旅費交通費の指摘|出張日当と実費精算のどちらが安全か

税務調査の後半で「この出張日当は多すぎませんか」と言われることがあります。金額そのものを問題にされているように聞こえますが、条文が定めているのは日当の上限額ではありません。問われているのは、支給した金額のうち、その旅行について通常必要であると認められる範囲を超える部分があるかどうかです。

この区別を外したまま話が進むと、議論は「日当はいくらまでなら大丈夫か」という相場の話になります。相場を定めた条文も通達もないので、この話は最後まで決着しません。決着するのは、支給額が範囲の中に収まっていることを、会社の側で説明できるかどうかです。

この記事では、旅費が非課税とされる根拠の条文と通達を確認したうえで、日当と実費精算がどこで違うのか、範囲を超えると判定されたときに源泉所得税・法人税・消費税のどこが動くのかを整理します。指摘を受けたあとでも、分けて考えれば主張できる余地は残っています。調査で指摘されやすい項目の全体像は税務調査で指摘される項目の別冊にまとめています。

🧭 問われているのは金額ではなく、範囲を超えた部分です

出張旅費や日当が所得税の課税対象から外れる根拠は、所得税法第9条第1項第4号にあります。条文はこう書いています。

給与所得を有する者が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をし、若しくは転任に伴う転居のための旅行をした場合又は就職若しくは退職をした者若しくは死亡による退職をした者の遺族がこれらに伴う転居のための旅行をした場合に、その旅行に必要な支出に充てるため支給される金品で、その旅行について通常必要であると認められるもの(所得税法第9条第1項第4号)

非課税とされるのは「その旅行について通常必要であると認められるもの」です。金額の上限は書かれていません。裏を返すと、通常必要と認められる範囲を超えた部分は、この条文の非課税から外れます。

調査で日当が話題になるとき、調査官が見ているのはこの線です。支給額の全部を否認しようとしているわけではなく、線の外に出ている部分があるかどうかを見ています。ですから、会社が用意すべき説明も「うちの日当は高くない」ではなく、「この金額はこういう理由で通常必要な範囲に収まっている」という形になります。

支給した旅費は、範囲の内と外に分かれます支給した金額日当・宿泊費・交通費その旅行について通常必要であると認められる範囲内所得税は非課税(所得税法第9条第1項第4号)その範囲を超える部分給与所得の収入金額に算入(所得税基本通達9-4)争点は金額の多い少ないではなく、範囲の内か外かです

非課税の枠は金額ではなく範囲で定められています

📌 通達が挙げているのは、たった二つの勘案事項です

では「通常必要であると認められる範囲」は、どう判定するのでしょうか。所得税基本通達9-3が、判定の枠組みを示しています。

その旅行の目的、目的地、行路若しくは期間の長短、宿泊の要否、旅行者の職務内容及び地位等からみて、その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲内の金品をいうのであるが、当該範囲内の金品に該当するかどうかの判定に当たっては、次に掲げる事項を勘案するものとする(所得税基本通達9-3)

この通達が挙げる勘案事項は次の二つだけです。金額の目安は書かれていません。

勘案事項 通達の文言
社内のバランス その支給額が、その支給をする使用者等の役員及び使用人の全てを通じて適正なバランスが保たれている基準によって計算されたものであるかどうか
社外との比較 その支給額が、その支給をする使用者等と同業種、同規模の他の使用者等が一般的に支給している金額に照らして相当と認められるものであるかどうか

一つ目は社内の話です。役員と社員の日当に開きがあること自体は、職務内容と地位を勘案するという通達の書き方からすれば否定されていません。問題になるのは、その開きを説明できる基準があるかどうかです。役員だけが突出していて、なぜその水準なのかを示す根拠が規程にも議事録にも残っていない、という状態がいちばん弱くなります。

二つ目は社外との比較です。ここで会社が使えるのは、同業種・同規模の他社が一般的に支給している金額に関する資料です。公表されている調査資料や業界団体の資料を規程の設計時に参照し、その控えを残しておくと、後から説明を組み立てる手間がまったく違います。

この二つは「勘案する」事項であって、どちらかを満たせば非課税になるという要件ではありません。通達は、旅行の目的・目的地・期間の長短・宿泊の要否・旅行者の職務内容及び地位等からみて、という前段の判断のなかで勘案するものと書いています。

逆にいえば、日帰りと宿泊、国内と海外、短期と長期で同じ日当を一律に出していると、前段の判断のところで説明が苦しくなります。

⚠️ 範囲を超えた部分は、給与になります

範囲を超えると判定された場合、その部分がどう扱われるかは所得税基本通達9-4が定めています。旅行の区分に応じて、次の所得の収入金額に算入されます。

旅行の区分 超える部分が算入される所得
勤務する場所を離れて職務を遂行するためにした旅行 給与所得
転任に伴う転居のためにした旅行 給与所得
就職をした者がその就職に伴う転居のためにした旅行 雑所得
退職をした者がその退職に伴う転居のためにした旅行 退職所得
死亡による退職をした者の遺族がその死亡による退職に伴う転居のためにした旅行 退職所得(通達は、法第9条第1項第17号の規定により非課税とされる旨を付記しています)

