上場審査の実質基準のひとつ「企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性」は、(1)役員の職務の執行を確保するための体制と、(2)内部管理体制の2つに分かれます。前回は(1)の機関設計・役員構成を扱いましたので、本記事では(2)の内部管理体制、なかでも内部監査と三様監査の連携、そして内部統制システムに焦点を絞って整理します。
内部監査は、機関設計のように会社法で人数や設置が定められているものではありません。だからこそ「どこに置けば独立性が担保されるのか」「担当者が1人しかいない場合はどうするのか」「監査役監査・会計監査人監査とどう連携させるのか」といった、答えが一義的に決まらない論点が残りやすい領域です。東証の新規上場ガイドブックが示す審査のポイントと、会社法・金融商品取引法の枠組みを突き合わせながら確認していきます。
図 審査で見られる内部監査の体制
この記事の見出し
1.内部監査は審査基準のどこに置かれているか
実質審査基準の条番号は市場ごとに異なり、「企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性」は、プライム市場では有価証券上場規程第213条第1項第3号、スタンダード市場では同第207条第1項第3号、グロース市場では同第219条第1項第3号に置かれています。その下位基準の内容は、上場審査等に関するガイドラインに具体化されており、内部管理体制に関する部分はプライム市場がⅢ4.(2)、スタンダード市場がⅡ4.(2)、グロース市場がⅣ4.(2)に対応します。
この(2)は、さらにaとbの2項目に分かれます。aが「経営活動の効率性及び内部牽制機能を確保するに当たって必要な経営管理組織(社内諸規則を含む)」、bが「内部監査体制」です。つまり内部監査は、社内規程や職務分掌と並ぶ独立した審査項目として、条文レベルで名指しされているということになります。
図1 内部管理体制の基準は「経営管理組織」と「内部監査体制」の2つに分かれ、内部監査はガイドライン上の独立項目として審査される。
審査の具体的な内容として、ガイドブックは「経営管理組織・社内諸規則の整備、経理事務、予算統制、内部監査等の内部統制の運用状況」を重要な審査項目として挙げています。内部監査だけが単独で問われるのではなく、規程が整い、日常の経理事務と予算統制が回り、その遵守状況を内部監査がチェックする、という一連の流れとして見られると理解しておくとよいでしょう。
市場ごとの求められる水準の違い
条文の構造は3市場で共通ですが、求められる水準を表す文言には差があります。プライム市場・スタンダード市場が「適切に整備、運用されている状況にあること」とするのに対し、グロース市場は「相応に整備され、適切に運用されている状況にあること」とされています。グロース市場の審査では、経営管理の方策や社内諸規則の内容が「申請会社の規模や事業内容、成長ステージ等に照らして相応なものであるか」という観点から確認されると説明されており、内部監査機能についても「申請会社の規模等に照らして相応なものであるか」が確認されることになります。
| 比較項目 | プライム/スタンダード | グロース |
|---|---|---|
| 根拠条文 | 規程213条1項3号/207条1項3号 | 規程219条1項3号 |
| ガイドライン | Ⅲ4.(2)/Ⅱ4.(2) | Ⅳ4.(2) |
| 内部管理体制の水準 | 適切に整備、運用されている状況 | 相応に整備され、適切に運用されている状況 |
| 判断の物差し | 企業グループの事業内容又は業容等に照らして適切か | 規模や事業内容、成長ステージ等に照らして相応か |
| 内部監査に求められる公正・独立性 | 3市場共通。公正かつ独立の立場から実施可能な体制が構築できているかが留意点とされる | |
ここで注意したいのは、グロース市場の「相応に」は、内部監査を省略してよいという趣旨ではないという点です。文言が緩やかなのは体制の規模感についてであり、内部監査が公正かつ独立の立場から実施できる体制になっているかという留意点そのものは、3市場に共通して置かれています。
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2.内部監査の独立性をどう確保するか
ガイドブックが内部監査について繰り返し強調しているのは、独立性です。「内部監査が公正かつ独立の立場から実施可能な体制が構築できているか」が留意すべきポイントとされ、体制の作り方に応じて確認される内容が変わります。
専門の組織を置く場合
内部監査の専門組織を有する場合には、その組織が特定の事業部門に属していないかが確認されます。名称が内部監査室であっても、実質的に営業本部や管理本部の傘下に置かれていれば、その部門を監査する際に独立性が問われることになります。
