IPO審査の「企業内容等の開示の適正性」とは?適時開示体制・Ⅰの部・インサイダー防止を解説

IPOの上場審査では、「利益が出ているか」「ガバナンスが整っているか」と並んで、会社の姿を投資者に正しく伝えられる状態にあるかが独立した基準として審査されます。これが「企業内容等の開示の適正性」(グロース市場では「企業内容、リスク情報等の開示の適切性」)です。

この基準は、上場後に投資者と向き合うための「開示の実力」を、上場前の段階で確かめるものです。決算短信や適時開示は上場してから始まるものですが、審査の時点ですでに回せる体制になっていることが求められます。

本記事では、東京証券取引所の新規上場ガイドブック(2026年7月21日版)と有価証券上場規程・上場審査等に関するガイドラインをもとに、この基準が何を見ているのか、3市場でどう違うのか、準備実務で何を整えておくべきかを整理します。

開示の体制ができているか適時開示と申請書類の体制を確かめる適時開示の担当と手順を決めていないか体制を作るはいいいえ申請書類を作成する体制がないか担当と工程を決めるはいいいえインサイダー取引の防止の仕組みがないか規程と研修を整えるはいいいえ開示の実績を作って運用を確かめる

図 企業内容等の開示の適正性の確認

「企業内容等の開示の適正性」は実質審査基準のどこに位置づけられるか

上場審査には、株主数や流通株式など数値で判定される形式要件と、会社の実態を総合的に見る実質審査基準(上場審査基準)があります。「企業内容等の開示の適正性」は後者に属し、市場ごとに条文の番号も基準名も異なります。

項目 プライム市場 スタンダード市場 グロース市場
基準名 企業内容等の開示の適正性 企業内容等の開示の適正性 企業内容、リスク情報等の開示の適切性
根拠条文 有価証券上場規程第213条第1項第4号 有価証券上場規程第207条第1項第4号 有価証券上場規程第219条第1項第1号
ガイドライン 上場審査等に関するガイドラインⅢ 5. 上場審査等に関するガイドラインⅡ 5. 上場審査等に関するガイドラインⅣ 2.
実質基準内の並び 企業の継続性及び収益性、企業経営の健全性、コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性に続く4番目 同左(4番目) 5つの基準の先頭に置かれている
基準に含まれる論点 (1)情報管理と適時開示体制/(2)開示書類の記載/(3)開示実態を歪めていないこと 同左(3論点) 同左(3論点)だが、(2)の記載事項がリスク情報・事業計画を含む4分類に細分化

出典:東京証券取引所「新規上場ガイドブック」プライム市場編・スタンダード市場編・グロース市場編(いずれも2026年7月21日版)および有価証券上場規程・上場審査等に関するガイドライン。

プライム・スタンダードでは、この基準は実質審査基準の4番目に置かれています。これに対しグロース市場では、同じ内容の基準が実質基準の筆頭に配置されています。グロース市場が、事業実績の面で相対的にリスクが高い企業と、そこへ投資する投資者のための市場として設計されており、成長可能性を実現するための事業計画とその進捗の適時・適切な開示が市場評価の前提になっているためです。

「企業内容等の開示の適正性」を構成する3つの視点 ① 情報管理と適時開示 ・会社情報を適正に管理 ・投資者に適時、適切に  開示できる状況 ・内部者取引等の未然  防止体制の整備・運用 月次の予算実績管理/ 情報管理規程/研修/ FDルール対応 ② 開示書類の記載 ・法令等に準じて作成 ・投資判断に重要な  影響を及ぼす事項 ・主要な事業活動の  前提となる事項 主な審査資料は 「Ⅰの部」/分かりや すさ・誤解の有無 ③ 開示実態を歪めない ・関連当事者その他  特定の者との取引 ・株式の所有割合の  調整等 ・実態の開示の歪み 押し込み販売/循環 取引/架空取引/ 出資調整の確認 3市場とも、この3つの視点で構成される点は共通

