新リース会計基準の条件変更とは?独立処理と範囲縮小の3分類を解説

IPO準備会社や上場会社の経理・管理部門で新リース会計基準の導入対応を担当されている方に向けた記事です。増床、一部返還、賃料改定、更新オプションの行使──契約を結んだ後に条件が動くのは日常茶飯事ですが、新基準ではその都度の処理が論点になります。

本稿では、公認会計士・税理士が、契約条件の変更と、契約条件の変更を伴わないリース負債の見直しについて、判定の分岐と会計処理を条項に沿って整理します。

条件変更をどう処理するか契約の変更の内容を確かめる範囲が拡大し独立した価格に見合う対価か独立したリースとして処理するはいいいえ使用権の範囲が縮小するか資産と負債を減額し差額を損益はいいいえそれ以外の変更か負債を再測定し使用権資産を調はいいいえ変更が生じた日をもって処理する

図 条件変更の3つの処理の分かれ方

結論:分岐は「3つ+1つ」で整理できる

借手は、リースの契約条件の変更が生じた場合、(1)変更前のリースとは独立したリースとしての会計処理、または(2)リース負債の計上額の見直しのいずれかを行います(基準39項)。契約条件の変更に複数の要素がある場合には、これらの両方を行うことがあります(基準39項)。

(2)の見直しは、さらに「リースの範囲が縮小されるもの」と「それ以外のすべて」に分かれ、前者だけが損益を生じさせます(指針45項(2))。加えて、契約条件の変更が生じていない場合でも、一定の事由に該当すればリース負債の計上額の見直しを行います(基準40項)。この「3つ+1つ」が全体像です。

図1 リースの条件が動いたときの4分岐 契約条件の変更が生じたか いいえ はい ④変更を伴わない リース負債の見直し 範囲の拡大+独立価格相当の増額 という2要件をいずれも満たすか はい いいえ ①独立した リースとして処理 リースの範囲が縮小されるか ②縮小される →差額を損益に計上 ③それ以外 →使用権資産に加減

図1 契約条件の変更の有無、独立処理の2要件、範囲の縮小の有無という3段階で処理が決まります。

①独立したリースとするのはどんなときか

契約条件の変更が次の(1)および(2)のいずれも満たす場合、借手は当該変更を独立したリースとして取り扱います(指針44項)。この場合、当該独立したリースのリース開始日に、変更の内容に基づくリース負債を計上し、リース開始日までに支払った借手のリース料や付随費用等を加減した額により使用権資産を計上します(指針44項)。

(1) 1つ以上の原資産を追加することにより、原資産を使用する権利が追加され、リースの範囲が拡大されること(指針44項(1))

(2) 借手のリース料が、範囲が拡大した部分に対する独立価格に特定の契約の状況に基づく適切な調整を加えた金額分だけ増額されること(指針44項(2))

実務で誤りやすいのは「契約期間だけを延ばした」ケースです。契約期間のみが延長される変更は原資産の追加に該当しないため、(1)の要件を満たしません(指針BC73項)。期間延長は独立処理ではなく、後述の③に振り分けられることになります。

また、(2)の「特定の契約の状況に基づく適切な調整」とは、例えば、類似の資産を顧客にリースする際に生じる販売費を貸手が負担する必要がない場合に借手に値引きを行うとき、独立価格を値引額について調整することが考えられるとされています(指針BC73項)。増床時の単価が既存区画より安いというだけで要件を外れるわけではなく、値引きの理由を説明できるかが実質的な論点になります。

②③独立処理をしない場合──縮小かそれ以外か

独立処理が行われない変更については、変更の発効日に、まずリース負債について、変更後の条件を反映した借手のリース期間を決定し、変更後の条件を反映した借手のリース料の現在価値まで修正します(指針45項(1))。そのうえで、使用権資産について次の対応を行います。

②リースの範囲が縮小されるもの

リースの一部または全部の解約を反映するように使用権資産の帳簿価額を減額し、使用権資産の減少額とリース負債の修正額とに差額が生じた場合は、当該差額を損益に計上します(指針45項(2)①)。範囲の縮小は変更前のリースの一部または全部を解約するものと考えられるためであり、該当例として、不動産の賃貸借契約において対象面積が縮小される場合や契約期間が短縮される場合等が挙げられています(指針BC74項)。

③それ以外のすべての変更

リース負債の修正額に相当する金額を使用権資産に加減します(指針45項(2)②)。範囲の縮小以外では、変更前のリースは解約されておらず、借手は引き続き変更前のリースで特定されていた原資産を使用する権利を有すると考えられるためであり、該当例として、リース料の単価のみが変更される場合や契約期間が延長される場合等が挙げられています(指針BC75項)。

