相続税の申告書は何とか作れそうだけれど、「その税金を、どうやって払うのか」で手が止まっていませんか。遺産の大半が自宅の土地と建物で、手元の現金はわずか——このような状況は珍しくありません。
相続税は現金で一度に納めるのが原則です。ただし、どうしても現金で納めることが難しい場合には、年払いで納める「延納」、財産そのもので納める「物納」という制度が用意されています。
この記事では、納期限と納付方法、延納・物納の要件、そして不動産を売って納める場合の税金の特例まで、順番に整理します。
- 相続税の納期限は申告期限と同じ「10か月」
- 納付方法の種類と、それぞれの上限額・手数料
- 納期限に遅れたときにかかる延滞税の割合
- 延納の4つの要件と、担保が不要になる場合
- 物納の要件と、物納できる財産の順位
- 不動産を売って納めるときの取得費加算の特例
この記事の見出し
📅 相続税の納期限は申告期限と同じ「10か月」
相続税の申告期限は、被相続人(亡くなった方)が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。そして納税の期限も、この申告期限と同じ日とされています(相法27条・33条、国税庁タックスアンサーNo.4205)。「申告書を出してから、あとでゆっくり納める」ということはできません。
たとえば1月6日に亡くなった場合、その年の11月6日が申告期限であり、納期限でもあります。この日が土曜日・日曜日・祝日などにあたるときは、これらの日の翌日が期限とみなされます。
申告書の提出先は、被相続人の死亡の時における住所が日本国内にある場合、被相続人の住所地を所轄する税務署です。相続人の住所地の税務署ではない点に注意してください(No.4205)。
納期限は申告期限と同じ日。延納・物納の申請書もこの日までに提出します(相法27条・33条・38条・41条)。
💰 相続税の納付方法にはどんな種類があるか
納付方法は現金を持って窓口へ行くだけではありません。国税庁は「キャッシュレス納付」を推進しており、次のような方法が用意されています(No.4205、国税庁「納税に関する総合案内」)。
| 納付方法 | 上限額・手数料など |
|---|---|
| 金融機関・税務署の窓口 | 納付書に現金を添えて納付します。上限はなく、領収証書が必要な場合はこの方法です。窓口でクレジットカードは使えません。 |
| ダイレクト納付 | e-Taxに登録した預貯金口座から引き落とす方法。事前にe-Taxの利用開始手続とダイレクト納付利用届出書の提出が必要です。 |
| インターネットバンキング等 | e-Taxを利用して、金融機関のネットバンキング等から納付します。 |
| クレジットカード納付 | 1度の手続につき1,000万円未満、かつカードの決済可能額以下。決済手数料がかかり、領収証書は発行されません。 |
| スマホアプリ納付 | 納付税額30万円以下。手数料は不要ですが領収証書は発行されません。令和7年2月以降はe-Taxを経由して専用サイトへアクセスします。 |
| コンビニ納付(QRコード) | 30万円以下。手数料は不要ですが、領収証書は発行されません。 |
相続税は金額が大きくなりやすいため、実務上は金融機関の窓口かダイレクト納付・インターネットバンキングを使う場面が多くなります。なお、30万円を超える税額を、アプリ納付をするために複数回に分けて納付することは想定されていません(国税庁「スマホアプリ納付の手続」)。
⏰ 納期限に遅れると延滞税がかかる
定められた期限までに納付されない場合、法定納期限の翌日から納付する日までの日数に応じて、利息にあたる延滞税が自動的に課されます(通法60条、No.9205)。割合は次のとおりです。
| 期間 | 延滞税の割合 |
|---|---|
| 納期限までの期間および納期限の翌日から2か月を経過する日まで | 原則 年7.3%。ただし令和8年1月1日から令和8年12月31日までの期間は年2.8%(令和4年1月1日〜令和7年12月31日は年2.4%)。 |
| 納期限の翌日から2か月を経過した日以後 | 原則 年14.6%。ただし令和8年1月1日から令和8年12月31日までの期間は年9.1%(令和4年1月1日〜令和7年12月31日は年8.7%)。 |
2か月を過ぎると割合が大きく跳ね上がる点に注意してください。なお、延滞税は本税だけを対象として課されるもので、加算税などに対しては課されません(No.9205)。
※ 延滞税の割合は毎年見直されます。実際に計算する際は国税庁の最新の公表値をご確認ください。
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⚖️ 延納:年払いで分けて納める
相続税額が10万円を超え、金銭で納付することを困難とする事由がある場合には、担保を提供することで、年賦(年払い)の方法で納付することができます。これを延納といいます(相法38条、No.4211)。延納期間中は利子税の納付が必要です。
延納の4つの要件
- 相続税額が10万円を超えること
- 金銭で納付することを困難とする事由があり、かつ、その納付を困難とする金額の範囲内であること
- 延納税額および利子税の額に相当する担保を提供すること
- 延納申請に係る相続税の納期限(延納申請期限)までに、延納申請書に担保提供関係書類を添付して税務署長に提出すること