専門組織を持たず、担当者を定める場合
専門の組織を持たず、内部監査を担当する人員を定める場合には、当該担当者が属する部門に対する内部監査が自己監査とならないよう手当てされているかが確認されます。たとえば経理部門の担当者が内部監査を兼務している場合、経理部門そのものを自分で監査すると自己監査になってしまいますので、その部分は他部門の担当者が監査するといった手当てが必要になります。グロース市場のガイドブックのQ&Aでも、内部監査部門を設けていない場合の代替的手段として、内部監査人として適切と考えられる方を任命したうえで、その方の所属部門については他の部門から内部監査人を任命して監査を行わせる方法が示されています。
アウトソーシングする場合
内部監査業務をアウトソーシングする場合、公正性・独立性は通常は担保されると考えられるとされています。ただし、それで終わりではありません。ガイドブックは、アウトソーサー任せにせず、社長等が内部監査の重要性を認識したうえで主体的に関与しているかどうかを確認する、としています。主要な業務として想定されているのは計画・監査内容の策定や改善方法の決定等であり、ノウハウやリソースの関係からこれらを含めて包括的に外部委託する場合であっても、会社の現状・業務内容・問題意識を適切に伝えるといった主体的な関与が必要とされています。
図2 体制の作り方は会社の実態に合わせて選べるが、選んだ体制ごとに確認されるポイントが変わる。
グロース市場のガイドブックの事前チェックリストでは、内部監査について次の3点が挙げられています。会社の規模や業種・業態及び成長ステージ等に応じて有効な内部監査(計画・実行・報告)を行っているか、被監査部門が内部監査による指摘事項に対して適切な対応をとっているか、内部監査部門を設けていない場合に代替的な手段をとっているか、という項目です。計画・実行・報告というサイクルと、指摘事項へのフォローアップまでが視野に入っている点は押さえておきたいところです。
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3.三様監査の連携とは何を指すか
三様監査とは、監査役監査、内部監査、公認会計士又は監査法人による監査の3つを指します。それぞれ根拠も目的も異なりますが、対象となる会社と業務は同じですので、相互に情報を共有することで監査全体の実効性が高まると考えられています。
この連携は、上場申請時に提出する「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅱの部)」の記載事項にも組み込まれています。監査役監査に関する記載項目のひとつとして、三様監査(監査役監査、内部監査、公認会計士又は監査法人による監査)の連携状況を記載することが求められており、記載すべき内容として、定期会合の開催頻度、日常の意見交換状況、監査項目・監査結果の共有状況等が挙げられています。つまり「連携しています」という抽象的な記述ではなく、頻度と内容を具体的に説明できる状態にしておく必要があるということです。
図3 三様監査の連携は、監査役を軸に内部監査・会計監査人と情報を往復させる形で説明されることが多い。
連携の具体像については、グロース市場のガイドブックのQ&Aが参考になります。事前チェックリストの「担当監査法人や内部監査と連携して、適切に監査を実施していますか」という項目について、どのような状況であればよいかという問いに対し、監査役が監査法人と適時打ち合わせを行って監査法人からの会社に対する指摘事項を把握すること、内部監査担当部門から適時その内部監査結果や改善指摘事項及び改善状況の確認の報告を受けることなどが例示されています。そして、これらの打ち合わせや報告を通じて問題があると思われる場合には、監査役としても改善状況を含めて確認する必要があるとされています。
ここから読み取れるのは、連携が単なる情報共有では足りず、共有した情報をもとに監査役が能動的に確認する行動までを含んでいるという点です。定期会合の議事録に「報告を受けた」とだけ残っている状態と、指摘事項について監査役が改善状況を追跡した記録が残っている状態とでは、説明の厚みが変わってきます。
コーポレートガバナンス・コードとの関係
三様監査の連携は、コーポレートガバナンス・コードにも関連する記載があります。内部監査部門が取締役会および監査役会に対しても適切に直接報告を行う仕組みを構築すること等により、内部監査部門と取締役・監査役との連携を確保すべきという内容で、いわゆるデュアルレポーティングラインの考え方です。直接報告を行う仕組みの構築以外の方法によって連携を確保することも可能とされています。