図1 基準を構成する3つの視点。プライム213条1項4号、スタンダード207条1項4号、グロース219条1項1号のいずれも同じ枠組みで審査される。

視点① 会社情報を管理し、適時・適切に開示できる状況にあるか

1つ目は、上場後に投資者の投資判断に重要な影響を与える会社情報を適時・適切に開示できる状況にあるか、そして情報が公表されるまでの間、その情報を適切に管理できるかという点です。

月次の予算・実績管理が重要な審査項目になる

ガイドブックでは、この基準で重要な審査項目として月次の予算及び実績の管理が挙げられています。管理の方法や精度は事業活動の内容や規模によって異なりますが、少なくとも、公表した業績予想などの将来予測情報に修正の必要があるかどうか、修正するならどのような修正になるのかを把握できることが求められます。

上場会社は、業績予想と実績が一定以上乖離した場合に修正の適時開示を行うことになります。月次で業績動向を把握できていなければ、その判断そのものができません。管理会計の整備は「経営に役立つから」だけでなく、開示義務を履行するための前提として審査されるという理解が必要です。

内部者取引等の未然防止体制

もう一つの柱が、内部者取引(インサイダー取引)および情報伝達・取引推奨行為の未然防止です。審査では概ね次の点が確認されます。

  • 内部情報の管理や内部者取引等の防止に関する規程を有しているか
  • その規程の内容が法令等に照らして適切なものか
  • 役員・従業員等の会社関係者に対する防止研修を適切に実施している、または実施予定か
  • 上場後も継続的に研修を実施する予定があるか
  • 役員および情報管理に係る管理部門の責任者等が、内部者取引規制の意義や内容を理解しているか

ガイドブックは、近年、会社関係者が内部者取引等の違反行為により告発・課徴金納付命令の対象となるケースが増加傾向にあると指摘しています。違反行為は会社の信用を毀損するだけでなく、金融商品市場全体の信頼を低下させる事態にもつながるため、一層の留意が求められるとされています。

フェア・ディスクロージャー・ルールとウェブ掲載時のセキュリティ

この基準による審査では、フェア・ディスクロージャー・ルール(金融商品取引法第27条の36。2018年4月1日施行)を踏まえた体制整備の状況も併せて確認されます。同ルールは、上場会社等がその業務等に関する未公表の重要情報を証券アナリストなど特定の第三者に提供する場合に、同時(意図的でない提供の場合は速やかに)にその情報を公表することを求めるものです。

加えて、会社情報の公表予定時刻より前に自社ウェブサイトへ掲載してしまうことを防ぐためのセキュリティ確保の状況も確認対象とされています。決算資料をあらかじめサーバーに置いておく運用は珍しくありませんが、公表時刻前に外部からURLを推測してアクセスできる状態になっていないかという観点です。

審査で確認される「会社情報が開示に至るまで」の流れ STEP1 重要な会社情報 の発生・決定 決算・業績・組織再編 STEP2 誰がどのように 把握・収集・管理 情報取扱責任者・規程 STEP3 開示のための 社内手続の実施 決裁・内容の確認 STEP4 適時・適切な 開示の実施 決算短信・適時開示 STEP1〜3の間は「未公表」 = 情報管理が問われる区間 内部者取引等の未然防止、FDルールを踏まえた体制、公表時刻前のウェブ掲載防止 月次の予算実績管理 業績予想の修正判断 「開示できる体制か」と「公表までの情報管理ができるか」を両面で確認する

図2 会社情報の発生から開示までの流れと、審査で見られるポイント。本文で述べた確認事項を工程順に整理したもの。

視点② 開示書類が法令等に準じて作成され、適切に記載されているか

2つ目は、新規上場申請書類のうち企業内容の開示に係るものが、法令等(開示府令等)に準じて作成されているか、そしてその記載内容が会社の実情を理解するうえで分かりやすく、誤解を生じさせないものになっているかという点です。主な審査資料は「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」です。

