招集通知を出していなかった。定足数を満たしていないのに可決したことにした。議決権のない株主に投票させた。こうした瑕疵があったとき、その決議はどうなるのか。
会社法は、瑕疵の程度に応じて3つの訴えを用意しています。取消しの訴えだけに3か月という期間が置かれ、無効確認と不存在確認には期間の定めがありません。この記事では、どの瑕疵がどれに当たり、いつまでに何ができるのかを条文で整理します。
- 取消し、無効確認、不存在確認の3つの違い(会社法830条・831条)
- 取消事由の3類型(831条1項1号から3号)
- 3か月という出訴期間と、管轄する裁判所
- 違反が重大でなければ棄却されうること(831条2項の裁量棄却)
この記事の見出し
瑕疵の程度で3つに分かれる
会社法は、株主総会の決議に問題があるときの手段を3つ置いています。
もっとも軽いのが取消しです。会社法831条1項が定めており、決議の日から3か月以内に訴えを提起しなければなりません。次が無効の確認です。会社法830条2項が、決議の内容が法令に違反することを理由として、決議が無効であることの確認を訴えをもって請求することができるとしています。もっとも重いのが不存在の確認で、同条1項が、決議が存在しないことの確認を訴えをもって請求することができるとしています。
830条の2つには期間の定めがありません。何年経っても主張できます。一方、831条の取消しは3か月で締め切られます。この差が実務では決定的です。
取消事由は3つ
会社法831条1項は、取消しを請求できる場合を3つの号に分けています。
1号 招集の手続または決議の方法が法令もしくは定款に違反し、または著しく不公正なとき。もっとも多い類型です。招集通知を出していない、期限に間に合っていない、招集を決める取締役会の決議がない、定足数を満たしていない、議決権のない株主に議決権を行使させた、といった場面です。手続の瑕疵はここに入ります。
2号 決議の内容が定款に違反するとき。定款で定めた取締役の員数を超えて選任した、定款で認められていない事項を決議した、といった場面です。内容の瑕疵でも、違反しているのが定款であれば取消しです。法令に違反していれば830条2項の無効になります。
3号 決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって、著しく不当な決議がされたとき。取締役会と違い、株主総会では特別利害関係人も議決権を行使できます。ただし、それによって著しく不当な決議がされた場合には取消しの対象になる、という建て付けです。
3か月という出訴期間
会社法831条1項は、株主総会等の決議の日から3か月以内に訴えをもって請求することができるとしています。決議の日が起算点です。瑕疵を知った日ではありません。
この期間を過ぎると、取消しを主張する道は閉ざされます。1号の手続の瑕疵は、830条の無効や不存在には当たらないのが通常ですので、3か月を過ぎればその決議は争えなくなるということです。逆に会社の側から見れば、決議の日から3か月が過ぎれば手続の瑕疵は治癒されたのと同じ状態になります。
訴えは会社法835条1項により、被告となる会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に専属します。被告は会社法834条17号により当該株式会社です。決議で選任された取締役個人を被告にするのではありません。
提訴できるのは誰か
831条1項の本文は、株主等が請求できるとしています。株主等とは、828条2項1号のかっこ書きにより、株主、取締役または清算人をいい、監査役設置会社では監査役を含みます。
同項後段に特則があります。当該決議の取消しにより株主または取締役、監査役もしくは清算人となる者も、同様とするとされています。かっこ書きで、346条1項により取締役、監査役または清算人としての権利義務を有する者も含まれます。
役員を改選した総会の決議が取り消されれば、前任者が役員に戻ります。その前任者にも提訴を認めるという趣旨です。役員の交代をめぐって争いがある会社では、この後段が働きます。
違反が重大でなければ棄却されうる
会社法831条2項は裁量棄却の規定です。訴えの提起があった場合において、招集の手続または決議の方法が法令または定款に違反するときであっても、裁判所は、その違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、請求を棄却することができるとしています。
要件は2つで、いずれも満たす必要があります。違反する事実が重大でないこと、そして決議に影響を及ぼさないことです。招集通知が1日遅れたが全株主が出席して異議なく議事に入った、といった場面が想定されます。
ただし、この規定が働くのは1号の手続の瑕疵に限られます。2号の定款違反や3号の著しく不当な決議には適用されません。そして、招集通知をまったく出していないような場合は、違反する事実が重大でないとは言えないでしょう。裁量棄却があるから多少の瑕疵は構わない、という理解は危険です。
| 項目 | 取消し(831条) | 無効確認(830条2項) | 不存在確認(830条1項) |
|---|---|---|---|
| 事由 | 手続の瑕疵、定款違反、著しく不当な決議 | 決議の内容が法令に違反 | 決議の実体がない |
| 期間 | 決議の日から3か月 | 定めなし | 定めなし |
| 裁量棄却 | 1号の場合にありうる | なし | なし |
| 被告 | 当該株式会社(834条17号) | 当該株式会社(834条16号) | 当該株式会社(834条16号) |
