取締役の報酬は、定款に定めがなければ株主総会の決議で決めます。会社法361条1項です。ところが、実際に株主総会で1人ずつの金額を決めている会社はほとんどありません。総額の上限だけを決議し、配分は取締役会に委ねるのが通例だからです。
この二段構えは長く実務として定着してきましたが、令和元年の改正で361条7項が加わり、一定の会社には配分の方針を決める義務が課されました。この記事では、株主総会から個人別の配分までの道筋を条文に沿って追います。
- 株主総会で決議すべき事項の6つの区分(会社法361条1項各号)
- 総額決議から取締役会への一任という実務の構造
- 決定方針を定めなければならない会社の範囲(361条7項)
- 監査役の報酬が取締役と別枠になる理由(387条)
この記事の見出し
株主総会で何を決めるのか
会社法361条1項は、取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として会社から受ける財産上の利益について、定款に定めていないときは株主総会の決議によって定めるとしたうえで、決議すべき事項を6つの号に分けています。
1号は額が確定しているものについてその額、2号は額が確定していないものについてその具体的な算定方法です。3号は報酬等のうち会社の募集株式について、その数の上限その他法務省令で定める事項、4号は募集新株予約権について同様の事項です。5号は、募集株式または募集新株予約権と引換えにする払込みに充てるための金銭について、取締役が引き受ける数の上限などです。6号は、報酬等のうち金銭でないものについてその具体的な内容です。
株式報酬やストックオプションを入れる場合は、3号から5号のどれに当たるのかを整理しなければなりません。上限となる数と、法務省令で定める事項を議案に落とし込むことになります。金銭の報酬しかない会社は、1号と2号だけを考えれば足ります。
総額を決めて、配分を取締役会に委ねる
実務では、まず全取締役に支払う報酬の総額または上限額を株主総会に諮り、承認を得ます。そのうえで、各取締役に配分する具体的な金額の決定は取締役会に委ね、さらに取締役全員の同意をもって代表取締役に一任する、という流れをとる会社が多くあります。
この方式が使えるのは、361条1項が定めているのが株主総会で決める事項であり、その範囲内での配分までは求めていないからです。ただし、いくらでも自由というわけではありません。株主総会で承認された総額や上限額を超えることはできませんし、超える場合は改めて株主総会の決議が要ります。
同条4項も忘れないでください。1項各号に掲げる事項を定め、またはこれを改定する議案を株主総会に提出した取締役は、その株主総会において、当該事項を相当とする理由を説明しなければなりません。総額の枠を引き上げる議案を出すときは、その理由を説明することになります。
配分の方針を決めなければならない会社
会社法361条7項は、一定の会社の取締役会について、定款または株主総会の決議による1項各号の定めがある場合には、その定めに基づく取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針として法務省令で定める事項を決定しなければならないとしています。ただし書により、個人別の報酬等の内容が定款または株主総会の決議で定められているときは不要です。
対象は2つです。1号は、監査役会設置会社であって公開会社かつ大会社であり、金融商品取引法24条1項の規定により有価証券報告書を提出しなければならないものです。2号は監査等委員会設置会社です。大会社は、会社法2条6号により、最終事業年度に係る貸借対照表の資本金が5億円以上、または負債の部の合計額が200億円以上のいずれかに該当する会社をいいます。
上場すれば有価証券報告書の提出会社になりますので、監査役会設置会社であって公開会社かつ大会社の要件を満たせば1号に当たります。監査等委員会設置会社を選んだ会社は、大会社かどうかにかかわらず2号で対象です。
決めるべき方針の中身は会社法施行規則98条の5です。個人別の報酬等の額または算定方法の決定に関する方針、業績連動報酬等がある場合はその業績指標の内容と算定方法の決定に関する方針、非金銭報酬等がある場合はその内容と決定に関する方針などが並びます。上場準備の会社は、上場する期の取締役会でこの方針を決議することになりますので、報酬体系の設計を早めに始めてください。
監査等委員会設置会社では区別して決める
会社法361条2項は、監査等委員会設置会社においては、1項各号の事項を監査等委員である取締役とそれ以外の取締役とを区別して定めなければならないとしています。総額の枠も2つに分かれるということです。
同条3項は、監査等委員である各取締役の報酬等について定款の定めまたは株主総会の決議がないときは、1項の報酬等の範囲内で監査等委員である取締役の協議によって定めるとしています。取締役会が配分するのではありません。同条5項により、監査等委員である取締役は株主総会で監査等委員である取締役の報酬等について意見を述べることができ、6項により、監査等委員会が選定する監査等委員は、それ以外の取締役の報酬等について監査等委員会の意見を述べることができます。
