IFRS9金融商品|分類・測定と予想信用損失モデルを整理

「うちは金融機関ではないので、IFRS第9号はあまり関係ないだろう」——IFRS導入の初期検討で、経理責任者の方からよく聞く言葉です。

ところが実際に差異分析を始めると、売掛金の貸倒引当金、持合株式の評価差額、私募債や貸付金の利息計算といった、一般事業会社でも必ず持っている項目に論点が集中します。特に予想信用損失(ECL)は、日本基準の貸倒実績率法と違って、将来の経済状況の予測を織り込み、当初認識時からの信用リスクの変化で引当額を切り替えるという発想のため、初めて触れる方ほど戸惑いやすい領域です。

この記事では、IFRS第9号「金融商品」の分類・測定のルールと予想信用損失モデルを、日本基準の企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」と対比しながら、図解と数値例で整理します。移行プロジェクトで誰が・いつまでに・何を作るかまで、実務の順序で解説します。

この記事でわかること

  • 金融資産の分類が「事業モデル」と「SPPIテスト」の2軸だけで決まる仕組み
  • 株式をFVOCIに指定した場合に売却損益が永久に純損益へ出てこない理由
  • 予想信用損失(ECL)の3ステージと、12か月ECL・全期間ECLの使い分け
  • 営業債権に使える「単純化したアプローチ」と引当率表の作り方
  • 日本基準の貸倒引当金(一般債権・貸倒懸念債権・破産更生債権等)との具体的な差
  • 日本基準側でも進むECL導入(ASBJ公開草案第89号)の現在地と適用時期の見通し
  • 移行プロジェクトでの作業ステップと、担当・時期の目安

⚖️ IFRS第9号「金融商品」とは?日本基準との違いの全体像

IFRS第9号「金融商品」は、金融資産・金融負債の分類と測定、減損、ヘッジ会計を定める基準です。IASB(国際会計基準審議会)が2014年7月に完成版を公表し、2018年1月1日以後開始する事業年度から適用されています(早期適用可)。従来のIAS第39号「金融商品:認識及び測定」を置き換えるものですが、ヘッジ会計についてはIAS第39号の要求事項を継続適用する会計方針の選択が認められているため、IAS第39号も引き続き有効です。

日本基準側の対応する基準は、企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(以下「金融商品会計基準」)です。両者は「時価評価を基本としつつ保有目的に応じた処理を定める」という点では似ていますが、分類の決め方減損の考え方が根本的に異なります。

論点 日本基準(金融商品会計基準) IFRS第9号
分類の判断軸 保有目的等(売買目的/満期保有目的/子会社・関連会社/その他) 事業モデル+契約上のキャッシュ・フローの特性(SPPI)
有価証券の分類 4分類(第15項〜第18項) 3分類(償却原価・FVOCI・FVTPL)
株式(持合株式等) その他有価証券として時価評価。評価差額は純資産の部(税効果調整後)、売却時に純損益 原則FVTPL。当初認識時に限りFVOCI指定可(取消不能)。指定した場合は売却時も純損益に振り替えない
減損(債権) 発生した信用リスクに応じた貸倒見積高(発生損失に近い考え方) 予想信用損失(ECL)。当初認識時から将来の損失を見積る
利息の計算 約定利息+償却原価法(金利調整差額がある場合) 実効金利法が原則。手数料・直接コストも実効金利に含める
分類の変更 保有目的の変更時に一定の要件で振替 事業モデルを変更した場合に限り分類変更(金融負債は分類変更しない)

出典:企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(ASBJ会計基準検索システム、最終更新2026年7月17日)、IFRS第9号「金融商品」(IFRS財団)を基に作成。

なお、日本取引所グループの公表によると、IFRSの適用済会社は297社、適用決定会社は22社、合計319社です(2026年7月末現在、JPX 2026年8月3日更新)。金融機関に限らず、事業会社でもIFRS第9号への対応は避けて通れない論点になっています。

📊 金融資産の分類・測定|事業モデルとSPPIの2軸

分類は2つの判定軸だけで決まる

IFRS第9号では、負債性の金融資産(債権や債券など)の分類を、次の2つの軸だけで決めます(第4.1.1項)。保有目的という主観的な区分ではなく、事実に基づいて判定する構造になっている点が日本基準との大きな違いです。