3つ目の担保については例外があります。延納税額が100万円以下で、かつ延納期間が3年以下である場合には、担保を提供する必要はありません(No.4211)。担保にできるのは、国債および地方債、税務署長等が確実と認める有価証券、土地、保険に附した建物・立木・登記される船舶など、鉄道財団・工場財団など、税務署長等が確実と認める保証人の保証に限られます。相続で取得した財産に限らず、相続人固有の財産や第三者の財産でも担保にできます。
担保提供関係書類が期限までにそろわない場合は、「担保提供関係書類提出期限延長届出書」により、1回につき3か月を限度として最長6か月まで提出期限を延長できます。税務署長は延納申請期限から3か月以内に許可または却下を行います(担保の状況によっては最長6か月まで延長される場合があります)。
延納できる期間と利子税の割合
延納できる期間と利子税の割合は、相続税額の計算の基礎となった財産の価額の合計額のうちに占める不動産等の価額の割合によって決まります。主なものは次のとおりです(No.4211)。
| 不動産等の割合/対象 | 延納期間(最高)と利子税割合 |
|---|---|
| 75%以上/不動産等に係る延納相続税額 | 20年・年3.6%(特例割合 年0.4%) |
| 75%以上/動産等に係る延納相続税額 | 10年・年5.4%(特例割合 年0.6%) |
| 50%以上75%未満/不動産等に係る延納相続税額 | 15年・年3.6%(特例割合 年0.4%) |
| 50%以上75%未満/動産等に係る延納相続税額 | 10年・年5.4%(特例割合 年0.6%) |
| 50%未満/一般の延納相続税額 | 5年・年6.0%(特例割合 年0.7%) |
※ 上記の「特例割合」は、令和7年1月1日現在の延納特例基準割合0.9%で計算されたものです(国税庁No.4211)。延納特例基準割合が変わると特例割合も変動しますので、延納を申請する際は所轄税務署でご確認ください。森林計画立木や特別緑地保全地区等内の土地に係る区分は、上記の表では省略しています。
自宅など不動産の割合が高いほど、長い期間で、低い利子税割合で納められる仕組みになっています。台東区のように地価が高い地域では、遺産に占める不動産の割合が自然と高くなるため、延納を検討する余地が生まれやすいといえます。
🏠 物納:相続した財産そのもので納める
国税は金銭で納付することが原則ですが、相続税に限っては、延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がある場合に、その納付を困難とする金額を限度として、一定の相続財産による納付ができます。これが物納です(相法41条、No.4214)。
ここで大切なのは順番です。まず現金一括、それが難しければ延納、延納でも難しい場合にはじめて物納、という三段構えになっています。「不動産が多いから最初から物納」という選び方はできません。
物納は「延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がある場合」に限られます(相法41条・No.4214)。
物納できる財産には順位がある
物納申請財産は、納付すべき相続税額の課税価格計算の基礎となった相続財産のうち、日本国内に所在するもので、次の順位によることとされています(No.4214)。後順位の財産は、税務署長が特別の事情があると認める場合と、先順位の財産に適当な価額のものがない場合に限って物納に充てることができます。
後順位の財産は、先順位に適当な価額のものがない場合等に限られます(No.4214)。短期社債等は除かれます。
物納に使えない財産がある
物納は「国が引き取って管理・処分できる財産」であることが前提です。そのため、次のような財産は管理処分不適格財産として物納に充てることができません(No.4214)。
- 担保権の設定の登記がされている不動産
- 権利の帰属について争いがある不動産
- 境界が明らかでない土地
- 他の土地に囲まれて公道に通じない土地で、通行権の内容が明確でないもの
- 二以上の者の共有に属する不動産
- 譲渡制限株式、質権その他の担保権の目的となっている株式
また、地上権等が設定されている土地、法令に違反して建築された建物とその敷地、建築基準法上の道路に2メートル以上接していない土地、配偶者居住権の目的となっている建物とその敷地などは物納劣後財産とされ、他に適当な財産がない場合に限って物納に充てることができます。
注意:相続時精算課税の適用を受けた財産、非上場株式等についての贈与税の納税猶予の特例の適用を受けた非上場株式等、個人の事業用資産についての贈与税の納税猶予の特例の適用を受けた事業用資産は、物納の対象とすることはできません(No.4214)。
物納財産の収納価額と申請後の流れ
物納財産を国が収納するときの価額は、原則として相続税の課税価格計算の基礎となったその財産の価額です。小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例の適用を受けた財産を物納する場合の収納価額は、特例適用後の価額となります(No.4214)。8割減額された後の価額で国に引き取られるということですから、小規模宅地等の特例を適用した土地を物納に充てるかどうかは慎重な検討が必要です。