通常の出張は最初の行に当たるので、超えた部分は給与所得になります。給与になるということは、会社には源泉徴収の義務が生じます。所得税法第183条第1項は、給与等の支払をする者は、その支払の際に所得税を徴収し、徴収の日の属する月の翌月10日までに国に納付しなければならないと定めています。

支給を受けたのが役員である場合は、法人税の側でもう一段の制約がかかります。法人税法第34条第1項は、役員に対して支給する給与のうち、定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与のいずれにも該当しないものの額は損金の額に算入しないと定めているからです。出張の都度、金額が変わる形で支給されているものは、支給額が同額である定期給与という形からは外れます。

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💴 日当と実費精算は、証明するものが違います

ここまでを踏まえると、日当と実費精算のどちらが安全か、という問いの立て方が少しずれていることが見えてきます。どちらの方式でも、通常必要と認められる範囲を超えたかどうかという判定は同じように働きます。違うのは、その範囲に収まっていることを何で証明するかです。

同じ判定を、違う材料で説明することになります日当(定額支給)規程で金額を決め、出張ごとに定額を支給個々の領収書を集めなくてよい金額の根拠は規程とその作り方に移る役員と社員のバランスを説明できるか同業同規模との比較資料があるか弱点は、規程の根拠が残っていない場合実費精算実際に支払った金額を領収書で精算金額の根拠は領収書そのもの保存と突合の事務量が増える通常必要な範囲の判定は同じように働く業務との関係は別に説明する必要がある弱点は、出張の事実そのものが薄い場合

どちらを選んでも、判定の物差しは変わりません

観点 日当(定額支給) 実費精算
金額の根拠 旅費規程と、その水準を決めた検討の記録 領収書などの支払を示す資料
事務の量 精算の手間は小さいが、規程の整備と見直しが要る 領収書の収集・保存・突合が毎回発生する
指摘されやすい点 役員と社員の差、日帰りと宿泊の一律運用 出張の事実、業務との関係、私的支出の混入

日当は、精算の事務を軽くする代わりに、金額の説明責任が規程の側へ移る仕組みです。規程さえあれば認められる、という仕組みではありません。規程を作った時点で、なぜその金額なのかを示す材料を一緒に残しておくかどうかで、後の説明のしやすさが決まります。

🧾 消費税は、所得税の非課税の範囲に連動します

ここが見落とされやすいところです。従業員や役員に支給する出張旅費・宿泊費・日当等については、適格請求書の交付を受けられなくても、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる取扱いがあります。根拠は消費税法施行令第49条第1項第1号ニと、その委任を受けた消費税法施行規則第15条の4第2号です。

法人税法第二条第十五号に規定する役員又は使用人が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をし……その旅行に必要な支出に充てるために事業者がその使用人等又はその退職者等に対して支給する金品で、その旅行について通常必要であると認められる部分に係る課税仕入れ(消費税法施行規則第15条の4第2号)

条文の文言が「その旅行について通常必要であると認められる部分」であることに注目してください。そして消費税法基本通達11-6-4は、この規則第15条の4第2号にいう課税仕入れは、支給した金品のうちその旅行について通常必要であると認められる部分に係るものに限られると念を押したうえで、注でその範囲の判定について次のように書いています。

同号に規定する「その旅行について通常必要であると認められる部分」の範囲は、所基通9-3《非課税とされる旅費の範囲》の例により判定する(消費税法基本通達11-6-4の注)

つまり、所得税で非課税とされる範囲と、消費税で帳簿のみの保存が認められる範囲は、同じ通達で判定されます。日当が過大だと判定されれば、所得税の源泉徴収漏れと同時に、消費税の仕入税額控除の否認が連動して起きるということです。一つの判定が二つの税目に効くので、指摘の影響は思ったより大きくなります。

海外出張については、タックスアンサーNo.6459(令和8年4月1日現在法令等)が、海外への出張または転勤のために支給した出張旅費、宿泊費、日当等は原則として課税仕入れになりませんとしています。国内出張と同じ感覚で処理していないか、確認しておくとよいところです。

また、国税庁の質疑応答事例は、帳簿には通常必要な記載事項に加え、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる仕入れである旨(「出張旅費」「宿泊費」など)を記載する必要があるとしています。記載が漏れていると、範囲の議論にたどり着く前に保存要件の話になります。

🧮 動く金額と、そろえておく記録

金額の動き方を、仮の数字で見ておきます。ある会社が役員1名に対し、1年間で220万円の出張日当を支給していたとします。調査で、このうち110万円が通常必要と認められる範囲を超えるとされた場合、次の三つが同時に動きます。

