新リース会計基準の適用により、これまで賃貸借処理していた店舗や事務所の賃借契約についても使用権資産が計上されます。ここで実務担当者が直面するのが、「その使用権資産は減損会計の対象になるのか」「資産グループの帳簿価額が増えると、これまで減損の必要がなかった店舗まで減損損失を計上することになるのではないか」という論点です。
本記事は、店舗・事務所・設備を多数賃借しており、既に減損会計の運用実績があるIPO準備会社・上場企業の経理/管理部門の方を想定し、公認会計士・税理士が監査対応で実際に問われる点を含めて整理します。
図 使用権資産の減損の兆候の判定
この記事の見出し
結論──使用権資産は減損会計の対象。ただし対象外となるリースがある
先に結論を述べます。ポイントは3つです。
- 使用権資産及び使用権資産を含む資産グループの減損の兆候の把握、減損損失を認識するかどうかの判定及び減損損失の測定は、通常の資産に準じて行います(減損適用指針61項)。特別な減損ルールが新設されたわけではありません。
- 短期リース又は少額リースの簡便的な取扱いを適用しているリースに係る使用権資産は、減損会計基準の対象とはしません(同62-2項)。
- 減損会計基準の対象とはされないリースを含む資産グループの将来キャッシュ・アウト・フローには、当該リースに係る将来の支払リース料が含まれます(同61項なお書き)。「帳簿価額に入れるか」と「キャッシュ・フローに入れるか」は裏表の関係です。
影響が大きいのは3点目です。オンバランスした使用権資産は資産グループの帳簿価額を押し上げる一方、その分の支払リース料は将来キャッシュ・アウト・フローから外れます。この入替えが判定にどう効くかを、後半の数値例で確認します。
使用権資産が減損会計基準の対象になる理由
減損会計適用指針は固定資産を対象に適用され、固定資産には有形固定資産、無形固定資産及び投資その他の資産が含まれます(減損適用指針5項)。対象資産から除かれるのは、金融資産、繰延税金資産、市場販売目的のソフトウェアなど、他の基準に減損処理に関する定めがある資産に限られます(同6項)。
他方、使用権資産は、対応する原資産を自ら所有していたと仮定した場合に貸借対照表において表示するであろう科目に含める方法か、対応する原資産の表示区分(有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産等)において使用権資産として区分する方法のいずれかにより表示されます(基準49項)。いずれの方法でも固定資産として表示されるため、除外規定に当たらない限り減損会計基準の対象になる、という整理です。なお、2024年改正の減損会計適用指針の適用時期は、2024年に公表されたリース会計基準と同様とされています(減損適用指針65項(4))。
【図解】使用権資産の減損を5つのステップで整理する
減損の枠組み自体は従来と同じで、STEP1で「対象に含めるリースの範囲」を決める作業が新たに加わります。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
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帳簿価額と将来キャッシュ・フローの「入れ方」はリースの取扱いで変わる
最も間違えやすいのが、資産グループの帳簿価額に何を含め、割引前将来キャッシュ・フローの見積りに支払リース料を含めるかどうかの組合せです。減損会計適用指針は、次の3類型について定めを置いています。
| リースの取扱い | 資産グループの帳簿価額 | 将来キャッシュ・アウト・フロー |
|---|---|---|
| 原則どおり使用権資産を計上しているリース | 使用権資産の帳簿価額を含める(減損適用指針5項、基準49項) | 支払リース料は使用権資産とリース負債に既に反映されているため、これを重ねて織り込まない整理が一般的と考えられます |
| 短期リース・少額リースの簡便的取扱いを適用しているリース | 当該使用権資産は減損会計基準の対象とはしない(同62-2項) | 当該リースに係る将来の支払リース料が含まれる(同61項なお書き) |
| 企業会計基準第13号の適用初年度開始前の所有権移転外ファイナンス・リースで賃貸借処理を継続しているリース | 未経過リース料の現在価値を使用権資産の帳簿価額とみなす(同60項、リース指針114項) | 当該みなし帳簿価額と比較される将来キャッシュ・アウト・フローには、将来の支払リース料が含まれない(同61項なお書き) |
3つ目の類型で減損損失が使用権資産に配分された場合、重要性があるときは負債の部において「使用権資産減損勘定」等適切な科目をもって計上し、当該負債はリース契約の残存期間にわたり定額法によって取り崩され、当該取崩額は各事業年度の支払リース料と相殺されます(減損適用指針60項)。旧基準下で「リース資産減損勘定」を使っていた会社は、勘定名と取崩しの継続可否を確認しておく必要があります。
