上野や浅草で長く店を続けてきた、あるいは入谷にアパートを持っている。そんなご家族に相続が起きたとき、まず心配になるのが「店やアパートの土地に、どれくらい相続税がかかるのか」ではないでしょうか。
台東区は小さな商店や工場、賃貸物件が密集した街です。土地の評価額は低くない一方、事業や賃貸に使っていた土地には評価額を大きく減らせる制度があります。この記事では、商店やアパートの敷地に使える「小規模宅地等の特例」を整理します。
- 商店の敷地は400㎡まで80%、アパートの敷地は200㎡まで50%減額できること
- 「相続開始前3年以内に始めた事業・貸付」が原則対象外になる理由と例外
- 自宅と併用するときの限度面積の計算方法
- 令和8年度税制改正で、5年以内に買った貸付用不動産の評価が変わること
この記事の見出し
🏠 商店・アパートの敷地にも「小規模宅地等の特例」がある
小規模宅地等の特例とは、亡くなった方(被相続人)やその方と生計を一にしていた親族が事業や居住に使っていた土地について、相続税を計算するときの評価額を一定面積まで大きく減らせる制度です(措法69条の4、国税庁タックスアンサー No.4124)。自宅の敷地(330㎡まで80%減額)が有名ですが、商店や工場などの事業用の土地、アパートや駐車場などの貸付用の土地にも適用があります。土地の使われ方によって、次の3つに分かれます。
| 区分 | 主な対象 | 限度面積 | 減額割合 |
|---|---|---|---|
| 特定事業用宅地等 | 商店・飲食店・工場・事務所など(不動産貸付業・駐車場業・自転車駐車場業・準事業を除く)の敷地 | 400㎡ | 80% |
| 貸付事業用宅地等 | アパート・貸店舗・貸ビル・月極駐車場などの敷地 | 200㎡ | 50% |
| 特定居住用宅地等 | 被相続人等が住んでいた自宅の敷地 | 330㎡ | 80% |
出典:国税庁 No.4124。このほか、被相続人等が50%超の株式を持つ同族会社に貸していた土地が一定の要件を満たす場合の「特定同族会社事業用宅地等」(400㎡・80%)もあります。
図1 土地の使われ方で限度面積と減額割合が変わります(国税庁 No.4124より作成)。
🧾 商店の敷地:特定事業用宅地等は400㎡まで80%減額
被相続人が営んでいた商店や工場の敷地は、要件を満たせば400㎡まで評価額が80%減額されます。評価額8,000万円の土地なら、6,400万円を引いた1,600万円で相続税を計算します。
対象になる「事業」の範囲
ここでいう事業からは、不動産貸付業・駐車場業・自転車駐車場業・準事業が除かれます。準事業とは、事業と呼べる規模ではない不動産の貸付けなどで、相当の対価を得て継続的に行うものです。「人に貸して家賃をもらう」タイプの土地は、次章の貸付事業用宅地等(200㎡・50%)の側になります。
相続人が満たすべき2つの要件
- 事業承継要件:その土地の上で営まれていた被相続人の事業を、相続税の申告期限までに引き継ぎ、かつ申告期限までその事業を営んでいること
- 保有継続要件:その土地を相続税の申告期限まで持ち続けていること
相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です(相法27条)。申告期限までにお店をたたむ、土地を売る、といった場合は特例が使えなくなります。なお、被相続人と生計を一にしていた親族が営んでいた事業の敷地の場合は、相続開始の直前から申告期限まで事業を営み続ける「事業継続要件」に置き換わります。
🏢 アパートの敷地:貸付事業用宅地等は200㎡まで50%減額
アパート、貸店舗、貸ビル、月極駐車場などの敷地は「貸付事業用宅地等」として、200㎡まで評価額が50%減額されます。要件の考え方は特定事業用宅地等と同じで、貸付事業を申告期限までに引き継いで続けることと土地を申告期限まで持ち続けることの2つです。
| 比較項目 | 特定事業用宅地等 | 貸付事業用宅地等 |
|---|---|---|
| 典型例 | 商店・飲食店・工場・事務所 | アパート・貸店舗・月極駐車場 |
| 限度面積・減額割合 | 400㎡・80% | 200㎡・50% |