同業他社との比較と、訂正の履歴

審査では、まずⅠの部が法令等に準じて適正に作成されているかを確認し、次に同業他社等の有価証券報告書と比較して、記載内容や表示方法に異なるものがあるかを確認するとされています。他社と異なる場合には、比較可能性の観点から、会計監査人の意見なども交えて分かりやすい開示となるよう要請されることがあります。

記載に誤りがあれば資料を訂正することになりますが、ガイドブックは次のような場合には上場審査上の判断が慎重なものとなると述べています。

・訂正の内容が重要と認められるもの
・誤りの原因が申請会社の意図的なもの
・訂正、あるいは開示資料を作成する手続き等の改善が容易にできないもの

また、過去に有価証券報告書等の訂正を行っている場合は、訂正内容・訂正時期・訂正発覚の経緯・訂正頻度に加え、訂正に至った要因と、その要因への対処状況を踏まえて基準への適合状況が判断されます。申請事業年度も含め複数回継続的に訂正が発生し、開示体制に改善が見られない場合の判断は慎重なものになるとされています。

過年度の誤りが見つかったときの整理については「誤謬の訂正と内部統制報告制度|「開示すべき重要な不備」の判断」でも触れています。

「誤解を生じさせる記載」とは何か

開示資料は多様な投資者が投資判断のために利用するものです。抽象的な表現を用いたり専門用語を羅列したりして一読しただけでは理解しにくい記載や、読み方によって受け取り方が変わってしまう記載は不適切とされ、審査の中で記載内容の変更を求められます。ガイドブックのQ&Aでは、誤解を生じさせる可能性がある記載として、実際は関連性が乏しいのに投資者の関心が高い分野の用語を織り交ぜてあたかも深く関連する事業であるかのように記載するケースや、開始したばかりの事業を既に主要事業のひとつであるかのように記載するケース、今後展開予定の事業を現在既に展開しているかのように記載するケースが挙げられています。

セグメントやサービス区分の名称についても、名称自体が現在の事業実態に即したものになっているかが問われます。名称が事業実態に照らして分かりにくい場合には、セグメント等と事業内容の関係を丁寧に記載する必要があるとされています。

主要な事業活動の前提となる事項

基準は、開示書類に記載すべき事項として「主要な事業活動の前提となる事項」を明示的に掲げています。これは主要な業務または製商品に係る許可、認可、免許もしくは登録、または販売代理店契約もしくは生産委託契約などを指し、Ⅰの部の【事業の内容】【事業等のリスク】等に記載することが求められます。

「主要な事業活動の前提となる事項」で記載が求められる4要素 (a)前提となる事項の内容 主要な業務・製商品に係る許可、認可、免許、 登録、販売代理店契約、生産委託契約など、 事業の土台になっている事項そのもの (b)期限 許認可等の有効期間その他の期限が法令 または契約等により定められている場合 には、その期限 (c)取消し・解約等の事由 許認可等の取消し、解約その他の事由が 法令または契約等により定められている 場合には、その事由 (d)支障を来す要因に関する記載 継続に支障を来す要因が発生していない旨、 および当該要因が発生した場合に事業活動に 重大な影響を及ぼす旨 記載先はⅠの部の【事業の内容】【事業等のリスク】等 / 3市場に共通

図3 基準が掲げる(a)〜(d)の4要素。プライム・スタンダード・グロースのいずれの市場でも同じ内容が求められる。

親会社等がある場合とバリューチェーンの視点

申請会社が「親会社等」を有する場合、取引関係等を通じて様々な影響を受けることが想定されるため、親会社等との取引関係等の情報はⅠの部の【関係会社の状況】【事業等のリスク】等に分かりやすく記載されているかが確認されます。実際の審査では、取引関係であれば内容・金額・取引条件および取引条件の設定方針、役員の兼任関係であれば兼任役員の氏名・役職・兼任理由、受入出向であれば人数・申請会社における役職の状況・業務の安定的な遂行の見地からみた従業員の確保に関する考え方が中心に確認されます。さらに、コーポレート・ガバナンスに関する報告書において、少数株主保護の観点から必要な親会社からの独立性確保に関する考え方・施策等が適切に記載されているかも確認対象です。

