役員報酬と社会保険料を合わせて最適化するには?手取りの考え方

役員報酬をいくらにするかを決めるとき、法人税のことだけを見て決めてしまうと、あとから社会保険料の負担の大きさに驚くことがあります。反対に、社会保険料を抑えることばかりを考えると、今度は損金にできない部分が出てきます。

この二つは、別々の法律が、別々のタイミングで、別々の考え方にもとづいて動かしています。片方だけを見て決めると、もう片方でつじつまが合わなくなります。

この記事では、法人税と社会保険がそれぞれ何を決めているのかを条文と公的資料で確かめ、手取りを考えるときにどこを見ればよいのかを整理します。全体像は役員給与の税務 完全ガイドにまとめています。

🧭 役員報酬の額が動かす3つの数字

役員報酬の額を決めると、少なくとも三つの数字が同時に動きます。

一つめは会社の所得です。役員に対する給与は、法人税法第34条第1項が掲げる三つの類型のいずれかに当てはまらないと、その額は損金の額に算入されません。毎月同じ額を払う形をとるのであれば、第1号の定期同額給与にあてはめることになります。

二つめは役員個人の所得税と住民税です。役員報酬は給与所得にあたり、その年の収入金額から給与所得控除額を差し引いた残額が給与所得の金額になります(所得税法第28条第2項)。給与所得控除額には上限があり、収入金額が850万円を超える場合は195万円です(同条第3項第5号)。報酬を上げても、この水準からは差し引ける額が増えません。

三つめが社会保険料です。健康保険と厚生年金保険の保険料は、被保険者と事業主がそれぞれ半分を負担します(健康保険法第161条第1項、厚生年金保険法第82条第1項)。会社から見れば法定福利費、役員から見れば給与から引かれる金額です。

この三つは、同じ「役員報酬の額」を入口にしながら、増え方も、変えられる時期も、頭打ちになる位置も違います。だから、どれか一つだけを最小にしようとすると、他が跳ね返ってきます。

役員報酬の額が同時に動かす3つの数字役員報酬の額を決める会社の所得損金になるかどうか法人税法第34条個人の所得税・住民税給与所得控除の後所得税法第28条社会保険料会社と役員で折半健保法161条ほか

同じ金額を入口にしながら、三つの制度がそれぞれ別の計算をします。

制度 何を決めているか
法人税 その支給額を損金に算入できるか。毎月同額で支給する形なら定期同額給与にあてはめる(法人税法第34条第1項第1号)
所得税・住民税 役員個人の給与所得の金額。収入金額から給与所得控除額を引いた残額が所得になる(所得税法第28条第2項)
健康保険・厚生年金保険 標準報酬月額と標準賞与額。これに保険料率をかけた額を、会社と役員が半分ずつ負担する

📅 法人税が決めるのは、いつ・いくらで固定するか

法人税法は、役員給与の金額そのものを直接に決めるわけではありません。決めているのは、どの形をとれば損金になるかです。毎月同じ額を支給する形をとるなら、定期同額給与の定義に合わせる必要があります。

その支給時期が一月以下の一定の期間ごとである給与で当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるものその他これに準ずるものとして政令で定める給与(法人税法第34条第1項第1号)

ここでいう「その他これに準ずるものとして政令で定める給与」を受けて、法人税法施行令第69条第1項第1号イが、会計期間開始の日から3月を経過する日までにされる改定であれば、改定前と改定後でそれぞれ同額であればよいと定めています。3月決算の会社なら6月30日までです。この期限を過ぎてから増額すると、上乗せした部分が損金にならないおそれがあります。詳しくは定期同額給与とは?改定できる時期と3か月ルールで扱っています。

もう一つ、手取りを考えるうえで見落とせない定めがあります。施行令第69条第2項です。

定期給与の各支給時期における支給額から源泉税等の額(……源泉徴収をされる所得税の額、……特別徴収をされる……地方税の額、健康保険法第百六十七条第一項(保険料の源泉控除)その他の法令の規定により当該定期給与の額から控除される社会保険料……の額その他これらに類するものの額の合計額をいう。)を控除した金額が同額である場合には、当該定期給与の当該各支給時期における支給額は、同額であるものとみなす(法人税法施行令第69条第2項)