  • 事業モデル:その金融資産をどのように管理しているか(契約上のキャッシュ・フローの回収が目的か、回収と売却の両方か、それ以外か)
  • SPPIテスト:契約条件から生じるキャッシュ・フローが、特定の日に「元本と、元本残高に対する利息の支払のみ(Solely Payments of Principal and Interest)」であるか

この2軸を組み合わせると、分類は次の図のように決まります。

金融資産の分類 ── 事業モデル × SPPIの2軸で決まる事業モデルSPPI要件を満たすSPPI要件を満たさない契約CFの回収のみが目的償却原価実効金利法+ECL引当FVTPL純損益で時価評価契約CFの回収と売却の両方が目的FVOCI(債券)売却時に純損益へ振替FVTPL純損益で時価評価上記以外(売買目的など)FVTPLFVTPL※ SPPI=元本と利息の支払のみ。利息には貨幣の時間価値・信用リスク等の対価が含まれる。※ 株式などの資本性金融商品は原則FVTPL。当初認識時に限りFVOCI指定が可能(取消不能)。

図1:金融資産の分類マトリクス(IFRS第9号 第4.1.1項〜第4.1.4項に基づき作成)

実務で判断に時間がかかるのはSPPIテストです。たとえば、業績連動で利率が変わる貸付金、レバレッジが効いた条項を含む債券、ノンリコース性のある債権などは、キャッシュ・フローが「元本と利息のみ」といえるかを契約書レベルで確認する必要があります。稟議書や契約書の原本を集める作業が想像以上に重いため、移行プロジェクトでは早い段階で着手することをおすすめします。

株式をFVOCIに指定すると売却損益は純損益に出てこない

株式などの資本性金融商品は、SPPIテストの対象外であるため原則としてFVTPL(純損益で時価評価)となります。ただし、売買目的で保有しているものと、企業結合において取得企業が認識する条件付対価を除き、当初認識時に限り公正価値の変動をその他の包括利益(OCI)に表示する取消不能の指定ができます(第5.7.5項)。この場合、配当は純損益に認識されます(第5.7.6項)。

ここが日本基準との決定的な違い
日本基準では、その他有価証券の評価差額は原則として純資産の部に計上され(全部純資産直入法。時価が取得原価を下回る銘柄の評価差額を当期の損失として処理する部分純資産直入法も選択できます)、売却したときに取得原価との差額が売却損益として純損益に計上されます(金融商品会計基準第18項、第79項)。これに対しIFRS第9号でFVOCI指定をした株式は、売却してもOCIに累積した金額を純損益に振り替えません(いわゆるリサイクリングの禁止)。IFRS財団も、この点が長期投資家から懸念されている論点であることを公式に説明しています。

政策保有株式を多く持つ企業では、この差が損益に与える影響が大きくなります。指定するかしないかは事業ごとに判断できますが、いったん指定すると取り消せないため、「株式売却益を業績指標に織り込んでいるか」「持合解消の予定があるか」を経営レベルで確認したうえで方針を決める必要があります。GAAP差異分析の進め方は第9回 GAAP差異分析のやり方で解説しています。

金融負債は原則として償却原価

金融負債は、原則としてすべて償却原価で事後測定します(第4.2.1項)。例外はFVTPLに分類される金融負債、デリバティブ、金融保証契約などです。なお、公正価値オプションを適用して金融負債をFVTPLに指定した場合、自己の信用リスクの変動に起因する公正価値の変動はOCIに表示する必要があります(第5.7.7項)。自社の信用力が悪化したときに利益が出るという直感に反する結果を避けるための取扱いで、日本基準には対応する定めがありません。

🧾 予想信用損失(ECL)モデル|3ステージの考え方

「まだ焦げ付いていない債権」にも引き当てる

IFRS第9号の減損は、償却原価で測定する金融資産、FVOCIに分類される債券、リース債権、契約資産、ローン・コミットメント、金融保証契約を対象とします(第5.5.1項)。日本基準の貸倒引当金が「債務者の状態」を基礎に区分するのに対し、IFRS第9号は当初認識時からの信用リスクの変化を基礎に判定します。