また、使用権資産総額に重要性が乏しいため利息相当額の合理的な見積額を控除しない方法(リース指針40項(1))によっている場合でも、減損損失の認識の判定及び測定にあたっては、その時点における利息相当額の合理的な見積額を使用権資産から控除して行うことができ、その場合は同額をリース負債から控除します(減損適用指針59-2項)。
【数値例】飲食店1店舗で減損損失を計算する
前提(単位:千円)
飲食チェーンA社の1店舗を1つの資産グループとします。内装・厨房設備等の自社所有資産の帳簿価額は36,000、店舗賃借に係る使用権資産の帳簿価額は84,000(対応するリース負債は86,000)、残りの借手のリース期間は5年です。同店舗では厨房機器の一部を少額リースの簡便的取扱いにより費用処理しており、その支払リース料は年1,200です。主要な資産は内装・厨房設備で、経済的残存使用年数は5年、5年経過時点の正味売却価額は2,000と見込まれます。営業損益は2期連続でマイナスで、減損の兆候があると判断しました。割引率は年5.0%とします。
| 手順 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 資産グループの帳簿価額 | 自社所有36,000+使用権資産84,000(少額リースの使用権資産は含めない) | 120,000 |
| 年間の将来キャッシュ・フロー | 店舗の支払リース料は控除せず、少額リースの支払リース料1,200のみ控除 | 21,000 |
| 割引前将来キャッシュ・フローの総額 | 21,000×5年+5年経過時点の正味売却価額2,000 | 107,000 |
| 認識の判定 | 107,000<帳簿価額120,000 | 減損損失を認識 |
| 使用価値(回収可能価額) | 21,000×年金現価係数4.32948+2,000÷1.055 | 92,486 |
| 減損損失 | 120,000-92,486 | 27,514 |
| 使用権資産への配分 | 27,514×84,000/120,000 | 19,260 |
| 自社所有資産への配分 | 27,514×36,000/120,000 | 8,254 |
配分後の使用権資産の帳簿価額は84,000-19,260=64,740です。減損損失の戻入れは行わず、減損処理を行った資産については減損損失を控除した帳簿価額に基づき減価償却を行うため(減損適用指針55項)、翌期以降の減価償却費は64,740÷5年=12,948となります。所有権移転が認められるリース以外のリースに係る使用権資産は、原則として借手のリース期間を耐用年数とし、残存価額をゼロとして減価償却費を算定します(基準38項)。
減損損失を計上しても減額されるのは使用権資産のみで、リース負債はそのまま残る点が実務上の注意点です。
実務上の留意点──自社だけで対応すると負担が大きい箇所
1.資産グループごとの使用権資産の紐付け
減損の判定は資産グループ単位で行いますが、リース契約の管理台帳は契約単位で作られていることが多く、そのままでは資産グループに集計できません。店舗ごと・事業所ごとに使用権資産とリース負債を割り当てる仕組みを、初年度の期首時点までに作っておく必要があります。監査の現場では、計上した使用権資産の合計と資産グループ別の合計が一致するかという紐付けの網羅性が、最初に確かめられます。
2.兆候判定の対象範囲が広がる
営業活動から生ずる損益が継続してマイナスであることは減損の兆候となり、「継続してマイナス」とはおおむね過去2期がマイナスであったことを指します(減損適用指針12項(2))。この「営業活動から生ずる損益」には減価償却費が含まれる一方、支払利息など財務活動から生ずる損益は含まれません(同12項(1))。従来は支払リース料として営業費用に計上されていた金額が減価償却費と利息費用に分かれ、利息費用が営業損益から外れることで営業損益の水準が動くため、これまで兆候なしと整理していた拠点の判定結果が変わる可能性があります。
3.リース負債の取扱いに明文の定めがない
減損会計適用指針には、使用権資産に減損会計基準を適用する際にリース負債をどう取り扱うかを定めた規定は置かれていません。数値例のとおり、減損損失を計上しても減額されるのは使用権資産だけで、リース負債は残ります。資産グループの帳簿価額にリース負債を反映させるか、割引前将来キャッシュ・フローに支払リース料を含めるかは、会社として一貫した整理を文書化し、監査法人と早い段階で認識を合わせておきたい論点です。
4.注記の準備
重要な減損損失を認識した場合には、資産又は資産グループの用途・種類・場所などの概要、認識に至った経緯、特別損失に計上した金額と主な固定資産の種類ごとの内訳、資産グループの概要とグルーピングの方法、回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率などを注記します(減損適用指針58項)。「主な固定資産の種類ごとの内訳」に使用権資産をどの科目で示すかは、基準49項で選択した表示方法と整合させる必要があります。
