会社が負担した費用について、税務調査で「これは社長への給与です」と言われる。給与を払った覚えはないのに、そう指摘される。役員給与の論点のなかで、この経済的利益ほど不意打ちになりやすいものはありません。
法人税法が役員給与と呼んでいるのは、毎月振り込む報酬だけではないからです。会社が役員のために負担したもの、役員に無償や低い対価で提供したものも、実質的に給与を支給したのと同じ効果があれば、給与として扱われます。しかも役員給与は、3つの類型のいずれかに当てはまらなければ損金になりません。金額の大小より、そこで損金性が切れることのほうが痛手になります。
この記事では、法人税基本通達が挙げる12の例を一つずつ確認したうえで、給与として扱われない場合、定期同額給与として損金になる場合、使用人兼務役員の場合を順に整理します。役員給与全体の見取り図は役員給与の税務 完全ガイドにまとめています。
この記事の見出し
🧭 経済的利益は法律上の給与に含まれる
出発点は条文です。法人税法第34条は、役員給与のうち損金になるものを3つの類型に限っていますが、その第4項で、給与の意味そのものを広げています。
前三項に規定する給与には、債務の免除による利益その他の経済的な利益を含むものとする。(法人税法第34条第4項)
役員の親族など特殊の関係のある使用人への給与を扱う法人税法第36条にも、同じく「債務の免除による利益その他の経済的な利益を含む」という括弧書きが置かれています。つまり、金銭で支払っていなくても、経済的な利益を与えていれば、それは給与の土俵に乗ります。
では何が経済的な利益に当たるのか。これを具体化しているのが法人税基本通達9-2-9です。柱書は、法人がその行為をしたことにより「実質的にその役員等に対して給与を支給したと同様の経済的効果をもたらすもの」をいうと定めたうえで、2つを除いています。
明らかに株主等の地位に基づいて取得したと認められるもの及び病気見舞、災害見舞等のような純然たる贈与と認められるものを除く。(法人税基本通達9-2-9)
ここでいう役員等とは、役員および法人税法第36条に規定する特殊の関係のある使用人をいいます。役員本人だけの話ではない点に注意してください。
関門1で給与に当たっても、関門2で外れれば給与として扱われません。関門2を通ったものは、関門3で損金になるかどうかが決まります。
📋 通達が挙げる12の例
9-2-9は、経済的な利益の例を(1)から(12)まで挙げています。国税庁のタックスアンサーNo.5202も、同じ12項目を平易な言い方で紹介しています。並べてみると、資産を動かすもの、貸すもの、費用を肩代わりするものに大きく分かれます。
| 通達の番号 | 内容と、給与とされる金額 |
|---|---|
| (1) 資産の贈与 | 役員等に物品その他の資産を贈与した場合の、その資産の価額に相当する金額 |
| (2) 低額譲渡 | 所有資産を低い価額で譲渡した場合の、資産の価額と譲渡価額との差額 |
| (3) 高額買入れ | 役員等から高い価額で資産を買い入れた場合の、資産の価額と買入価額との差額 |
| (4) 債権の放棄・免除 | 役員等に対して有する債権を放棄または免除した場合(貸倒れに該当する場合を除く)の、その債権の額 |
| (5) 債務の無償引受け | 役員等から債務を無償で引き受けた場合の、その引き受けた債務の額 |
| (6) 住宅の無償・低額提供 | 居住の用に供する土地または家屋を無償または低い価額で提供した場合の、通常取得すべき賃貸料と実際に徴収した賃貸料との差額 |
| (7) 無利息・低利の貸付け | 金銭を無償または通常の利率より低い利率で貸し付けた場合の、通常取得すべき利率で計算した利息と実際に徴収した利息との差額 |
| (8) その他の用役の提供 | (6)(7)以外の用役を無償または低い対価で提供した場合の、通常収入すべき対価と実際に収入した対価との差額 |
| (9) 使途の不明確な支給 | 機密費、接待費、交際費、旅費等の名義で支給したもののうち、法人の業務のために使用したことが明らかでないもの |
| (10) 個人的費用の負担 | 役員等のために個人的費用を負担した場合の、その費用の額 |
| (11) 社交団体の費用 | 社交団体の入会金、経常会費その他の運営費用で、役員等が負担すべきものを法人が負担した場合の、その額 |
| (12) 生命保険料の負担 | 役員等を被保険者および保険金受取人とする生命保険契約の保険料の全部または一部を負担した場合の、その負担した保険料の額 |
通達の文言を要約しています。正確な表現は、記事末尾の参考からご確認ください。
実務で最初に洗い出すべきは、(9)から(12)の4つです。(1)から(8)は取引として記録が残るので気づきやすいのに対し、(9)から(12)は日常の経費処理のなかに紛れ込んでいて、決算のときには誰も疑っていないからです。
法人税基本通達9-2-9が挙げる12の例を、性質ごとに並べ替えたものです。
⚖️ 給与として扱わないための2つの条件
12の例に当てはまれば必ず給与になるかというと、そうではありません。法人税基本通達9-2-10が、給与として取り扱わない場合を定めています。