具体的には、期末時点で当初認識時から信用リスクが著しく増大していない場合は12か月の予想信用損失を、著しく増大している場合は全期間の予想信用損失を引き当てます(第5.5.3項、第5.5.5項)。ここから「3ステージ・モデル」という呼び方が生まれています。

予想信用損失(ECL)の3ステージ当初認識時からの信用リスクの変化で、引当額と利息の計算基礎が変わるステージ1ステージ2ステージ3【状況】当初認識時から著しい増大なし【引当】12か月の予想信用損失【利息】帳簿価額の総額に実効金利【状況】信用リスクが著しく増大(未減損)【引当】全期間の予想信用損失【利息】帳簿価額の総額に実効金利【状況】信用減損が発生している【引当】全期間の予想信用損失【利息】償却原価(引当控除後)に実効金利※ 契約上の支払が30日超延滞している場合、信用リスクが著しく増大したと推定される(反証可能)。※ 営業債権・契約資産・リース債権には、ステージ判定をせず常に全期間ECLを計上する  「単純化したアプローチ」がある(第5.5.15項)。

図2:ECLの3ステージ(IFRS第9号 第5.4.1項、第5.5.3項〜第5.5.15項に基づき作成)

信用リスクの著しい増大をどう判定するか

判定は、期末時点のデフォルト発生リスクと当初認識時のデフォルト発生リスクを比較して行います。予想信用損失の金額の変化ではなく、デフォルトが発生するリスクの変化で見る点がポイントです(第5.5.9項)。実務上は次の取扱いが助けになります。

  • 期末時点で信用リスクが低い(low credit risk)と判定される金融商品は、著しい増大がないとみなすことができる(第5.5.10項)
  • 契約上の支払が30日を超えて延滞している場合、著しい増大があったと推定される。反証は可能だが、合理的で裏付け可能な情報が必要(第5.5.11項)
  • 前期にステージ2としていた債権も、期末に要件を満たさなくなれば12か月ECLに戻る(第5.5.7項)

ECLの測定に必要な3要素

予想信用損失は、次の3つを反映する方法で測定します(第5.5.17項)。

  1. 偏りのない確率加重した金額:起こり得る結果の範囲を評価して算定します。「最も可能性が高いシナリオ」だけを使うことは原則として認められません。信用損失が発生する可能性が非常に低くても、発生する可能性と発生しない可能性の両方を反映させます。
  2. 貨幣の時間価値:将来のキャッシュ・フロー不足額を現在価値に割り引きます。
  3. 合理的で裏付け可能な情報:過大なコストや労力をかけずに利用可能な、過去の事象・現在の状況・将来の経済状況の予測を反映します。GDPや失業率といったマクロ指標を織り込むのが典型です。

見積期間は、原則として企業が信用リスクに晒される契約上の最長期間です(第5.5.19項)。契約上の期間を超える期間を使うことは、当座貸越のような一部の商品を除いて認められません。

💰 日本基準の貸倒引当金との違い|数値例で見る影響

債権区分とステージは1対1で対応しない

日本基準では、債務者の財政状態及び経営成績等に応じて債権を一般債権・貸倒懸念債権・破産更生債権等の3つに区分し、区分ごとに貸倒見積高を算定します(金融商品会計基準第27項、第28項)。一見するとIFRS第9号の3ステージと似ていますが、判定の起点が違うため単純には対応しません。

日本基準の債権3区分とIFRS第9号の3ステージ ── 1対1では対応しない日本基準(企業会計基準第10号)IFRS第9号(予想信用損失モデル)一般債権過去の貸倒実績率等で算定貸倒懸念債権財務内容評価法またはCF見積法破産更生債権等担保控除後の残額を全額ステージ112か月の予想信用損失ステージ2全期間の予想信用損失ステージ3全期間ECL+利息は純額基準※ 実線は典型的な対応、破線は状況により移動しうる関係を示す(例示)。※ 一般債権でも信用リスクが著しく増大していればステージ2となり、全期間ECLが必要になる。

図3:日本基準の債権区分とIFRS第9号のステージの関係(金融商品会計基準第27項・第28項、IFRS第9号第5.5項に基づき作成)

