役員報酬は、決めるタイミングを一度逃すと、その事業年度のあいだ立て直しがききません。期の途中で「やはり上げたい」と思っても、税務では原則として通らないからです。
逆に言えば、1年の流れをあらかじめ押さえておけば、迷う場面はほとんどなくなります。いつ決め、どこまでを議事録に残し、毎月どう支払うか。順番が決まっている作業だからです。
この記事では、会社法と法人税法の条文で確認できる範囲に絞って、役員報酬をめぐる1年の流れを整理します。全体像は役員給与の税務 完全ガイドに、毎月同額で支給する仕組みそのものは定期同額給与とは?改定できる時期と3か月ルールにまとめています。
🧭 1年の流れを先に見る
3月決算の会社を例にとると、流れはおおむね次のようになります。決算作業を経て、6月に定時株主総会を開き、そこで役員報酬を決議する。決議した月額を、翌月以降の支給日に同額で払い続ける。そして翌年の定時株主総会で、また見直す。
定時株主総会は、毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならないとされています(会社法第296条第1項)。多くの会社が決算日から2、3か月後に開いているのは、この定めと、税務申告の期限とをにらんだ結果です。
3月経過日等を過ぎると、原則として月額は動かせません。ここが1年の分かれ目です。
3月経過日等は決算月によって変わります。会計期間開始の日から三月を経過する日ですから、次のようになります。
| 決算月 | 会計期間開始の日 | 3月経過日等 |
|---|---|---|
| 3月決算 | 4月1日 | 6月30日 |
| 12月決算 | 1月1日 | 3月31日 |
| 9月決算 | 10月1日 | 12月31日 |
| 6月決算 | 7月1日 | 9月30日 |
確定申告書の提出期限の特例に係る税務署長の指定を受けている場合は、月数の読み替えがあります。
🏛 誰がどう決めるのか
会社法は、取締役の報酬等について次のように定めています。
取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(……「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。一 報酬等のうち額が確定しているものについては、その額(会社法第361条第1項第1号)
決め方は二つです。定款に定めるか、株主総会の決議によるか。定款で決めてしまうと変更のたびに定款変更が必要になるため、実務では株主総会の決議によることがほとんどです。
総額の枠と各人別の配分
株主総会で各取締役の個別の金額まで決議することもできますが、総額の上限だけを決議し、各人への配分は取締役会や代表取締役に一任するという運用が広く行われています。この場合、株主総会議事録には総額の枠が、取締役会議事録や決定書には各人別の金額が残ることになります。
税務の側から見ると、この二段構えには意味があります。法人税法施行令第70条第1項第1号ロは、定款の規定または株主総会等の決議により役員に対する給与として支給することができる限度額等を定めている内国法人が、その役員に対して支給した給与の額の合計額が限度額等を超える場合の超える部分を、不相当に高額な部分として掲げているからです。枠を決めた以上、その枠を超えた支給は形式基準で否認されます。
枠は決議したが各人別の配分を書いた書面がない、という状態は避けてください。誰にいくら払うことにしたのかを示す書面がないと、支給額の根拠を後から説明できません。
三つの段階それぞれに、残すべき書面があります。どれか一つが欠けると説明が途切れます。
⏰ 改定できる時期は決まっている
税務の側の制約に移ります。定期同額給与として損金にするには、法人税法施行令第69条第1項第1号が掲げる三つの改定のいずれかに当たる必要があります。
| 改定の種類 | 条文が求めるもの |
|---|---|
| 通常の改定(イ) | 会計期間開始の日から三月を経過する日までにされた改定であること。ただし、継続して毎年所定の時期にされる改定が三月経過日等後にされることについて特別の事情があると認められる場合は、その改定の時期 |
| 臨時改定事由による改定(ロ) | 役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情によりされた改定であること |
| 業績悪化改定事由による改定(ハ) | 経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由によりされた改定であること。減額した改定に限られる |
イの「特別の事情があると認められる場合」については通達が例を示しています。法人の役員給与の額がその親会社の役員給与の額を参酌して決定されるなどの常況にあるため、親会社の定時株主総会の終了後でなければ改定に係る決議ができない等の事情がある場合です(法人税基本通達9-2-12の2)。単に総会を開くのが遅れた、というだけでは当たりません。
ロについても通達に例があります。定時株主総会後、次の定時株主総会までの間において社長が退任したことに伴い臨時株主総会の決議により副社長が社長に就任する場合や、合併に伴いその役員の職務の内容が大幅に変更される場合です(法人税基本通達9-2-12の3)。同通達の注は、役員の職制上の地位とは、定款等の規定または総会もしくは取締役会の決議等により付与されたものをいうとしています。
