関連当事者との取引は、上場審査でも上場後の開示でも必ず論点になります。ところが「どこまでが関連当事者なのか」「いくらから開示なのか」を正確に把握している会社は多くありません。
この記事では、企業会計基準第11号と適用指針第13号の項番号にあたって範囲と重要性の基準を確認し、会社計算規則112条の注記、そして東京証券取引所のルールまでを整理します。コーポレートガバナンス・コードが2026年7月21日に再編され、原則1-7が現行版に存在しないという点も押さえます。
- 関連当事者の11区分(第5項(3))
- 項目ごとに違う重要性の基準(適用指針第15項・第16項)
- 開示対象にならない取引(第6項・第9項)
- 会社法上の注記(会社計算規則112条)と省略できる号
- 東証の支配株主との重要な取引等(上場規程441条の2)
- コーポレートガバナンス・コードは2026年7月に再編され原則1-7が存在しないこと
この記事の見出し
📌 結論 基準は項目ごとに違う。役員報酬と連結消去分は対象外
先に結論を3つ書きます。ひとつめ、重要性の基準は項目ごとに違います。売上高の10%という数字だけが独り歩きしていますが、損益計算書項目は3つに分かれ、貸借対照表項目は総資産の1%、個人との取引は1,000万円です。
ふたつめ、役員に対する報酬、賞与および退職慰労金は開示対象外です。企業会計基準第11号の第9項(2)が明記しています。会社計算規則112条2項も同様の除外を置いています。役員報酬は別の欄で開示されます。
みっつめ、連結財務諸表の作成にあたって相殺消去した取引も対象外です(第6項)。親子間の内部取引は連結上消えるので、関連当事者注記にも出てきません。
👥 誰が関連当事者なのか
全部で11の区分が置かれています。役員の近親者が過半数を持つ会社まで入る点が、実務でいちばん見落とされます。
企業会計基準第11号「関連当事者の開示に関する会計基準」は、平成18年10月17日に公表されました。第4項が範囲を定めており、すべての会社の連結財務諸表または個別財務諸表における関連当事者の開示に適用するとしています。上場会社に限った基準ではありません。
第5項(3)が関連当事者の定義で、11の区分が並びます。親会社、子会社、同一の親会社をもつ会社、その他の関係会社とその親会社・子会社、関連会社とその子会社、主要株主とその近親者、役員とその近親者、親会社の役員とその近親者、重要な子会社の役員とその近親者、これらの者が議決権の過半数を自己の計算において所有している会社とその子会社、そして従業員のための企業年金です。
見落とされやすいのは個人が支配する会社
実務でいちばん漏れるのが、役員や主要株主、あるいはその近親者が議決権の過半数を持っている会社です。創業者が別に持っている会社、役員の配偶者が代表を務める会社。こうしたところとの取引が関連当事者取引になります。
上場準備の初期段階で、まずここを洗い出してください。役員に対して、本人と近親者が支配している法人を申告してもらう書面を作るのが実務です。近親者の範囲についても、社内で共通の理解を作っておく必要があります。
実質で判断する場面
第7項は、無償取引や低廉な価格での取引について、独立第三者間取引と仮定した場合の金額を見積もったうえで重要性を判断するとしています。第8項は、形式的・名目的に第三者を経由した取引で、実質上の相手先が関連当事者であることが明確な場合には開示対象に含めるとしています。間に会社を挟めば逃れられる、という話ではありません。
第5項(3)の11区分に沿った洗い出しシート、役員への申告依頼の書式、取引ごとの重要性判定の一覧まで作成してお返しします。解消すべき取引と、条件を整えて残す取引の切り分けも一緒に検討します。公認会計士・税理士が直接お受けします。初回のご相談は無料です。
📏 いくらから開示するのか
「売上高の10%」だけを一般則のように書いている解説がありますが、項目ごとに基準が違います。
重要性の判断は、企業会計基準適用指針第13号が定めています。第14項が、第13項のグループごとに、さらに法人グループと個人グループに区分し、第15項から第18項で重要性を判断するとしています。判断は原則として各関連当事者との取引ごとに行い、類似・反復する取引はその合計で見ます。
第15項(1)が損益計算書項目です。①売上高、売上原価、販売費及び一般管理費については、売上高または売上原価と販売費及び一般管理費の合計額の10%を超える取引。②営業外収益、営業外費用については、営業外収益または営業外費用の合計額の10%を超える損益に係る取引。③特別利益、特別損失については1,000万円を超える損益に係る取引です。
②と③にはただし書があります。これらに該当しても、その取引総額が税金等調整前当期純損益(または最近5年間の平均)の10%以下となる場合には開示不要とされています。
貸借対照表項目
第15項(2)です。①その金額が総資産の1%を超える取引。②資金貸借取引、有形固定資産や有価証券の購入売却等については、残高が総資産の1%以下でも取引の発生総額が総資産の1%を超える取引。反復的な取引で発生総額の把握が困難な場合は、期中平均残高が総資産の1%を超えるかどうかで代替できます。③事業の譲受けまたは譲渡については、対象となる資産または負債の総額のいずれか大きい額が総資産の1%を超える取引です。
