後継者に会社を任せたいのに、株式は法定相続分どおりに分かれてしまう。オーナー経営者の事業承継で最初につまずくのが、この「財産としての株式」と「経営権としての議決権」を切り分けられない問題です。
会社法は、配当や議決権の内容が異なる株式(種類株式)を発行することを認めており、これを使えば財産価値は相続人に公平に渡しつつ、議決権だけを後継者に集めるという設計が可能になります。実務でよく使われるのが、拒否権付株式(いわゆる黄金株)、議決権制限株式(無議決権株式)、そして株主ごとに扱いを変える属人的株式の3つです。
本記事では、この3つの違いを条文レベルで整理したうえで、見落とされがちな「相続税評価はどうなるのか」まで踏み込んで解説します。
この記事の見出し
なぜ事業承継で議決権が分散するのか
非上場のオーナー企業では、創業社長が議決権の全部または大半を握っているのが通常です。ところが相続が起きると、遺言や遺産分割協議で手当てをしない限り、株式は他の財産と同じように相続人へ承継されます。後継者だけが株式を取得できる保証はどこにもありません。
さらに厄介なのは、相続開始から遺産分割が終わるまでの間の扱いです。相続財産である株式は相続人の準共有となり、会社に対して権利を行使する者を1人定めて会社に通知しなければ、原則として権利を行使できません(会社法106条)。分割協議がまとまらなければ、株主総会が事実上動かせない状態が続くことになります。
法定相続分どおりに分割した場合の一例。後継者に株式を集中させる手当てをしないと、経営権は確保できません。
「長男に会社を継がせる」と決めていても、株式を渡す方法まで設計しておかなければ、後継者は自分の判断で役員を選任することすらできません。事業承継の相談で最初に確認すべきなのは、税金の話ではなく、この議決権の行方です。相続人の範囲や法定相続分の考え方そのものについては、法定相続人は誰?範囲・順位・相続分と戸籍の集め方をやさしく解説もあわせてご覧ください。
会社法が認める9種類の種類株式
株式会社は、次に掲げる事項について異なる定めをした、内容の異なる2以上の種類の株式を発行することができます(会社法108条1項)。いわゆる種類株式です。
| 号 | 内容 | 事業承継での主な使いどころ |
|---|---|---|
| 1号・2号 | 剰余金の配当/残余財産の分配 | 議決権を渡さない相続人に、配当で経済的な手当てをする |
| 3号 | 株主総会で議決権を行使できる事項 | 無議決権株式として、後継者以外に交付する |
| 4号 | 譲渡による取得に会社の承認を要すること | 株式が社外へ流出するのを防ぐ |
| 5号・6号 | 取得請求権/取得条項 | 一定の事由が生じたときに会社が株式を回収する |
| 7号 | 株主総会の決議で全部を取得すること | 少数株主の整理(全部取得条項付種類株式) |
| 8号 | 種類株主総会の決議を必要とすること | 拒否権付株式(黄金株)として先代が保有する |
| 9号 | 種類株主総会で取締役・監査役を選任すること | 共同経営の解消時などに役員の選任枠を分ける |
※ 会社法108条1項ただし書により、指名委員会等設置会社および公開会社は、9号(取締役・監査役の選任に関する種類株式)を発行することができません。8号の拒否権付株式には、この制限はかかりません。
事業承継で使われる3つの型
1. 拒否権付株式(黄金株)
株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会または取締役会)で決議すべき事項のうち、その決議のほかに、当該種類の株式の種類株主で構成する種類株主総会の決議を必要とする旨を定めた株式です(会社法108条1項8号)。この株式を1株でも持っていれば、対象として定めた事項について事実上の拒否権を行使できます。
典型的な使い方は、議決権の大半を後継者に生前贈与しつつ、先代が黄金株を1株だけ保有し、「取締役の解任」「定款変更」「重要な財産の処分」といった限られた事項にだけ歯止めを残す、というものです。後継者の育成期間中の安全弁として機能します。
注意したい点
黄金株は強力な権利であるため、保有者が判断能力を失ったり、想定外の相続で第三者に渡ったりすると、会社の意思決定が止まってしまいます。あらかじめ取得条項(108条1項6号)を組み合わせて、一定の事由が生じたときに会社が買い戻せる設計にしておく例が多く見られます。
2. 議決権制限株式(無議決権株式)
株主総会において議決権を行使できる事項について制限を設けた株式です(会社法108条1項3号)。すべての事項について議決権をなくす「完全無議決権株式」とすることもできます。
後継者には議決権のある普通株式を、他の相続人には無議決権株式を交付すれば、財産としての価値は分けつつ、議決権は後継者に集中させることができます。議決権を渡さない代わりに配当を優先する(1号)設計を組み合わせるのが一般的です。
※ 種類株式発行会社が公開会社である場合、議決権制限株式の数が発行済株式の総数の2分の1を超えたときは、直ちに2分の1以下にするための必要な措置をとらなければなりません(会社法115条)。非公開会社にはこの制限はありません。
3. 属人的株式
公開会社でない株式会社は、剰余金の配当を受ける権利、残余財産の分配を受ける権利、株主総会における議決権(会社法105条1項各号)に関する事項について、株主ごとに異なる取扱いを行う旨を定款で定めることができます(会社法109条2項)。株式の内容ではなく「人」に着目した定めであることから、属人的株式(属人的定め)と呼ばれます。