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監査役の報酬は別枠
会社法387条1項は、監査役の報酬等は、定款にその額を定めていないときは株主総会の決議によって定めるとしています。取締役の報酬とは別の議案です。取締役の総額枠の中から監査役に払うことはできません。
同条2項は、監査役が2人以上ある場合に、各監査役の報酬等について定款の定めまたは株主総会の決議がないときは、1項の報酬等の範囲内で監査役の協議によって定めるとしています。取締役会が決めるのではなく、監査役どうしで決めます。ここでいう協議とは、監査役全員で協議して全員一致で定めることを指します。条文上は監査役会の決議による必要はありませんが、実務では監査役会の場で協議し、その結果を監査役会議事録に残す運用が一般的です。同条3項により、監査役は株主総会において監査役の報酬等について意見を述べることができます。
| 対象 | 総額の決定 | 個人別の決定 |
|---|---|---|
| 取締役 | 定款または株主総会(361条1項) | 実務では取締役会に委ねる |
| 監査等委員である取締役 | それ以外の取締役と区別(361条2項) | 監査等委員である取締役の協議(同条3項) |
| 監査役 | 定款または株主総会(387条1項) | 監査役の協議(同条2項) |
事業報告での開示
会社法施行規則121条4号は、事業報告に、当該事業年度に係る会社役員の報酬等について、取締役、会計参与、監査役、執行役ごとの報酬等の総額と員数を記載する方法か、会社役員ごとの額を記載する方法かの区分に応じた事項を書くとしています。業績連動報酬等や非金銭報酬等を含む場合は、それぞれの総額を分けて示します。
上場準備では、この開示に耐える集計ができているかを先に確かめてください。株式報酬を導入した会社では、非金銭報酬等の額をどう算定したかを説明できる資料が必要になります。
上場準備での進め方
やることは3つです。ひとつは総額枠の見直しです。社外役員を迎え、役員の人数が増える前提で、株主総会の決議で定めた枠が足りるかを確認します。足りなければ、定時株主総会に改定の議案を出し、361条4項の説明をします。
ふたつめは、報酬体系の設計です。固定報酬だけなのか、業績連動を入れるのか、株式報酬を使うのかによって、株主総会の議案の号が変わります。3号から5号を使う場合は、上限となる数と法務省令で定める事項を議案に落とし込む作業が発生します。
みっつめが決定方針です。361条7項の対象になる会社は、上場する期までに取締役会で方針を決議します。任意の報酬諮問委員会を置き、社外取締役を過半数とする構成で答申を受けたうえで取締役会が決める、という形をとる会社が増えています。会社法上の必須の手続ではありませんが、決定過程の客観性を示す手段として定着しています。
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❓ よくある質問
A. ありません。会社法361条1項が求めるのは同項各号の事項を定めることで、総額または上限額を決議し、配分を取締役会に委ねる方式が広く行われています。ただし決議した枠を超えることはできません。
A. 会社法361条7項により、監査役会設置会社であって公開会社かつ大会社であり有価証券報告書の提出会社であるもの、および監査等委員会設置会社です。上場すれば多くの会社が対象になります。
A. できません。会社法387条1項が監査役の報酬等について別に定めており、株主総会でも取締役とは別の議案として決議します。
📄 まとめ
取締役の報酬は、定款に定めがなければ株主総会の決議で総額または上限額を決め、その枠の中で取締役会が個人別の配分を決めるのが一般的な組み立てです。株式報酬やストックオプションを入れる場合は、361条1項3号から5号の事項を議案に落とし込みます。
上場を見据える会社は、総額枠の見直し、報酬体系の設計、そして361条7項の決定方針の決議という3つを順に進めてください。監査役の報酬は別枠で、配分は監査役の協議によります。
⚖ 本記事の根拠
- 会社法361条1項各号(株主総会の決議で定めるべき事項の6つの区分)
- 会社法361条4項(議案を提出した取締役の説明義務)
- 会社法361条7項および施行規則98条の5(個人別の報酬等の決定に関する方針)
- 会社法2条6号(大会社の定義)
- 会社法361条2項・3項・5項・6項(監査等委員会設置会社における区別と協議と意見陳述)
- 会社法387条1項から3項(監査役の報酬等)
- 会社法施行規則121条4号(事業報告における報酬等の開示)
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
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