つまり、額面が同額でなくても、源泉所得税・住民税・社会保険料を差し引いたあとの金額が同額であれば、定期同額給与として扱われます。社会保険料は9月分から変わることが多く、額面を固定すると手取りが年の途中で動きます。手取りを固定したいときにこの規定が効いてきます。

手取りを一定にする方式をとるなら、どの金額を固定したのかを給与計算の記録で説明できるようにしておいてください。

📊 社会保険が決めるのは、4月から6月と、変えた月から4か月目

社会保険料の計算の土台になるのは標準報酬月額です。これがいつ決まり、いつ変わるかは、法人税の3か月ルールとはまったく別の時間軸で動きます。

原則の決め方が定時決定です。保険者等は、被保険者が毎年7月1日現在で使用される事業所において同日前3月間に受けた報酬の総額を、その期間の月数で除して得た額を報酬月額として、標準報酬月額を決定します(健康保険法第41条第1項)。報酬支払の基礎となった日数が17日未満である月は、この計算から除かれます。こうして決まった標準報酬月額は、その年の9月から翌年の8月までの各月に適用されます(同条第2項)。

期の途中で報酬が大きく動いたときは随時改定です。継続した3月間に受けた報酬の総額を3で除して得た額が、従前の標準報酬月額の基礎となった報酬月額に比べて著しく高低を生じた場合に、その月の翌月から標準報酬月額を改定することができるとされています(健康保険法第43条第1項、厚生年金保険法第23条第1項)。

ここで注意したいのは、条文が書いているのは「著しく高低を生じた場合」までで、どの程度の差があれば該当するのかは条文に現れないという点です。日本年金機構は、随時改定の要件として、固定的賃金に変動があったこと、変動月以後引き続く3か月の報酬の平均額から算出した標準報酬月額と従前の標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じたこと、その3か月とも報酬の支払基礎日数が17日以上であることの三つをすべて満たす場合に行うと説明しています。

そして、改定されるのは変動後の報酬を初めて受けた月から起算して4か月目の標準報酬月額からです。4月に支払われる給与から変えたのであれば、保険料が変わるのは7月分からということになります。

3月決算の会社で見る、二つの時間軸法人税(定期同額給与)4月1日6月30日3月31日期首3月を経過する日期末ここまでに改定する社会保険(定時決定)4月から6月7月1日現在9月翌年8月この3か月の報酬これで決定ここから適用まで続く6月の総会で改定しても、4月から6月の報酬にはほとんど反映されない

法人税の期限と、社会保険が見る期間はそろっていません。

項目 定時決定 随時改定
見る期間 毎年7月1日前の3か月(4月から6月) 固定的賃金が変わった月から3か月
きっかけ 毎年の定例(健康保険法第41条第1項) 報酬に著しい高低が生じたこと(同法第43条第1項)
適用の開始 その年の9月から 変動後の報酬を初めて受けた月から4か月目
適用の終わり 翌年8月まで 次の定時決定または随時改定まで

「4月から6月だけ報酬を下げておけば保険料が安くなる」という言い方を見かけますが、固定的賃金を動かせばそれ自体が随時改定の対象になり得ますし、役員報酬を期の途中で減額すれば法人税の側で損金不算入の問題が生じます。片側だけを見た調整は、もう片側で戻ってきます。

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💰 保険料の決まり方には、上限がある

標準報酬月額は、報酬月額を等級区分に当てはめて決めます(健康保険法第40条第1項、厚生年金保険法第20条第1項)。健康保険法が定める等級区分は第1級の58,000円から第50級の1,390,000円までです。厚生年金保険法が条文の表で定めているのは第1級の88,000円から第31級の620,000円までですが、同法第20条第2項は、一定の場合に政令で最高等級の上に等級を加えることができると定めており、日本年金機構は現在の標準報酬月額を1等級(8万8千円)から32等級(65万円)までの32等級と説明しています。

