医療法人の理事でありながら、事務長や看護部長として日常の業務を担っている。こうした人は、税務上は使用人兼務役員として整理できる場合があります。
使用人としての職務に対する給与は役員給与の制限を受けませんので、定期同額給与や事前確定届出給与の枠組みに縛られず、他の職員と同じように昇給や賞与の支給ができます。
ただし、理事長や専務理事は使用人兼務役員になれません。また、使用人分の賞与を他の職員と異なる時期に支給すると損金に算入されません。この記事では、判定の基準と実務上の注意点を整理します。
- 使用人兼務役員の定義と、医療法人で該当し得る立場
- 理事長や副理事長、監事が使用人兼務役員になれない理由
- 医療法人は会社ではないため同族会社の持株要件が関係しないこと
- 使用人分の賞与を他の職員と同じ時期に支給しなければならないこと
- 親族に対する使用人給与も不相当に高額な部分は損金不算入となること
図 使用人兼務役員の判定(法人税法34条6項および同法施行令71条にもとづき作成)
この記事の見出し
📌 使用人兼務役員とは何か
法人税法34条6項は、使用人兼務役員を、役員のうち部長、課長その他法人の使用人としての職制上の地位を有し、かつ、常時使用人としての職務に従事するものと定めています。
医療法人でいえば、理事でありながら事務長や看護部長といった職制上の地位を持ち、日常的にその職務に従事している人です。この場合、その人に支給する給与は、役員としての部分と使用人としての部分に分けて考えます。
使用人としての職務に対する給与は、役員給与の制限を受けません。定期同額給与や事前確定届出給与の枠組みに縛られず、他の職員と同じように昇給させることも、賞与を支給することもできます。ここに実務上の意味があります。
医療法人では、配偶者や子どもが理事に就任しつつ、実際には事務長として日々の業務を担っているケースが少なくありません。使用人兼務役員として整理できれば、給与の設計に幅が生まれます。
自社に当てはめるとどうなるか、個別にお答えします
税務顧問:日々の税務相談から決算・申告まで。初回のご相談は無料、オンラインにも対応しています。
税務顧問の内容を見る / 相談内容を送る
📌 使用人兼務役員になれない役員
ただし、すべての理事が使用人兼務役員になれるわけではありません。法人税法施行令71条が、使用人兼務役員とされない役員を定めています。
まず、社長、理事長その他これらに準ずる職制上の地位を有する役員です。医療法人の理事長はここに含まれますので、理事長を使用人兼務役員として扱うことはできません。
次に、副社長、専務取締役、常務取締役その他これらに準ずる職制上の地位を有する役員です。医療法人で副理事長、専務理事、常務理事といった役職を置いている場合、これらの理事も使用人兼務役員にはなれません。
また、監査役および監事も使用人兼務役員になれません。医療法46条の5第8項は、監事が当該医療法人の理事または職員を兼ねてはならないと定めていますので、そもそも監事が使用人として働くことはできません。
なお、同族会社の役員のうち一定の持株割合の要件を満たす者も使用人兼務役員から除かれますが、医療法人は会社ではありませんので、この規定は関係しません。持分の定めがある医療法人であっても同様です。この点は、同族会社である一般の中小企業と比べたときの違いになります。
表 医療法人における使用人兼務役員の判定
📌 使用人分の賞与は支給時期に注意
使用人兼務役員に該当すると認められた場合でも、賞与の支給には条件があります。法人税法施行令70条3号は、使用人兼務役員の使用人としての職務に対する賞与で、他の使用人に対する賞与の支給時期と異なる時期に支給したものについて、不相当に高額な部分の金額とすることを定めています。結果として損金に算入されません。
つまり、他の職員には6月と12月に賞与を出しているのに、事務長を兼ねる理事にだけ3月に賞与を出すという運用はできません。支給時期は他の職員とそろえてください。
また、社員総会等で役員報酬の限度額を定めている場合、その限度額に使用人分の給与を含めているかどうかで扱いが変わります。法人税法施行令70条1号ロの括弧書きは、限度額等に使用人分の給与を含めていない場合について、その使用人分の相当額を除いて判定する旨を定めています。決議の内容を確認しておいてください。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。
初回のご相談は無料です。お問い合わせはこちら / 税務顧問を見る
📌 使用人分の給与も高すぎれば否認される
使用人兼務役員の使用人分の給与は役員給与の制限を受けませんが、金額が自由というわけではありません。
法人税法36条は、役員と政令で定める特殊の関係のある使用人に対して支給する給与のうち、不相当に高額な部分の金額は損金の額に算入しないと定めています。特殊の関係のある使用人の範囲は、法人税法施行令72条が定めており、役員の親族、事実上婚姻関係と同様の事情にある者、役員から生計の支援を受けている者、これらの者と生計を一にする親族が含まれます。