たとえば「株主Aが有する株式については、1株につき10個の議決権を有する」といった定めを置けば、株式の数を動かさずに議決権だけを調整できます。株式を後継者に贈与したあとも、当面は先代の発言力を維持したいという場面で使われます。
ただし、この定めを設ける(または変更する)定款変更の株主総会決議は、総株主の半数以上であって、総株主の議決権の4分の3以上に当たる多数をもって行わなければならず(会社法309条4項)、通常の特別決議より重い要件が課されています。廃止する場合の定款変更は、この加重の対象外です。
目的から逆算して型を選びます。実務では複数を組み合わせることも珍しくありません。
| 比較項目 | 議決権制限株式 | 拒否権付株式(黄金株) | 属人的株式 |
|---|---|---|---|
| 根拠条文 | 会社法108条1項3号 | 会社法108条1項8号 | 会社法109条2項 |
| 発行できる会社 | 制限なし(公開会社は発行済株式総数の2分の1以下。115条) | 制限なし(9号と異なり公開会社も可) | 公開会社でない株式会社に限る |
| 定款変更の決議要件 | 特別決議(309条2項11号) | 特別決議(309条2項11号) | 総株主の半数以上かつ総株主の議決権の4分の3以上(309条4項) |
| 登記 | 必要(911条3項7号・9号) | 必要(911条3項7号) | 不要(登記事項ではない) |
| 効力の及ぶ先 | その株式(誰が持っても同じ) | その株式(誰が持っても同じ) | その株主(譲渡されれば効力は及ばない) |
※ 属人的定めが登記されないことは、外部に知られにくいという利点である一方、株主や取引先にとって権利関係が見えにくいという側面もあります。定款とあわせて株主間の合意書を整えておく実務対応が一般的です。
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種類株式の相続税評価はどうなるか
ここが実務で最も誤解の多いところです。「無議決権株式にすれば評価が下がるのでは」と期待されることがありますが、結論から言えば、種類株式にしたこと自体で相続税の総額が減るわけではありません。
国税庁は、事業承継での活用が想定される典型的な種類株式を3類型に整理し、その評価方法を明らかにしています(国税庁資産評価企画官情報第1号「種類株式の評価について(情報)」平成19年3月9日、および同年2月26日付の照会に対する回答)。
| 類型 | 評価の取扱い |
|---|---|
| 第一類型 配当優先の無議決権株式 |
配当優先の要素は、類似業種比準方式では1株当たりの配当金額を株式の種類ごとに計算し(財産評価基本通達183(1))、純資産価額方式では配当優先の有無にかかわらず通達185により評価します。議決権がないことは原則として評価に反映しません。ただし一定の条件をすべて満たす場合に限り、評価額から5%を減額し、その減額分を議決権のある株式の価額に加算して申告する方法(調整計算)を選択できます。 |
| 第二類型 社債類似株式 |
経済的実質が社債に類似すると認められることから、財産評価基本通達197-2(3)に準じて発行価額により評価します。株式であることから、既経過利息に相当する配当金の加算は行いません。なお、社債類似株式を発行している会社の他の株式を評価する際は、社債類似株式を社債として計算します。 |
| 第三類型 拒否権付株式 |
拒否権を考慮せずに評価します。つまり普通株式と同じ評価額になります。 |
第二類型(社債類似株式)に当たるためには、配当優先で不足額は累積するが優先配当金を超えて配当しないこと、残余財産の分配は発行価額を超えて行わないこと、一定期日に発行価額で償還されること、議決権がないこと、他の株式を対価とする取得請求権がないこと、という条件をすべて満たす必要があります。設計を少しでも外すと、この扱いは受けられません。
5%の調整計算は「移し替え」にすぎない
第一類型の調整計算は、無議決権株式の評価額を5%減らし、その減らした金額を議決権のある株式に上乗せするものです。同族株主グループ全体で見れば評価額の合計は変わりません。
調整計算は評価額の付け替えです。節税策として説明されることがありますが、性質が異なります。
しかも、この調整計算を選択するには、次のすべてを満たす必要があります。
- 当該会社の株式について、相続税の法定申告期限までに遺産分割が確定していること
- 当該相続または遺贈により当該会社の株式を取得したすべての同族株主から、法定申告期限までに、調整計算による申告を行う旨の届出書が所轄税務署長に提出されていること
- 相続税の申告書に添付する「取引相場のない株式(出資)の評価明細書」に、調整計算に基づく評価額の算定根拠を記載していること
遺産分割が申告期限までにまとまらなければ、そもそも選択できません。分割の難航が予想される案件では、この点も含めて事前に見通しを立てておく必要があります。相続財産の把握の進め方は、相続財産の調べ方は?預貯金・不動産・株・借金の調査と財産目録で解説しています。
あわせて検討したい「相続人等に対する売渡請求」
種類株式は、これから株式を渡すときの設計です。これに対し、すでに株式が社外や非後継者に渡ってしまった場合に備える制度が、相続人等に対する売渡請求です。