法人が役員等に対し9-2-9に掲げる経済的な利益の供与をした場合において、それが所得税法上経済的な利益として課税されないものであり、かつ、当該法人がその役員等に対する給与として経理しなかったものであるときは、給与として取り扱わないものとする。(法人税基本通達9-2-10)
条件は2つで、両方を満たす必要があります。所得税で課税されないものであること。そして、会社が給与として経理していないこと。片方だけでは足りません。所得税で非課税でも、会社が役員給与として処理していれば、それは給与です。
では所得税で課税されないものとは何か。所得税基本通達に、課税しない経済的利益として複数の定めが置かれています。
| 所得税基本通達 | 課税しないための主な条件 |
|---|---|
| 36-21 永年勤続者の記念品等 | 利益の額が勤続期間等に照らし社会通念上相当と認められ、かつ、おおむね10年以上の勤続年数の者を対象とし、2回以上表彰を受ける者はおおむね5年以上の間隔をおくこと。現物に代えて支給する金銭は含まない |
| 36-22 創業記念品等 | 社会通念上記念品としてふさわしく、処分見込価額による価額が1万円以下であること。一定期間ごとに到来する記念に際して支給するものは、おおむね5年以上の期間ごとであること |
| 36-23 商品等の値引販売 | 値引販売の価額が取得価額以上であり、かつ、通常他に販売する価額のおおむね70パーセント未満でないこと。値引率に合理的なバランスがあること |
| 36-29 用役の提供等 | 経済的利益の額が著しく多額であると認められる場合、または役員だけを対象として供与される場合を除く |
| 36-30 レクリエーションの費用 | 参加しなかった者に金銭を支給する場合、または役員だけを対象として費用を負担する場合を除く |
36-29と36-30には、役員だけを対象とする場合を除くという共通の切り口があります。全社員に開かれた制度として設計されているかどうかが、そのまま結論を分けます。役員限定の福利厚生は、名称が福利厚生費でも役員給与に近づきます。
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🗓 定期同額給与に当たるかどうか
関門2を通って給与として扱われることが決まっても、それだけでは損金不算入とは限りません。役員給与は、定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与のいずれかに当てはまれば損金になります。経済的利益がこのうちどれに当たりうるかというと、実務上は定期同額給与です。
法人税法施行令第69条第1項第2号は、定期同額給与の範囲に次のものを含めています。
継続的に供与される経済的な利益のうち、その供与される利益の額が毎月おおむね一定であるもの(法人税法施行令第69条第1項第2号)
この毎月おおむね一定に当たる例を挙げているのが法人税基本通達9-2-11です。
| 9-2-11が挙げる例 | もとになる9-2-9の項目 |
|---|---|
| 額が毎月おおむね一定しているもの | (1) 資産の贈与、(2) 低額譲渡、(8) その他の用役の提供 |
| 額が毎月著しく変動するものを除く | (6) 住宅の提供、(7) 金銭の貸付け |
| 毎月定額により支給される渡切交際費 | (9) 使途の明らかでない機密費等 |
| 毎月負担する住宅の光熱費、家事使用人給料等(額が毎月著しく変動するものを除く) | (10) 個人的費用の負担 |
| 経常的に負担するもの | (11) 社交団体の費用、(12) 生命保険料の負担 |
裏を返すと、単発で起きる経済的利益は毎月おおむね一定になりません。役員への資産の贈与、債権の放棄、債務の引受けは、その典型です。これらは定期同額給与に当たらず、事前確定届出給与の届出もしていないでしょうから、損金にならないまま役員個人に給与課税が及びます。会社では損金にならず、個人では課税される。経済的利益が怖いのは、この二重の負担が生じるところです。
施行令第69条第1項第2号と法人税基本通達9-2-11にもとづく整理です。個人側の給与課税は、どちらの場合にも生じます。
🔎 使用人兼務役員には別の扱いがある
使用人兼務役員に対する経済的利益には、緩やかな取扱いが用意されています。
法人が使用人兼務役員に対して供与した経済的な利益(住宅等の貸与をした場合の経済的な利益を除く。)が他の使用人に対して供与されている程度のものである場合には、その経済的な利益は使用人としての職務に係るものとする。(法人税基本通達9-2-24)
ここで除かれているのが住宅等の貸与である点は、見落とされがちです。社宅については、使用人兼務役員であっても役員としての取扱いに戻ります。使用人兼務役員の範囲そのものについては、別の回で扱っています。
⚠️ 指摘の入口になりやすい3つと、残す記録
渡切交際費(9-2-9の(9))
毎月定額で交際費を渡し、精算をしていない。この形は、業務のために使用したことが明らかでないものとして(9)に当たり、9-2-11によって定期同額給与として扱われます。損金にはなりますが、役員個人には給与課税が及び、源泉徴収も必要です。会社の経費で済んでいるつもりの金額に、個人の所得税と住民税、社会保険料がついてくることになります。
個人的費用の負担(9-2-9の(10))