物納申請書は、納期限(物納申請期限)までに物納手続関係書類を添付して提出します。書類がそろわない場合は、提出期限延長届出書により1回につき3か月を限度として最長1年まで延長できます。税務署長は物納申請期限から3か月以内に許可または却下を行います(申請財産の状況によっては最長9か月延長される場合があります)。
延納・物納は要件も書類も複雑で、申請期限は納期限と同じです。判断に迷われた段階でご相談ください。
相続税申告支援について お問い合わせ 料金の目安を見る🧾 不動産を売って納めるなら「取得費加算の特例」
実務では、延納や物納ではなく「相続した不動産を売却して、その代金で相続税を納める」という選択をされる方も多くいらっしゃいます。この場合、売却益に対して所得税(譲渡所得)がかかりますが、一定の要件を満たせば、支払った相続税のうち一定額を取得費に加算できる特例があります(措法39条、No.3267)。
- 相続や遺贈により財産を取得した者であること
- その財産を取得した人に相続税が課税されていること
- その財産を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること
3つ目の要件は、申告期限(10か月)の翌日からさらに3年ですから、実質的には相続開始からおおむね3年10か月が目安になります。取得費が増えれば譲渡益が減り、所得税・住民税の負担が軽くなります。この特例の適用を受けるには、「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」などを添えて確定申告をする必要があります。
※ この特例は譲渡所得のみに適用があるため、株式等の譲渡による事業所得および雑所得については適用できません(No.3267)。
❓ よくある質問
納期限そのものは延びません。相続税の納期限は申告期限と同じ日と定められています(相法33条)。遺産分割が間に合わない場合の申告方法については、次回以降の回で取り上げます。まずは所轄の税務署または税理士にご相談ください。
延納の許可を受けた相続税額について、その後に延納条件を履行することが困難となった場合には、申告期限から10年以内に限り、分納期限が未到来の税額部分について延納から物納へ変更する「特定物納」の制度があります(No.4214)。ただし収納価額は特定物納申請書を提出した時の価額となります。
物納申請した財産が管理処分不適格財産に該当すると判断されて却下されたときは、却下の日の翌日から20日以内に、他の財産による物納の再申請を1回に限り行うことができます。また、延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がないと判断されて却下されたときは、その税額について延納の申請をすることができます(No.4214)。
🗒️ まとめ
- 相続税の納期限は申告期限と同じ、死亡を知った日の翌日から10か月
- 納付方法は窓口のほか、ダイレクト納付・ネットバンキング・クレジットカード(1,000万円未満)・スマホアプリ/コンビニ(30万円以下)
- 遅れると延滞税がかかり、2か月を過ぎると割合が大きく上がる
- 延納は税額10万円超・困難な事由・担保・期限内申請の4要件。100万円以下かつ3年以下なら担保は不要
- 物納は「延納によっても困難」な場合に限られ、財産に順位と適格性の制限がある
- 売却して納めるなら、取得費加算の特例(おおむね相続開始から3年10か月以内の譲渡)を検討する
納税資金の見通しは、財産の中身が分かった時点で立てておくほど選択肢が広がります。延納も物納も申請期限は納期限と同じ日ですから、「払えない」と気づいてから動き出すのでは間に合わないことがあります。相続財産の全体像の確認は第1回「親が亡くなったら何をする?相続手続きの流れと期限一覧」を、亡くなった方の所得税の手続きは第9回「準確定申告とは?期限4か月・必要な人と不要な人」をあわせてご覧ください。連載全体の目次は「相続税 完全ガイド」にまとめています。
次回は「申告しない・間に合わないとどうなる?ペナルティと救済策」を取り上げます。
📄 参考(公的情報)
- 国税庁タックスアンサー No.4205 相続税の申告と納税
- 国税庁タックスアンサー No.4211 相続税の延納
- 国税庁タックスアンサー No.4214 相続税の物納
- 国税庁タックスアンサー No.9205 延滞税について
- 国税庁タックスアンサー No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
- 国税庁 納税に関する総合案内(納付手続・キャッシュレス納付)
- e-Gov法令検索(相続税法・国税通則法・租税特別措置法)
台東区(上野・浅草・入谷)で相続税のご相談は当事務所へ。お問い合わせフォームからご連絡ください。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。
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公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。相続税の申告と事業承継の支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
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