個人との取引は1,000万円
第16項です。関連当事者が個人の場合、損益計算書項目・貸借対照表項目等のいずれについても、1,000万円を超える取引はすべて開示対象になります。法人よりはるかに低い水準です。
ただしただし書があります。役員(親会社および重要な子会社の役員を含む)またはその近親者が他の法人の代表者を兼務し、その法人の代表者として取引を行う場合には、法人グループの取引として扱います。ただし、当該役員等がその法人またはその親会社の議決権の過半数を自己の計算で所有している場合は除かれます。
金額基準を一時的に下回っても
第20項は、数値基準を一時的に下回っても直ちに開示対象から除外せず、開示の継続性に留意するとしています。前期に開示していた取引が今期は基準を下回ったからといって、機械的に落とすのは適切ではありません。
📄 何を書くのか
第11項は別枠で、親会社が存在する場合の親会社の名称等と、重要な関連会社が存在する場合の名称および要約財務情報を求めています。
役員報酬は関連当事者取引の注記には出てきません。別の欄で開示されます。連結で消える取引も対象外です。
第10項が開示項目です。関連当事者の概要、会社との関係、取引の内容、取引の種類ごとの取引金額、取引条件および取引条件の決定方針、取引により発生した債権債務に係る主な科目別の期末残高、取引条件の変更があった場合の内容と財務諸表への影響、そして貸倒懸念債権および破産更生債権等に係る情報の8つです。
適用指針には、売上高は重要だが売掛金残高に重要性がない場合でも、両者の開示が必要である旨の留意が示されています。取引金額と残高は別々に判定するのではなく、開示対象と決まったら両方書くということです。
関連当事者の存在に関する開示
第11項は取引の有無とは別の開示です。親会社が存在する場合の親会社の名称等と、重要な関連会社が存在する場合の名称および要約財務情報を求めています。第19項が重要な関連会社の判定基準を定めており、総資産(持分相当額)が総資産の10%超、または税引前当期純損益(持分相当額)が税金等調整前当期純損益の10%超とされています。
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⚖️ 会社法上の注記
会社法の側では、会社計算規則112条が関連当事者との取引に関する注記を定めています。第1項が8つの号を掲げ、株式会社と関連当事者との間に取引がある場合の事項であって重要なものを注記するとしています。
ここで実務上重要なのがただし書です。会計監査人設置会社以外の株式会社は、第4号から第6号までおよび第8号を省略できます。取引の内容、取引の種類別の取引金額、取引条件および取引条件の決定方針、そして取引条件の変更があった場合の内容と影響が省略できる範囲です。
第2項が注記を要しない取引で、一般競争入札や預金利息・配当金など取引条件が一般の取引と同様であることが明白な取引、役員に対する報酬等の給付、市場価格等を勘案して一般の取引と同様の条件で行われた取引が挙げられています。第3項は関連当事者ごとに表示すること、第4項が関連当事者の定義(10の号)です。
🏛️ 東証のルール
東京証券取引所は、企業行動規範の遵守すべき事項として「支配株主との重要な取引等」を置いています。有価証券上場規程441条の2と、同施行規則436条の4が根拠です。
ここでいう重要な取引等は、上場会社またはその子会社等の決定事実のうち適時開示を要するもので、第三者割当、株式交換・株式移転・合併・会社分割、事業の全部または一部の譲渡・譲受け、子会社等の異動を伴う株式・持分の譲渡・取得、固定資産の譲渡・取得、新たな事業の開始などが挙げられています。
求められる手続は2つです。支配株主から独立性を有する者による、当該決定が少数株主にとって不利益なものでないことに関する意見の入手。そして、入手した意見の概要を含む適時開示です。
コーポレートガバナンス・コードは再編された
ここは要注意です。2021年6月11日版のコーポレートガバナンス・コードには、原則1-7「関連当事者間の取引」がありました。役員や主要株主等との取引を行う場合に、取締役会があらかじめ取引の重要性・性質に応じた適切な手続を定めて枠組みを開示し、監視を行うべきという内容です。
しかし2026年7月21日に施行された改訂版でコードが再編され、第1章は原則1-1から1-4のみになりました。原則1-7は現行版に存在しません。補充原則も廃止されています。関連当事者間の取引は、原則4-3の解釈指針の中で扱われる形に整理されています。
ネット上には原則1-7を現在形で説明している記事が大量に残っています。コーポレート・ガバナンス報告書を作るときは、必ず現行版のコードにあたってください。改訂後のコーポレート・ガバナンス報告書の提出期限は2027年7月末日とされています。
2025年から2026年の見直し
2025年7月7日に公表され同月22日に施行された改正では、MBOや支配株主による完全子会社化に関する上場制度が見直されました。有価証券上場規程441条第1項・第2項、施行規則436条の3第1項から第3項、上場規程436条の5が改正され、特別委員会からの意見が「一般株主にとって公正であること」に関する意見へと変更されています。
