監査を受けている監査法人に、別の業務も頼みたい。会社の事情を分かっているから話が早い、という理由でこの相談はよく出てきます。ただ、監査人の独立性というルールがあり、頼めるものと頼めないものがはっきり分かれています。
この記事では、公認会計士法が何を制限しているのかを条文で確認し、そのうえで日本公認会計士協会の倫理規則がどこまで網をかけているのかを整理します。IESBAの改訂と日本の適用時期の違いも押さえます。
- 公認会計士法が制限しているのは施行規則第5条に列挙された業務であること
- 制限は「大会社等から継続的な報酬を受けている場合」という要件付きであること
- 倫理規則は法令より広い範囲に網をかけていること
- 日本の倫理規則の適用開始は2023年4月1日で、IESBAの2022年12月15日とは別であること
- 2022年改正で独立性に関する指針などが廃止されたこと
- 監査報酬と非監査報酬が有価証券報告書で開示されること
この記事の見出し
📌 結論 全面禁止ではない。禁止されているのは列挙された業務
先に結論を書きます。監査法人に非監査業務をいっさい頼めないわけではありません。公認会計士法第34条の11の2第1項は、監査法人が大会社等から第2条第2項の業務のうち内閣府令で定めるものにより継続的な報酬を受けている場合に、当該大会社等の財務書類について監査証明業務を行ってはならないとしています。
ここでいう内閣府令で定めるものは、公認会計士法施行規則第5条が列挙しています。会計帳簿の記帳の代行その他の財務書類の調製に関する業務、財務又は会計に係る情報システムの整備又は管理に関する業務、現物出資財産その他これに準ずる財産の証明又は鑑定評価に関する業務、保険数理に関する業務、内部監査の外部委託に関する業務、そして監査しようとする財務書類を自らが作成していると認められる業務および被監査会社等の経営判断に関与すると認められる業務です。
したがって、法令上は「列挙された業務」かつ「大会社等」かつ「継続的な報酬」という3つの要件が揃ったときに禁止されます。ただし、法令に触れなければ何でもよいわけではありません。倫理規則がより広く網をかけています。
🧱 ルールは2層でできている
法令だけを見て大丈夫だと判断すると、倫理規則で止まることがあります。順序としては倫理規則のほうが広く網をかけています。
この論点でつまずくのは、法令だけを見て判断してしまうときです。公認会計士法は具体的な業務を列挙する方式ですが、日本公認会計士協会の倫理規則は「阻害要因」という考え方で、独立性を損なうおそれのある状況を広く捉えます。
たとえば、監査人が自ら行った作業の結果を後から自分で監査することになる状況は、自己レビューという阻害要因として扱われます。列挙されていないから大丈夫、という判断はできません。
倫理規則は2022年に全面的に改正された
日本公認会計士協会の倫理規則は、2022年7月25日の第56回定期総会で一部変更案が承認され、確定版が同年10月31日に公表されました。施行は2023年4月1日からで、早期適用も認められていました。
この改正に伴い、それまで独立性の実務を支えていた「独立性に関する指針」「利益相反に関する指針」「違法行為への対応に関する指針」が廃止されています。古い解説記事がこれらの指針の条番号を引用していることがありますが、現行のルールではありません。
非保証業務の経過措置
改正案の公表ページには、非保証業務の経過措置として、非保証業務の契約を2024年3月31日までに締結し業務を開始したときは、従前の契約条件に基づき従前の例により業務を継続できる旨の記載がありました。すでに終わっている経過措置ですが、当時の契約が今も続いている場合は、いつまでの取扱いなのかを確認しておいてください。
上場準備の局面では、会計基準の適用、決算体制の構築、株式価値の算定、内部監査の立ち上げと、外部に頼みたい業務が同時に発生します。どれを監査人に頼め、どれを別の専門家に頼むべきかを、公認会計士法と倫理規則の両面から整理してお返しします。監査人への照会文の形にもできます。公認会計士・税理士が直接お受けします。初回のご相談は無料です。
📜 公認会計士法は何を制限しているか