保険料額は、標準報酬月額と標準賞与額にそれぞれ保険料率をかけて計算します(厚生年金保険法第81条第3項)。厚生年金保険の保険料率は、同条第4項の表で「平成二十九年九月以後の月分」について千分の百八十三と定められており、18.3パーセントで固定されています。健康保険の保険料率は加入する保険者や都道府県によって異なるため、実際の金額は加入先が公表している保険料額表で確認してください。

大事なのは、等級表に最高等級があることです。報酬月額が最高等級の範囲に入れば、そこから先は報酬を上げても保険料は増えません。その水準に届いていない会社では、上げた分がそのまま保険料の増加になります。自社がどのあたりにいるかを先に確かめてください。

毎月の給与と賞与は、別の上限で頭打ちになる毎月の給与(報酬月額)等級区分に当てはめて標準報酬月額に健保は第50級・厚年は第32級で頭打ち保険料率をかけて労使で折半賞与(年3回以下の支給)1,000円未満を切り捨てて標準賞与額に健保は年度573万円・厚年は月150万円保険料率をかけて労使で折半

月額と賞与は別々の上限を持っているため、寄せ方によって負担の形が変わります。

区分 健康保険 厚生年金保険
標準報酬月額の等級 第1級58,000円から第50級1,390,000円(法第40条第1項) 条文の表は第1級88,000円から第31級620,000円。政令による改定を経て現在は32等級
標準賞与額の上限 年度の累計額573万円(法第45条第1項) 1か月あたり150万円(法第24条の4第1項)
保険料率 保険者や都道府県により異なる 平成29年9月以後の月分は千分の183(法第81条第4項)
負担 被保険者と事業主が半額ずつ(法第161条第1項) 被保険者と事業主が半額ずつ(法第82条第1項)

🔍 賞与に寄せれば負担は軽くなるのか

月額と賞与で上限が別々に置かれていることから、支給を賞与に寄せる設計が話題になることがあります。ただ、実行する前に確かめておきたい点が三つあります。

一つめは、法人税の側の手当てです。役員に対する賞与を損金にするには、原則として法人税法第34条第1項第2号の事前確定届出給与として、あらかじめ所轄税務署長に届け出ておく必要があります。届出をせずに賞与を出せば、社会保険料は上限で抑えられても、その支給額が損金に算入されないという結果になりかねません。届出の期限は事前確定届出給与の届出期限はいつ?で詳しく扱っています。

二つめは、何が賞与に当たるかです。日本年金機構は、被保険者賞与支払届の対象となる賞与を、名称を問わず労働者が労働の対償として受けるもののうち年3回以下の支給のものと説明しており、年4回以上支給されるものは標準報酬月額の対象になるとしています。回数を増やして分散させると、賞与ではなく報酬として扱われることになります。

三つめは、将来受け取る年金への影響です。標準賞与額は保険料の計算の基礎であると同時に、被保険者が受給する年金額の計算の基礎にもなります。上限で切られた部分は、年金額にも反映されません。

社会保険料を下げる方向の設計は、多かれ少なかれ将来の給付を下げる方向にも働きます。会社の資金繰り、役員本人の年齢や在任予定、退職金の設計と切り離さずに考えてください。

🧾 会社の負担と個人の負担を、合わせて見る

手取りを考えるときは、会社側と個人側の両方を同じ表に置くことが出発点になります。

会社が負担する保険料は、法定福利費として損金の額に算入されます。法人税法第22条第3項第2号は、償却費以外の費用でその事業年度終了の日までに債務の確定しないものを損金から除いていますので、どの月分がその事業年度の債務として確定しているかを整理しておくと決算で迷いません。