営業債権は「単純化したアプローチ」でよい

一般事業会社にとって朗報なのは、営業債権・契約資産・リース債権には単純化したアプローチが用意されている点です(第5.5.15項)。重要な金融要素を含まない売掛金・受取手形については、ステージ判定を行わず、常に全期間の予想信用損失を引き当てます。重要な金融要素を含む債権やリース債権については、会計方針として選択できます。

さらに実務上の便法として、延滞日数に応じた引当率を定める「引当率表(プロビジョン・マトリクス)」の使用が認められています。ASBJも、日本基準へのECL導入にあたってこの便法を取り入れることを提案しています。

数値例:売掛金1,290百万円の引当額はどう変わるか

年齢区分 残高 引当率 ECL
期日未経過 1,000百万円 0.3% 3.0百万円
1か月以内延滞 200百万円 2.0% 4.0百万円
1〜3か月延滞 60百万円 10.0% 6.0百万円
3〜6か月延滞 20百万円 30.0% 6.0百万円
6か月超延滞 10百万円 60.0% 6.0百万円
合計 1,290百万円 25.0百万円

同じ債権を日本基準で一般債権として貸倒実績率0.5%で算定すると、貸倒引当金は約6.5百万円です。IFRS第9号の引当率表では25.0百万円となり、差額18.5百万円だけ引当が増えます。※ 引当率は説明のための仮定値です。

差が生じる主な理由は2つあります。ひとつは、IFRS第9号では将来の経済状況の予測を織り込むこと。もうひとつは、日本基準の貸倒実績率が過去の実績の平均であるのに対し、引当率表は年齢区分ごとにリスクの高い債権を細かく捉えることです。移行日の試算で「思ったより引当が増える」ケースが多いのは、この構造によるものです。

税務上の取扱いには注意が必要

会計上の引当額が増えても、税務上そのまま損金になるわけではありません。法人税法第52条の貸倒引当金は、繰入れができる法人が限定されています。具体的には、資本金1億円以下の中小法人等、公益法人等・協同組合等、人格のない社団等、銀行・保険会社その他これらに準ずる法人、金融に関する取引に係る金銭債権を有する一定の法人です(国税庁タックスアンサーNo.5501、令和7年4月1日現在法令等)。

したがって、IPO準備企業や上場企業の多くでは、ECLの繰入額は申告調整(加算)の対象となり、繰延税金資産の回収可能性の検討が必要になります。IFRS導入時に「税効果の項目が増える」と言われるのは、この種の差異が積み上がるためです。

IFRS第9号の論点整理から数値作成まで、公認会計士が伴走支援します

SPPIテストの実施、事業モデルの文書化、ECL算定モデルの設計、移行日の試算、注記データの整備まで実務レベルでご支援します。IPO準備に伴うIFRS導入もご相談ください。

お問い合わせIFRS導入 完全ガイドを見る

🏢 IFRS導入プロジェクトでのIFRS第9号対応|誰が・いつまでに・何を作るか

IFRS第9号の対応は、論点の数こそ多いものの、作業の順序さえ間違えなければ管理できる領域です。標準的な進め方は次のとおりです。

IFRS第9号への対応 ── 誰が・いつまでに・何を作るか作業ステップと成果物担当と目安時期(移行日基準)① 金融商品の棚卸(債権・有価証券・デリバティブ)経理部/移行日の12か月前まで② 事業モデルの文書化とSPPIテストの実施経理部+財務部/9か月前まで③ ECL算定方法の設計(引当率表・シナリオ)経理部+外部専門家/6か月前まで④ 移行日の試算と日本基準との差異分析経理部/3か月前・監査人と協議⑤ 注記データ(信用リスク・時価)の収集様式整備経理部/移行日まで※ 子会社を含むグループ全体で同じ様式を使うことが、決算期の負荷を下げる最大のポイント。

図4:IFRS第9号対応の作業ステップ(標準的な進め方の例)

特に見落とされやすいのが①の棚卸です。本社の経理部が把握していない子会社の私募債、関係会社間貸付、差入保証金、デリバティブの残高が後から出てくると、分類判定とECL算定をやり直すことになります。連結パッケージへの反映方法は第8回 IFRS導入プロジェクトの進め方で解説している3フェーズの枠組みに沿って設計してください。

