会計監査人の任期は1年です。しかし、毎年の定時株主総会で選任議案を出している会社はほとんどありません。会社法338条2項が、別段の決議がされなかったときは再任されたものとみなすと定めているからです。
このみなし再任があるために、監査法人を替えるときの手続が独特になります。選任議案ではなく、再任しない旨の議案を出すことになるからです。しかもその議案の内容を決めるのは取締役会ではありません。この記事では、条文の並びに沿って整理します。
- 会計監査人の任期が1年で、みなし再任が働く仕組み(会社法338条1項・2項)
- 監査法人を替えるときに必要な不再任の議案と、その決定権者(344条)
- 会計監査人が株主総会で意見を述べることができる場面(345条5項)
- 会計監査人が欠けたときの一時会計監査人の選任(346条4項)
この記事の見出し
任期は1年。何もしなければ再任される
会社法338条1項は、会計監査人の任期は選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとすると定めています。取締役の2年、監査役の4年に比べて短い期間です。
そのままでは毎年選任議案が必要になりますが、同条2項が、前項の定時株主総会において別段の決議がされなかったときは、その定時株主総会において再任されたものとみなすとしています。これがみなし再任です。議案を出さなければ、そのまま同じ監査法人が続きます。
同条3項は例外です。会計監査人設置会社が会計監査人を置く旨の定款の定めを廃止する定款変更をした場合には、会計監査人の任期はその定款変更の効力が生じた時に満了します。
資格についても押さえておきます。会社法337条1項により、会計監査人は公認会計士または監査法人でなければなりません。
替えるときは、再任しない旨の議案を出す
みなし再任があるということは、監査法人を替えたいときには、こちらから動く必要があるということです。定時株主総会に、会計監査人を再任しない旨の議案と、新しい会計監査人を選任する議案を出します。
ここで決定権者が問題になります。会社法344条1項は、監査役設置会社においては、株主総会に提出する会計監査人の選任および解任ならびに会計監査人を再任しないことに関する議案の内容は、監査役が決定すると定めています。同条2項により監査役が2人以上ある場合は過半数、同条3項により監査役会設置会社では監査役会が決定します。監査役会の決議は、393条1項により監査役の過半数をもって行います。
取締役会が決めるのではありません。業務を執行する側が会計監査人を意のままに替えられては、監査の独立性が保てないためです。実務では、期末の監査報告と同じ時期の監査役会で、その年度の監査活動を踏まえて任免を判断するのが一般的です。3月決算の会社なら5月の監査役会です。
会計監査人には意見を述べる機会がある
会社法345条5項は、同条1項を会計監査人について準用しています。読み替えると、会計監査人は、会計監査人の選任、解任もしくは不再任または辞任について、株主総会に出席して意見を述べることができる、となります。
さらに同条2項と3項も準用されます。辞任した会計監査人や、340条1項により解任された会計監査人は、その後最初に招集される株主総会に出席して、辞任した旨とその理由、または解任についての意見を述べることができます。取締役は、その者に対して株主総会を招集する旨と日時場所を通知しなければなりません。
監査法人を替える場面では、この通知を忘れないでください。手続としては地味ですが、抜けると総会の瑕疵になり得ます。
監査役会が解任できる場合
任期の途中で会計監査人を辞めさせる手段が、会社法340条です。監査役は、会計監査人が職務上の義務に違反しまたは職務を怠ったとき、会計監査人としてふさわしくない非行があったとき、心身の故障のため職務の執行に支障がありまたはこれに堪えないときは、その会計監査人を解任することができます。
同条2項により、監査役が2人以上ある場合は監査役の全員の同意が必要です。同条4項により、監査役会設置会社では監査役会が解任し、同意は監査役全員によります。同条3項により、解任したときはその旨と理由を、解任後最初に招集される株主総会に報告しなければなりません。
要件が限定されていること、そして全員の同意が求められることから、実際に使われる場面は多くありません。通常は、定時株主総会での不再任という形をとります。
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会計監査人が欠けたときは一時会計監査人