また、ガイドブックは、事業に係るバリューチェーン全体を俯瞰して投資判断上重要と考えられる内容を想定することの重要性にも触れています。代理店等を介して取引している場合であっても、その先の実質的な仕入先や販売先の取引金額が仕入や売上の過半を占めるなど、当該情報が投資判断上重要と考えられる場合には、他の重要な取引先と同様に開示することが考えられるとされています。

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グロース市場では記載事項が4分類に細分化される

視点②の記載事項は、プライム・スタンダードとグロースで書きぶりが異なります。グロース市場では、リスク情報と「事業計画及び成長可能性に関する事項」が基準の中に明記されている点が最大の違いです。

記載が求められる事項 プライム市場・スタンダード市場 グロース市場
財政状態・経営成績等 財政状態及び経営成績、役員・大株主・関係会社等に関する重要事項等、投資判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項(a) 財政状態・経営成績・資金収支の状況に係る分析及び説明、関係会社の状況、研究開発活動の状況、大株主の状況、役員・従業員の状況、配当政策、公募増資の資金使途等(a)
リスク要因 基準上は独立の号として掲げられていない((a)の「投資判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項」に含めて審査) 事業年数の短さ、累積欠損又は事業損失の発生の状況、特定の役員への経営の依存、他社との事業の競合状況、市場や技術の不確実性、特定の者からの事業運営上の支援の状況等(b)
事業計画・成長可能性 基準上の明示なし 事業計画及び成長可能性に関する事項について投資判断上有用な事項(c)
主要な事業活動の前提となる事項 (b)として(a)〜(d)の4要素を記載 (d)として同じ4要素を記載
一時的に利益を計上しない場合 プライムのみ、中長期的な企業価値向上のための投資活動により相応の利益を一時的に計上しないことが見込まれる場合、当該投資活動に係る事項を含むと明記 基準上の明示なし(事業計画及び成長可能性に関する事項の中で説明)
審査の進め方 Ⅰの部を主な審査資料とし、同業他社の有価証券報告書と比較 Ⅰの部に加え「事業計画及び成長可能性に関する事項」の開示ドラフトに基づき説明・ヒアリングを実施

出典:東京証券取引所「新規上場ガイドブック」(2026年7月21日版)各市場編。表現は要約しています。

グロース市場の審査では、Ⅰの部と「事業計画及び成長可能性に関する事項」について、事業内容・ビジネスモデル(事業の特徴、収益構造等)、市場環境(市場規模、競合環境等)、競争力の源泉(経営資源、競争優位性等)、事業計画(成長戦略、経営指標等)、リスク情報(認識するリスク、その対応策)が適切に記載されているかが確認されます。

ここで実務上つまずきやすいのが2つの資料の整合性です。「事業計画及び成長可能性に関する事項」ではⅠの部の記載を補足したり、図表・グラフを用いてポイントを分かりやすく示したりすることが想定されますが、その場合でもⅠの部の記載と整合的な内容であることが求められます。また、投資判断に重要な影響を及ぼす可能性がある情報は、「事業計画及び成長可能性に関する事項」だけでなくⅠの部にも適切に記載されることが必要とされています。

IPO準備の開示体制づくりを、審査基準の側から設計する

Ⅰの部の作成、適時開示体制、情報管理規程やインサイダー研修の整備は、上場後の実務をそのまま前倒しで回すことに他なりません。公認会計士として上場準備の実務に携わってきた立場から、貴社の状況に合わせた進め方をご提案します。

