合併等の実施の見込みとは?IPOで上場申請が受理されない組織再編の2類型を解説

IPOの形式要件のうち、数値基準ではないために見落とされやすいのが「合併等の実施の見込み」です。株主数や流通株式のように「いくつ以上」と数えるものではなく、上場申請の前後に予定している組織再編そのものが、上場申請を受け付けてもらえない事情になっていないかを問う要件です。

この要件は、東証プライム市場とスタンダード市場の形式要件には置かれていますが、グロース市場の形式要件には同種の項目がありません。市場を取り違えたまま検討を進めると、再編のスケジュールを組み直す必要が生じます。

本記事では、対象となる2つの類型、対象期間の数え方、除かれるケース、そして「該当しないから安心」とは限らない実務上の注意点を整理します。

「合併等の実施の見込み」とはどの要件か

新規上場の形式要件は市場区分ごとに条文が分かれています。「合併等の実施の見込み」は、スタンダード市場では有価証券上場規程第205条第13号に置かれ、プライム市場では規程第211条第6号がこの第205条第13号を用いる形になっています。一方、グロース市場の形式要件(規程第217条)には、株式事務代行機関の設置から指定振替機関における取扱いまでの項目は置かれていますが、「合併等の実施の見込み」に相当する項目は設けられていません。

図1 「合併等の実施の見込み」が形式要件として置かれる市場プライム市場規程 第211条第6号(第205条第13号を用いる形)要件ありスタンダード市場規程 第205条第13号形式要件の13番目に置かれている要件ありグロース市場規程 第217条同種の項目は置かれていない規定なし対象となる期間:新規上場申請日以後、基準事業年度の末日から2年以内基準事業年度=Ⅰの部に経理の状況として財務諸表等が記載される最近事業年度

図1 プライム市場・スタンダード市場では形式要件として置かれ、グロース市場には同種の項目がない。

2つの類型に分かれている

条文は「次のa及びbに該当するものでないこと」という形で、性格の異なる2つの類型を並べています。

  • 類型a:合併・会社分割・子会社化・非子会社化・事業の譲受け・事業の譲渡によって、申請会社が実質的な存続会社でなくなる場合
  • 類型b:申請会社が解散会社となる合併、他の会社の完全子会社となる株式交換・株式移転を行う予定がある場合

類型aは「上場後の会社の実態が、審査した会社とは別物になってしまう」ことを避けるための規定です。類型bは「上場させても、すぐに上場廃止になる会社である」ことが分かっている以上、そもそも上場させるべきでないという考え方に基づく規定です。趣旨が違うので、除かれるケースの範囲も、期間の数え方も異なります。

項目 プライム市場 スタンダード市場 グロース市場
根拠となる条文 規程第211条第6号(第205条第13号を用いる形) 規程第205条第13号 該当する項目なし
形式要件としての位置づけ あり あり 置かれていない
該当した場合の効果 上場申請が受理されない(形式要件を満たさない)

市場区分ごとの形式要件の全体像はIPOの形式要件とは?東証プライム・スタンダード・グロース3市場の上場基準を一覧比較で整理しています。どの市場を目指すかの考え方は市場区分とは?東証プライム・スタンダード・グロースの違いとIPOでの選び方をご覧ください。

類型a:実質的な存続会社でなくなる合併等

対象となる行為と期間

類型aが対象とするのは、新規上場申請日以後、基準事業年度の末日から2年以内に、次の行為を行う予定がある場合です。基準事業年度とは、Ⅰの部(新規上場申請のための有価証券報告書)に経理の状況として財務諸表等が記載される最近事業年度をいいます。

合併/会社分割/子会社化(他の会社を子会社とすること)/非子会社化(他の会社の親会社でなくなること)/事業の譲受け/事業の譲渡

このうち合併・会社分割・事業の譲受け・事業の譲渡については、申請会社の子会社が行う予定のある場合も含まれます。持株会社が申請会社である場合、事業子会社側で予定している再編も検討の対象になるということです。

そして、これらの行為を予定しているだけでは足りず、その行為によって申請会社が実質的な存続会社でなくなると東証が認めたときに、はじめて要件に該当します。判定は東証が行うため、該当しそうな再編を検討している場合は、事前相談の活用が現実的な選択肢になります。

図2 類型aが対象とする期間の数え方対象期間(この間の予定が判定対象)基準事業年度の末日新規上場申請日上場日基準事業年度の末日から2年注:新規上場申請日の属する事業年度の初日から新規上場申請日までの間は、この期間に含まれない。当該期間に合併等を行っている場合でも、上場申請は可能とされている。

図2 期間の起点は「新規上場申請日」、終点は「基準事業年度の末日から2年」。申請前に済ませた再編は対象外。

この「申請日前に済ませた再編は対象外」という点は、スケジュールを組むうえで実務的な意味があります。再編を先に完了させてから申請するのか、申請後に再編を行うのかで、形式要件上の扱いが変わるためです。申請から上場日までの一連の流れは上場申請から上場日までの流れとは?事前確認・上場審査・承認後の手続を時系列で解説で整理しています。