ここが実務上の分水嶺です。同じ「賃料改定」でも、面積の返還を伴えば②で損益が出て、単価だけの改定なら③で損益は出ません。②は損益が動く分、監査上の関心も高くなります。

区分 要件・該当例 会計処理
①独立したリース 範囲の拡大+独立価格相当の増額の両方を満たす(指針44項) 新たなリースとして負債と使用権資産を別建てで計上。既存リースは修正しない(指針44項)
②範囲の縮小 面積の縮小、契約期間の短縮等(指針BC74項) 負債を現在価値まで修正し、使用権資産を解約反映で減額。差額は損益(指針45項(1)(2)①)
③それ以外 単価のみの変更、契約期間の延長等(指針BC75項) 負債を現在価値まで修正し、修正額を使用権資産に加減。損益は生じない(指針45項(1)(2)②)

読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか

いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。

初回のご相談は無料です。お問い合わせはこちら

④契約条件の変更を伴わないリース負債の見直し

契約書に手を入れていなくても、リース負債の計上額の見直しが必要になる場面があります。借手は、契約条件の変更が生じていない場合で、(1)借手のリース期間に変更がある場合、(2)借手のリース期間に変更がなく借手のリース料に変更がある場合のいずれかに該当するときには、リース負債の計上額の見直しを行います(基準40項)。具体的には、該当する事象が生じた日にリース負債を当該事象の内容を反映した借手のリース料の現在価値まで修正し、当該修正額に相当する金額を使用権資産に加減します(指針46項)。

ただし、リース期間の見直しは常時求められるわけではありません。借手の統制下にあり、かつ、延長オプションを行使することまたは解約オプションを行使しないことが合理的に確実であるかどうかの借手の決定に影響を与える、という2つをいずれも満たす重要な事象または重要な状況が生じたときに見直します(基準41項(1)(2))。借手の統制下という要件が置かれたのは、市場動向による変化に対応して見直すことを要しないようにするためです(基準BC51項)。

図2 契約条件を変えていなくても見直しが必要になる場面 A リース期間に変更がある場合(基準40項(1)) 重要な事象・状況の例(基準BC51項) ・予想されていなかった大幅な賃借設備の改良 ・予想されていなかった原資産の大幅な改変 ・期間終了後の期間に係るサブリースの契約締結 ・オプションに直接関連する事業上の決定 解約不能期間の変更も対象(基準42項) B リース料のみに変更がある場合(基準40項(2)) 該当する状況の例(指針47項) ・購入オプションの行使についての判定の変更 ・残価保証に基づく支払見込額の変動 ・指数またはレートに応じて決まる  変動リース料の変動 実際に変動が生じたときにのみ修正(指針48項) → 事象が生じた日にリース負債を現在価値まで修正し、その修正額を使用権資産に加減 (使用権資産をゼロまで減額してもなお減額がある場合は残額を損益に計上)(指針46項)

図2 契約書の改訂がなくても、期間やリース料が動けばリース負債は動きます。

数値例で見る:同じ「賃料が変わった」でも着地が違う

物流拠点の倉庫賃貸借。リース期間5年、年額リース料12,000千円、期末年1回払、割引率は年2.5%とします。開始日のリース負債は55,750千円、使用権資産も同額、年間の償却費は11,150千円です。2年経過時点の残高は、リース負債34,272千円、使用権資産33,450千円。この時点で契約が動いたとして、次の3ケースを比べます(いずれも割引率は当初の2.5%を継続使用したと仮定)。

ケース 内容 会計処理と金額
①独立 隣接する別棟を追加で借り、独立価格相当の年3,000千円を増額(残り3年) 既存リースは修正せず、新たに負債・使用権資産8,568千円を計上。追加分の償却は年2,856千円
②縮小 面積の30%を返還し、年額を8,400千円に減額(残り3年) 負債34,272→23,991千円(減10,282千円)、使用権資産33,450→23,415千円(減10,035千円)。差額247千円を損益に計上。以後の償却は年7,805千円
③それ以外 面積は変えず、単価改定で年額を13,200千円に増額(残り3年) 負債34,272→37,700千円(増3,427千円)、同額を使用権資産に加算し36,877千円。損益は生じない。以後の償却は年12,292千円

②と③はいずれも「年額が変わっただけ」に見えますが、②では247千円の損益が出て、③では出ません。契約書のどこを読めば②か③かが決まるのか、その根拠を残せているかが実務上の最初のハードルです。

実務上の留意点──自社だけで回すと重くなるところ

1 割引率が基準で定められていない

IFRS第16号は状況ごとに使用する割引率(変更前の割引率または変更後の割引率)を定めていますが、本適用指針では、簡素で利便性が高い会計基準を開発するという方針等を考慮し、これを定めないこととされています(指針BC76項)。契約条件の変更を伴わない見直しについても、同様の理由から定めないこととされています(指針BC79項)。定めがない以上、自社で方針を決めて継続適用し、その合理性を説明できるようにしておく必要があります。監査対応では、当初の割引率と改定時点の追加借入利子率のどちらを採ったかよりも、社内規程として明文化され一貫して運用されているかを問われる場面が多くあります。