自宅の光熱費、家事使用人の給料、私的な旅行やゴルフの費用。会社の口座から出ていれば、記帳上はどこかの経費科目に入っています。9-2-11は、毎月負担する住宅の光熱費や家事使用人給料等を定期同額給与の例に挙げていますから、継続していれば損金にはなります。問題は個人側の課税と、そもそも役員報酬の総額が過大と評価されないかです。
社交団体の費用(9-2-9の(11))
入会金、経常会費、その他の運営費用のうち、役員等が負担すべきものを会社が負担した場合が対象です。名義や利用実態によって結論が変わるため、契約書と利用記録の両方を確認する必要があります。
場面ごとに残しておく記録
| 場面 | 残しておく記録 |
|---|---|
| 社宅の提供 | 賃貸借契約書、固定資産税の課税明細、床面積の資料、賃貸料相当額の計算根拠、徴収額がわかる給与控除の記録 |
| 金銭の貸付け | 金銭消費貸借契約書、返済予定表、利率の設定根拠、受取利息の計上記録 |
| 福利厚生の制度 | 全社員を対象としていることがわかる規程、対象者一覧、実際の利用者の記録 |
| 交際費・旅費 | 相手先と目的を記載した精算書、領収書、実費精算であることがわかる資料 |
| 生命保険 | 保険証券、契約者と被保険者と受取人の関係がわかる資料、加入基準を定めた規程 |
❓ よくある質問
役員に社用車を使わせています。これも経済的利益ですか。
業務に使っている限りは会社の資産の使用であり、直ちに給与になるわけではありません。私的な使用がある場合は、9-2-9の(8)にいうその他の用役の提供として、通常収入すべき対価との差額が問題になります。走行記録などで業務使用の割合を示せるようにしておくことが実務上の備えになります。
役員から会社に対する貸付けを免除してもらいました。これも経済的利益ですか。
9-2-9が挙げているのは、会社が役員等に対して有する債権を放棄または免除した場合です。逆に役員が会社への債権を放棄した場合は、会社側に債務免除益が生じる場面であり、この通達の射程とは別の論点になります。
病気見舞金を渡しました。給与になりますか。
9-2-9の柱書は、病気見舞、災害見舞等のような純然たる贈与と認められるものを、経済的な利益から除いています。社会通念上相当な金額であり、慶弔規程などに沿って支給されているかどうかが判断の手がかりになります。
創業50周年の記念品を役員にも配りました。
所得税基本通達36-22は、創業記念等の記念品で、社会通念上記念品としてふさわしく、処分見込価額による価額が1万円以下であることなどの要件を満たすものについて、課税しなくて差し支えないとしています。これに当たり、かつ会社が給与として経理していなければ、9-2-10により給与として取り扱われません。なお、現物に代えて支給する金銭は含まれません。
経済的利益を給与として処理すると、定期同額給与の金額が変わってしまいませんか。
そのとおりで、金銭の役員報酬と経済的利益を合わせた額が毎月おおむね一定である必要があります。期中に社宅の家賃負担を始めるといった変更は、実質的に報酬の改定と同じ効果を持つことがあります。定期同額給与の改定時期については、定期同額給与とは?改定できる時期と3か月ルールで整理しています。
月次の記帳チェックから決算・申告、税務調査への備えまで、公認会計士・税理士が一貫して対応します。今の処理が正しいかどうかの確認だけでも承ります。
📄 まとめ
役員給与は金銭の支給に限られません。法人税法第34条第4項と第36条が、債務の免除による利益その他の経済的な利益を給与に含めており、法人税基本通達9-2-9がその例を12挙げています。
そのうえで、所得税で課税されず、かつ会社が給与として経理していないものは、9-2-10により給与として扱われません。給与として扱われるものは、毎月おおむね一定であれば定期同額給与として損金になり、単発のものは損金になりません。単発のものほど、会社で損金にならず個人で課税されるという重い結果になります。
決算のときに慌てて洗い出すのではなく、社宅、貸付金、福利厚生、交際費、保険という5つの入口を年に一度点検しておくことをおすすめします。処理そのものより、そこに根拠となる記録が残っているかどうかが結論を左右します。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
🔗 参考(公的な一次情報)
- 法人税法(e-Gov法令検索) 第34条第4項、第36条
- 法人税法施行令(e-Gov法令検索) 第69条第1項第2号
- 法人税基本通達 第9章第2節第2款 経済的な利益の供与(国税庁) 9-2-9、9-2-10、9-2-11
- 法人税基本通達 第9章第2節第6款 過大な役員給与の額(国税庁) 9-2-24
- 所得税基本通達 給与等に係る経済的利益(国税庁) 36-21、36-22、36-23、36-29、36-30
- No.5202 役員等に対する経済的利益(国税庁タックスアンサー)
本記事は公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所・東京都台東区)が、法令・通達および国税庁の公表資料に基づいて作成しています。本記事は一般的な情報提供を目的としています。制度は改正される可能性があり、個別の事実関係により結論が異なります。実際の判断にあたっては、専門家にご確認ください。