また、③のECL算定方法は監査上の重点領域になりやすいところです。引当率の根拠データ、将来予測情報の織り込み方、シナリオの設定根拠を文書化しておかないと、監査対応で手戻りが発生します。初年度は外部の関与を入れて型を作り、2年目以降に内製化する進め方が現実的です。

📅 最新動向|2026年適用の改正と日本基準へのECL導入

IFRS第9号の分類・測定に関する改正(2026年1月1日以後開始年度から適用)

IASBは2024年5月に「金融商品の分類及び測定に関する改正(IFRS第9号及びIFRS第7号の改正)」を公表しました。2026年1月1日以後開始する年次報告期間から適用され、早期適用も認められています。主な内容は次の3点です。

  • 電子決済システムを用いて決済される金融負債の認識の中止(決済日を基礎とし、一定の要件を満たす場合に決済日前の認識中止を会計方針として選択可能)
  • 契約上のキャッシュ・フローの特性の評価(ESG連動条項など条件付特性、ノンリコース性、契約上リンクした金融商品に関する明確化)
  • 関連する開示の追加

移行日が2026年以降になるIPO準備企業では、この改正後の内容で設計する必要があります。特にサステナビリティ連動ローンやESG連動条項付きの借入をしている企業は、SPPIテストの判定に直接影響するため、早めの確認をおすすめします。

日本基準にもECLが導入される見通し(ASBJ公開草案第89号)

日本基準側でも大きな動きがあります。ASBJは2025年10月29日に企業会計基準公開草案第89号「金融商品に関する会計基準(案)」および企業会計基準適用指針公開草案第88号「金融資産の予想信用損失に係る会計上の取扱いに関する適用指針(案)」等を公表しました。コメント期限は2026年2月6日で締め切られ、2026年8月4日時点でASBJは寄せられたコメントへの対応を審議している段階です。

項目 公開草案第89号の内容
開発の基礎 IFRS第9号のモデルを基礎とする(米国基準のCECLモデルではない)
基本的な考え方 債権等の発生の認識以降に信用リスクが著しく増大した場合に全期間ECLを見積る相対的アプローチ
適用範囲 債権(貸付金代替性私募債・建設協力金等を含む)、満期保有目的の債券、金融保証契約、貸出コミットメント等、契約資産、リース投資資産の一部。その他有価証券に分類される債券(一部を除く)・敷金・ゴルフ会員権は範囲外
簡素化された方法 内部信用格付(正常先・その他要注意先・要管理先等)を活用した信用リスクの著しい増大の判定、平均残存期間の使用、単一シナリオの使用、約定金利による割引などを選択適用可
一般事業会社の営業債権 IFRS第9号の単純化したアプローチを取り入れる(重要な金融要素を含まない売掛金等は常に全期間ECL)
経過措置 遡及適用は求めず、適用初年度の期首利益剰余金等に累積的影響額を加減
適用時期(提案) 最終基準の公表から3年程度経過した4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から。最終基準公表後最初に到来する4月1日以後開始年度からの早期適用も提案

出典:ASBJ「企業会計基準公開草案第89号『金融商品に関する会計基準(案)』等の概要」(2025年10月29日)、ASBJプロジェクト「金融商品に関する会計基準」(2026年8月4日現在)。

実務上の意味は大きく2つあります。第一に、いま作るECLの算定モデルは、将来の日本基準対応にもそのまま活かせる可能性が高いということ。第二に、日本基準を続ける会社もいずれECLに向き合う必要があるため、「IFRSにするから余計な作業が増える」という整理は必ずしも正しくないということです。IFRS導入の投資対効果を経営に説明する際は、この点を添えると理解が得られやすくなります。

なお、金融商品会計基準については2026年改正(特別目的会社に対する融資者の取扱いの明確化)も行われており、2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首以後に実施される金融資産の譲渡から適用されます(2026年4月1日以後開始年度からの早期適用可)。ECLの導入とは別の改正である点にご注意ください。