2026年には少数株主保護に関する上場制度の見直しが行われ、議決権40%以上の支配的株主を有する上場会社に対して、取締役選任議案の少数株主の賛成割合の開示が義務づけられました。少数株主の賛成が50%超に達しない場合は、対話方針と対応状況の開示も求められます。適用は2026年12月1日以後に終了する事業年度に係る定時株主総会から順次です。あわせて独立性基準も見直されています。
🏢 上場審査で問われること
全部を解消しなければならないという決まりは確認できません。ただ、必要性と条件の妥当性を説明できないものは、審査で必ず問われます。
日本取引所グループの新規上場ガイドブックには、上場後のフォローアップの確認項目として、関連当事者取引の漸減・解消状況、および関連当事者取引や経営者が主導する取引の発生状況と当該取引に対する牽制体制が挙げられています。社長面談、監査役面談、独立役員面談でも、経営者が関与する取引の有無と牽制状況が確認項目に入っています。
注意したいのは、すべての関連当事者取引を解消しなければならないという定めは確認できないことです。ガイドブックで確認できるのは漸減・解消状況と牽制体制のフォローアップです。事業上の必要性があり、取引条件が一般の取引と同様であることを説明でき、承認手続が規程で担保されていれば、残せる取引もあります。
優先順位のつけ方
限られた期間で全部を片づけるのは現実的ではありません。優先順位は、必要性が説明できないもの、条件が一般と明らかに異なるもの、金額が大きいもの、経営者本人が当事者になっているものの順です。とくに役員個人との金銭貸借は、金額の大小にかかわらず早期に解消してください。
残す取引については、取引条件の決定方針を定め、取締役会の承認を要する旨を規程に落とし、実際に承認した記録を残します。この3点セットが揃っていれば、審査での説明が成り立ちます。関連する論点はIPO準備 完全ガイドで扱っています。
❓ よくある質問
A. 違います。企業会計基準第11号の第4項は、すべての会社の連結財務諸表または個別財務諸表に適用するとしています。会社法上も会社計算規則112条の注記があります。
A. 項目ごとに違います。損益計算書項目は3つに分かれ、貸借対照表項目は総資産の1%、個人との取引は1,000万円です。適用指針第13号の第15項・第16項をご確認ください。
A. しません。第9項(2)が、役員に対する報酬、賞与および退職慰労金の支払いを開示対象外としています。
A. 連結財務諸表では、連結にあたって相殺消去した取引は開示対象外です(第6項)。個別財務諸表では開示対象になり得ます。
A. 役員の近親者が議決権の過半数を自己の計算において所有している会社は、第5項(3)の関連当事者に含まれます。判定は所有関係で行います。
A. 2026年7月21日施行の改訂版でコードが再編され、第1章は原則1-1から1-4のみとなり、原則1-7は現行版に存在しません。関連当事者間の取引は原則4-3の解釈指針で扱われています。
A. 一律に解消を義務づける定めは確認できません。新規上場ガイドブックで確認できるのは漸減・解消状況と牽制体制のフォローアップです。必要性と条件の妥当性を説明できることが重要です。
A. 第7項が、無償取引や低廉な価格での取引について、独立第三者間取引と仮定した場合の金額を見積もって重要性を判断するとしています。金額がゼロだから対象外、とはなりません。
A. 会社計算規則112条1項ただし書により、会計監査人設置会社以外の株式会社は第4号から第6号までおよび第8号を省略できます。すべてを省略できるわけではありません。
📄 まとめ
関連当事者の範囲は企業会計基準第11号の第5項(3)が11区分で定めています。役員や主要株主の近親者が支配する会社まで入る点が実務では見落とされます。重要性の基準は適用指針第13号の第15項・第16項が項目ごとに定めており、損益計算書項目は3つに分かれ、貸借対照表項目は総資産の1%、個人との取引は1,000万円です。
役員報酬と、連結で相殺消去した取引は対象外です。会社法上は会社計算規則112条が注記を定め、会計監査人設置会社以外は第4号から第6号までおよび第8号を省略できます。
東証では有価証券上場規程441条の2が支配株主との重要な取引等を定めています。コーポレートガバナンス・コードは2026年7月21日に再編され、原則1-7は現行版に存在しません。上場準備では、全部を解消するのではなく、必要性と条件の妥当性を説明できる状態にすることを目標にしてください。
📚 参考(公的な一次情報)
- 企業会計基準第11号「関連当事者の開示に関する会計基準」第4項・第5項・第6項・第7項・第8項・第9項・第10項・第11項
- 企業会計基準適用指針第13号「関連当事者の開示に関する会計基準の適用指針」第14項から第20項
- 会社計算規則 第112条
- 東京証券取引所 有価証券上場規程 第441条、第441条の2、同施行規則第436条の3、第436条の4
- コーポレートガバナンス・コード(2026年7月21日)および改訂の趣旨に関する資料
- 日本取引所グループ 新規上場ガイドブック(2026年7月21日版)
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