | 加算 356 |
| 3年目 | 8,904 | 1,110 | 10,014 | 10,000 | 加算 14 |
| 4年目 | 8,904 | 754 | 9,658 | 10,000 | 減算 342 |
| 5年目 | 8,902 | 385 | 9,287 | 10,000 | 減算 713 |
| 合計 | 44,518 | 5,482 | 50,000 | 50,000 | 0 |
同じ総額50,000千円でも、期間配分が異なるため毎期の調整が必要になります。
消費税:帳簿要件が新しい論点になる
消費税では、所有権移転外ファイナンス・リース取引に該当する場合、リース資産の引渡しを受けた時に資産の譲受けがあったものとして仕入税額控除の計算を行います。会計上は使用権資産の計上額とリース料総額(対価の額)が一致しないため、帳簿にリース料総額を記載するか、使用権資産の計上額から対価の額を算出するための資料を作成・保存するなどにより、対価の額を明らかにしておく必要があるとされています(消法30⑦、消法30⑧)。
自社だけで対応すると重くなるところ
監査法人とのやり取りでも、論点になるのは会計処理そのものより税務側との接続部分であることが多いという印象があります。初年度の設計が後々まで効いてきますので、次の点を確認しておくことをお勧めします。
- 契約ごとに税務上のリース取引に該当するかを判定し、判定根拠を残せているか
- 所有権移転外リース取引について、会計上の利息相当額の区分を税務上の取得価額の算定に接続できているか
- 資産除去債務に対応する除去費用・付随費用・再リース料を、会計と税務で別々に把握できているか
- 賃貸借取引について、契約単位で会計費用と税務損金の差額を毎期算出できる管理台帳があるか
- フリーレント契約について、2割基準・5割基準の判定を契約ごとに行っているか
- 別表五(一)で使用権資産・リース負債の差額を継続的に管理する様式を用意しているか
- 消費税の帳簿要件を満たすため、対価の額を明らかにする資料の作成・保存の運用を決めているか
特に負担が大きいのは管理台帳です。契約が数十件を超えると、会計側の償却スケジュールと税務側の支払スケジュールを契約ごとに並べて差額を出す作業が毎期発生します。表計算ソフトで始めた会社が、2年目以降の契約変更や中途解約で管理しきれなくなる例は珍しくありません。
契約の棚卸しから会計方針の決定、申告調整と管理台帳の設計まで、公認会計士・税理士が実務に即してご支援します。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援と内部統制の整備支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
よくあるご質問
いいえ。税務上のリース取引に該当し、利息相当額を区分して取得価額を算定し、会計リース期間をそのまま税務上のリース期間として用いる場合には、差異はほとんど生じないと考えられます。調整が大きくなるのは、税務上は賃貸借取引として扱われる契約です。
会計基準の早期適用と税制改正の適用時期は別に定められています。賃貸借取引に係る費用の別段の定めは令和7年4月1日以後に開始する事業年度分から(令和7年改正法附則14)、リース期間定額法の見直しは令和9年4月1日以後に締結された契約から(法令48の2①六)です。
会計上リース料を費用処理していても、税務上のリース取引に該当すれば売買があったものとして所得を計算する枠組みは変わりません(法法64の2①)。なお、リース資産の賃借費用の額のうち賃借料以外の費目で損金経理をした金額も、償却費として損金経理をした金額に含まれます(法令131の2③)。要件は短期リース・少額リースの回で整理しています。
まとめ
会計は単一モデルに移行しましたが、税務は3区分のままです。税務上のリース取引に該当する契約は差異が生じにくい形に整えられた一方、賃貸借取引として扱われる契約では期間配分の違いから毎期の申告調整が避けられません。契約単位で会計と税務の数値を並べて管理できる仕組みを、適用初年度のうちに作れるかどうかが分かれ目になります。
次回は「連結における相殺消去の注意点」を取り上げます。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の会計処理・税務処理の判断は、契約内容や事実関係により結論が異なります。最終的な判断にあたっては、必ず専門家にご相談ください。
参考
企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」31項、33項、36項、38項/法人税法22条、22条の2、53条1項、64条の2第1項/法人税法施行令48条の2第1項、同項第6号、同条第4項、同条第5項第7号、61条1項2号イ、131条の2第3項/旧法人税法63条、旧法人税法施行令124条から128条まで/所得税法等の一部を改正する法律(令和7年法律第13号)附則14条/法人税法施行令及び法人税法施行令等の一部を改正する政令の一部を改正する政令(令和7年政令第121号)附則7条2項/法人税基本通達7-5-3、7-6の2-9、7-6の2-10の2、12の5-3-2/消費税法30条7項、8項
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