導入対応チェックリスト
- 短期リース・少額リースの簡便的取扱いを適用しているリースを一覧化し、減損会計基準の対象から除いているか
- 除いたリースに係る支払リース料を、資産グループの将来キャッシュ・アウト・フローに含めているか
- 使用権資産を資産グループ別に集計できる管理台帳になっているか
- 賃貸借処理を継続している企業会計基準第13号適用前の所有権移転外ファイナンス・リースについて、みなし帳簿価額と旧「リース資産減損勘定」の残高を確認したか
- 利息相当額を控除しない方法を採用している場合、減損の判定時に控除する取扱いを選択するかを決めているか
- 使用権資産の計上により営業損益が変動し、兆候判定の結果が変わる拠点を洗い出したか
- 減損後の使用権資産について、残りのリース期間で減価償却を行う計算に修正しているか
- 減損損失の注記での使用権資産の示し方を、貸借対照表の表示方法と揃えているか
よくある質問
減損の判定は、他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位で行います(減損適用指針7項)。使用権資産は通常その資産グループの構成資産の1つとなり、認識された減損損失が合理的な方法で各構成資産に配分される結果として減額されます(同26項)。
短期リース又は少額リースの簡便的な取扱いでは、リース開始日に使用権資産及びリース負債を計上せず、借手のリース料を借手のリース期間にわたって原則として定額法により費用として計上します(リース指針20項、22項)。貸借対照表に使用権資産が計上されないため、減損会計基準の対象とはされず(減損適用指針62-2項)、その代わりに支払リース料が将来キャッシュ・アウト・フローに含まれます(同61項なお書き)。
経過措置として、適用初年度の期首時点で新たに識別されたリースについて一定の方法を選択する場合、適用初年度の期首時点の使用権資産に「固定資産の減損に係る会計基準」を適用することとされています(リース指針123項(3))。移行時に一括してオンバランスする使用権資産についても、期首時点で兆候の把握から測定までを行う必要があると考えられます。
減損損失の戻入れは行いません(減損適用指針55項)。他方、借手のリース期間に変更があるときなどはリース負債を修正し、その修正額に相当する金額を使用権資産に加減します(リース指針46項)。ただし、使用権資産の帳簿価額をゼロまで減額してもなおリース負債の測定の減額がある場合には、残額を損益に計上します(同46項ただし書き)。減損後は使用権資産の帳簿価額が小さいため、このただし書きに当たる可能性が高まる点に留意が必要です。
まとめ
使用権資産の減損は、新しい減損ルールを覚える論点ではなく、既存の減損会計の枠組みに「どのリースを乗せ、どのリースを乗せないか」を正しく仕分ける論点です。仕分けを誤ると、帳簿価額と将来キャッシュ・アウト・フローの双方が同時にずれ、認識の判定結果そのものが変わります。減損の兆候の把握、認識の判定及び測定は通常の資産に準じて行う(減損適用指針61項)という原則を出発点に、対象範囲・グルーピング・台帳整備の3点を早めに固めておくことをおすすめします。
連載の全体像は新リース会計基準の連載目次にまとめています。前回のサブリース(中間的な貸手)、対象範囲の判断に直結する短期リース・少額リースの簡便的取扱いもあわせてご参照ください。次回は「税務との差異と申告調整」を取り上げます。
資産グループへの使用権資産の紐付け、兆候判定の見直し、監査法人への説明資料の整備まで、公認会計士・税理士が実務に即して支援します。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援と内部統制の整備支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の会計処理を保証するものではありません。最終的な会計処理及び投資判断にあたっては、監査法人・顧問会計士等の専門家にご相談ください。
参考:企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」38項、49項/企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」20項、22項、40項(1)、46項、114項、123項(3)/企業会計基準適用指針第6号「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」5項、6項、7項、8項、12項、18項、25項、26項、55項、58項、59-2項、60項、61項、62-2項、65項(4)
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