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視点③ 開示の実態を歪めていないこと

3つ目は、関連当事者その他の特定の者との間の取引行為や、株式の所有割合の調整等によって、企業グループの実態の開示が歪められていないかという点です。ここでいう「関連当事者」は財務諸表等規則第8条第17項に掲げる関連当事者を指し、「その他の特定の者」は関連当事者の範囲には含まれないものの、企業グループと人的・資本的な関連を強く有すると考えられる者を指すとされています。

取引行為による歪み

取引行為については、事業活動における各種取引に不自然な内容が認められる場合や、財務諸表上の勘定科目に不自然な推移が認められる場合に、その詳細がさらに確認されます。ガイドブックのQ&Aでは、決算期末間近に売上が急増している場合にはいわゆる「押し込み販売」の懸念、販売商品や販売先の実態が不透明な場合にはいわゆる「循環取引」や「架空取引」の懸念が例示されています。

こうした取引が行われていた場合、財務諸表は本来あるべき姿とは異なる情報を示すことになり、投資者に誤解を与えるだけでなく虚偽記載等の法令違反での処罰も想定されることから、上場審査上の判断は慎重なものになるとされています。関連当事者取引そのものの審査については「企業経営の健全性」の基準でも扱われますが、開示を歪めているかどうかという観点はこの基準で確認される点に注意が必要です。

出資調整による歪み

出資調整については、まず企業グループの出資構成が確認されます。申請会社グループからの出資が100%となっていない子会社について、他の出資者が存在する場合には、その出資の経緯および理由が確認されます。出資理由が明確でなく、例えば業績の悪化している子会社を連結対象から外すことを目的としているような場合には、企業グループの状況が適切に開示されるよう出資構成の改善を求められることがあります。

準備段階でつまずきやすいポイント

1. 「開示は上場してから」と考えてしまう
適時開示は上場後の義務ですが、審査は上場前に「回せる状態か」を見ます。決算短信の作成を申請期に一度も試していない、開示すべき事実の判定を誰が行うか決まっていない、という状態では体制があるとは評価されにくいと考えられます。

2. 月次決算が締まるのが遅い
月次の予算実績管理は業績予想の修正判断の前提です。月次決算に何十日もかかる状態は、開示の適正性の観点からも論点になり得ます。

3. Ⅰの部の記載が「盛って」いる
投資者の関心が高い分野の用語を織り交ぜる、開始したばかりの事業を主力のように書く、といった記載は、誤解を生じさせる記載として整理を求められます。

4. 情報管理規程はあるが運用されていない
規程の存在だけでなく、研修の実施状況、役員や管理部門責任者の理解度まで確認されます。上場後も継続実施する計画があるかも問われます。

5. グロースで2つの資料の数字が合わない
「事業計画及び成長可能性に関する事項」とⅠの部で、市場規模の前提やKPIの定義がずれているケースがあります。作成部署が分かれている場合は特に注意が必要です。

IPO準備の全体像や各期にやるべきことは「IPO準備の全体像とは?上場までのスケジュール(N-3期〜N期)と各期にやるべきことを徹底解説」で整理しています。上場審査要件の連載全体は「IPO準備 完全ガイド|上場までの流れと審査要件を全11回で解説」からご覧いただけます。

よくある質問

Q. 上場日に開示する業績予想は、必ず一本値で出さなければならないのでしょうか。

東証は新規上場会社に対し、上場日に「決算情報等のお知らせ」として直近の決算情報とともに業績予想を積極的に開示するよう要請しており、審査では予想数値の策定背景・前提・根拠等が適切に記載されているかが確認されます。開示形式としては売上高、営業利益、経常利益、親会社株主に帰属する当期純利益の予想値を一本値で示す形式が一般的とされますが、業種・業態や経営環境等によっては前提を丁寧に記載したうえでレンジで開示することも、特定の数値による策定が困難であればその理由を具体的に示して未定と開示し、開示可能となった段階で更新することも考えられるとされています。