💡 よくある質問

Q. 当社は売掛金と定期預金くらいしか金融商品がありません。それでもECLの対応は必要ですか。

必要です。ただし作業量は限定的です。重要な金融要素を含まない売掛金であれば単純化したアプローチが使えるため、年齢区分ごとの引当率表を作れば足りるケースが大半です。過去3〜5年の債権年齢別の回収実績データを集めることが実質的な作業になります。データが社内システムから取れるかを早めに確認してください。なお、重要性が乏しい場合でも「重要性が乏しいと判断した根拠」は監査人に説明できるようにしておく必要があります。

Q. 政策保有株式はFVOCIに指定すべきでしょうか、それともFVTPLのままがよいでしょうか。

一律の正解はなく、株式売却損益を業績としてどう見せたいかで判断が分かれます。FVTPLのままにすると株価変動が毎期の純損益に直接影響し、業績のブレが大きくなります。一方、FVOCIに指定すれば純損益は安定しますが、売却したときの利益が永久に純損益に出てきません。政策保有株式の縮減を進めていて売却益の計上を見込んでいる企業では、その前提が崩れる点に注意が必要です。指定は当初認識時のみ・取消不能ですので、移行日までに方針を固めてください。

Q. 移行日にECLの引当が大きく増えると、初度適用の調整表にはどう表れますか。

移行日の日本基準による資本とIFRSによる資本の調整表に、貸倒引当金の増加として資本の減少要因で表示されます。移行日時点の差異は移行日の利益剰余金に直接影響し、比較年度の損益計算書には現れません。加えて、繰延税金資産の認識可否も同時に検討する必要があります。初度適用の全体像と免除規定は第11回 IFRS初度適用で解説しています。

🗒️ まとめ

  • IFRS第9号の金融資産の分類は「事業モデル」と「SPPIテスト」の2軸で決まり、償却原価・FVOCI・FVTPLの3分類になる
  • 株式は原則FVTPL。当初認識時に限りFVOCI指定ができるが、指定すると売却時も純損益に振り替えられない
  • 減損は予想信用損失モデルで、当初認識時からの信用リスクの変化に応じて12か月ECLと全期間ECLを使い分ける
  • 営業債権・契約資産・リース債権には単純化したアプローチがあり、引当率表を用いる便法も認められている
  • 日本基準の債権3区分とIFRSの3ステージは判定の起点が異なるため、1対1では対応しない
  • 会計上の引当増加は法人税法第52条の制約から損金にならない場合が多く、税効果の検討が必要になる
  • 2024年5月の改正が2026年1月1日以後開始年度から適用され、日本基準側でもASBJ公開草案第89号でECL導入の議論が進んでいる

IFRS第9号は、論点が広い一方で、金融商品の棚卸と契約条件の確認さえ丁寧に行えば道筋が見えてくる領域です。数値を作る前に「何を持っているか」を確定させることが、移行後の負担を大きく左右します。次回は、有形固定資産のIFRS論点として、耐用年数・残存価額の見直しとコンポーネント会計を取り上げます。連載全体の目次はIFRS導入 完全ガイドからご覧ください。

監修者
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区)
IPO準備企業・上場企業のIFRS導入支援、論点検討・GAAP差異分析・数値作成・注記開示支援を行っています。

本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の会計処理の判断は、監査人・専門家にご確認ください。

【参考】企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(ASBJ会計基準検索システム)企業会計基準公開草案第89号「金融商品に関する会計基準(案)」等の公表(ASBJ)金融商品に関する会計基準(ASBJ プロジェクト審議状況)IFRS 9 Financial Instruments(IFRS財団)Amendments to the Classification and Measurement of Financial Instruments(IFRS財団)No.5501 一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の設定(国税庁)IFRS適用済・適用決定会社一覧(日本取引所グループ)

金融商品の分類判定からECLモデルの設計まで、公認会計士がご一緒します

金融商品の棚卸、事業モデルの文書化、SPPIテストの実施、引当率表の設計、移行日の試算、信用リスクに関する注記の作成までワンストップでご支援します。IPO準備に伴うIFRS導入の初期相談も承っています。

お問い合わせIFRS導入 完全ガイドを見る

IPO支援に強い、公認会計士 IPO支援に強い、公認会計士

ベンチャー・スタートアップ企業の
経営管理支援・IPO支援

お問い合わせ