法が禁じているのは、これらの業務により大会社等から継続的な報酬を受けている場合です。すべての非監査業務が禁止されているわけではありません。
まず条文の構造を押さえます。公認会計士法第2条第1項が監査証明業務、第2条第2項が財務書類の調製、財務に関する調査若しくは立案、財務に関する相談という、いわゆるコンサルティング業務です。第2条第2項には、他の法律で制限されている事項についてはこの限りでないというただし書きがあります。
第24条は特定の事項についての業務の制限です。公認会計士が役員等であった場合、使用人であった場合、著しい利害関係がある場合に、第2条第1項の業務を行ってはならないとしています。第3項は公務員の在職中および退職後2年間の制限です。
大会社等に係る特例
第24条の2が個人の公認会計士について、第34条の11の2が監査法人について、大会社等に係る業務の制限の特例を定めています。第34条の11の2第1項は監査法人自身や実質的に支配していると認められる法人等が受ける報酬について、第2項は監査法人の社員が受ける報酬について定めています。
大会社等の範囲は第24条の2の各号に置かれています。会計監査人設置会社、金融商品取引法第193条の2第1項・第2項の監査証明を受けなければならない者、銀行、長期信用銀行、保険会社、これらに準ずる政令で定める者です。上場会社はもちろん、会計監査人を置いている非上場会社も含まれます。
監査法人についての一般的な制限
第34条の11は、監査法人が株式を所有・出資している者、社員が第24条第1項第1号の関係を有する場合、関与社員が役員等に就任した場合、著しい利害関係がある場合について制限を置いています。第3項は、当該関係を有する社員が当該業務に関与してはならないとしています。
🌐 IESBAの改訂と日本の適用時期
日本の適用開始は2023年4月1日です。IESBAの2022年12月15日と混同しないでください。基準を作る側と取り込む側で時期が違います。
ここが混乱しやすいところです。IESBAは2021年4月28日に非保証業務および報酬に関する改訂を公表し、その効力発生日を2022年12月15日以後に開始する期間の財務諸表の監査からとしています。国際倫理規程のSection 600が非保証業務、Section 410が報酬の規定で、いずれも差し替えられました。
これに対して、日本の倫理規則の適用開始は2023年4月1日です。IESBAの発効日をそのまま日本の適用時期として書いている解説を見かけますが、別のものです。
PIEの定義改訂はさらに別
IESBAは2022年4月に、上場事業体および社会的影響度の高い事業体(PIE)の定義に関する改訂を公表しています。こちらの適用は2024年12月15日以後に開始する期間の財務諸表の監査からです。非保証業務・報酬の改訂とは別物で、時期も違います。
日本の倫理規則におけるPIEの定義については、日本公認会計士協会の倫理委員会の資料で、公認会計士法上の大会社等との関係で類型を定める方向が示されていました。ただし現行の倫理規則の確定した条項番号と文言は、この記事の作成時点で原文を確認できていません。条項番号を引いて説明している資料を見たら、必ず倫理規則の原文で確かめてください。
サステナビリティ保証の倫理基準
IESBAは2025年1月17日に、サステナビリティ保証に関する倫理基準(IESSA)を公表しました。発効は2026年12月15日からで、バリューチェーンの構成要素に関する一部の規定は2028年7月1日からとされています。日本公認会計士協会も2026年7月に、サステナビリティおよび外部の専門家の作業の利用等に関する倫理規則の改正を行っています。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。
初回のご相談は無料です。お問い合わせはこちら
🧩 実務でよく出る依頼と判断の分かれ目
会社の側で判断しきれる論点ではありません。早い段階で監査人に照会し、回答を書面で残しておくのが実務です。
会計基準の相談まで一律に止まるわけではありません。会社が自ら判断したと言えるかどうかが分かれ目です。
会社側からいちばん多い相談は、会計基準の適用について監査人に相談してよいのか、というものです。これは一律に止まるわけではありません。監査人が事実関係を説明し、基準の内容や解釈の考え方を説明することと、会社に代わって判断を下すことは違います。