類型aから除かれるケース

条文には、はじめから対象外とされている行為が書き込まれています。

除かれるケース 内容
グループ内の再編 申請会社とその子会社との間、または申請会社の子会社どうしで行う合併・会社分割・事業の譲受け・事業の譲渡。グループの外形は変わっても企業実態は変わらないため。
テクニカル上場に係る合併 規程第208条第1号・第2号に該当する合併。テクニカル上場(上場会社の組織再編に伴い、実質的に上場を引き継ぐ場合の上場)に関する規定に該当するもの。
一定の人的分割 会社分割のうち、上場会社から事業を承継する人的分割で、承継する事業が申請会社の主要な事業となるもの。スピンオフによる上場を想定した取扱い。
申請日前に完了した再編 新規上場申請日の属する事業年度の初日から新規上場申請日までの間に行った合併等(図2参照)。

「実質的な存続会社でなくなる」とはどういう状態か

条文は「当取引所が認めたとき」としており、数値による一律の線引きは示されていません。考え方の手がかりとしては、上場後の局面で用いられる合併等による実質的存続性喪失に係る上場廃止基準(東証)が参考になります。これは、非上場会社が上場会社と合併等を行うことで新規上場審査を経ずに実質的な上場を果たす、いわゆる裏口上場を防ぐための基準です。上場会社側が実質的な存続会社でないと東証が判断した場合には猶予期間に入り、その間に新規上場審査基準に準じた基準への適合が認められなければ上場廃止となります。

※上場廃止の局面と新規上場申請の局面では適用される条文が異なります。上記は考え方の参考として挙げたものであり、新規上場申請における判定がこれと同一の基準で行われることを意味するものではありません。個別の判定は東証の確認を要します。

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類型b:上場後すぐに上場廃止となる組織再編

類型bは、申請会社が解散会社となる合併、他の会社の完全子会社となる株式交換、他の会社の完全子会社となる株式移転を、基準事業年度の末日から2年以内に行う予定がある場合です。これらを行えば申請会社は上場廃止となるため、上場申請の時点で上場廃止が見込まれる会社を上場させるのは適当でない、という考え方に基づきます。

ただし、当該組織再編を上場日以前に行う予定がある場合は除かれます。上場日より前に再編を終えるのであれば、上場する会社は再編後の姿になっているため、上場後すぐに上場廃止となる状況にはならないからです。

図3 組織再編の予定がある場合の判定の流れ基準事業年度の末日から2年以内に組織再編を行う予定がある申請会社が解散会社となる合併、または他の会社の完全子会社となる株式交換・株式移転を行う予定があるかはい類型bに該当し申請は受理されないいいえ新規上場申請日以後に、合併・会社分割・子会社化・非子会社化・事業の譲受け・事業の譲渡を行う予定があり、申請会社が実質的な存続会社でなくなると東証が認めるかはい類型aに該当し申請は受理されないいいえこの形式要件はクリア。ただし過去に行った組織再編の規模によっては、別途、財務情報や監査意見等の提出を求められることがある。

図3 類型bには「上場日以前に行う予定がある場合は除く」という例外がある。図は例外に当たらない場合の流れ。

該当しなくても終わりではない:組織再編を行っていた場合の提出書類

形式要件に該当しなかったとしても、過去に組織再編を行っていれば、それだけで審査が通常どおり進むわけではありません。東証は、申請会社が基準事業年度の末日から起算して2年前の日より後に組織再編行為等(合併、株式交換、株式移転、株式交付、子会社化・非子会社化、会社分割、事業の譲受け・譲渡)を行っている場合について、対象会社の規模に応じた書類の提出を求めています。

規模に応じた2つの区分

区分の基準となる「規模」の大小は、組織再編行為等の直前における総資産額、純資産の額、売上高及び利益の額等を比較して判断されます。

区分 定義 求められる書類
組織再編主体会社等(会社が対象) 組織再編の対象となる会社・事業のうち、申請会社よりも規模が大きいもの 対象期間に終了する各事業年度・各連結会計年度の財務諸表等と、監査意見等
組織再編主体会社等(事業が対象) 同上のうち、対象が事業である場合 「部門財務情報の作成基準」に従って作成した財務計算に関する書類と、監査意見等
組織再編に重要な影響を与える会社等 組織再編の対象のうち、その規模が申請会社の規模の過半となるもの 対象期間における財務情報の概要を記載した書類(監査意見等は不要)

※対象期間とは、基準事業年度の末日から起算して2年前の日より後から、組織再編行為等を行うまでの期間をいいます。申請会社とその子会社との間、または子会社どうしで組織再編を行っている場合には、これらの書類は不要とされています。提出した財務情報及び監査意見等は、上場承認日に東証のウェブサイトで公衆縦覧されます。