ここで注意が必要なのは、2026年7月21日の改訂でコードの構造が変わったことです。従前は補充原則4−13③という番号で語られてきましたが、改訂により補充原則という区分そのものが廃止され、この内容は原則4-14の解釈指針に置かれています。社内の資料や規程で補充原則の番号を引用している場合は、参照先の点検が必要です。
もう一点、解釈指針はコンプライ・オア・エクスプレインの対象ではありません。実施しない場合に理由を説明する義務は、基本原則と原則にかかります。ただし対象から外れたからといって重要性が失われるわけではなく、コードの本文でも、改訂により解釈指針に移った記載の重要性が失われるものではない旨が述べられています。
実施または説明の対象になる範囲も市場によって異なります。プライム市場とスタンダード市場の上場会社は基本原則と原則が対象、グロース市場の上場会社は基本原則のみが対象です。もっとも、内部監査の結果が経営陣にしか届かない構造は、審査で問われる公正・独立性の観点からは説明しにくいものですので、市場を問わず報告ラインの設計は検討しておくのが無難でしょう。
4.内部統制システムと内部統制報告制度の位置づけ
内部監査の話をすると、しばしば「内部統制」という言葉が同時に出てきますが、日本の制度では会社法の内部統制システムと、金融商品取引法の内部統制報告制度(いわゆるJ−SOX)という異なる2つの枠組みが並んでいます。混同すると準備すべき事項を取り違えますので、整理しておきます。
会社法の内部統制システム
会社法第362条第4項第6号は、取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備について、取締役会の決議事項とし、取締役に委任することができない旨を定めています。そして同条第5項により、大会社である取締役会設置会社は、この体制の整備について決定しなければならないとされています。ここでいう大会社は、資本金の額が5億円以上又は負債の合計額が200億円以上の会社を指します(会社法第2条第6号)。
機関設計によって根拠条文が変わる点にも注意が必要です。監査等委員会設置会社では会社法第399条の13第1項第1号ハ、指名委員会等設置会社では同第416条第1項第1号ホが、それぞれ対応する規定になります。決議した内容の概要は事業報告に記載することになりますので、上場準備の過程で機関設計を変更した場合には、あわせて決議のやり直しが必要かどうかを確認しておきましょう。
金融商品取引法の内部統制報告制度
一方、金融商品取引法の内部統制報告制度は、財務報告に係る内部統制の有効性を経営者自らが評価し、内部統制報告書として提出する仕組みです。上場会社になれば、有価証券報告書とあわせて内部統制報告書を提出することになります。
新規上場企業については、内部統制報告書に対する公認会計士又は監査法人の監査が、上場後3年間免除される特例が設けられています(金融商品取引法第193条の2第2項第4号)。ただし、免除されるのは監査であって、内部統制報告書の提出そのものは免除されません。また、企業規模が大きく市場や社会・経済的影響力が大きいと考えられる企業として、資本金100億円以上又は負債総額1,000億円以上の会社は、この免除の対象外とされています。
| 比較項目 | 会社法の内部統制システム | 金商法の内部統制報告制度 |
|---|---|---|
| 根拠 | 会社法362条4項6号・5項(監査等委員会設置会社は399条の13第1項1号ハ、指名委員会等設置会社は416条1項1号ホ) | 金融商品取引法24条の4の4 |
| 対象範囲 | 業務の適正を確保するための体制全般 | 財務報告に係る内部統制 |
| 求められる行為 | 取締役会での決議(体制整備の決定)と事業報告での概要開示 | 経営者による有効性の評価と内部統制報告書の提出 |
| 義務づけの契機 | 大会社である取締役会設置会社に該当したとき | 上場したとき |
| 新規上場時の特例 | 特段の経過措置はない | 上場後3年間は内部統制監査が免除(資本金100億円以上又は負債総額1,000億円以上の会社を除く) |
上場審査で問われる内部管理体制は、この2つのいずれか一方ではなく、日常の業務が規程どおりに回っているかという、より広い意味での内部統制の運用状況です。ガイドブックが審査項目として「経営管理組織・社内諸規則の整備、経理事務、予算統制、内部監査等の内部統制の運用状況」と並べているのは、まさにその趣旨といえます。誤謬の訂正と「開示すべき重要な不備」の判断については、誤謬の訂正と内部統制報告制度|「開示すべき重要な不備」の判断でも整理していますので、あわせてご覧ください。
5.上場準備で何から着手するか