Q. 業績予想を下方修正すると審査で不利になるのでしょうか。

ガイドブックは、業績予想の開示要請は投資判断に重要となる情報を投資者に提供することを求めるものであり、上場後の業績予想の修正自体を問題視するものではないと述べています。むしろ、下方修正を避けるために必要以上に保守的な業績予想を策定することや、上場時期を決算期末まで引き延ばすことは、要請の趣旨に合致しないとされています。

Q. 過去に有価証券報告書等の訂正をしたことがあると、上場できないのでしょうか。

訂正の事実だけで直ちに不適格となるものではありません。訂正内容、訂正時期、訂正発覚の経緯、訂正頻度に加え、訂正に至った要因と、その要因への対処状況を踏まえて基準への適合状況が判断されます。ただし、申請事業年度も含め複数回継続的に訂正が発生しており、開示体制に改善が見られない場合には、上場審査上の判断は慎重なものとなるとされています。

Q. 事業の大半を特定の海外子会社が担っている場合、追加の開示が必要ですか。

特定の1つの国や地域の海外子会社が企業グループの総資産・純資産・売上・利益の額の大半を占める場合や、当該海外子会社が中間持株会社としてグループの大半を傘下に置く場合には、Ⅰの部において、子会社管理に必要な現地の会社制度に関する特記すべき制約や外資規制の有無、およびグループにおける当該規制の適用の有無を記載することが求められます。特に当該規制が重要なリスクと考えられる場合には、事業等のリスクにおける記載が必要とされています。加えて、海外子会社から申請会社に配当を送金する際に考慮すべき外為管理制度や課税制度があれば、対応方針を含めて記載することが考えられるとされています。

Q. 経理業務の一部をアウトソーシングしていても問題ないでしょうか。

ガイドブックは、アウトソーシングすること自体を審査上直ちに問題視するものではないとしています。ただし、正確性や秘密保持を担保するとともに、委託先から入手した資料を自社で分析できる体制が整っており、情報取扱責任者が責任をもって開示できる体制になっていることなどが必要とされます。重要事実に該当する情報を委託先が外部公表前に知り得る場合には、機密保持契約の締結など情報漏洩を防止する適切な手段を講じる必要があります。また、業務の重要性に応じてその内容をⅠの部の「事業等のリスク」等に記載することも必要とされています。

上場審査を見据えた開示体制の整備をご支援します

Ⅰの部のレビュー、適時開示体制の設計、月次決算の早期化、情報管理規程の整備まで、審査で問われる論点を踏まえて伴走します。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援と内部統制の整備支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

まとめ

「企業内容等の開示の適正性」(グロース市場では「企業内容、リスク情報等の開示の適切性」)は、①会社情報を適正に管理して適時・適切に開示できる状況にあるか、②開示書類が法令等に準じて作成され適切に記載されているか、③取引行為や出資調整によって実態の開示を歪めていないか、という3つの視点で構成されます。根拠条文はプライムが有価証券上場規程第213条第1項第4号、スタンダードが第207条第1項第4号、グロースが第219条第1項第1号です。

いずれの視点も、上場直前に書類を整えれば足りるものではなく、月次決算の早期化、情報管理規程の運用、Ⅰの部の記載と実態の一致といった日々の積み重ねが問われます。準備の早い段階から、上場後に自社が発信する情報の姿を具体的に想像しておくことが、結果として審査対応の負荷を下げることにつながります。

参考:日本取引所グループ「新規上場ガイドブック」(プライム市場編・スタンダード市場編・グロース市場編、2026年7月21日版)、日本取引所グループ規則集(有価証券上場規程・上場審査等に関するガイドライン)金融庁「金融商品取引法第27条の36の規定に関する留意事項について(フェア・ディスクロージャー・ルールガイドライン)」e-Gov法令検索「金融商品取引法」

本記事は2026年9月時点の公開情報に基づく一般的な解説であり、個別の事案への適用を保証するものではありません。実際の上場準備にあたっては、主幹事証券会社・監査法人等にご相談ください。

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