形式要件そのものの読み替えも生じる

組織再編主体会社等が存在する場合、形式要件の審査は通常とは異なる取扱いになります。たとえば事業継続年数については組織再編主体会社等における主要な事業の活動期間を加算して算出でき、利益の額・売上高・純資産の額については組織再編主体会社等の数値も審査対象になります。虚偽記載又は不適正意見等の要件についても、組織再編前の期間は組織再編主体会社等の財務諸表等が審査対象に含まれます。

数値要件そのものの内容については、IPOにおける流通株式とは?流通株式数・流通株式時価総額・流通株式比率の定義と計算方法IPOの形式要件とは?東証プライム・スタンダード・グロース3市場の上場基準を一覧比較もあわせてご確認ください。

組織再編を挟むIPOスケジュールの検討

グループ再編と上場準備を並行して進める場合、再編の時期ひとつで提出書類や形式要件の扱いが変わります。論点の切り分けからご相談いただけます。

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実務で押さえておきたい5つの視点

  • 再編の実行時期を「申請日の前か後か」「上場日の前か後か」で整理し、どの類型に触れるかを先に確認する
  • 子会社が行う合併・会社分割・事業の譲受け・譲渡も類型aの対象になるため、グループ全体の再編計画を棚卸しする
  • 基準事業年度がいつになるかは、審査期間中の決算期の到来によって動く可能性があるため、期間計算を固定的に考えない
  • 実質的な存続会社かどうかの判定は東証が行うため、微妙な事案は早期に事前相談を検討する
  • 形式要件に該当しない再編でも、規模によっては財務情報と監査意見等の準備に相当な時間を要する

とくに見落としやすいのが、3点目です。上場準備は複数年にわたるため、当初想定していた基準事業年度が後ろにずれると、「基準事業年度の末日から2年以内」の終点も後ろにずれます。再編の実行時期が期間に入るかどうかは、スケジュールの見直しのたびに確認しておく必要があります。IPO準備全体の時間軸はIPO準備の全体像とは?上場までのスケジュール(N-3期〜N期)と各期にやることで整理しています。

よくある質問

Q. グロース市場を目指す場合、組織再編を自由に予定してよいのですか。

グロース市場の形式要件(規程第217条)には「合併等の実施の見込み」に相当する項目は置かれていません。ただし形式要件に項目がないことと、上場審査で問われないことは別です。組織再編を行っていれば財務情報や監査意見等の提出は求められますし、実質審査基準の観点からも事業内容の変化は説明を要します。

Q. 上場申請の前に子会社を売却する予定です。類型aに該当しますか。

類型aの期間は新規上場申請日以後です。申請日の属する事業年度の初日から申請日までの間に完了させた非子会社化は、この期間に含まれません。ただし、その非子会社化が申請会社の実態に重要な影響を与える場合には、財務情報等の提出や審査上の説明が別途必要になります。

Q. 上場と同時に持株会社体制へ移行する場合はどうなりますか。

移行の手法によって扱いが変わります。株式移転により申請会社が他の会社の完全子会社となる場合は類型bの検討が必要ですが、当該組織再編を上場日以前に行う予定がある場合は除かれます。具体的なスキームごとに条文の当てはめが変わるため、事前相談を含めた確認をおすすめします。

Q. 「実質的な存続会社でなくなる」かどうかは自社で判断できますか。

条文上、判定は東証が行うものとされています。自社の見立てだけで進めると、申請直前に再編スケジュールの組み直しが必要になるおそれがあります。規模の比較資料を整えたうえで、早い段階で確認しておくのが安全です。

まとめ

「合併等の実施の見込み」は、プライム市場とスタンダード市場の形式要件に置かれ、グロース市場には同種の項目がありません。対象は、①実質的な存続会社でなくなる合併等(新規上場申請日以後、基準事業年度の末日から2年以内)と、②申請会社が解散会社となる合併・他の会社の完全子会社となる株式交換/株式移転(基準事業年度の末日から2年以内。上場日以前に行う予定がある場合を除く)の2類型です。

数値基準がないぶん、条文の期間と例外を正確に読むこと、そして判定が東証に委ねられている以上は早めに確認することが、実務上の要点になります。形式要件に該当しない再編であっても、規模によっては財務情報と監査意見等の準備が必要になる点も、スケジュールに織り込んでおきたいところです。

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形式要件の当てはめ、組織再編に伴う提出書類、審査での説明資料まで、公認会計士の視点で整理します。

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出典・参考:有価証券上場規程第211条第6号・第205条第13号・第217条、有価証券上場規程施行規則(組織再編行為等に関する規定)、新規上場ガイドブック(東京証券取引所)合併等による実質的存続性喪失に係る上場廃止基準(東京証券取引所)。本記事は2026年9月時点の公開情報に基づく一般的な解説であり、個別の事案への当てはめを保証するものではありません。最新の規程・施行規則および東証の取扱いをご確認のうえ、必要に応じて事前相談をご活用ください。

👤 監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。

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