ハは減額の場合に限られます。通達は、経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由とは、経営状況が著しく悪化したことなどやむを得ず役員給与を減額せざるを得ない事情があることをいうのであるから、法人の一時的な資金繰りの都合や単に業績目標値に達しなかったことなどはこれに含まれないとしています(法人税基本通達9-2-13)。
三つの入口はいずれも施行令第69条第1項第1号に書かれています。ここにない理由では通りません。
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📄 議事録に何を書くか
決議をしたら議事録を作ります。株主総会の議事については、法務省令で定めるところにより議事録を作成しなければならないとされ(会社法第318条第1項)、株式会社は株主総会の日から十年間、その議事録を本店に備え置かなければなりません(同条第2項)。
法務省令が定める記載事項は次のとおりです。
| 記載事項(会社法施行規則第72条第3項) | 実際に書く内容の例 |
|---|---|
| 開催された日時および場所 | その場に存しない取締役等や株主が出席した場合は、その出席の方法も含めます |
| 議事の経過の要領およびその結果 | 報酬の議案の内容と、可決された旨 |
| 一定の規定により述べられた意見または発言 | 監査役や会計参与が報酬について意見を述べた場合は、その概要 |
| 出席した取締役、執行役、会計参与、監査役または会計監査人の氏名または名称 | 出席者の氏名 |
| 議長が存するときは議長の氏名、議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名 | 議長と作成者 |
総会を開かずに決議したことにする場合
取締役または株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合において、その提案につき議決権を行使することができる株主の全員が書面または電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、その提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなされます(会社法第319条第1項)。株主が代表者一人という会社では、この形をとることもあります。この場合、会社は決議があったものとみなされた日から十年間、その書面または電磁的記録を本店に備え置かなければなりません(同条第2項)。
取締役会議事録は署名が要る
各人別の配分を取締役会で決めるのであれば、取締役会議事録が必要です。取締役会の議事については法務省令で定めるところにより議事録を作成し、議事録が書面をもって作成されているときは、出席した取締役および監査役はこれに署名し、または記名押印しなければなりません(会社法第369条第3項)。取締役会設置会社は、取締役会の日から十年間、その議事録を本店に備え置く必要があります(会社法第371条第1項)。
取締役会の決議に参加した取締役であって議事録に異議をとどめないものは、その決議に賛成したものと推定されます(会社法第369条第5項)。議事録は、後から責任の所在を示す書面でもあります。作成を後回しにしないでください。
💴 毎月の支払いで気をつけること
決議が済んだら、あとは同額で払い続けるだけ、と言いたいところですが、いくつか押さえておく点があります。
まず、支給額が同額かどうかは、手取りで見ることもできます。施行令第69条第2項は、定期給与の各支給時期における支給額から源泉税等の額を控除した金額が同額である場合には、当該定期給与の当該各支給時期における支給額は同額であるものとみなすと定めています。源泉税等の額とは、源泉徴収をされる所得税の額、特別徴収をされる地方税の額、定期給与の額から控除される社会保険料の額その他これらに類するものの額の合計額をいいます。社会保険料の改定で手取りが動く月があっても、額面が同じであれば問題ありませんし、逆に手取りをそろえる設計も条文上は認められています。
次に源泉徴収です。給与等の支払をする者は、その支払の際に所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに国に納付しなければなりません(所得税法第183条第1項)。給与の支給人員が常時10人未満の源泉徴収義務者には、半年分をまとめて納める納期の特例があり、1月から6月までに源泉徴収した分は7月10日、7月から12月までに源泉徴収した分は翌年1月20日が納付期限になります。
📁 一年を通して残しておく書類
税務調査で役員報酬が論点になったとき、調査官が最初に求めるのは、決議の記録と支給の記録です。決議の記録は、いくらと決めたのかとその決定権者を示すもの。支給の記録は、決めたとおりに払われたことを示すものです。この二つがそろっていれば、説明はほとんど終わります。
時期ごとに整理すると、次のようになります。作業そのものは難しくありませんが、後から作れない書類ばかりです。その場で作って、その場で保管してください。
| 時期 | やること | 残るもの |
|---|---|---|
| 決算日の直後 | 翌期の役員報酬の水準を検討する。前期の実績と資金繰りを見る | 検討資料、事業計画 |