実務としては、会社が自ら検討した資料を作り、その内容について監査人と議論する、という順序にしておくことです。監査人に案を作ってもらってそれをそのまま採用すると、自己レビューの阻害要因が生じます。手順を変えるだけで扱いが変わる論点なので、ここは意識しておいてください。
監査役等の関与
倫理委員会の資料では、PIEに提供できる非保証業務について、監査役等の事前の了解を求める方向が示されていました。会社の側から見れば、監査法人に別の業務を依頼するときは、経営陣の判断だけで決められないということです。監査役会や監査等委員会に諮る手順を、社内の規程に入れておいてください。
報酬は開示される
有価証券報告書の第4【提出会社の状況】には【監査の状況】という欄があり、第二号様式の記載上の注意(56)がこの欄を定めています。監査報酬と非監査報酬は区分して開示されるため、監査法人にどれだけの非監査業務を頼んだかは外から見えます。金額の大きさ自体が独立性への疑問を招くことがある、ということも頭に置いておいてください。
🧠 阻害要因という考え方
倫理規則の中心にあるのは、独立性を損なうおそれのある事情を類型化した「阻害要因」という考え方です。列挙された業務に当たるかどうかだけでなく、どのような立場に置かれることになるのかで判断します。
非保証業務との関係でとくに問題になるのが自己レビューです。監査人が自ら関与して作った数値や資料を、後から自分で監査することになる状況を指します。会社の側から見れば、監査人に作ってもらった結果を監査してもらう、という構図です。誰が見ても検証になっていません。
ほかにも、会社の経営陣と同じ立場に立って主張することになる擁護、長期間の関与によって会社と近くなりすぎる馴れ合い、報酬や関係の継続を意識してしまう自己利益、経営陣からの圧力を受ける不当なプレッシャーといった類型があります。監査人が非保証業務を断るとき、法令の条文ではなくこれらの類型を理由に挙げることがあるのはこのためです。
阻害要因があれば必ず駄目なのか
そうではありません。阻害要因が識別された場合、その重要性を評価し、許容可能な水準にまで軽減できるセーフガードがあるかどうかを検討する、というのが基本的な枠組みです。ただし、社会的影響度の高い事業体に対する自己レビューの阻害要因のように、軽減では足りず提供そのものを認めないという方向で規定が強化されてきたのが、近年の改訂の流れです。
会社の側でこの評価をすることはできません。だからこそ、依頼する前に照会するという手順が要ります。契約を結んでから独立性の問題が判明すると、契約の解除か監査人の交代かという、どちらも重い選択になります。
📁 社内の手順に落とし込む
この論点は、担当者の記憶に頼ると必ず漏れます。社内の規程と手順に落としておいてください。実務上、次の3点を入れておくと機能します。
ひとつめは、外部委託の稟議に「監査人およびそのネットワークファームに該当するか」という確認欄を設けることです。監査法人本体ではなく、その関連会社やグループ内の税理士法人に依頼するケースがあり、そこで見落とされます。
ふたつめは、監査人への照会と回答の記録を残す仕組みです。誰がいつ何を照会し、どういう回答だったのか。担当者が交代しても追えるようにしておきます。上場審査でも、独立性についてどう管理しているかを問われることがあります。
みっつめは、監査役会または監査等委員会への報告です。会計監査人の選解任および報酬等について権限を持つのは監査役会等ですから、監査人に非監査業務を依頼する判断も、そこへ情報が上がる建て付けにしておくのが自然です。
年に一度は棚卸しをする
継続的な報酬という要件がある以上、単発の依頼が積み重なって継続的と評価される状態になっていないかを、定期的に見る必要があります。事業年度ごとに、監査人およびそのネットワークに支払った報酬を業務の種類別に集計してください。有価証券報告書の【監査の状況】に書く数字の基礎資料にもなります。
🏢 上場準備会社が押さえること
上場準備の局面では、外部に頼みたい業務が集中します。会計基準の適用、決算早期化、内部統制の構築、内部監査の立ち上げ、株式価値の算定、資本政策。これらを全部、監査を頼んでいる法人に相談したくなります。
