新規上場から10か月ほどで上場廃止となった会社の事案について、2026年9月2日に監査法人と公認会計士2名への懲戒処分が公表されました。売上高の大半が架空だったとされる事案です。
この事案を受けて、東証は上場審査で確認する項目を増やし、日本公認会計士協会は監査上の対応について会員に通知を出しました。日本監査役協会も、循環取引の予兆をまとめた報告を公表しています。
この記事では、公表された資料から手口と対策を整理し、上場準備会社がいま何をしておくべきかを考えます。
- 公表資料から見た事案の経過と処分の内容
- 資金を回して売上を作る仕組みと、その見つけにくさ
- 東証が2025年12月に追加した審査の確認項目
- 監査人と監査役が見ている循環取引の予兆
図 売上の実在性にリスクがあるかどうかの判定
📌 2025年に何が起きたか
新規上場から10か月ほどで上場廃止となった会社があります。東証は2025年7月30日に上場廃止を決定し、同年8月31日に上場廃止となりました。上場廃止の理由は、新規上場申請に係る宣誓書で宣誓した事項についての重大な違反です。東証の公表資料では、2021年12月期から2024年12月期までの売上高の大半、約8割から9割が過大に計上されていたとされています。
証券取引等監視委員会は2025年10月28日、この会社と役職員4名を東京地方検察庁に告発しました。虚偽の有価証券届出書と虚偽の有価証券報告書の提出が犯則事実です。公表された金額は次のとおりで、記載された売上高と実際の売上高の差の大きさがわかります。
表 証券取引等監視委員会の告発に係る公表資料をもとに作成
この会社の監査を担当していた監査法人と、その業務執行社員2名についても、2026年9月2日に日本公認会計士協会が懲戒処分を公表しました。監査法人は権利の停止3か月、社員2名は権利の停止7か月に加えて金融庁長官への行政処分の請求が行われています。認定された内容は、売上高に関するリスク評価の手続の不備、リスクへの対応手続の不備、職業的懐疑心が十分に発揮されなかったことなどです。
📌 資金を回して売上を作る仕組み
日本監査役協会が2026年7月28日に公表した報告では、この事案が循環取引の例として取り上げられています。報告に記載された資金の流れは次のようなものです。
図 監査役協会の報告に記載された資金の流れ
この形の怖いところは、入金があることです。売掛金は回収され、残高も滞留しません。売上に対応する入金の記録があるため、通帳と突合するだけでは異常が見つかりません。費用として社外に出た資金が戻ってきているという全体像を見ないかぎり、個々の取引は正常に見えます。
監査役協会の報告では、この事案の原因として、売上の拡大と上場を強く志向していたこと、経営トップの誠実性が欠けていたこと、実効性のある内部統制とガバナンスが構築されなかったこと、会計監査人への説明や対応が不適切であったことが挙げられています。
📌 上場審査で確認する範囲が広がった
東証は2025年12月12日、新規上場時の会計不正事例を踏まえて、申請書類と新規上場ガイドブックを改訂しました。売上の実在性を確かめるための項目が具体的に増えています。
表 東証の改訂に関する公表資料をもとに作成
広告宣伝費の記載欄が加わったことには意味があります。資金を社外に出す名目として使われた費目だからです。売上だけを見るのではなく、費用の側から資金の流れを追う視点が審査に入ったということになります。
代理店を介した取引についても、代理店までの取引が正しく記録されていれば足りるという整理ではなくなりました。その先の実質的な取引先まで確かめることが求められます。
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📌 監査人が見ている予兆
日本公認会計士協会は2026年1月26日、新規上場会社等の会計不正事例を踏まえた監査上の対応について会員に通知を出しています。監査業務の全過程を通じて職業的懐疑心を保持することが求められており、上場準備会社の側から見れば、監査人の質問が以前より踏み込んだものになるということです。
監査役協会の報告には、循環取引の予兆として具体的な兆候が挙げられています。事業上の合理性が説明できない取引、たとえば同業他社から仕入れたものを同業他社に販売している、取引名が一式とだけ記載されて内訳がわからないといったものです。モノの移動が捕捉しにくい取引、エンドユーザーが不明確な取引、価値を第三者が客観的に判断しにくい技術やサービスの取引も挙げられています。
会計監査人への対応そのものも予兆とされています。売上の存在を裏づける外部の証憑を提供しない、取引の当事者への質問を現場が忙しいという理由で断る、エンドユーザーへの接触を拒む、売上債権の残高確認状の発送を拒む。こうした対応は、監査人だけでなく監査役にとっても注意すべき兆候だと整理されています。
📌 上場準備会社が今からできること
第一に、主要な取引について、モノやサービスの移動を自社で確かめられる記録を残すことです。検収書、納品の記録、利用の実績データなど、入金以外の裏づけを取引の設計に組み込んでおきます。
第二に、取引の流れを図にして、エンドユーザーが誰かを説明できるようにしておくことです。代理店を介する取引が多い会社ほど、審査で必ず聞かれる論点になります。
第三に、経営陣から独立した内部通報の窓口を作ることです。東証の審査項目にも入りました。窓口があるだけでは足りず、通報の内容が不正の実行者に伝わらない仕組みまで求められます。
第四に、監査人からの依頼には応じることです。残高確認状の発送や取引先への接触を断ることは、それ自体が不正の予兆として扱われます。断る理由が営業上の配慮であっても、監査人と監査役には別の意味に映ります。
取引の設計と証憑の残し方は、上場審査で必ず問われます。取引の流れの整理から、審査で説明できる資料の作り方まで対応できます。上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援と内部統制の整備支援を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。
❓ よくある質問
A. 費用の名目で社外に出した資金が、取引先を経由して売上代金として戻ってくる形が使われることがあります。この場合は入金の記録が残り、売掛金も滞留しません。個々の取引だけを見ると正常に見えるため、費用の側から資金の流れを追う必要があります。
A. 代理店を使うこと自体が問題になるわけではありません。ただし東証の改訂により、代理店を介した取引の比率が高い場合は実質的な取引先まで記載を求められます。エンドユーザーが誰で、実際に使われているかを説明できるようにしておく必要があります。
A. 断るべきではありません。監査役協会の報告では、売上債権の残高確認状の発送を拒むことが循環取引の予兆の一つとして挙げられています。取引先への配慮が理由であっても、監査人と監査役には別の意味に受け取られます。
A. 経営陣から独立した窓口であることが求められます。東証の審査でも、窓口の設置に加えて、通報の内容が不正の実行者に伝わらない工夫まで確認されます。社外の弁護士や専門機関を窓口とする方法が実務では多く採られています。
📄 まとめ
2025年に上場廃止となった事案では、売上高の大半が過大に計上されていたとされ、証券取引等監視委員会による告発と、監査法人および公認会計士への懲戒処分に至りました。
資金を費用として社外に出し、取引先を経由して売上代金として回収する形は、入金の記録が残るため個々の取引からは見つけにくいという特徴があります。費用の側から資金の流れを追う視点が要ります。
東証は2025年12月に審査の確認項目を増やし、代理店の先の実質的な取引先、主要な仕入先と販売先、広告宣伝費の内訳まで見るようになりました。上場準備会社は、取引の実在性を自社で説明できる状態を早めに作っておくことが必要です。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
📚 参考(公的な一次情報)
- 日本取引所自主規制法人 上場会社における不祥事対応のプリンシプル
- 証券取引等監視委員会 告発および課徴金納付命令勧告の公表
- 日本公認会計士協会 会員に対する懲戒処分の公表
- 日本監査役協会 会計不正への対応に関する報告
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