役員が負担する保険料は、社会保険料控除の対象です。所得税法第74条第1項は、居住者が自己または自己と生計を一にする配偶者その他の親族の負担すべき社会保険料を支払った場合または給与から控除される場合に、その金額を総所得金額等から控除すると定めています。第2項は控除の対象となるものを号で列挙しており、健康保険の保険料は第1号、厚生年金保険の保険料は第7号に掲げられています。

増える保険料のうち、個人負担分は所得控除を通じて所得税と住民税を下げ、会社負担分は損金として法人税を下げる方向にも働きます。増える負担と減る税金を並べてみないと、正味でどうなるかは見えません。

確かめること 見るところ
損金になる形か 定期同額給与か事前確定届出給与か。改定は会計期間開始の日から3月を経過する日までに済んでいるか
いまの等級 直近の標準報酬月額決定通知書。最高等級に近いのか、まだ余裕があるのか
改定のタイミング 定時決定で9月から変わるのか、随時改定で4か月目から変わるのか
会社側の影響 法定福利費の年間見込み。債務が確定している月分はどこまでか
個人側の影響 社会保険料控除を織り込んだあとの所得税と住民税。給与所得控除の上限に届いているか

手順としては、期首を迎える前に複数の金額で試算し、株主総会で決議し、議事録に残し、そのうえで社会保険の届出を予定に入れる、という順番になります。決めたあとで社会保険の負担に気づいて元に戻そうとすると、法人税の側で改定できる時期を過ぎていることが少なくありません。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。法人の税務顧問と申告業務、新しい会計基準の導入支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

❓ よくある質問

役員報酬を下げれば、社会保険料もすぐに下がりますか

すぐには下がりません。随時改定に当たる場合でも、改定されるのは変動後の報酬を初めて受けた月から起算して4か月目の標準報酬月額からです。日本年金機構が示す要件は、固定的賃金の変動、2等級以上の差、3か月とも支払基礎日数17日以上の三つです。

4月から6月だけ役員報酬を下げれば、1年分の保険料を抑えられますか

定時決定が4月から6月の報酬を見るのは事実ですが、固定的賃金を動かせば随時改定の対象になり得ます。さらに、期の途中で役員報酬を減額すると、法人税の側で定期同額給与に当たらない部分が生じるおそれがあります。二つの制度を同時に見ないと結論は出せません。

定期同額給与は、手取りが同額でもよいのですか

法人税法施行令第69条第2項は、支給額から源泉税等の額を控除した金額が同額である場合には、支給額は同額であるものとみなすと定めています。この源泉税等の額には、法令の規定により定期給与の額から控除される社会保険料が含まれます。

賞与に寄せると、将来の年金は減りますか

標準賞与額には上限があり、健康保険は年度の累計額573万円、厚生年金保険は1か月あたり150万円です。標準賞与額は年金額の計算の基礎にもなりますので、上限で切られた部分は年金額にも反映されません。

役員賞与を年4回に分ければ、上限を4回使えますか

日本年金機構は、賞与支払届の対象となるのは年3回以下の支給のものであり、年4回以上支給されるものは標準報酬月額の対象とされると説明しています。回数を増やせば賞与ではなく報酬として扱われることになります。

📄 まとめ

法人税が決めているのは、いつまでに、どういう形で固定するかです。社会保険が決めているのは、どの3か月を見て、いつから変えるかです。この二つは期限も対象期間も違うため、片方の都合だけで金額を決めると、もう片方で身動きが取れなくなります。

期首を迎える前に、損金になる形、いまの等級、改定のタイミング、会社側の法定福利費、個人側の社会保険料控除の五つを並べて試算しておけば、あとから戻せないという事態を避けられます。

🔗 参考(公的な一次情報)

👤 監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。

本記事は公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所・東京都台東区)が、法令・通達および国税庁の公表資料に基づいて作成しています。本記事は一般的な情報提供を目的としています。制度は改正される可能性があり、個別の事実関係により結論が異なります。実際の判断にあたっては、専門家にご確認ください。

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