一つの判定が、三つの税目で同時に効きます源泉所得税超えた部分が給与所得に加わります(通達9-4)不納付加算税は原則として100分の10です法人税役員に対する部分は第34条第1項の三類型に当たらなければ損金不算入になります消費税超えた部分は特例の対象から外れます110万円なら10万円が控除の対象外です同じ一つの判定が、三つの申告にそれぞれ反映されます

超過部分110万円とした場合の動き方(割合は仮の前提です)

消費税の数字だけ確認しておきます。税込110万円に対応する消費税額は、110万円に10を乗じて110で除した10万円です。この10万円について、帳簿のみの保存による控除の前提が崩れます。源泉所得税の追加額は、扶養親族等の数や他の給与の額によって決まるため、ここでは金額を示していません。

そろえておくもの 何を説明できるか
旅費規程(役員と社員の区分を含む) 支給額が社内で統一された基準によって計算されていること
規程の金額を決めたときの検討資料 同業種・同規模の水準に照らして相当と考えた理由
出張申請書・報告書・訪問先の記録 その旅行が職務の遂行のためのものであること
日帰りと宿泊、国内と海外の区分 宿泊の要否や期間の長短が金額に反映されていること
帳簿への「出張旅費」等の記載 消費税で帳簿のみの保存による控除の要件を満たすこと

指摘を受けたときにいちばん効くのは、金額の弁明ではなく、この五つのうちどれが残っていてどれが欠けているかを先に整理することです。欠けているものがあるなら、そこだけを争点から外し、残っている材料で範囲の内側にあることを組み立てるほうが、話は早く進みます。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。法人の税務顧問と申告業務、新しい会計基準の導入支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

❓ よくある質問

日当は1日いくらまでなら認められますか

金額の上限を定めた条文や通達は、確認した範囲では見当たりませんでした。所得税基本通達9-3が示しているのは、旅行の目的・目的地・期間の長短・宿泊の要否・旅行者の職務内容及び地位等からみて判定し、その際に社内のバランスと同業同規模との比較を勘案する、という枠組みです。金額そのものより、その金額に至った基準を説明できるかどうかが効きます。

旅費規程があれば、日当は認められますか

規程があることは出発点ですが、それだけで範囲の内側だと決まるわけではありません。通達は、支給額が役員及び使用人の全てを通じて適正なバランスが保たれている基準によって計算されたものであるかどうかを勘案するとしています。規程の存在ではなく、規程の中身とその作り方が見られます。

役員の日当を社員より高くしてもよいですか

通達は旅行者の職務内容及び地位等からみて判定するとしているので、差があること自体が直ちに否定されるわけではありません。ただし、その差の根拠を説明できないと、社内のバランスという勘案事項のところで弱くなります。差の理由を規程の設計時に整理し、記録に残しておくのが現実的です。

実費精算に切り替えれば、指摘は避けられますか

実費精算でも、通常必要と認められる範囲かどうかという判定は同じように働きます。変わるのは説明の材料で、規程から領収書に移るだけです。加えて、実費精算では出張の事実と業務との関係を別に示す必要があるので、申請書や報告書の整備が要ります。

日当が過大とされると、消費税にも影響しますか

影響します。消費税法施行規則第15条の4第2号が帳簿のみの保存で仕入税額控除を認めているのは、その旅行について通常必要であると認められる部分に係る課税仕入れです。そして消費税法基本通達11-6-4の注は、この範囲を所得税基本通達9-3の例により判定するとしています。所得税で範囲外とされた部分は、消費税でもこの特例の外に出ます。

📄 まとめ

出張日当の指摘は、金額の多い少ないの話に見えて、実際には「通常必要と認められる範囲の内か外か」という一本の線の話です。線を引いているのは所得税法第9条第1項第4号で、線の引き方を示しているのは所得税基本通達9-3の二つの勘案事項です。

日当と実費精算は、どちらが安全かというより、同じ判定を何で説明するかが違う二つの方式です。日当を選ぶなら、金額の根拠を規程の側にきちんと積んでおく必要があります。実費精算を選ぶなら、出張の事実と業務との関係を示す書類を回す仕組みが要ります。

そして、この判定は所得税だけで終わりません。役員に対する部分は法人税法第34条第1項の制約を受け、超えた部分は消費税の帳簿のみ保存の特例からも外れます。一つの線が三つの税目に効くので、規程を作るときの一手間が後で大きく効いてきます。

すでに指摘を受けている場合でも、支給額の全部が否認されるわけではありません。どの部分が範囲の外だと評価されているのかを分けて確認すれば、残る材料で主張できる余地はあります。修正申告に応じる前に、一度整理してみることをおすすめします。

🔗 参考(公的な一次情報)

本記事は公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所・東京都台東区)が、法令・通達および国税庁の公表資料に基づいて作成しています。本記事は一般的な情報提供を目的としています。制度は改正される可能性があり、個別の事実関係により結論が異なります。実際の判断にあたっては、専門家にご確認ください。

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