2 変更を「拾う」仕組みが要る

賃料改定の覚書、区画の一部返還、更新の意思表示──これらは経理ではなく総務や店舗開発の手元に留まりがちです。会計処理は変更の発効日に行うこととされていますが(指針45項)、その日に情報が経理へ届いていなければ処理のしようがありません。契約管理台帳と決裁フローに回付ルールを組み込む作業は、基準の解釈以上に手間がかかります。

条件変更対応チェックリスト

  • 契約条件の変更に該当するか、変更を伴わない見直しかを最初に切り分けている
  • 変更に複数の要素がある場合、独立処理と見直しの両方を行う可能性を検討している(基準39項)
  • 独立処理の2要件(範囲の拡大・独立価格相当の増額)を契約書で確認している
  • 期間のみの延長を独立処理としていない
  • 範囲の縮小に該当するかどうかを判定し、差額の損益計上を検討している
  • 変更の発効日を特定し、その日で負債を再測定している
  • 変更時に用いる割引率の方針を社内で定め、継続適用している
  • リース期間の見直しについて、借手の統制下という要件を確認している
  • 契約変更情報が経理に回付される社内フローを整備している

よくある質問

Q. 増床と期間短縮を同時に行った場合はどう処理しますか。

契約条件の変更に複数の要素がある場合、独立処理と負債の見直しの両方を行うことがあるとされています(基準39項)。不動産の賃貸借契約において独立価格であるリース料により対象面積を追加すると同時に、既存のリースの対象面積について契約期間を短縮する場合が例として挙げられており、前者は独立処理、後者は負債の見直しを行うこととされています(基準BC49項)。

Q. 賃料が消費者物価指数に連動して上がりました。いつ処理しますか。

指数またはレートに応じて決まる変動リース料については、当該指数またはレートが変動し、そのことにより今後支払うリース料に変動が生じたときにのみ、残りのリース期間にわたり変動後の指数またはレートに基づきリース料およびリース負債を修正し、修正額を使用権資産に加減します(指針48項)。将来の変動を見積って算定している場合には、決算日ごとに見積り直して修正します(指針49項)。

Q. 市況が悪化したので延長オプションを行使しないことにしました。見直しますか。

見直しは、借手の統制下にあり、かつオプションに関する借手の決定に影響を与える重要な事象または重要な状況が生じたときに行います(基準41項(1)(2))。市況の変化そのものではなく、それを受けた自社の意思決定が要件に当たるかで整理することになると考えられます。

Q. 購入オプションを行使する判断に変えた場合も見直しますか。

購入オプションの行使についての判定の変更は、リース期間に変更がなくリース料に変更がある状況の例に挙げられています(指針47項(1))。この見直しも、基準41項(1)(2)の重要な事象および重要な状況が生じたときに行うことになると考えられるとされています(指針BC78項)。

まとめ

条件変更の処理は、①独立したリース、②範囲の縮小、③それ以外、④変更を伴わない見直し、という4つの箱への振り分けに帰着します。判定は条項を追えば整理できますが、実務の負荷はむしろ、変更事実を漏れなく拾い、発効日を特定し、割引率の方針を一貫して運用する体制づくりにあります。適用初年度で終わらず毎期続く運用だという点が、この論点の重さです。

連載の全体像は新リース会計基準 完全ガイドで確認できます。前回は事後測定──減価償却と利息費用、その前は使用権資産の当初測定を扱いました。次回は「短期リース・少額リースの簡便的取扱い」を取り上げます。

条件変更の判定と運用体制の整備をご支援します

契約の棚卸し、判定方針の文書化、再測定の計算と管理台帳の設計まで、導入対応でお困りの場合はご相談ください。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。

導入支援サービスを見るお問い合わせ料金の目安を見る

公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援と内部統制の整備支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

本稿は企業会計基準第34号および企業会計基準適用指針第33号に基づく一般的な解説です。個別の契約に係る最終的な会計処理の判断は、監査人および専門家にご相談ください。

参考:企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」39項、40項、41項、42項、BC49項、BC51項/企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」44項、45項、46項、47項、48項、49項、BC73項、BC74項、BC75項、BC76項、BC78項、BC79項

IPO支援に強い、公認会計士 IPO支援に強い、公認会計士

ベンチャー・スタートアップ企業の
経営管理支援・IPO支援

お問い合わせ

書くより話すほうが早いときは、お電話でも承ります TEL 03-6820-0406