| 事業に関する要件 | 申告期限までに事業を引き継ぎ、申告期限まで営んでいること | 申告期限までに貸付事業を引き継ぎ、申告期限まで行っていること |
| 土地に関する要件 | 申告期限まで保有していること | |
| 直前3年の制限 | 3年以内に新たに事業用にした土地は原則対象外 | 3年以内に新たに貸付用にした土地は原則対象外 |
出典:国税庁 No.4124。要件は代表的なものの整理で、適用可否は個別の事実関係によります。
相続の直前に始めた事業・貸付は原則として対象外
相続税を減らす目的で亡くなる直前に土地を事業用・貸付用に変える動きを防ぐため、相続開始前3年以内に新たに事業用・貸付用にした土地は、原則として特例の対象から外されます(3年以内事業宅地等・3年以内貸付宅地等)。ただし、それぞれに例外があります。
図2 直前3年以内に始めた場合でも、例外に当たれば特例を使える余地があります(国税庁 No.4124より作成)。
事業用の例外は、その土地の上の建物・構築物やその事業に使っていた減価償却資産のうち被相続人等が持っていたものの相続開始時の価額の合計額が、新たに事業用にした土地の相続開始時の価額の15%以上である場合です。貸付用の例外は、相続開始の日まで3年を超えて特定貸付事業(準事業以外の貸付事業)を行っていた場合です。
📐 自宅と併用するとき:限度面積の計算に注意
台東区では「1階が店舗、2階以上が自宅とアパート」という建物も珍しくありません。複数の区分の土地がある場合、面積の枠は単純に足し算にはなりません。
図3 貸付事業用宅地等を選ぶかどうかで計算式が切り替わります(国税庁 No.4124より作成)。
なお、対象になり得る土地を取得した相続人等が2人以上いる場合、どの土地に特例を使うかについて全員の同意が必要です。原則として申告期限までに遺産分割が済んでいることも条件です(No.4124)。
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💰 アパートの敷地は「貸家建付地」としても評価が下がる
人に貸している建物の敷地は「貸家建付地」として、自用地(自分で使っている土地)より低く評価されます(国税庁タックスアンサー No.4614)。
自用地としての価額 - 自用地としての価額 × 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合
借地権割合・借家権割合は国税庁「路線価図・評価倍率表」で確認します。賃貸割合は課税時期に実際に貸している部分の床面積の割合です。空室でも、退去後すみやかに募集していて空室期間が1か月程度など一時的と認められる場合は、貸していたものとして扱って差し支えないとされています。
| 計算のステップ | 金額(モデルケース) |
|---|---|
| アパートの敷地(200㎡・路線価50万円/㎡と仮定) | 1億円 |
| 貸家建付地としての減額(借地権割合70%・借家権割合30%・賃貸割合100%と仮定) | △2,100万円 |
| 貸家建付地としての評価額 | 7,900万円 |
| 小規模宅地等の特例(200㎡まで50%減) | △3,950万円 |
| 最終的な評価額 | 3,950万円 |
路線価・各割合はすべて説明のための仮定です。実際の数値は国税庁の路線価図・評価倍率表でご確認ください。減額の効果は土地ごとに大きく異なります。
⚖️ 令和8年度税制改正:直前5年以内に取得した貸付用不動産の評価
令和8年度税制改正の大綱では、貸付用不動産の市場価格と相続税評価額との乖離を踏まえた財産評価の見直しが示されています(財務省「令和8年度税制改正の大綱」二 資産課税 3(4))。
- 課税時期前5年以内に対価を伴う取引により取得または新築をした一定の貸付用不動産は、課税時期における通常の取引価額に相当する金額で評価する
- 課税上の弊害がない限り、取得価額をもとに地価の変動等を考慮して計算した価額の100分の80相当額で評価できる
- 不動産特定共同事業契約や信託受益権に係る一定の権利の目的となっている貸付用不動産は、取得時期にかかわらず通常の取引価額で評価する