医療法人で配偶者や子どもに給与を支給する場合、この規定が働きます。理事に就任していれば役員給与として法人税法34条2項で、就任していなければ使用人給与として法人税法36条で、いずれにしても不相当に高額かどうかが判定されるということです。
判定の考え方は共通しています。担当している職務の内容、勤務の実態、他の職員の給与水準、同種同規模の医療法人の状況などから、その金額を説明できるかどうかです。役職名だけを付けて高額な給与を支給しても、実態が伴わなければ認められません。
図 整理の手順
📌 医療法上の位置づけも確認する
税務上の整理とあわせて、医療法上の位置づけも確認してください。医療法46条の5第1項は、医療法人には役員として理事3人以上および監事1人以上を置かなければならないと定めています。
理事の人数を満たすためだけに、実態のない親族を理事に就任させているケースがありますが、これは税務上も医療法上も望ましくありません。使用人兼務役員として給与を支給するのであれば、その人が実際にどのような職務を担っているのかを、組織図と職務分掌で示せるようにしておく必要があります。
また、医療法46条の5第8項により、監事は当該医療法人の理事または職員を兼ねることができません。監事に給与を支給する場合は、監事としての職務に対する報酬として整理し、使用人分の給与という扱いはできません。
配偶者や子どもを理事にするか、職員として雇用するか。使用人兼務役員として整理できるかどうかで、給与の設計の幅が変わります。医療法人の設立支援と医療機関の税務顧問を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。医療法人の設立支援と医療機関の税務顧問を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
あわせて確認したい関連記事
❓ よくある質問
A. なれません。法人税法施行令71条は、社長、理事長その他これらに準ずる職制上の地位を有する役員を使用人兼務役員から除いています。理事長がどれだけ日常の実務を担っていても、この扱いは変わりません。
A. 関係しません。使用人兼務役員から除かれる同族会社の役員に関する規定は、会社を対象としたものです。医療法人は会社ではありませんので、持分の定めがある医療法人であってもこの規定は適用されません。同族会社である一般の中小企業と比べて、判定の幅が広いといえます。
A. 他の職員に対する賞与の支給時期と異なる時期に支給した使用人分の賞与は、法人税法施行令70条3号により損金に算入されません。使用人分の賞与を支給するのであれば、他の職員と同じ時期にしてください。
A. 原則としてできません。使用人兼務役員の要件のひとつが、常時使用人としての職務に従事していることです。非常勤であれば、この要件を満たさないことが通常です。
A. 法人税法36条により、役員と特殊の関係のある使用人に対して支給する給与のうち、不相当に高額な部分の金額は損金に算入されません。特殊の関係のある使用人には、役員の親族が含まれます。職務の内容、勤務の実態、他の職員の給与水準などから説明できる金額にしてください。
📄 まとめ
使用人兼務役員は、部長、課長その他法人の使用人としての職制上の地位を有し、かつ、常時使用人としての職務に従事する役員をいいます。医療法人では、事務長や看護部長を兼ねる理事が該当し得ます。
ただし、理事長、副理事長、専務理事、常務理事、監事は使用人兼務役員になれません。一方で、医療法人は会社ではありませんので、同族会社の持株要件による除外は適用されません。
使用人分の給与は役員給与の制限を受けませんが、賞与については他の職員と同じ時期に支給する必要があります。また、親族に対する給与は、役員であれば法人税法34条2項、使用人であれば同法36条により、不相当に高額な部分が損金不算入となります。組織図と職務分掌、勤務記録によって実態を示せるようにしておいてください。
⚖ 本記事の根拠法令
- 法人税法34条6項(使用人兼務役員の定義)
- 法人税法施行令71条(使用人兼務役員とされない役員)
- 法人税法施行令70条3号
- 法人税法施行令70条1号ロ(形式基準)
- 法人税法36条(過大な使用人給与の損金不算入)、同法施行令72条(役員と特殊の関係のある使用人の範囲)
- 法人税法34条2項(役員給与のうち不相当に高額な部分の損金不算入)
- 医療法46条の5第1項(理事3人以上および監事1人以上)、同条8項(監事は当該医療法人の理事または職員を兼ねてはならない)
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
このテーマの全体像は医療法人と開業医の税務|法人化から役員報酬・承継までにまとめています。