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判決の効力はさかのぼる
会社法838条は、会社の組織に関する訴えに係る請求を認容する確定判決は、第三者に対してもその効力を有すると定めています。当事者だけでなく、すべての人に対して効力が及びます。対世効と呼ばれます。
そして、遡及するかどうかです。会社法839条は、判決で無効とされ、または取り消された行為は将来に向かってその効力を失うと定めていますが、その対象を834条1号から12号の2まで、18号、19号に掲げる訴えに限っています。
決議の取消しは17号、無効確認と不存在確認は16号ですので、839条の対象に含まれていません。つまり、決議は最初からなかったことになります。募集株式の発行の無効判決が将来に向かってしか効力を失わないのと対照的です。
役員選任決議が取り消されれば、その役員は最初から役員でなかったことになります。その間に行われた取引や決議の効力をどう扱うかは、事案ごとに難しい問題を生みます。だからこそ、争われない手続を踏むことに意味があります。
登記の手当てもあります。会社法937条1項1号トは、株主総会等の決議した事項についての登記があった場合において、決議の不存在もしくは無効の確認の訴え、または決議の取消しの訴えに係る請求を認容する判決が確定したときは、裁判所書記官が職権で、遅滞なく本店の所在地を管轄する登記所にその登記を嘱託しなければならないとしています。会社が申請しなくても登記が動くということです。
会社側の備え
訴えられた会社には2つの規定が用意されています。
ひとつが会社法836条1項の担保提供命令です。会社の組織に関する訴えであって株主が提起することができるものについては、裁判所は被告の申立てにより、原告である株主に相当の担保を立てるべきことを命ずることができます。ただし書により、その株主が取締役、監査役、執行役または清算人であるときは適用されません。
もうひとつが会社法846条です。会社の組織に関する訴えを提起した原告が敗訴した場合において、原告に悪意または重大な過失があったときは、原告は被告に対し、連帯して損害を賠償する責任を負います。
いずれも、濫用的な提訴を抑えるための仕組みです。もっとも、これらに頼るより、争われない総会を運営するほうが先です。
非上場の会社で実際に起きること
この訴えが問題になるのは、株主のあいだで対立が生じたときです。相続で株式が分散した会社、共同創業者が袂を分かった会社、退任した役員が株主として残っている会社が典型です。
そういう会社ほど、平時は招集通知を省略し、決議の省略で済ませてきています。全員が同意しているうちは適法ですが、1人が同意しなくなった瞬間に、その運用は使えなくなります。にもかかわらず従来どおりに進めれば、831条1項1号の招集の手続の瑕疵が生まれます。
対立が見え始めたら、招集を決める取締役会を開き、期限どおりに招集通知を発し、当日の議事と賛否を議事録に残す。この基本に戻ってください。争いになったとき、会社を守るのは記録です。
逆に、すでに3か月が経過している決議については、手続の瑕疵を理由に取り消されることはありません。過去の総会に不備が見つかった場合、まず決議の日から3か月が経過しているかを確認し、経過していれば、これからの運用を整えることに労力を向けるのが実務的です。
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❓ よくある質問
A. 取消しの訴えはできなくなります。ただし、決議の内容が法令に違反する場合の無効確認(830条2項)と、決議の実体がない場合の不存在確認(830条1項)には期間の定めがありません。
A. 会社法831条1項1号の取消事由には当たりますが、同条2項により、違反する事実が重大でなく、かつ決議に影響を及ぼさないと認められるときは請求が棄却されることがあります。
A. 会社法839条の対象に決議の取消しは含まれていませんので、判決の効力はさかのぼります。決議は最初からなかったことになります。その間の行為の扱いは事案ごとに検討することになります。
📄 まとめ
株主総会の決議の瑕疵は3つの訴えに分かれます。手続の瑕疵と定款違反は831条の取消しで、決議の日から3か月以内という期間があります。決議の内容が法令に違反する場合の無効確認と、実体がない場合の不存在確認には期間の定めがありません。
判決は第三者にも効力が及び、しかもさかのぼります。株主のあいだに対立が生じたら、招集の取締役会、期限どおりの招集通知、議事と賛否の記録という基本に戻ってください。会社を守るのは記録です。
⚖ 本記事の根拠
- 会社法831条1項1号から3号
- 会社法831条2項(違反が重大でなく決議に影響を及ぼさない場合の裁量棄却)
- 会社法830条1項(不存在の確認)、同条2項(内容の法令違反を理由とする無効の確認)
- 会社法834条16号・17号(被告は当該株式会社)、835条1項(本店の所在地を管轄する地方裁判所の専属管轄)
- 会社法838条(認容判決の効力が第三者にも及ぶこと)、839条(決議の取消し等が将来効の対象から外れていること)
- 会社法836条1項(担保提供命令)、846条(原告が敗訴した場合の損害賠償責任)
- 会社法937条1項1号ト(裁判所書記官による登記の嘱託)
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
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