- 適用は令和9年1月1日以後に相続等により取得をする財産の評価から
上記1点目の改正には、改正を通達に定める日までに、被相続人等がその所有する土地(同日の5年前から所有しているものに限ります)に新築をした家屋(同日において建築中のものを含みます)には適用しないという経過措置が示されています。細目は今後の通達で定められる予定のため、実際の適用にあたっては最新の国税庁の公表内容をご確認ください。
この見直しは直前5年以内に購入・新築した貸付用不動産の「評価方法」に関するもので、小規模宅地等の特例そのものが変わるわけではありません。ただし、賃貸物件を使った相続対策では取得の時期が結果を左右することになります。
📍 台東区の商店・アパートオーナーが押さえておきたいこと
台東区の事業所数は23,012、うち卸売業・小売業が7,643事業所(33.2%)と最も多く、雇用者規模別では0人と1〜4人を合わせて従業者4人以下が全体の3分の2を占めます(「令和3年経済センサス‐活動調査」令和3年6月1日現在/台東区行政資料集より)。家業として続けてきたお店が多い街であることが数字にも表れています。上野・浅草エリアの路線価は高く、土地の評価額が大きいほど、特例を使えるかどうかで税額は大きく変わります。
相続税の申告先は、亡くなった方の住所地を所轄する税務署です。台東区では下谷地区が東京上野税務署(池之端1-2-22)、浅草地区が浅草税務署(蔵前2-8-12)の管轄です。国税庁の案内では、令和元年7月以降、浅草税務署の資産課税部門を廃止し東京上野税務署で広域運営を実施しているとされています。
⏰ いつまでに
相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に申告と納付を行います(相法27条・33条)。特例はこの期限までに申告することが適用の条件です。
🧾 何を持って
賃貸借契約書、確定申告書(不動産所得・事業所得)、固定資産税の課税明細書、建物の登記事項証明書、入居状況が分かる資料、減価償却資産の一覧など。3年以内ルールの判定には、事業や賃貸を「いつから始めたか」が分かる資料が欠かせません。
商店やアパートの敷地は、どの土地に特例を使うかで税額が変わります。お問い合わせフォームからご連絡ください。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。相続税の申告と事業承継の支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
❓ よくある質問
貸付事業用宅地等には保有継続要件があり、その土地を相続税の申告期限まで有していることが必要です。申告期限前に売却すると要件を満たさなくなります。売却を検討している場合は、時期を含めて事前にご相談ください。
駐車場業は貸付事業に含まれるため、200㎡まで50%減額の「貸付事業用宅地等」として判定します。ただし、この特例の対象となる土地は建物または構築物の敷地であることが前提です。舗装や車止めなどの構築物がまったくない青空駐車場は対象外と扱われることがあります。
貸付事業用宅地等を選ばない場合は、400㎡と330㎡の合計730㎡まで併用できます。貸付事業用宅地等を選ぶ場合は、図3のパターンBの算式で200㎡の枠に換算されます。
🗒️ まとめ
- 商店・工場などの敷地は400㎡まで80%、アパート・駐車場などの敷地は200㎡まで50%減額できます
- いずれも、申告期限までに事業・貸付を引き継いで続け、土地を保有し続けることが要件です
- 直前3年以内に始めた事業・貸付は原則対象外ですが、15%基準や3年超の特定貸付事業という例外があります
- 貸付事業用宅地等を選ぶ場合、限度面積は200㎡に換算して計算します
- 令和9年1月1日以後の相続からは、直前5年以内に取得・新築した一定の貸付用不動産の評価方法が見直される予定です
相続手続き全体の流れは第1回「親が亡くなったらやることは?」、財産の洗い出し方は第7回「相続財産の調べ方は?」で解説しています。連載の全30回は相続税 完全ガイドからご覧いただけます。