株式会社は、相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者に対し、その株式を会社に売り渡すことを請求できる旨を定款で定めることができます(会社法174条)。請求をするには、その都度、株主総会の決議で対象株式の数と相手方の氏名を定める必要があります(175条1項)。
実務上、必ず押さえておきたい3点
① 行使できる期間は1年 会社が相続その他の一般承継があったことを知った日から1年を経過すると、請求できません(176条1項ただし書)。
② いわゆるクーデターリスク 売渡請求の決定を行う株主総会では、相手方となる相続人は議決権を行使できません(175条2項)。これは、先代の株式を相続した後継者に対して、少数株主側が売渡請求をかけるという逆用も理論上は可能であることを意味します(相手方以外の株主の全部が議決権を行使できない場合を除きます)。定款に定めを置く際は、この点まで想定した設計が求められます。
③ 財源規制がかかる 売渡請求に基づく買取りで交付する金銭等の帳簿価額の総額は、効力発生日における分配可能額を超えることができません(461条1項5号)。分配可能額が足りなければ、そもそも買い取れません。
なお、株式が誰の名義になっているかという整理そのものが未了のケースも少なくありません。名義株の整理の考え方は、IPOにおける株主数の要件とは?数え方・確保の方法・名義株の整理まででも触れています。
導入の手順と注意点
手続の流れ
種類株式を発行するには、定款に発行可能種類株式総数と各種類の株式の内容を定める必要があり(会社法108条2項)、そのための定款変更は株主総会の特別決議によります(466条、309条2項11号)。定めた内容は登記事項となります(911条3項7号)。属人的株式の場合は、定款変更の決議要件が309条4項により加重される一方、登記は不要です。
既発行の普通株式の一部を種類株式に変更する場合は、その株主の権利内容を変更することになるため、実務上は対象株主の同意を得たうえで進めるのが通例です。会社の状況や株主構成によって取り得る手続が変わりますので、司法書士・弁護士を含めた体制で検討することをおすすめします。
将来の上場を視野に入れている場合
IPOを目指す企業では、種類株式の設計がそのまま上場審査上の論点になります。上場に際して議決権の内容が異なる株式を残すことについて、取引所は慎重な立場をとっており、上場申請までに普通株式へ一本化するのが一般的です。事業承継対策として導入した種類株式が、数年後の資本政策の足かせになることもあります。上場の可能性が少しでもある場合は、導入前に主幹事証券会社と論点を共有しておくべきです。
よくある質問
A. 定款で拒否権の対象と定めた事項については、種類株主総会の決議がなければ効力が生じないため、実質的な歯止めになります。ただし対象外の事項は止められません。何を対象とするかの設計が要になります。
A. 原則として議決権の有無は評価に反映されません。一定の条件を満たす場合に5%の調整計算を選択できますが、その分は議決権のある株式に加算されるため、同族株主グループ全体の評価額の合計は変わりません。
A. 登記事項ではありませんが、定款は株主・債権者の閲覧謄写請求の対象です(会社法31条2項)。また、株主間で強い不均衡を生じさせる定めは、株主平等原則の趣旨に照らして争われる余地があります。目的の合理性と手続の適正さを記録に残しておくことが重要です。
A. 事業承継税制には、猶予の対象となる株式や後継者の議決権保有割合などの要件が細かく定められています。種類株式の設計次第では要件を満たせなくなる可能性があるため、両者は必ずセットで検討してください。
まとめ
本記事の要点
- 相続で株式は分散する。後継者の議決権を確保する設計が事業承継の出発点
- 議決権制限株式(108条1項3号)は、財産価値と議決権を切り分ける基本の型
- 拒否権付株式(108条1項8号)は、承継後の安全弁。取得条項との組合せが実務的
- 属人的株式(109条2項)は非公開会社限定・登記不要だが、決議要件は4分の3以上
- 種類株式にしても相続税の総額は減らない。5%の調整計算は評価額の付け替え
- 売渡請求の定款規定は、1年の期間制限・175条2項の議決権排除・財源規制に注意
事業承継は、会社法の設計と税務の見通しを同時に組み立てる作業です。株式の承継方法を決める前に、まず現在の株主構成と自社株の評価額を把握するところから始めてください。相続手続の全体像は、相続税 完全ガイド|初めての相続を全30回でやさしく解説にまとめています。
株主構成の整理、自社株評価、種類株式を含む承継スキームの検討まで、公認会計士・税理士として一貫してご支援します。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。相続税の申告と事業承継の支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
参考:e-Gov法令検索「会社法」/国税庁「種類株式の評価について(情報)」(平成19年3月9日)/国税庁「相続等により取得した種類株式の評価について(照会)」/中小企業庁「事業承継・引継ぎ支援」
本記事は2026年9月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の事案における取扱いは、会社の機関設計・株主構成・株式の内容によって異なります。実際の導入にあたっては、必ず個別に専門家へご相談ください。
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