気をつけるべきは、監査契約を結ぶ前と後で扱いが変わることです。監査法人を選ぶ前の段階で受けたショートレビューについては、その法人がその後に監査人になる場合の影響を確認する必要があります。ここは監査法人ごとに考え方の幅があるので、依頼の前に確認してください。
また、上場準備の途中で会計監査人設置会社になると、その時点から公認会計士法上の大会社等に当たることになります。それまで問題なく続いていた業務が、機関設計の変更をきっかけに制限にかかることがあります。定款変更のスケジュールと、外部委託している業務の一覧を突き合わせておいてください。
関連する論点はIPO準備 完全ガイドとショートレビュー(短期調査)とはで扱っています。
❓ よくある質問
A. 税務業務が一律に禁止されているわけではありませんが、内容によって扱いが変わります。申告書の作成が財務書類の調製に当たるかどうか、自己レビューの阻害要因が生じるかどうかを、監査人に照会してください。
A. 公認会計士法施行規則第5条が会計帳簿の記帳の代行その他の財務書類の調製に関する業務を明示しており、大会社等から継続的な報酬を受ける形では監査証明業務を行えなくなります。実務上は頼めません。
A. 施行規則第5条に内部監査の外部委託に関する業務が明示されています。監査を受けている法人には委託できません。
A. 相談自体ができないわけではありません。会社が自ら検討した内容について監査人と議論する形にし、判断は会社が行ったと言える状態にしておくことが実務上の分かれ目です。
A. 2022年改正の倫理規則は2023年4月1日から施行されています。その後、2025年4月1日以降適用、2026年4月1日以降適用、2027年4月1日以降適用の改正が続いています。
A. IESBAの非保証業務および報酬に関する改訂の効力発生日で、2022年12月15日以後に開始する期間の財務諸表の監査からとされています。日本の倫理規則の適用開始日とは別です。
A. 2022年改正の倫理規則の施行に伴い廃止されています。現行のルールは倫理規則と倫理規則実務ガイダンスです。
A. 有価証券報告書の【監査の状況】で監査報酬と非監査報酬が開示されます。第二号様式の記載上の注意(56)がこの欄を定めています。
A. 制限は監査人となる法人との関係で生じるものなので、理屈のうえではそうなります。ただし監査法人の交代は上場審査で必ず理由を問われます。独立性のために交代するという説明が成り立つかを含めて、慎重に検討してください。
📄 まとめ
監査法人への非監査業務の依頼は、全面的に禁止されているわけではありません。公認会計士法第34条の11の2は、施行規則第5条に列挙された業務により大会社等から継続的な報酬を受けている場合に、監査証明業務を行ってはならないとしています。3つの要件が揃ったときの制限です。
ただし、法令に触れなければよいという話でもありません。日本公認会計士協会の倫理規則は、阻害要因という考え方でより広く網をかけています。2022年改正の倫理規則は2023年4月1日から施行され、独立性に関する指針などは廃止されました。IESBAの発効日と日本の適用開始日は別物です。
実務上の分かれ目は、会社が自ら判断したと言える形になっているかどうかです。監査人に案を作ってもらうのではなく、会社が作った案を議論する。この順序を守るだけで扱いが変わる論点が多くあります。判断に迷ったら、依頼する前に監査人へ照会し、回答を書面で残してください。
📚 参考(公的な一次情報)
- 公認会計士法 第2条第1項・第2項、第24条、第24条の2、第34条の11、第34条の11の2
- 公認会計士法施行規則 第5条(業務の制限)
- 日本公認会計士協会「倫理規則」および倫理規則実務ガイダンス第1号から第4号
- 日本公認会計士協会「職業倫理に関する取組」(倫理規則の改正年と適用時期の一覧)
- IESBA 非保証業務および報酬に関する国際倫理規程の改訂(2021年4月公表)、PIEの定義に関する改訂(2022年4月公表)
- 企業内容等の開示に関する内閣府令 第二号様式 記載上の注意(56)【監査の状況】
あわせて読みたい