会社法346条4項は、会計監査人が欠けた場合または定款で定めた員数が欠けた場合において、遅滞なく会計監査人が選任されないときは、監査役は一時会計監査人の職務を行うべき者を選任しなければならないと定めています。同条6項により、監査役会設置会社では監査役会が選任します。
同条5項により、資格と欠格事由、そして解任の規定は正規の会計監査人と同じです。ただし、みなし再任の規定は準用されていません。一時会計監査人は緊急の措置ですので、選任後最初に招集される株主総会で、改めて会計監査人を選任することになります。一時会計監査人であった者をそのまま正規の会計監査人として選任することは差し支えありません。
一時会計監査人の氏名または名称は登記事項です(会社法911条3項20号)。
| 場面 | やること | 根拠 |
|---|---|---|
| 続けてもらう | 議案を出さない。みなし再任となる | 338条2項 |
| 替える | 不再任の議案と選任の議案。内容は監査役会が決定 | 344条1項・3項 |
| 任期の途中で外す | 340条1項各号に該当する場合に監査役会が解任。全員の同意 | 340条2項・4項 |
| 欠員が生じた | 監査役会が一時会計監査人を選任し、次の総会で選任し直す | 346条4項・6項 |
上場準備での実務
上場準備では、監査法人の交代がありうる局面が2つあります。ひとつは、準備の途中で監査体制が合わなくなった場合、もうひとつは、上場申請にあたって体制を見直す場合です。いずれの場合も、みなし再任を止める手続を踏むことになります。
日程の組み方は決まっています。期末の監査が終わった後の監査役会で任免を決議し、その内容を株主総会の招集を決める取締役会に伝え、招集通知に議案として載せます。監査役会の開催が取締役会より前に来る必要がありますので、逆算して日程表を作ってください。
あわせて、退任する会計監査人に対する意見陳述の機会の通知を、招集の事務に組み込んでおきます。監査役会議事録には、不再任の理由を残します。実務では、選任、解任または不再任の理由書と決定書を監査役会の資料として作成し、議事録とともに保存します。
定款、株主総会、取締役会、株主名簿、増資。上場準備で必ず点検される書類と手続は決まっています。いまの運用のどこに抜けがあるかは、定款と直近の議事録を拝見すれば短時間で見立てが立ちます。上場準備の実務を経験した公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。支援の内容と進め方はIPO支援業務のページにまとめています。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
❓ よくある質問
A. 必要ありません。会社法338条2項により、定時株主総会で別段の決議がされなければ再任されたものとみなされます。議案が要るのは替えるときです。
A. いいえ。会社法344条1項により、株主総会に提出する会計監査人の選任、解任、不再任に関する議案の内容は監査役が決定します。監査役会設置会社では監査役会が決定します。
A. 会社法345条5項の準用により、辞任した会計監査人は辞任後最初に招集される株主総会に出席して、辞任した旨とその理由を述べることができます。取締役はその者に総会の招集を通知しなければなりません。
📄 まとめ
会計監査人の任期は1年ですが、別段の決議がなければ再任されたものとみなされます。したがって、続けてもらうときは何もせず、替えるときにだけ不再任の議案を出します。
その議案の内容を決めるのは監査役または監査役会です。取締役会ではありません。期末監査の後の監査役会で任免を決め、株主総会の招集を決める取締役会に伝え、退任する会計監査人への意見陳述の機会の通知まで含めて、ひとつの日程として組んでください。
⚖ 本記事の根拠
- 会社法338条1項から3項(任期1年、みなし再任、定款の定めの廃止による満了)
- 会社法337条1項(会計監査人は公認会計士または監査法人)
- 会社法344条1項から3項(選任、解任、不再任に関する議案の内容の決定)および393条1項(監査役会の決議は過半数)
- 会社法345条5項
- 会社法340条1項から4項(監査役および監査役会による解任と、株主総会への報告)
- 会社法346条4項から6項(一時会計監査人の選任)、911条3項20号(登記事項)
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
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