| 定時株主総会 | 報酬の総額または各人別の額を決議する | 株主総会議事録、または決議の省略に係る書面 |
| 総会の直後 | 各人別の配分を決める。三月経過日等までに完了させる | 取締役会議事録または決定書 |
| 毎月の支給日 | 同額で支給し、源泉徴収を行う | 賃金台帳、源泉徴収簿、振込の記録 |
| 翌月10日まで | 源泉所得税を納付する。納期の特例を受けている場合はその期限 | 納付書の控え |
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公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。法人の税務顧問と申告業務、新しい会計基準の導入支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
❓ よくある質問
株主が社長一人です。それでも株主総会の議事録は必要ですか
必要です。会社法第318条第1項は、株主総会の議事については法務省令で定めるところにより議事録を作成しなければならないとしています。株主が一人であっても例外は設けられていません。実際に総会を開かずに済ませるのであれば、会社法第319条第1項の決議の省略の形をとり、同意の意思表示をした書面または電磁的記録を十年間備え置くことになります。
定時株主総会が7月にずれ込みました。3月決算ですが改定できますか
3月決算の会社の三月経過日等は6月30日です。7月の決議による改定は、通常の改定の枠から外れます。残る道は、臨時改定事由または業績悪化改定事由に当たるかどうか、あるいは施行令第69条第1項第1号イのただし書が定める特別の事情に当たるかどうかです。通達が例に挙げているのは親会社の定時株主総会の終了を待つ必要があるといった事情ですから、社内の都合で遅れた場合には届きません。
役員報酬の額を決める議事録に、金額はどこまで書くべきですか
総額の枠だけを株主総会で決議する場合は、株主総会議事録に枠を、取締役会議事録や決定書に各人別の金額を書きます。施行令第70条第1項第1号ロは限度額等を超える部分を不相当に高額な部分として掲げていますので、枠の金額と、実際の支給額の合計とを突き合わせられる状態にしておくことが大切です。
期の途中で新しく取締役に就任した人の報酬は、いつから決められますか
役員の職制上の地位の変更や職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情による改定は、期の途中でも認められています(法人税法施行令第69条第1項第1号ロ)。新任の役員に新たに報酬を定めること自体は改定とは別の話ですが、他の役員の報酬まで動かす場合は、この臨時改定事由に当たるかどうかを個別に確認する必要があります。
取締役の任期と報酬の決議は連動しますか
取締役の任期は、選任後二年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までです(会社法第332条第1項)。公開会社でない株式会社は、定款によって選任後十年以内に伸長することができます(同条第2項)。任期と報酬は別の決議ですから、任期が続いていても、報酬を見直すのであれば毎年その手当てが必要です。
📄 まとめ
役員報酬をめぐる1年は、決算の直後に水準を検討し、定時株主総会で決議し、三月経過日等までに各人別の金額まで確定させ、あとは同額で払い続ける、という流れになります。会社法の側では定款または株主総会の決議という根拠が要り、税務の側では改定の時期に厳しい制約がかかります。
そして、この流れのそれぞれに残すべき書面があります。株主総会議事録、取締役会議事録または決定書、賃金台帳と源泉徴収簿、納付書の控え。どれか一つが欠けると、支給額の根拠を説明できなくなります。三月経過日等を手帳に書き込むところから始めてみてください。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
🔗 参考(公的な一次情報)
- 法人税法(e-Gov法令検索) 第34条
- 法人税法施行令(e-Gov法令検索) 第69条、第70条
- 会社法(e-Gov法令検索) 第296条、第318条、第319条、第332条、第361条、第369条、第371条
- 会社法施行規則(e-Gov法令検索) 第72条
- 所得税法(e-Gov法令検索) 第183条
- 法人税基本通達 第9章第2節第3款(定期同額給与) 9-2-12、9-2-12の2、9-2-12の3、9-2-13
- 国税庁タックスアンサー No.5211 役員に対する給与
- 国税庁タックスアンサー No.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例
本記事は公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所・東京都台東区)が、法令・通達および国税庁の公表資料に基づいて作成しています。本記事は一般的な情報提供を目的としています。制度は改正される可能性があり、個別の事実関係により結論が異なります。実際の判断にあたっては、専門家にご確認ください。
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