内部監査は、規程を作ったその日から実績が積み上がるものではありません。審査では実施状況が確認され、Ⅱの部でも基準事業年度における内部監査の実施状況と、申請事業年度における内部監査の計画及び実施状況を記載することが求められます。つまり、直前々期・直前期にわたる複数期分の運用記録が説明の材料になるということです。
図4 内部監査は規程の整備よりも、計画・実行・報告のサイクルを何度回したかが問われる領域になる。
着手の順序としては、次のような整理が実務的です。
- 内部監査規程を整備し、目的・対象範囲・報告先を明文化する
- 専門組織・兼務担当・外部委託のどれを選ぶかを、会社の規模と成長ステージに照らして決める
- 兼務とする場合は、担当者の所属部門に対する監査が自己監査にならない手当てを設計する
- 年度の監査計画を立て、計画・実行・報告のサイクルを実際に一巡させる
- 被監査部門からの改善状況の報告を受け、フォローアップまで記録に残す
- 監査役・会計監査人との定期会合を設定し、監査項目と監査結果を共有する
- Ⅱの部の記載項目を先に確認し、説明できない項目がないか逆算して点検する
なお、内部監査の担当者を1人置いただけで安心してしまうケースが見受けられますが、その担当者が他部門と兼務している場合、自己監査の問題は残ったままです。体制図の上で独立して見えるかどうかではなく、実際に誰が誰を監査しているかを一覧にして確認しておくことをおすすめします。上場準備全体の流れはIPO準備 完全ガイド|上場までの流れと審査要件を全11回で解説とIPO準備の全体像と上場までのスケジュールに、上場後に継続して求められる対応は上場後のフォローアップと継続義務にまとめています。
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6.よくある質問
会社法上、内部監査部門の設置を一律に義務づける規定はありません。東証のガイドブックも、独立した部門によることが必ずしも効率的でない場合があることを踏まえ、会社の実態にあわせて内部監査機能をどのように構築するかを検討する必要があるとしています。ただし、設けない場合には代替的な手段をとっているかが確認されますので、内部監査を行わないという選択肢が示されているわけではありません。
アウトソーシングによって公正性・独立性は通常は担保されると考えられるとされていますが、社長等が内部監査の重要性を認識したうえで主体的に関与しているかが確認されます。包括的に外部委託する場合でも、会社の現状・業務内容・問題意識を委託先に適切に伝えるなどの関与が必要とされていますので、丸投げの状態は説明が難しくなります。
頻度についての一律の基準は示されていません。Ⅱの部では定期会合の開催頻度や日常の意見交換状況、監査項目・監査結果の共有状況等を記載することが求められますので、自社の監査サイクルに照らして説明できる頻度を設定し、それを継続して実施した記録を残しておくという考え方になります。
新規上場企業については、内部統制報告書に対する監査が上場後3年間免除される特例があります。ただし免除されるのは監査であり、内部統制報告書の提出自体は必要です。また、資本金100億円以上又は負債総額1,000億円以上の会社はこの免除の対象外とされています。
会社法上、決議が義務づけられるのは大会社である取締役会設置会社です。もっとも、上場審査では内部管理体制の整備・運用状況が確認されますので、大会社に該当するかどうかにかかわらず、体制の基本方針を取締役会で決議しておく会社は少なくありません。機関設計を変更した場合には根拠条文が変わりますので、決議の見直しが必要かどうかをあわせて確認しておくとよいでしょう。
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公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援と内部統制の整備支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
※本記事は2026年9月時点の法令・上場規程等に基づいて執筆しています。実際の取扱いは会社の状況により異なりますので、個別の判断にあたっては専門家にご相談ください。
※参考:有価証券上場規程第213条第1項第3号・第207条第1項第3号・第219条第1項第3号、上場審査等に関するガイドラインⅡ4.(2)・Ⅲ4.(2)・Ⅳ4.(2)、会社法第2条第6号・第362条第4項第6号・第5項・第399条の13第1項第1号ハ・第416条第1項第1号ホ、金融商品取引法第24条の4の4・第193条の2第2項第4号。
※関連リンク:日本取引所グループ「コーポレート・ガバナンス」/e-Gov法令検索「会社法」/e-Gov法令検索「金融商品取引法」/日本取引所グループ「新規上場基本情報」
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